知りたいなら、教えてあげる。

聞いてごらん?










STAND BY YOU!!   File3:狐狗狸さん










いつもの放課後。いつものベース。


「飽きもせずよくやるよね」
「きのうも1年生が教室でやってたよ。若菜君が止めたけど」
「こういう遊びは流行りだすとみんなやるからね」


英士とは資料を纏めたノートを見ながら話し合ってる。
一馬は今日は書道部。あいつは2年のクセに部長だから(部長って、いいなぁ・・・!)掛け持ちって事になってる。


「英士君もやったことある?」
「昔イトコとやったな」
「どうだった?」
「べつに何もなかったよ。結構当たるって言うけど、やっぱりそれはやってる人の意識が動かすものだからさ。基本的に俺は信じてなかったから全然動かなかった」
「なんでやりたいのかな。あたし絶対やりたくない」
がやったら凄いの降りてきそうだね」
「絶対やらない。そうでなくても最近嫌な感じするのに」
「あ、ほんとに?」


は、幽霊とかがいると寒気を感じたり頭が痛くなったりするらしい。俺たちにとったらカメラや温度計なんかよりずっといいレーダーなのだけど、あまりにヒドイと吐き気までしてくるらしく、出来るだけに負担をかけずに調査をするというのが最近出来た決まりごとだ。


「なんか感じるの?」
「でもこのくらいどこでもある」
「でも前より感じてるんでしょ?」
「うん・・・」
「1年くらい前にもあったけど、また流行りだしたか、コックリさん」


はだいぶ俺たちに対して壁をなくしてきてる。いい傾向だ。中でも英士には結構気を許しているのか、気がつけば英士と喋ってるところをよく見る。
そう、英士とはよく喋るのだ。


「結人、また前みたいに注意書き貼る?」
「・・・」
「結人?」
「・・・あっ?何?」


ボンヤリしていた俺は、二人を見ているのに二人の声が聞こえてないというアヤシイ醜態を晒してしまった。


「コックリさん、また増えてるでしょ最近」
「あー、そーだな、ビラ作るか!」
「何焦ってんの?」
「焦ってるっ?俺がっ?」
「挙動不審」
「・・・。あ、そだ。生徒会室行ってくる」
「また?飽きないね」
「だって折角4人集まったのにいつまでもサークルじゃカッコつかねーじゃん」


よし、と椅子から立ち上がり俺はドアに直行する。けど、ドアに手をかける前に、そっと後ろに振り返った。


、お前も来い」
「え?」
「いーから、一緒に来んの!」


俺の突然の思い立ちにハテナを浮かべるは、一度英士に目をやり、英士に行ってやってといわれてようやく持っていたペンを置いた。俺が呼んでもこないのに、英士に勧められりゃくるのかっ。なんて、ポッと浮かんだ文句は飲み込んで、俺たちは一緒にベースを出た。


「ねぇ、なんであたしも行くの?」
「・・・」
「若菜君?」


スタスタ歩く俺の後ろをが追いかける。でも俺は何も返さず足も止めず、後ろではずっとどうしたのと繰り返した。俺はピタリと足を止め、その後ろでもおっとと足を止める。


「お前さ、なんで英士は英士君なのに、俺は若菜君なわけ?」
「え?」
「だから、なんで英士は名前で呼ぶのに俺は若菜君なんだっての。俺だってお前のことって呼んでんのに」
「・・・や、なんとなく、だって若菜君は最初から若菜君だったから」
「おススメはゆーとだって言ったろ」
「え?いつ?」
「・・・」


俺はグッと眉間にシワを寄せて、また歩き出した。


「若菜君、」
「ゆーと!」
「・・・ゆう、と」


勢いよく振り返って言う俺にビクリと足を止め、は小さく俺の名前を初めて呼ぶ。それを聞いて俺は、よし、と納得して、またスタスタ歩いていった。


生徒会室は教室棟と実習棟との間にある本棟にある。本棟の1階は全面昇降口で下駄箱が並んでて、2階は職員室。その職員室の隣に小さな部屋があり、それが生徒会室だ。職員室のある廊下まできた俺たちはその生徒会室に近づいていくけど、俺がその部屋のドアに近づいていこうとすると、が後ろで突然ピタリと足を止めた。


