9:S・O・S










「今、翼が捕まったよ・・・」


機械音に混ざって、多紀の小さな声が俺たちに届いた。


「そんな・・・」
「無線も切れた。ホテルの周りに警察が山ほどいるらしいよ。今すぐ手を出すのは危険だ」
「でも、今助けないと・・・、収容所?に入れられたらもっとむずかしいんでしょ?」
「どうしますか、
「行くぞ」
「はい」


はドアに歩いていく。


「俺も行く!」
「ここから先は危険すぎる、ここにいて」
「でも翼が、俺も何かしたい。翼を助けたいよ!」
「君には無理だ。ここにいて」


俺には無理
そう強く言われて、何も言い返せなくなった。

竜也だって助けられなかった。
俺は何の役にもたたなかった。


「でも、俺も行きたい」


だから、だからこそ今は、


「まぁ彼なら面も割れてないし、進入には都合良いよね」
「多紀っ」
「だってどうやって助ける気?輸送中は警戒も最高潮だし、収容所に乗り込む気なんでしょ?だったらレギュラーの君たちが行くよりずっと入りやすいよね。もし連中が翼を捕まえたことが僕たちにバレてないと思っているならきっと隙は出るだろうし」
「何言ってんの、誠二には無理だ、彼は俺たちとは違う」
「でも結構素早そうだし、案外救助出来ちゃうかもよ」
「誠二は普通の中学生なんだよ。仮に入り込めたとしても見つかったらどうするんだ。誠二にはもしもの場合の対処が何も出来ない」
「そう怒らないでよ、僕は可能性のひとつを言ってるだけ。でも君は捕まったら5年はカタイだろ?なんてきっと10年は出てこれないだろうし」
「じゅ、10年?!」


捕まれば刑があるのは聞いてたけど、ここにいるみんなが捕まったときの話は聞いていなかった。今まで何度も現実的で、非現実的なシステムに驚いてきたけど、10年って・・・


「翼は?翼は何年なの?」
「誠二、やめて」
「翼ならまだ小学生だから3年くらいかな」
「3年・・・」


小学生の翼が3年も・・・


「俺、何したらいい?」
「誠二、」
「だって俺ならまだ入ったばかりだし、みんなほど重くないんだよね?」
「いくら入ったばかりでも収容所なんかで見つかったら刑は免れないよ。誠二には帰るべきところがある。これ以上首を突っ込むべきじゃない」
「でもそれはみんな一緒だろ?翼も英士も、だって、仲間がいるじゃん」


帰る場所。
帰る家、家族、学校、受験。

仲間。

生き方がわからない、人の中で生きれない。
それでも誰かを必要としていたくて、誰かに必要とされていたくて、何かを必死に守りたくて、自分の中に確かな理由が欲しくて、証拠がほしくて・・・。

日常で見出せない思いを、ここで見つけようとしていたんじゃないかって。


竜也は、まだ目が覚めない。捕まったから。
俺も捕まったらあんな風に・・・

でもそれすらも厭わない思いが竜也に、みんなにはあった。


俺には?

俺は今どうしたい?元の生活に戻りたい?


ううん

何かしたい。仲間のために、力になりたい。

翼を助けたい。


「翼を助けたい」
「・・・」


助けたい。


「多紀、残ったやつ全員渋沢のとこに集めろ。あと誠二に装備をつけろ」
「了解」
、」
「英士は不破に連絡。収容所を特定して、周辺と内部の地図用意しろ」
「・・・はい」


英士は俺を一目見て、モニターの前に座りヘッドホンをつける。


は何か、考え込んでいるみたいだった。堅い顔で、静かにそっと。
・・・どこか、苦しそうだった。


「誠二君」
「あ、うん」


に声をかけようとしたら多紀が呼んだから、俺は多紀のほうに戻っていった。


「ここにマイクが付いてるから、小声で喋ってもちゃんと声聞こえる。こっちの声もちゃんと聞こえるようになってるから。それからゴーグルのここのところにカメラがついてて君が見てる映像はそのままこっちに送られる。発信機は持ってるよね?あとこれが・・・」


多紀はひとつひとつ説明しながら俺に機械をつけていった。
俺はしっかり説明を聞きながら、少しずつドキドキしていった。





ヘッドホンを外す英士はを呼び、モニターに地図を映し出した。


「こっちに近づいてきています。おそらく輸送先は港。海に出る気ですかね」
「夜の海にか?」
「得策じゃないですね。となると岬の灯台か」
「灯台か。そういや前のゲームにもそんなことあったな」
「ありましたね、おそらく間違いないでしょう。あと数分で到着します。地図も揃いました」
「ああ」


英士は俺のほうに振り返る。


「出来たよ」


多紀が俺の背中を軽く叩いて俺は一歩前に出る。
英士が俺の前に寄ってくる。


「本当に行くの?」
「うん」


英士は俺を見て、静かに目を閉じた。


「行こう」
「うん」


英士の向こうのは、俺のほうを見ずに腕を組んでいた。


「俺たちも近くまでいくけど、中には入らずに外からサポートする」
「うん」
「決して無理はしないで」
「わかった」


そうして俺は英士について部屋を出ていった。
は一度も俺のほうを見なかった。


「・・・何を考えてるの?」
「・・・」
「君がしっかりしなきゃね。せっかくあの子があんな馬鹿げたこと言い出したんだから」
「・・・言い出したのお前だろ」
「代わりに言ってあげただけだよ」
「・・・」






英士の車のうしろに乗って夜の住宅街を抜けていった。
助手席には乗らなかった。だって、そこは翼の席だから。

翼、今助けに行くよ。
絶対に助けるから、待ってて。











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