苦しい、たすけて、

誰かここから出して・・・










STAND BY YOU!!   File1:体育館の怪













おっは〜」
「入らないよ」
「はや!一日のはじまりは快い挨拶からだろ!」
「おはよう。入りません」
「そんなこと言わずに」
「他あたってください」


夏休みが明けて、まず最初の週が終わろうとしていた。
のかわいかった水色のスカートも、この学園の茶色いスカートに変わったころ。


「もう一週間だねー、部活決まったのかい?」
「うん」
「え、ウソ!何部?」
「雲研究サークル」
「クモ?!シュミ悪!」
「そのクモじゃなくて」
「ああ、空の雲ね。何するとこなの?」
「一日中雲の観察」
「つまりただ見てるだけか。そんなモンの何が楽しい!そんな青春の無駄遣いをするなら我が学園防衛隊に入れ!」
「何も起きてないのに何防衛してるんですか」


ぎゃふん!俺は廊下で転がった。
なんのなんの!それでも俺は立ち上がる!何度でも!!


「じゃあ今回のリサーチでなんか掴んだら入るってのどう?俺たちも確かな仕事してるんだぜってショーコ見せてやっから」
「出なかったら諦めてくれるの?」
「うっ、それは・・・」
「じゃあ意味ないじゃない」
「いーややってみせる!もう驚いて目ん玉飛び出るくらいのスクープ映像掴んでやる!」
「仕事違うじゃない」


普段なら俺の話なんて聞き流すが、めずらしく振り返って立ち止まった。


「若菜君の仕事は噂が本当か嘘かを確かめる事なんでしょ?スクープとか、そういう事じゃないでしょ?」
「そーだけどさぁ、たまにはなんかあってくれたほーがこっちとしても楽しみってゆーか今後の意欲ってモンがさぁ」
「・・・」


はなぜか機嫌をそこねたような顔で俺を見た。
俺なんか、ヘンな事言った?
でもその後はすぐに目を逸らし歩いていく。


「待てってー。ほんと俺ら遊びじゃないんだって、ちょー真剣だ!」
「話題が欲しいだけじゃない。だったら新聞部にでも入れば?サイキックリサーチなんて、そう言いたいだけじゃない」
「なんで急に怒ってんの?俺なんか悪い事言った?」
「・・・そういう事を、面白がって騒ぎ立てるからヘンな噂が流行るんじゃないの?若菜君たちがそんなサークル作らなかったらきっとみんな忘れるよ」
「だから面白がってないってー」
「面白がってるじゃない。なんでもないものを幽霊だって言ったり、ただの偶然を怪奇現象だと言ったり、そんなのそこらへんの雑誌と同じでしょ。そんなことしてると・・」


珍しくよくしゃべるなぁと思って聞いてると、はぴたりと突然口を止めた。


「どした?」


は俺越しに俺の後ろ、階段のほうを見ていた。
俺も振り返ってみたけど、べつに何もない。
なんだよ、とに向きなおすと、はすぐに体を翻して教室のほうに歩いていってしまった。


「ガードかてー」


まったく女とは、幽霊以上に不可解で厄介な生き物だ。(あ、幽霊は生き物じゃないか)










「うぃー」
「よぉ、遅かったな」


結局は俺の話をまったく聞いてくれなくなって、さらに新メンバー獲得が遠のいた。あーあとダラダラベースまでいきドアを開けると、雑誌に目を通してる英士の向かい側に、一馬がいた。


「おお一馬!なんだよ、やっと入ってくれる気になったか?」
「しつけー。入らねーってば」
「じゃー何しに来たんだよ」
「ヒマだから」
「うちはヒマじゃねーの!部外者は帰れ帰れ!」
「部じゃねーじゃん」
「ぎゃふん!!」


にフラれ一馬にまで見捨てられ、もう俺にどうしろというのだ。
俺たちの活動に陽の目どころか部の昇格すら兆しなく、もう俺はぐれそうだった。


「あーもー駄目だぁー。月曜の総会に間に合わねー」
「誰かに名前だけ借りたら?」
「前にそれやったら生徒会に暴かれて目つけられたんだよね」
「そーなんだよ。あいつらの調査力ときたら探偵事務所並みだぞ」
「会長さんがしっかりしてるからね」