「ん、どーした?」
「・・・なんか、」


は生徒会室のドアを見つめながら、それ以上は近づこうとしなかった。なんか、怖がってる顔だ。どうした?との傍に寄っていこうとすると、俺の後ろのずっと遠くの方から「わかなー?」と呼ぶ声がした。

振り返ると、生徒会室と職員室を飛び越えたずっと奥の廊下で手をブンブン振っている藤代が見えた。同じ2年で、生徒会の書記役員だ。


「生徒会室3階に移動したんだよー!こっちこっちー」
「はー?なんでまた急にー!」
「いろいろあってさー!」


廊下の果てと果てにいる俺たちは声を張り上げて、なんだかよくわかんないけどとにかくビビった顔をしてるをここから離そうと、藤代がいるほうへ走っていった。ふたりで藤代の元まで走っていくと、目の前に来るなり藤代は俺の後ろの、に目をつけた。


「あ、2組の転校生じゃん。セブンに入ったの?」
「おー、新メンバーよ」
「へー。俺1組の藤代セージ。生徒会の書記でーすよろしくー」


ヘラリと笑う藤代は悪意のない顔でに近づくけど、は身を引いて困惑した目で俺を見る。相変わらず敵意なく近づいてくる人間との距離のとり方が分からないようだ。しょーがねーなぁと俺は、の頭をぐいと下げさせてよろしくーと代わりに言ってやった。


「なぁ藤代、一馬も入ってメンバー4人揃ったんだから部に昇格してよー」
「それは渋沢カイチョーに言ってもらわないと。あと三上センパイ」
「げ、なんで三上センパイも?あの人副会長じゃん」
「だって今予算管理してんの三上センパイだもん。会計のヤツが入院してさ」
「入院?」
「うん、事故ったんだってさ」


話しながら藤代はこっちこっちと階段を上がっていって、俺たちはその後をついていった。

事故・・・。
それを聞いて俺はうしろのと顔を見合わせた。がさっきあの部屋で感じたものと、何か関係あるのかな。


「渋沢さーん、若菜が来ましたー」


階段を上がってすぐの部屋に寄っていく藤代は、ドアを開けるなり声を上げた。その中で会長である3年の渋沢さんが資料を整理している手を止めて、その奥で本棚を整理してる書記の笠井も振り返った。


「若菜か、どうした?」
「何事っすか、急な引越しッスね」
「ああ、ちょっとな」
「それはそーと、これうちの新入部員ッス!このたびメンバーがやっと4人揃ったんですよ、だから部にしてくださいよー」
「そうか、良かったな。でも部への変更は総会じゃないと出来ないから、もう少し待ってくれないか」
「えー、じゃあせめて費用だけでもっ!もううちてんてこ舞いなんスよー」
「そうだな、元々サークル活動にも部活と同じように費用を割り当てる話は考えてたから、もう少し待ってくれないか」
「マジスか、さっすが渋沢会長話せる!まるで話も聞いてくれないどっかのオニ副会長とは言うこともやることもぜーんぜん・・」
「どこのオニ副会長がなんだって?」


背中にぞっと寒気が走り、それと同時に後頭部にガンッと痛みがはしった。いってぇ!と頭を押さえ振り返ると思ったとおりそこにはオニ副会長の三上センパイが缶ジュースの底を俺に向けて立っていた。


「イエ、なんでもないッス!」
「あっそ。お、誰コレ」


笑顔を振りまく俺を無視して部屋に入っていく三上センパイは、その途中で俺の後ろにいたに目を留めた。三上センパイは俺の頭の上からをマジマジと見下ろすもんだから、俺はその三上センパイを押し退けて新しい仲間ですと答えた。

高い位置から目線だけ下げる三上センパイは、他のヤツみたく優しく微笑んだり目線を合わせたりしないもんだから、はかなりオドオドしていた。そんなに追い討ちをかけるように三上センパイは俺をどかせての肩に手を置く。


「あんなワケわかんねー部に?なんでまた。そんなことよりうち助けてくんない?今会計いなくて困ってんの」
「だー!ちょっとちょっと!」


にあやしい笑みをかける三上センパイの前にまた割り入って、近すぎる体を押し離した。
ダメだダメだ、この人には触られただけで子供ができちゃうってウワサだ。とんでもない女ったらしだっていうしな!


