11:discovery 重々しく開き、すぐに閉ざされた地下へのドア。 その先は薄暗く、目の前の階段が下に伸びていて、手すりに点いているランプが唯一の道筋を示していた。 《気をつけて誠二。翼が地下なら警戒も地上より厳しいだろうから》 「でも全然人がいないよ?もっと見張りとかウヨウヨいるかと思った」 《油断しないで。1階ずつ見て回って翼を捜そう》 「うん」 少し息を呑んで、階段を下りていった。 地下1階は広めの会議室のようになっていた。机がいっぱい並んでいて、その奥の部屋には人の気配もした。そこにいる人の雰囲気は和やかな感じで、翼はいそうになかった。 《夜が明けると人目にもつきやすくなるから、大げさな警戒は出来なくなるだろう。本当ならそこをつきたいけど、こっちとしても逃げる事を考えると夜明けまでには決着をつけたい。見張りはいる?どんな装備つけてる?》 「えーと、1階には見張りらしい人はいない。普通に笑い声とか聞こえるし。もっと下りてみるね」 《気をつけて》 1階の会議室の前をささっと駆け抜け、地下2階への階段に逃げ込んだ。ゆっくりと下りていった先の2階には見張りがいて結構な重装備。おいおい、さっきの和やかな人たちはなんだったんだ。 「2階には見張りがいっぱいいるよ。みんな銃?みたいな武器持ってる」 《大丈夫。僕たちは一応日本国民だから銃の類は持ってないよ》 「じゃあなんなの?」 《エアガンか麻酔銃か。まぁ死ぬことはないよ》 「・・・あ、そう」 十分ヤバいと思うんですけど。 警戒は厳重。常に無線で連絡を取り合ってるみたいで、こんな中を駆け抜ける自信はない。ましてや翼を探し出すなんて、俺に出来るかな・・。 階段の壁に隠れて様子を伺いながら移動するタイミングを図ってると、階段の上からドアが開く音がした。地下への階段が開く音。上から誰か入ってきたんだ。 やば。と俺は急いで、すぐそこにあったロッカーの影に隠れた。 階段を下りてくる足音は、俺のいる地下2階まで近づいてくる。その足音を聞きつけて、奥のほうから見張りがよってきた。 「こ、これはシゲさん。異常はありません」 「あそ」 シゲ・・・ その名前を聞いて、そっとロッカーの陰から目を出した。 暗い地下でも怪しく光る、金色の髪。 シゲがきた。味方のはずの見張りですらかしこまってうしろに下がる。常にある程度の距離をとって、やっぱりシゲを避けてるようだった。 シゲはそのまま廊下を歩いていき、こっちに近づいてきたもんだから俺は壁に体を貼り付けた。 「あのボンはなんか喋ったか?」 「いえ。泣きじゃくって何も知らないの一点張りです。あんな子供が本当にレギュラーなんですか?」 ・・・翼が泣きじゃくってる?罵声を吐きまくってるじゃなくて・・・? 「地下は息苦してかなわんなぁ。で、どこや?」 「こちらです」 こつこつ近づいてくる足音は、俺の前に来る前にさらに地下への階段に去っていった。 「やった。ねぇ、翼のとこに行くみたいだよ」 《待って、シゲに近づいちゃ駄目だ。カメラを赤外線に切り替えて、距離をとって周りに注意しながらついていって》 「わかった」 多紀の指示に従って、メガネの端の小さな出っ張りを押した。するとメガネのレンズが黒くなって、壁の向こうにいる人たちを赤く映し出した。熱感知、とかなんとかいうらしい。 そのままシゲのあとを追って、足音をたてずにさらに階段を下りていく。地下の3階はいたるところに見張りがいて、さらに厳重にしてる感じがした。でも俺は物陰から物陰へ忍び込むヘンな才能に目覚めてて、何俺、ちょっとプロ並みじゃん?なんて調子づいてた。 「おい、シゲが帰ってきたって?」 「へっ!!?」 優雅に物陰から物陰へと飛び移っていると、後ろから突然声をかけられてビク!と全身の毛が逆立つほど驚いた。 「どーしたんだよ」 「や、べつ、べつに・・」 「何してんだそんなところで。てゆか誰?」 「いや、シゲが、そこで・・・、俺が、あの・・・」 怪しい奴ですと言っているような片言で、目の前のやつはますます俺を訝しげな目で見てきた。 そ、そんな怖い目で見なくても・・・ 「なんで装備つけてないんだ?」 「や、あの、えーとっ」 「おい誰か、コイツ知っ」 ―プスッ・・・ 「・・・」 人を呼ぼうとしてた目の前の男はドサッと倒れた。 手首に仕込んであった麻酔針は使ってみたいと思ってたけど、使ってみた今じゃけっこう罪悪感が残る。デコに針は痛いな、ゴメン。 とにかく、人は呼ばれなかった。麻酔が回ってすぅすぅ寝てるそいつに謝まりながら、その体を引きずってロッカーの中にしまいこむ。・・・そのとき、俺はナイスアイディアをひらめいた。 この装備ならそうそう怪しまれないんじゃないか?そして多紀からもらったヅラ!