もーどいつもこいつも、俺の行く先敵ばっかだ。悲しすぎて涙でアートしちゃうよ。
なんてペットボトルから滴る水滴を指で広げて遊んでると英士にさっと机を拭かれてしまった。


「またフラれたの?」
「そー。あいつマジガード堅すぎ」
「もう諦めたら?興味ないって言ってるんだし。なんでそんな彼女にこだわるの?」
「勘」
「勘かよ」
「結人の得意分野だね」
「あいつはね、なんっかうちの部に入るべき人間だと思うわけよ。最初に見た時からずーっと思ってたんだよ」
「なんで?」
「わかんね」


でもホント、あいつが俺たちの中にいる姿ってのが、結構ありありと思い浮かぶんだ。
なんでかなんてわかんないけど、入ってくれるならあいつがいいって思うんだ。


「ちなみに一馬も入るべきだと俺は思っている」
「だから入らねーって」
「俺の頼みが聞けないってのか!?」
「脅すなよ」
「英士!お前からも言ってやれ!」
「本人がいやだって言うんだから仕方ないでしょ」
「単にビビってるだけだろ!どこが怖いんだよ、俺らでさえ怖い目なんて遭った事ねーぞ?」
「怖いっつーか、こーゆー事したくないんだよ」
「こーゆー事って?」
「んー、だってもし本気で出てきたらどーすんの?どうともできないじゃん」
「一馬幽霊見たことあんの?」
「ないけどさ。テレビとか雑誌とかで面白おかしく騒ぐじゃん?お前らがそうだって言うんじゃないけど、俺そういうの、なんか違うと思う」
「違うって?」
「なんてゆーか、幽霊には幽霊の事情があるっつーか」
「ぶはっ、なんだそりゃ!」


そう、一馬の言った事には笑ったけど、一馬はと同じような事を言ってるんだと後になって思った。そういわれてしまうと、ちょっと、俺たちのしてる事ってなんだっけと思ってしまう。


「結人、体育館の件どうする?何度カメラ回しても何もないし、もうやめる?」
「うーん・・・」
「というか、カメラ回ってもすぐに切られたりテープ抜かれたりしてるんだよね。たぶんバスケ部の仕業だと思うけど」
「あいつらめ〜、うちの財政難を知っててそんな悪行をはたらいてんのか?」
「どうする?」


俺たちだっていつまでもただのお飾りサークルだと思われちゃたまんないのだ。ここらでドカッとでっかいことをやってのけなきゃ。


「よし!体育館で張り込みだ!」
「は?」
「おいおい、本気かよ」
「本気だ!今一番噂の多い体育館の怪が晴れれば俺たちの株は急上昇!部員も増える、かもしれない!」
「いや、増えないと思うよ」
「俺もそう思うよ」
「何かしなきゃはじまんねーよ!決めた、俺は断固遂行する。深夜のバスケット大会に特別出演してやるぜ!」


なーはっはっは!と高笑いする俺の後ろで、英士と一馬がふぅっとため息をついた。
今こそ我が学園防衛隊、学園サイキックリサーチ・セブン、リーダーいきまーす!










「本気でやるの?」
「ああ。バスケ部が練習終わるのが8時だろ?その間に調査だって言って入ってあとは体育倉庫にでも隠れてりゃおっけーじゃん。食いモンも持ったし、高飛びのマットなんて得大サイズのベッドだぜ?」
「寝てどーすんの」
「あ、それもそうだな。調査調査」


英士は最後まで納得のいかないような顔をしていた。ため息もいつもより多い。
でも俺はもう決めたのだ。ちゃんと活動してるって事を示したいし、何より俺が一晩張り込んで何もなければ体育館の怪は解決の方向でいいだろう。今まで体育館に設置してきたカメラも異常はなかったし、温度も普通だった。

大丈夫大丈夫!


