思い出は、消えないものほど痛いものだよね STAND BY YOU!! Fili2:泣いた人体模型 ![]() 「だからダメだっつってんだろしつけーな!」 「なんだよいーじゃんケチー!」 「うっせぇ出てけっ!」 うしろ首を掴まれ部屋からつまみ出されると、バンッとドアは閉じられた。 「むっかつくー!生徒会室が呪われても助けてやんねーからなーっ!」 「ああっ!?」 ウサ晴らしにドアの外から叫んでやるとまたドアが開いて、うわっと俺は廊下を走り去った。ここで生徒会を敵に回したら英士にコロされる。(もう遅い気もするけど) ちぇ、とベースに戻って立て付けの悪いドアを押し開けながら「また駄目だったー」と、最近のお決まりのセリフで登場した。ちゃんとみんな揃ってて、英士と一馬が俺に振り返る。 「また行ってきたのかよ。きのう駄目だって言われたばっかなのに今日いけるわけないじゃん」 「突然気が変わるかもしんないだろ?」 読んでた雑誌に目を戻す一馬が「ないない」と冷めた声で言った。一馬は俺たちの仲間になってからというもの、俺でさえ読みきれてない心霊関係の本を勉強代わりに読みまくっている。怖がりのクセにやることはやるしっかり者め。 「おとなしく次の総会まで待ちなよ。ヘタに生徒会の人刺激して怒らせないでよね」 「お、相変わらず鋭いね君は」 「まさか怒らせたの?」 「怒らせてないよ!・・・たぶん」 目安箱から取り出した紙をノートに纏めてる英士がジロリと俺を見上げてきたから、そっと目を逸らした。やべぇやべぇ、自ら地雷踏むとこだった。だって次の総会は3学期なんだ。せっかく4人メンバーが揃ったのにそんなに待ってられない。思い立ったら即行動が俺のモットーだ!そう能弁タレながら机をバンバン叩くけど、みんな総出で無視してきた。冷たい奴らめ。 そして、そんな俺たちの会話に口を挟むどころか振り向きもしないヤツの背中に目を向ける。ベースの端でひっそりといるは、一言も発さずにテレビ画面を見上げていた。階段の踊り場で撮ったビデオ。生徒の足が何回も行き交うだけで何の変化もない映像。 「ー、なんか見えた?」 頬杖ついてにそう声をかけるけど、は振り返りもせずに「何も」とつぶやいた。何もない映像をよくずっと見てられるな。俺は座ってた椅子ごとガガーッと長机を回り、の隣までいって一緒に画面を見た。 「てかビデオに映ったものも見えるの?」 「知らない」 「知らないの?」 「見たことないし、見たくもないし」 それもそうだ。だってコイツは幽霊が見えるけど、今までそれで散々嫌な目に遭ってきたらしく、とことん幽霊関係から身を引いている。俺たちがこの活動をするにあたって勉強した、幽霊が出る場所は温度が下がるとか、幽霊でもカメラに映る時があるとか、そういう事をコイツは何も知らない。なんて宝の持ち腐れ!・・・なんていったらまた怒られるんだろうけどさ。 「じゃーさ、この学校で幽霊見たことないの?カメラ置いたりするよりに見てもらうほうがずっと当たるんじゃねーのっ?なー英士、次はどこだっけ」 「理科室」 「げ、理科室かー」 「理科室、なんかあんの?」 「なんかっていうか、理科室といえば科学部じゃん?俺あの部長ニガテなんだよなぁー」 「そんな理由かよ」 「でも理科室は体育館の次に多いからね。火の玉が見えるとか夜毎ホルマリン漬けの位置が変わってるとか。一番多いのは人体模型だね」 「人体模型っていったら王道じゃん。アレだよな、みんなと一緒に学校に通いたくて動き出すんだよな」 「どーする隣の席に座ってたら、マジこえー!」 「親友は隣のクラスのガイコツくんですってな!走るとバラバラ壊れてくの!うわはは!」 俺と一馬が盛り上がり笑ってると、英士が「でもこれは動くんじゃないんだよ」と妙に楽しそうな声色で言った。 「じゃあ何?」 「泣くの」 「は?」 「人体模型が泣くの。朝になると人体模型の足元が濡れてるんだって。水道までは3メートルあって2階だから雨漏りもない。