「あーぶないあぶない、に近寄らないでよ!」
「なんだよ、お前の女じゃあるまいし」
「俺のなーかーま!」
「仲間ねぇ」


はっとバカにする笑みを放つ三上センパイは、部屋に入っていってジュースの入った袋をごとり机の上に置いた。なんなんだこの人は、油断も隙もありゃしない!


「あれ三上センパイ、俺のファンタは?」
「なかった」
「ええー!どこのコンビニ行ったんスか」
「裏のマルK」
「ローソン行くっつったじゃないっスか!」
「気分転換」
「絶対嫌がらせだっ!」
「若菜、最近の活動はどうだ?学校新聞だと、結構本格的に動き出したみたいだけど」


部屋の中心で騒ぐ二人にまったく気を留めない渋沢さんは、もういつものことでうるさいとすら思わなくなっているのか、普通に会話を始めた。


「はい、調子よくやってます。最近はまた肝試しとかコックリさんとかやる生徒が増えててちょっと困ってます」
「そうか」
「なぁなぁ、理科室のやつはどーなったの?人体模型が泣くとかいうやつ」
「あー、アレはイタズラだった」
「なーんだ。つか俺生徒会入ってなかったら絶対セブン入っちゃうのになー」
「今からでも遅くねーぞ」
「なんか言いました三上センパイっ」


騒ぐ二人に(いや、騒いでるのは藤代だけか)渋沢さんはやめろと一喝し、それでもだってだってと騒がしい藤代をなだめて、まるで父親のように見えた。


「あのー、もしかして前の生徒会室でなんかあったんスか?」
「え?」


俺がそう切り出すと、渋沢さんをはじめとした生徒会のみんなが俺に振り返った。


「なになに、生徒会室にもなんか噂あったの?」
「いや、そーゆーわけじゃないけど」


生徒会室に関する噂はなかったけど、噂なんかよりもっと信憑性のあるレーダーが反応している。俺のうしろでジッとしてるやつが、ブルブルと。


「なーんだ。実はさ、少し前から前の生徒会室がおかしーの」
「おかしいって?」
「急に本棚が倒れてきたり、へんな音がしたり。最初は俺たちも気にしてなかったんだけど、だんだんヒドくなってきたからここに移動したんだよ」
「へー・・・」


俺は後ろに振り返り、と顔を合わせた。
も何か感じてた。それが何か関係あるのかな。


「なぁどう思う?幽霊とかいんのかな」
「それは調べないとわかんないけど」
「調べるって詳しくは何すんの?」
「カメラつけて観察したり、温度計って様子見たり」
「いーなー、やっぱ俺掛け持ちしよっかなー」
「バカか。そもそもお前ら見た事あんのかよ。イタズラじゃなかったことあるわけ?」


あるよ!俺なんて取り憑かれたんだからな!!
・・・って言いたいけど、言えず、ぐぐっと俺は手に力を入れて言葉を飲み込んだ。


「俺たちなりに真剣にやってますよ。そりゃほとんどイタズラだったりただの噂だったりするけど、本物の時もあるから!」
「へー、実証出来んの?」
「出来るよ!でもセンパイみたいにハナっから疑ってるヤツは結局何言ったって信じないんだから相手にしないんですよーだ!俺たちは実証する為とかに調査してんじゃないの!」
「だったら疑いようのないくらいのショーコ持って来いよ。持ってきたら部に昇格してやんぜ」
「あ、言ったな?忘れんなよっ?」


まだケラケラ笑ってる三上センパイの後ろで、渋沢さんはすまないなと謝ってくれた。けど俺が謝らせたいのは渋沢さんじゃなくコイツだこのやらー!


「じゃーとにかく調べてみますよ。どーぞお楽しみに!行くよ、


俺は三上センパイに向かって啖呵切って、を連れて部屋を出た。売られたケンカは買わにゃ!しかも今回はの保証つきだもんね、勝ったもドーゼンだ!見てろよこのエロたれ目っ!