「そんな心配すんなよ英士、じゃーな!」
「うん・・・」


見送ってくれた英士に大きく手を振って、俺は体育館に入っていった。
最後までため息を繰り返してた英士は、俺が体育館に入ったのを確認すると来た道を引き返していって、そこで校舎から出てきたと会った。


「結人がまだ諦めないみたいで悪いね。なんだか今まで以上に張り切ってるんだけど」
「うん、解明したら入れみたいなこと言ってた」
「やっぱりね、調査も今回はやけに張り切ってると思った。今行ったよ、体育館に泊り込み」
「え?」
「何もないことを実証するんだってさ。やることが大げさなんだから」
「・・・」


呆れた顔で体育館を見返す英士の隣で、も一緒に体育館を見やった。


「心配?」
「そんなんじゃないけど、風邪とかひかないかな」
「大丈夫でしょ。体だけは頑丈だし、夏だし」
「・・・」


何を思ってか、それでもはずっと体育館を見つめていた。


そんなことはもちろん知らずに体育館に入り込んだ俺は、うまく倉庫に隠れバスケ部の練習が終わるのを待っていた。倉庫の小さな窓の外も暗くなってきて、ドアの向こうから聞こえるバスケ部の掛け声もそろそろ終わるような雰囲気になってきた。


「おらおら、走れよー」
「全力だよ全力!手抜いたら10周増やすぞー!」


やっと練習が終わるかと思ったのに、今度はそんな声が聞こえてきた。まだやる気かよと倉庫から体育館を覗くと、数人のバスケ部員がまだ残っていて、体育館の端で3年の奴らがゲラゲラ笑っていた。何をそんなに盛り上がってるのかと思い反対側を見てみると、笑う3年の前で1年の奴らが、みんな裸で走らされていたのだ。


「うわ、イジメかよ・・・」


なんだかものすごく見てはいけないものを見てしまった。幽霊じゃなくてこれ撮ってやろーかな。”バスケ部の実態!夜の特別練習!”なんつって。あれ、コレちょっとヘンな意味に感じるな。ネーミングセンスねーなー俺。

しばらくして飽きたんだろう、3年は1年に掃除を命じて帰っていった。
あ、あいつら、こないだも俺らにイチャモンつけてきた奴らだ。

静かな体育館に残った1年生は誰も喋らずに服を着て、倉庫に寄ってきたから俺はヤベっとマットの裏に隠れた。


「俺、もう辞めようかな」
「俺も。毎日やってらんないよ」
「もう引退したくせになんで毎日来んだよ・・」


倉庫でモップを取りながらグチる1年たちは相当鬱憤が溜まってるらしかった。そりゃそうだ。男で、しかも運動部じゃある程度の上下関係は仕方ないけど、あんなのただのイジメだ。やっぱさっきのビデオ撮ってやればよかった。


「脇坂のことだって、アレ絶対先輩らの仕業だよな」
「ああ、だって目つけられてたもん。あいつ南小のエースだったから」


誰かの名前が出た1年たちの会話に、俺はちょっと耳を寄せた。
脇坂?知らない名だ。


「でも先輩たちぜったい口割らないだろーな」
「言うわけないじゃん。あんなの知れたら退学かもしんないし」
「あーあ、早く卒業してくれればいいのに。そしたら脇坂だって戻ってくるんじゃない?」


それからバスケ部の1年たちは掃除をして帰っていった。電気が消されて鍵が閉まる音がして、本格的に暗闇と静けさの世界になる。やつらの会話の真相は分からずじまいだったが、俺が思うにきっとあの3年にもっと酷い目に遭わされたヤツがいるんだろう。
イジメか・・・。やっぱあるんだなぁ、やだなぁ。


「・・・思えば、学校泊まるっていうのも、けっこーイジメに近いよな」


考え込んでいた時は気づかなかったが、ふと静かで暗くてひとりぼっちの現状に気づく。温度計もカメラも変化はなく、何が起きそうもないけど、何もなくてもやっぱ夜の倉庫にひとりは、なぁ・・・。


「え?」


何か、何かが聞こえたような気がして、周りを見渡した。
でももちろん何もない、しんと静かなだけの暗い倉庫。
気のせいかと目を逸らすけどやっぱり内心ビクビクで、やっぱちょっと早まったかなと後悔した。


「英士のヤツ、心配するクセに俺も行こうかとは言わねーんだよなぁ、クソ・・・」


閉め切られた倉庫は暑いし、窓に風が吹き付けてガタガタいうし、暗いし、ひとりだし。
・・・いやいや!こんな事でヘコたれていたら学園防衛隊の名が廃る!


「出るなら出ろー!!」


・・・すいません、言ってみただけです。









「・・・・・・けて」












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