科学部の部長が鍵を閉める時はいつも何もない。なのに朝になると人体模型の周辺は水浸しになってるんだって」 「へー、それは七不思議っぽいじゃん。それで人体模型が泣いた、か」 「でもその現象もここ最近らしい。噂も主に3年の女子からみたいだし、あやしいね」 「あやしいって?」 「噂の発祥が固まってる場合は誰かがわざと噂流してる可能性が高いんだよ。オモシロがってとか」 「なるほど」 「とりあえず、理科室に行ってみようか。了承取れればカメラ置いてみて、イタズラならそれでわかるしね」 「だな!」 そうして俺たちの次の仕事は決まり、新たなナゾの解明へと立ち上がったのだった。 実習棟2階、西側の理科学室。 廊下側の窓にはいつも暗幕が張られてて、理科室独特の薬品っぽい匂いが入る前から漂ってくる。 「で?カメラ持ってわざわざ調べに来たって?」 「ハイ」 「バッカじゃないの?あんなのイタズラに決まってんじゃん。そんなのにいちいち付き合ってお前らどれだけヒマなわけ?面白がってるヤツを楽しめるだけだろ。こっちはいい迷惑なんだよ。バカみたいな噂信じて部員減るしさぁ、面白がって鍵壊して入り込んでくるヤツはいるしさぁ。これ以上余計な事しないでほしいんだよ。だから帰れ」 「・・・」 のっけから浴びせられる科学部部長の痛快なマシンガントーク。 これだからここの部長、ニガテなんだよなぁ・・・。 「でもですね翼センパイ。イタズラならイタズラって分かれば、部員の皆さんも戻ってくるんじゃないっスかね?」 「よけーなお世話。うちはお前らと違って十分部員はいるの。ただのミーハーなだけの女子が減ってせーせーしてるよ」 「さっきと言ってること違・・」 「なに?」 「イエ」 駄目だ、この口と威圧(と妙にかわいい顔)には勝てない。 「邪魔はしませんから、カメラだけつけさせてください」 俺じゃ埒が明かないと悟ったのか、英士が俺のうしろから口を出した。 そしたらどうしたことか。勝手にすれば、なんて許されちゃったよ。だったら最初から俺に許可してくれればリーダーとしての面目も立つというのにくそぉ。 とにかく科学部の実験場である理化学室にカメラをつけることを許され俺たちは数箇所にカメラを設置した。人体模型に向かってカメラを3台。1台じゃ一晩撮り続けることが出来ないから録画開始時間をずらして撮影する。カメラをセットする英士たちの作業をを見つつ、俺はそそっと静かに入り口近くにいるに近づいていった。 「、何か見える?」 「いいえ」 「そっかぁ、じゃあやっぱイタズラかなぁ」 「毎回見えるわけじゃないし、そこまで信用されても困る」 「あ、そーなの?そーいやいつか読んだマンガで、女の霊能力者は力が不安定だっていってたな」 「そう」 「そうって、お前ほんとに少しも自分の力分かろうとしなかったのな」 「しないよ」 勿体無い。とつい口をついた俺をはジロリと見た。しまったしまった、ついうっかり。 そんな俺たちに、作業を見てた翼センパイが「女子もいるんだな」と言ってきた。 「進入部員ッス、よろしくー」 「べつにヨロシクする必要ないけど、物好きな子がいたもんだね」 「そーなんスよー、コイツがどーしても入りたい入りたいって言って」 の頭を翼さんに下げさせながら俺なりの気配りでナイス言い訳をしているのに、は不機嫌に俺の手を払いのけた。ただでさえ翼さんのご機嫌には気を使うというのに、こいつは協力する気がまるでなくて困る。 「でも翼さん、ほんとに人体模型の周りが濡れてたりすんの?」 「最初は2週間くらい前だったかな。ここで授業があったクラスのヤツが見つけて、それ聞いて俺も朝ここ来て何度か見たことある」 「イタズラにしちゃ手が込んでるッスよね」 「ヒマなんじゃない?」 「騒ぎを起こしたい理由でもあんのかな。なんか思いつくことないスか?例えば部内で揉め事とか」 「うちは出席も自由だし幽霊部員も多いし、俺だって全員の顔と名前覚えてるわけじゃないし」 「センパイのファンで入ってくる子とか多そうッスよねー。