「ねぇ、もしかして、ちゃん?」


生徒会室を出た俺の、その後ろにいたに、今までずっと我関せずと片づけをしていた笠井が声をかけてきた。


「昔、菖蒲園にいた?」
「え・・・」
「俺、竹巳。タク。憶えてない?よく一緒に遊んだじゃん」
「・・・あ、」


しばらく笠井を見つめていたは、思い出したのか表情を変えた。


「やっぱり!久しぶり、何年ぶりかな・・・。小学校上がる前だったもんね」
「笠井、と知り合い?」


一馬に続いて笠井まで?世間は狭い。


「でも若菜のとこのサークルにいるなんて、もしかして昔幽霊が見えるって言ってたのホントだったの?」


笑って言う笠井の言葉に、はビクリと顔を堅くした。俺もぎょっとして、部屋にいたみんなもその言葉をしっかりと聞いてて、俺は急いで笠井の口を塞ぐけど、笠井はなに?と俺の手の中でもごもご、ってか「なに?」じゃねー!


「うそ、幽霊が見えるってどーゆーことー?」


しかし時すでに遅く、藤代が目を輝かせてに近づいてくる。
ああもぉ、笠井のバカ!俺でさえ我慢したというのに!


「ねぇホント?マジ見えんの?」
「やめろって藤代、嘘だよ嘘、そんなの冗談!」
「スゲーじゃん、なんで隠すの?幽霊ってどんな感じ?やっぱ足ないの?」


俺が何言ってもこいつの好奇心はもう止まらず、注がれる視線に怖がって、はギュッと手を握って顔をうつむけた。

だめだ、やめてくれ。
やっと目を上げて話せるようになったのに、また・・・


「やめろって!」


俺はの手を引き背中にかばって、藤代もきょとんと笑うのをやめた。


「若菜、何怒ってんの?」
は、それでずっと痛い目みてきたんだ。面白がってそーゆー事聞くの、やめてよ」
「・・・」
「幽霊を信じるとか信じないとか、そんなの人の勝手だしどっちでもいいよ。俺は疑われても笑われてもいいんだ。でもこの事は忘れて、絶対に誰にも言わないでよ、頼む」


藤代はゆっくりと輝いた目を落ち着けて、分かったと頷いた。先輩たちも、誰も冗談でからかおうなんて顔はしてなかったから、俺はもう早くここからでようと、頭を下げてを連れて部屋を後にした。


ちゃん」


俺が引っ張るに笠井が声をかけて、は足を止めて振り返った。ゴメン、と笠井は申し訳なさそうに謝って、俺はまったくだと心の中で悪態ついたけど、は小さく首を振ってた。

・・・とまぁそんなわけで俺たちの次の仕事は決まった。のおかげでかなり確証の高い、元・生徒会室のポルターガイスト調査。早速今日から取り掛かろうか。そんな段取りを考えつつ、まずは英士に相談しなくてはと俺たちはベースに戻っていった。俺のうしろをがついて歩いて、俺はを気にしつつ、合わせてゆっくり歩いた。


「それにしても笠井め。俺が毎日どれだけ気合入れて黙ってると思ってんだってのなぁ」
「・・・」
「つーかゴメン!ヘタに誤魔化すよりちゃんと口止めしたほーがいいかと思ってさ。まぁ笠井と渋沢さんは大丈夫だな、面白がるタイプじゃないと思うし。問題は藤代がウッカリ言っちまう危険性が俺並みだって事と、三上センパイは・・・どーかなー・・・、とにかく性格はサイアクだっ」
「若菜君」


ブツブツ言う俺の話を全く聞いてないように、は小さく俺を呼んだ。


「なに?」
「・・・」


振り向いて足を止めた俺の前でも足を止めて、はうつむいた。
ホラ見ろ、また下向くようになっちゃったじゃないか!


「あの、ありがとう・・・」


うつむいて、は小さく小さくつぶやいた。
まったく、コイツは・・・


「ゆーと」


お礼は、目を見て言うもんだろう。


「ゆーとって言えって言ってんだろ」
「・・・ん」


今更ながら俺に目を上げたは、少しずつ口端を上げて微笑んだ。
そうそう、その顔。そーしてりゃ誰もお前を嫌いになんてならないんだよ。


「ホラ、行くぞ」


夕暮れの廊下。新たな仕事を見つけた俺たちは晴れ晴れと歩き始め、その俺のうしろを、はゆっくりついて歩いた。












----------------------
こんな生徒会ハナヂ出るな。
1