俺は、今でも夢に見る。 あの日あの時の、君のあの表情。 君は俺を、恨んでいたかな・・・ STAND BY YOU!! Short story:霊的少女 ![]() 「何それ、生霊ってやつ?」 「生霊ってゆーのかなー。まぁ死んでないんだからそーなるのかな」 「てか結人はなんでそんな落ち着いてるわけ?体乗っ取られたんだろ?」 「だってなーんも憶えてないんだもん」 授業が終わった放課後、同じクラスである英士と廊下を歩いてると結人にも会い一緒に階段を下りていった。これから英士と結人はふたりしかいないサークル活動へ、俺は週1しか活動のない負けじと細々としたそれでも立派に部として成立してる書道部へと向かう。 そんな道中、結人が含み笑いしながら聞いて聞いてと顔を寄せてきた。またなんかの懸賞にでも当たったのかと思っていたら、なんのその、信じられないくらいの話を持ってきた。結人の言うことだから「まさかぁ」と思って聞いていたのだけど、隣を歩く英士も否定せずに黙っている。まさか、マジなの?結人はともかく英士にまでそんな顔されたんじゃ、信じないわけにはいかない。 調査をしていたら、生霊に身体を乗っ取られた、だなんて。 「で、体はなんともないわけ?」 「おお、ぜんっぜん元気。てかなんも覚えてないなんて乗っ取られ損だよなぁー」 「何言ってんの、二度とゴメンだよ」 「でもこれでようやく俺たちの活動の行く先に光が見えた!部活昇進に一歩近づいたわけだ!あとは一馬、お前だけだぞ!」 だから入らないって。めげないヤツだな。 「でも、どーやって元に戻ったわけ?」 「へ?」 「勝手に元に戻ったの?」 「あー、まぁ、なんとゆーかな」 「なに」 「企業秘密〜。部外者には教えられまセン!」 「なんだよそれ、いーじゃん」 「ダメダーメ!この件の真相には仲間の基本的人権がかかってんだ」 「意味わかんねーし」 企業秘密だなんてまた格好つけて。今までは何でも教えてくれたクセに。でも結人はガラにもなく必死で口を閉ざし続けて、うっかり言ってしまいそうな口をひたすら我慢している感じだった。かなりアヤシイ。 「でもさ、そういうことしてるから霊、とか?寄ってくるんじゃないの?」 「ああ、でもあの事があって俺はかなりヤル気が沸いてきたよ。これからもっともっと学園の心霊現象暴いちゃうもんね!」 なんだか知らないが、結人はいつもに増してヤル気を出している。 なんかこう、ふっ切れた感じだ。 活動場所が実習棟にある俺たちがその間の本棟の廊下を歩いていると、廊下の窓から外を見た結人は突然「あ!」とでかい声で叫んだ。何かを発見したらしい結人は窓を開けそこからぐっと身体を乗り出し、また叫ぶ。 「コラー!ーっ!」 結人のでかい声は下校していく多くの生徒たちみんなの耳に届き、外を歩く全員が一斉に振り向いた。その生徒たちに混ざって昇降口から出てきた一人の女の子も校舎に振り返り、小さく顔をゆがめる。 「放課後は楽しいサークルの時間だろ!どこ行く気だー!」 周りの目などお構いナシで叫ぶ結人に、その声の向かう先にいる生徒は心底嫌そうな顔をしている。俺だってこんな公衆の面前で名前を呼ばれたらかなり嫌だ。でもやっぱりそんなことに構うはずのない結人は、さっさと帰ろうとするその子を追いかけて走り出し、階段を駆け下りていった。 「って、その結人のクラスの転校生?」 「うん。一馬まだ会ってなかったっけ」 「ああ・・」 結人が走り去った後で、俺は結人が乗り出していた窓から外を見下ろした。結人に名前を叫ばれた彼女は結人が来る前に去ろうと足早に歩いていく。そのうしろ姿をジッと見た。 ほんとはずっと気になってた。 結人が何度も口にする、その苗字。 「・・・英士、」 「ん?」 「そのって、下の名前なに?」 「えーと、、だったかな」 「??」 「なに、どうしたの」 その名を聞いて英士に振り返り、また窓の外を見た。 俺の頭の中にはずっと引っかかってる記憶があって、それが今見ているうしろ姿と、重なって見えた。俺は結人と同じように走り出し、俺の様子を不思議がってた英士も俺のあとを追いかけた。 一人先に走っていった結人は、逃げるように歩いていく彼女を捕獲していた。逃がすまいとがっしり腕を掴んで何か言い合っている。 「お前は〜、メンバーとしての自覚があるのか!