さすが学園王子様ランキングに毎年名を連ねる翼センパイ、女子部員のほうがダンチで多いっしょ」 「いい迷惑だけどね」 「まさかミーハーな女子を追っ払うためにセンパイが仕組んだとかじゃないでしょーね!」 いつものノリで言ってしまうとギロッとにらまれた。いやほんの冗談ですってば。英士といいといい、最近俺にらまれてばっかだなぁ。 「椎名さん、一応準備室にもカメラ置かせてもらっていいですか」 「準備室まで?そこはいつも鍵かかってるし俺だって滅多に入らないよ」 「念のためです」 英士に言われて翼さんは準備室の鍵を開けてくれた。廊下側もグラウンド側も暗幕がかかって薄暗い部屋にカメラをつけ温度を計る。俺も滅多に見れない準備室に入ってみたくて後をついていった。そのうしろでやっぱりついてきやしないに翼さんは目を留めて「アンタは入らないの?」と声をかけた。 「いいです」 「まぁ準備室なんて気持ちのいいとこじゃないから女の子は入りたがらないのが普通だけどね」 「そうじゃなく、暗いところはあまり・・」 「・・・へぇ、なん」 「こら!チームワークを乱すなチームワークを!」 活動に参加するどころか興味すら示さないを引っ張り込もうとするけど、は俺の手にかかる前に遠くのほうへと逃げていってしまった。まぁーったく、ちっとも染まろうとしない頑固者だ。 「なんであの子入れたわけ?なんか役に立つの?」 「っすか?まー役に立つといえば立ってますけど、べつに仲間に役立つとかどーでもよくないッスかね」 「仲良しサークルなわけね。そんなだから部に昇格出来ないんだよ」 辛らつな翼さんに「ですよねー」なんて笑顔を返しながら、見えないとこで「いやなヤツ」と罵った。 「今日は部活ないんスか?誰も来ないッスね」 「今日は休みにした。実験中にこの噂でぎゃあぎゃあ騒ぐ女子がいたもんだから全員帰らせたの」 「へえ、誰ッスか?」 「は?」 「いや、大抵そーやって騒ぐ人ほど案外犯人だったりするから」 「そんなにうちの部員を犯人にしたいわけ?お前ら何、イタズラの犯人探しに来てんの?」 「いや決してそーゆー意味では!」 「七不思議の解明とかいって結局自分たちだって幽霊信じてないんだろ。そんなんでよくこんなサークル立ち上げたな」 「あれ、翼さんは幽霊信じる派ッスか」 「こーゆーのは信じないけど、死人が彷徨ってるとかは普通にあると思うよ」 おお、意外だ。頭ごなしにバカにするタイプだと思ってた。 「ひょっとして翼さんも幽霊とか見えるタチ?」 「もって?」 「あ、」 またうっかり口を滑らすと、英士も一馬ももまた俺をにらんだ。そんなみんなして睨まなくてもいーじゃん! 「いや、幽霊見える人ってたまにいるじゃないッスか!意外と霊感とかありそうだなぁーって」 「べつに霊感なんてないけど」 「あーそーっすかー!英士つけ終わったか?よーしよーし、じゃイタズラだったらすぐにお知らせするんで、お邪魔しましたー!」 半ば無理やりに話を切り、埃っぽい準備室からみんなを引き連れて俺たちは理科室をあとにした。 ああ俺って、ほんとうっかりさんだなー・・ 「どう思う?」 「実際にその現場を見てみないことにはね」 「本物だったら何?あの人体模型になんか取り憑いてることになんのか?」 「でもそれはないんでしょ?」 ちらりと英士がを見ると、は小さくたぶんと言った。 「ま、がそーゆーならだいじょーぶだって!何日かカメラ置いて犯人が映ったら事件解決じゃん?」 「都合いい事に椎名さんしかいなかったしね」 「でもそれでその水の出現がなくなったら犯人はあの人ってことになるんじゃないの?」 「でもあの人がそんな事すると思う?」 「思わない」 「だよなー」 そうして俺たちは、とにかく様子を見ることになった。 夜毎泣き出す人体模型。拝ませていただこうじゃないの。 -------------------------------- なんて敬語の似合わない連中なんだ・・・ |