(ちょっとロンゲになっただけだけど!)コレでもうシゲと直面したって大丈夫!と完璧に変装した俺は、もう随分と先に行ってしまったシゲのあとを追いかけた。 「真田、真田・・・」 拝借した装備のワッペンについている名前を反復して、誰に聞かれても困らないように覚える。自分の名前も知らないと怪しまれるしな。 ぶつぶつ呟きながら走ってると、すぐにシゲを見つけた。やけに見張りの多い部屋、そこにシゲが入っていくのを見た。きっとあそこに翼がいるんだ。あんな暗くて狭いところで・・・・・・、さぞかし怒ってるんだろうなぁ。 「しばらく、翼。は元気か?」 「普通まず僕に元気かって聞かない?」 思ったとおり、部屋の中で翼の声がした。 やった、翼発見! 「泣きじゃくってるて聞いたんやけど」 「シゲ相手にヘタな演技したって仕方ないだろ」 「久しぶりに会ったんにつれないなぁ。同じ人に忠誠誓った仲やん」 「裏切っといてよく言うよ」 「はは。で、は?なんか言うてた?」 「ぜんぜん。ほっとけって言ってたよ。どーでもいいってさ」 「ヒドイわー。こんに想っとんのに」 ・・・シゲは、やっぱり元々は仲間だったんだ。 翼もつんけんしながらも、親しんだ様子だし。 「っていうか、さっさと牢屋でもどこでも連れてってくれない?こんなせっまいとこにいつまでも押し込まれちゃたまんないよ」 「捕まった身で文句言いなさんな。ここのほーがまだ助かる確率あんねんで?」 「どこが。捕まったらもうおしまいなことくらい俺だって分かってるんだよ」 「逃げる気ないんか?お前みたいなガキに3年は重いやろ」 「上等だよ。そのくらいの覚悟、いつだって持ってやってるんだ」 「そう意地になりなさんな。が助けに来てるんちゃうん」 「来てないよ。もし来たら見損なうね。俺一人見捨てられないで何がゲームマスターだ」 「ホンマにそう思てんの?」 「当たり前だよ」 翼が言い切ると、二人の会話はパタと止まった。しばらく静けさが続いて、その後でまたコツ、と足音が出口に近づいてくるのが聞こえた。 「、捕まったら何年やっけ」 「10年」 「そぉか」 出口の手前で一度止まった足音が再び動き出して、シゲが部屋から出てきた。俺は見張りに成りすましてまっすぐ立ってみせて、近づいてくるシゲが前を通ろうとすると俺は目を閉じてばれないように祈った。そうして歩いてくるシゲは俺の前まで来て、俺の肩にポンと手を置き、俺はビク!と心臓を飛びつかせた。 「中のボン、上の部屋に移しといてくれるか。おぼっちゃんにこの部屋は似合わんよって」 「は、はい」 シゲはそれだけ言って、そのまま歩いていった。 焦った、バレたと思った。ふぅと深く息を吐き出して息を落ち着かせ、俺は翼のいる中の部屋に入った。 部屋の中は真っ暗で、ドアが開いてるときだけ薄く光が入ってくるだけ。きっとこのドアが閉じてる間は真っ暗だ。そんな中で翼は、石の壁の隅でうずくまっていた。一度俺に目をあげて、すぐにまた目を伏せる。 「翼」 奥までいってこっそりと声を掛けると、翼は勢いよく顔を上げた。 「だいじょうぶ?」 「なっ・・・」 俺の声を聞いて目も口も大きく開いた翼はそれでもがんばって口を閉ざした。でもその声が外に漏れて、出口の外から別の見張りが駆けつけてくる。 「おい、何してるんだ?鍵閉めるぞ」 「シゲに言われて、部屋を変えます」 さっと体を振り向かせて、翼を掴んで立たせるとそう取り繕った。シゲの命令じゃ誰も何もいえなくて、俺と翼はその真っ暗な部屋を後にする。 「・・・お前、わかってんの?ここで捕まったらいくらお前でもタダじゃ済まないよ」 「うん、英士も言ってた」 連行されてるように振舞いながら、翼は小さく言った。 「じゃあなんで来たんだよ。お前はゲームに参加はしててもプレーはしてない。ただいるだけなんだろ」 「だけど、俺が捕まっても一番被害少ないじゃん。それに俺はまだ捕まるかもだけど、翼はもう捕まったんだから、そっちのが優先だよ」 「お前はゲームはしてないんだ、余計な事するなよ」 「余計な事じゃないよ。翼が助かればみんな喜ぶじゃん」 「・・・馬鹿じゃないの・・・」 「うん。でも後悔はしたくないし、してない」 竜也には何もしてやれなかった。 俺は何も出来なかった。 「が待ってるよ」 「・・・」 危険だと分かっててもすぐに助けに行こうとした。 に集まった仲間たち。 これはの威信なんだ。きっと翼だって心の奥底では信じてる、が助けてくれるって。 そう信じて止まない仲間への、これはのプライドなんだ。 「行こう翼。ここで逃げられれば勝てるよ」 「・・・」 翼の信じる気持ちを無くさない為に、俺は助けに来たんだ。 逃げ切ってみせる。 ・・・・・・・・・・・ 一馬秒殺。(うわぁ・・・) |