授業が終わったらベースに来いっていつも言ってんだろ?いつもいつも気がつけばさっさと帰りやがって、お前はもう立派なメンバーなんだぞ!」 「籍さえ入ってればいいんでしょ、人数に変わりないんだから」 「おまえが活動に参加せずに誰がするんだ!なんでそんな嫌がるんだよ、そんなすばらしい力を持っていながら」 「すばらしい?」 「すばらしいだろ。人には見えないものが見えるんだぞ?それで人一人救っちゃったんだぞ?普通のヤツには出来ないことが出来ちゃうんだぞお前は」 「そんな軽いことじゃないの。この力のせいでどれだけ嫌な思いしてきたと思ってんの?生まれてから一度だっていいことなんてなかった。こんな力なけりゃもう少しマシな人生だった」 「そんなに嫌な思いしてきたの?何があったんだよ、言ってみ?」 「若菜君には、わからない」 「わかんねーから聞いてんじゃん」 「話したってわからない。若菜君には絶対・・」 何か言い合ってる結人たちの元まで息を切らしながら駆けつけると、結人越しには俺に目を留め、同時に口を止めた。その様子を見て結人も俺に振り返って「一馬、どったの?」ときょとんと言葉をかけた。でも俺はに目を合わせたまま、少しずつ息を落ち着けて、 「・・・?」 俺を見つめてるの名を呼ぶと、は俺からゆっくり目線を外して、顔を背けた。その様子を見て俺も、その後言葉が続かなくて。 「なんだ、お前ら知り合い?」 「・・・」 「・・・」 結人が俺たちの間できょろきょろと見やる。うしろから追いついてきた英士も俺たちの不穏な空気に気づいて、二人で目を見合わせて首をかしげていた。 「久しぶり・・。転校生って、だったんだ。ずっと結人から聞いてたのに、わからなかった」 「うん・・・」 「・・・」 やっぱり、だった。 髪が短くなって背は少し伸びて、でもこの雰囲気はあの時のままだ。 何年か振りに口にしたその名前。俺はもしかしたら、その名前を呼んでいい立場じゃないかもしれない。時間と共に風化していっていた記憶が戻ってきて、うまく言葉を続けられなかった。がもう、最初以来目を合わせないことも合わさって。 「なぁ、おまえら知り合いなの?」 「・・ああ、小学校の時、同じ学校だった」 「へー!そりゃ久しぶりの再会だ!なんかもー俺らいろんな縁あるな!こりゃもう一馬もうちに入るっきゃねーだろ!」 なぁ!と結人は英士に笑顔を向けるけど、英士は結人を掴むと俺とを残してズルズルと引きずっていった。なになに!と騒ぐ結人を、冷静に空気を読み取った英士がまるでそれに気づかない鈍感な結人を連れて校舎の中へ戻っていく。英士はほんと、空気を読むっていうことが上手い。 「今までどこにいたの」 「中学上がる頃にまた引っ越して、普通に学校行ってた」 「そっか、あれから・・来なくなったから、俺気になってて・・」 なんとか言葉を探してたけど、うまく話せない。あれから、と自分でいっておきながら、その時のことを思い出して心苦しくなる。がいつかのように笑ってないから余計に重くなる。 笑顔を見せていたを消したのは、俺なんだけど・・・ その後、結人と英士がいるだろう教室に行くと、案の定結人はすぐ俺に駆け寄ってきて椅子に座らせた。英士はいつもの通り資料に目を通したりしてるけど、結人はよっぽど気になってたらしく、活動なんてほったらかして俺の隣に座った。 「で?お前らどんな関係なの?」 「関係って、だから小学校の時・・」 「それだけじゃないだろあの空気は〜。なに一馬、の事が好きだったとか?」 「や、そーゆーのじゃないって」 「じゃあどういうのだよ!」 「話すと長いよ。ヘンな話もしなきゃなんないし」 「大丈夫、今日はもう活動中止だから」 結人があっさり言うと英士はギロリと結人をにらんだ。たぶん、今俺が何してると思ってんの、と言いたいんだろう。働かないリーダーの前で変わらずノートやら目安箱の投書やらを纏めているというのに。 「俺、小学校の時って結構クラスで浮いててさ。習い事とかめっちゃしてて、クラスのヤツに遊びに誘われても断ってばっかで。友達も全然いなかったし、俺もヘンにつっぱってそれでもいいって思ってて」 「あー、お前んちそーゆーの厳しそーだもんなぁ」 俺の親は二人とも会社を経営していて、生まれた時から不自由なんてない裕福といえる家庭だった。その分しつけと勉強にはうるさくて、小さい頃から毎日習い事と塾で友達と遊んだ記憶がない。 俺は寂しさを紛らわしたくて、ひとりで何でも出来るようになろうと、人との間に壁を作っていた。俺は他のヤツとは違う。遊んでるヒマなんてない。友達なんていなくても、全然平気。そうやって自分を守って慰めて、自然と周りから人はいなくなってった。 「は小6の時に転校してきたんだ。でもは誰とも喋らなくて、案の定イジメの対象になって」 「あいつは昔からそーなのか!しょーがねーヤツだなぁ」 「その時も今みたいに幽霊とかお化けが流行ってて、それがなんでだかのせいになってって、理科室とかトイレに閉じ込められたりして。それでもあいつ、ちゃんと学校に来るんだよ。毎日イジメられに来るようなもんなのに、ちゃんとくるんだよ。ヘンなヤツって思って、でもそれがカッコよくも見えて、なんとなく喋ったら意外と話せてさ」 「浮いてるモンどーしってとこだな」 「そんな感じ。それからよく話すようになって、あいつが閉じ込められたりしたら助けたりしてた。それが余計に反感買ったりしたけど、たぶん俺、あの時初めて学校行くの嫌じゃなかったと思う」 忘れかけてた事をこうして話すうちに鮮明に思い出してきた。そのときの場面や抱いた感情まで。俺はその時間は忘れてはならないはずで、でもどうしたって時間は記憶と思いを風化させていく。楽しかったことうれしかったことはいつまでも覚えてるのに、苦い思いは早く忘れようとする。記憶から消そうとする。 「夏、だったかな。同じクラスのヤツが階段から落ちてさ。それから誰かが車に轢かれたり脚骨折したり、どんどんみんながケガしてくってことが起こったんだ。それがなぜかのせいだって騒ぎになって、イジメももっと酷くなってって」 「はぁ?なんでだよ。で、どうなったの?」 「俺はそんな事あるわけないって思ってたよ。けどある日さ、帰り道にと一緒に歩いてたら、横断歩道渡ろうとした俺を急にあいつが引き止めたんだよ。そしたらいきなり横断歩道にトラックが突っ込んできて、何人か轢かれて大ケガして・・」 「なにそれ、がトラック来るの分かってて一馬止めたってこと?」 「さぁ。でも俺、それで一気にあいつ、疑っちゃって・・・。それ以来喋れなくなって、あいつがイジメられてても気づいてないフリとかしちゃって・・・」 友達ってものが出来て、嬉しかったのに、それを俺は簡単に疑って、見捨てた。 自分はそんな人間だったんだって、思い知るのも怖くて、勝手に忘れようとして。 「そのときのは髪が長くて背中まであったんだよ。きれいな髪してた。だから俺ん中のあいつも髪が長いままでさ、でもさっき見て、俺一番嫌な事思い出しちゃった」 「嫌な事?」 「俺があいつを助けなくなったもんだからイジメがもっと酷くなって、、はさみで髪切られたんだ。耳の上くらいから、ばっさりと」 「うわ、ひで・・・」 「いつも平気そうな顔してるあいつもビックリして泣きそうで、でも俺は、その時それ見てたのに、助けなかった。目合ったのに、逃げた」 「・・・」 「その日からあいつ学校に来なくなった。夏休みになっても、終わっても、冬になっても、卒業式も来なかった。一回家まで行ったけど、会えなかった。俺は中学ここ受けたし、だからあれがを見た最後だった。俺、知らない間にそのこともの事も忘れてて、お前らがいて友達できて、楽しくて。でもは、なんも変わってなくて、だけまだ一人であの時のままなんだって思ったら、俺、自分がすげぇ、最悪だなって・・」 く、と涙が鼻をついて、でも泣くなんて出来ない。 どうして人は人を傷つけられるんだろう。どうしてそれに気づけないんだろう。傷つけるとわかってても、どうして自分を守ってしまうんだろう。なんて弱い自分なんだろう。情けなさ過ぎて、嫌になる。 「なぁ一馬」 俺が口を閉ざしてしまってせいで静かになった部屋の中で、結人が口を開いた。 「誘うの、やめたほうがいいのかな。俺、考えナシで、お前らのことだって何もわかんないし、の力だって特別なもんだとか言っちゃって、簡単にスゴイとか言っちゃって」 俺ってバカだよな・・・。深く目線を落とす見慣れない結人が小さく呟いた。 みんなわからないことばかり。やってしまってからじゃないと間違いだと気づけなくて、後悔の繰り返し。 「結人がバカじゃなかったら俺たち今ここにいないよ」 塞ぎこんだ結人を前に言葉が見つからないでいると、英士が言った。いつになく真剣だったはずの結人も、コロッと表情を崩して英士に目を上げる。 「人の気持ちなんてわからないし、そもそも考える必要ないんだよ、結人は」 「なんで?」 「俺たちは好きでここにいるから。仕方なくじゃなく自分で選んでここにいるから。結人が結人じゃなかったら俺たちここにいないんだよ」 「・・・よく、わかんない」 「確かに結人は考えなしだし軽口叩くし鈍感な上に自分勝手だから反省するもの成長しようとするのもすごくいいことだと思うけど」 「おい」 「べつに俺たちは結人にそんなこと望んでない。結人は基本的なことは分かってるから、それを見失うことさえしなけりゃいいと思うよ」 「それはホメられてんのか?」 「賢い結人なんて気味悪い」 やっぱホメてねーだろ! ガタンと立ち上がって叫ぶ結人はまったくいつもどおりの結人だった。でも英士の言う通りだと思う。結人がそんなヤツだから俺たちここにいる。 中学生になってこの学園に入り、結人と英士に出会った時も俺はつっぱったままで、きっと俺の印象は最悪だったと思う。ガキくさいプライドだけ高くて、自分は特別だと周りを見下して、今自分で思い返してもそんなところが分かるくらいだ。 そんな態度をとってた俺なのに、今でも結人と英士はそこにいる。それはたぶん、他のヤツなら見切りつけて離れていったところを結人は真正面からぶつかってきたから。ぶつかってケンカして、それでも仲直りさえすれば明日も一緒にいられると結人は分からせた。 俺は初めて友達と呼べるやつに出会って、でもそれにどう接すればいいのか分からなくて。壁を作るよりも壊すほうがずっと難しいと知った。その方法を教えてくれたのは英士で、最初は何を考えてるのかまったく分からなかったけど、英士の一言はいつも簡単に俺のわだかまりを解く。 「って普通に話せる人だと思うよ。必死に人遠ざけようとしてるけど、喋ってればそんなの忘れて笑うときある」 「あーあるある。あいつ結構ツッコミスルドイんだよ」 「うん、俺も昔あいつと初めて喋った時、結構喋るんだなって思った事憶えてる」 そう、話してみれば、みんな同じ。 同じ思いを抱いて、同じことに悩んで、同じことにぶつかって。 「傷つけたと思うなら謝ればいい。もう何も出来なかった頃とは違うんだから、今なら何か出来るでしょ」 「そーそ、一馬はいーヤツだからだいじょーぶだって!」 俺ひとりじゃ分からない事、出来ない事、いっぱいある。 だからふたりがいること、ふたりといられることを、ありがたいと思う。 「ところでの力って何?」 「あれ、一馬知らないの?」 「だから何?」 「いやー、企業秘密ですから〜」 「またそれかよ、なんだよ教えてよ」 「そんなに知りたけりゃ仲間になればー?」 「・・・」 「あ、考えてるね」 「よし、今のうち届け出るぞ!」 「え!ちょっと待て、勝手に書くな!」 「ぅわはは!やっと4人揃ったー!」 仲間になれなんて、ずるい誘い文句だ。 翌日。 「なぁ英士、次はどこ?」 「体育館の次に多いのは理科室だね。ため息出るほど王道だけど」 「王道上等!それが俺らの仕事だ!」 相も変わらず結人と英士は投書箱の紙で次の仕事選び。 「何読んでんの一馬」 「超常現象特集」 「あれ、怖いんじゃなかったの?」 「べつに怖かったわけじゃ・・。活動内容理解しないことにはここにいる意味ないからな」 「さっすが一馬、意外とマジメ」 ついに口説き落とされ今まで部外者だった俺はとうとう仲間入り。結人はただ喜んでくれて、英士は仕事と結人のお守りが減って助かると言った。部屋にあるマジメにインチキくさい本を片っ端から読んで、二人にもいろいろ教えてもらって、そうしてるとガチャっとドアが開く音がして俺たちみんな振り返った。 ドアの向こうから、が顔を覗かせた。 「!来たのか!」 「来なきゃ校内放送で呼び出すって言ったの誰よ」 「わっはは、お前素直だなぁー!」 「帰る」 「あーあー!折角来たんだから帰るなって、ようこそ学園防衛隊へ!お前はピンクだ!」 「・・・いや」 2人から3人へ 3人から4人へ ようやく結人の念願だった活動が今はじまろうとしていた。 学園サイキックリサーチ・セブン、始動―。 |