力の無い手は、その存在すら無いに等しいのだろうか
STAND BY YOU!! File3:狐狗狸さん
学校中で突然起こり始めた不可解な現象。その調査に俺たち学園サイキックリサーチ・セブンが乗り出して3日が過ぎた。
「なー、ほんとーに元・生徒会室になんか感じたんだろ?」
「うん。でも今はあんまり・・」
「はぁーあ、やっぱ隠れちゃったのかなぁ」
「何も無いなら無いでいいんじゃないの?」
「ダメだダメだ!この件には俺らの部活昇進がかかってんだぞ?」
「だって無いものは無いんだから」
「いっそ映像作って・・」
「英士君に怒られるよ」
「・・・スマン、なかったことにしてくれ」
こんな話、聞いただけで英士なんてどんなさげすんだ目を俺に寄こすことか。想像しただけで背筋が凍りつくようだ。日差しが差し込むあたたかい昼下がり、午後の授業を受けながら、俺はだらしなくうつぶせていた体をブルッと振るわせた。
「あ、じゃあ書道部が使ってる教室は?一馬がケガしたんだし、なんかいるんじゃないの?」
「でもあの後真田君と見に行ったけど何も感じなかったよ。もしかしたら、そこにいたのが真田君に憑いちゃったヤツじゃないかな」
「マージでー?、まさかお前片っ端から除霊しちゃってんじゃないだろーな」
「そんな事出来ないってば」
「いや、もしかしたらにビビッてみんな帰っちゃったのかもな。だとしたらお前スゲーぞ」
「・・・嬉しいような、・・・悲しいような」
この問題山盛りの時に、調査を始めたはいいものの俺たちが掴んだ事実は何もない。俺たちがやってることって、やっぱ意味ないのかなぁーなんて次第にヤル気も萎えてきて俺はまたぐだっと机に体を寝かした。いかん、このままでは俺たちただのホラ吹きサークルになってしまう。
「生徒会室に仕掛けたビデオもぜんぜん反応ないしな」
「うん」
「あの会長が言うからにはなんかあると思ったのに、一斉に雲隠れされちゃったわけだ。あーあ、生徒会になんて言お」
折角部への昇進のチャンスだったのに、肝心の生徒会室の怪奇がサッパリと音沙汰なくなってしまったのだ。せっかく仕掛けたカメラもレコーダーも温度計もなんら異常なし。ただの空き教室だ。
「あのさ結人、もしかしたら、生徒会室に憑いてたんじゃなくて、生徒会の誰かに何かあったのかもしれないね」
「・・・。なに?」
「元・生徒会室からは人がいなくなっちゃったから、今は新しい生徒会室を探してるのかも」
「・・・なるほど!!」
の見解に俺は声を張り上げて立ち上がった。授業中だということも忘れて。
するとやっぱり案の定先生に何がなるほどなんだと注意され、俺はおとなしく着席する。・・・そんな俺から目を離して、は関係ないような顔をしていた。このやろう・・・。
でもその見解はなるほど的を射ていて合点が行く。きっと英士に言ってもなるほどといわれるだろう。
「もしそーならさ、藤代が入院してるヤツがいるって言ってたじゃん。あいつがなんかありそーじゃない?」
「なんで入院してるんだろうね」
「そうだな、あとで藤代に聞いとこ。あーなんかやっと行き先が見えてきたって感じだな」
「・・・」
「コレで一気に事件解決と行きたいとこだな。なぁ?」
「・・・」
「?」
返事の無いに振り返ると、は俺のほうを見ながらも俺を見ていなく、俺よりさらに先の窓側のほうを見つめていた。どーした?と俺もそっちを見てみるけど、何もない。でもこの顔は、何かある顔だ。
「なんだよ、なんか見えんの?」
「・・・あの、窓側のうしろから3番目の人」
「金井?」
は教科書に顔を隠しながら、窓際に座ってるクラスメートを頼りない目で差した。そこには金井祥子という女が座っているだけで、その本人にも周りにもやっぱり違和感はない。
「お前なぁ、転校してきてもう1ヶ月が経とうとしているのにクラスメートの名前も覚えられないのか。で、何?あいつがどうかした?」
「あの人、憑いてるよ。動物みたいなの・・・」
「・・・マジ?あいつもコックリさんかなんかしたのかな」
「最近ホント多い。学校中に見えるの。全部小さいものばかりだけど、あんな風に人に憑き始めたら、結構ヤバイんじゃないかなぁ」
「マジでっ?お前そーゆーことはもっと早く言えよ」
「だから言ってるじゃん」
は教科書に顔を隠し、目を合わせないようにしていた。やっぱり俺には何も見えないけど、授業が終わったらソッコー聞いてみよう。
「コックリさん?あー、やった事あるよ。でも夏休み前だよ?」
5時間目の後、俺はすぐに立ち上がり窓際へとかけていって、金井にコックリさんをした事があるかと聞いた。はやっぱりビビッてついてこなくて、というかあいつはまだあんまりクラスに馴染めてないから俺がクラスのヤツと話しててもまざってこないんだ。だからもっぱら話すのは俺たちだけ。まぁまだクラスに溶け込む機会もないし、おいおいやってけばいーからそれはとりあえずいーのだけど。
「夏休み前にコックリさんやって、その時はべつになんもなかったの?」
「うん。ていうかその時もなにも、今も何もないけど」
何もない?でもコイツになんか憑いてるんだろ?
どういうことだろう?と首をかしげると、突然教室の外から女の叫び声が聞こえてきた。廊下がなにやら騒がしくて、バタバタ足音も荒々しい。隣の1組の教室のほうからで、俺はすぐにその声のほうへ走った。
俺とは他にもたくさん集まってきた生徒たちと同じように1組の教室を覗いた。その教室の中では、1組のヤツらがみんな教室の後ろや窓際に集まり寄って、部屋の真ん中の天井を見上げている。天井では教室の蛍光灯が割れてパラパラと破片が降っていた。なんだ、電気が割れただけかと俺が呟くと、その俺の後ろで、が小さな悲鳴を上げた。
「なに、どーした?」
は、手をガタガタ震わせて口に押し当て、みんなが騒いでる教室の中を怯えた目で見ていた。力のない足で少しずつ後ずさって、後ろのヤツにぶつかって、廊下に座り込んでしまったから俺はすぐに駆け寄ったんだけど、はぶるぶる震えたまま床に俯いてぎゅっと目を閉じ何も見ないようにしてた。・・・これは、何か見えたんだと思って、俺はを立たせて教室の周りを囲んでる生徒たちの中から抜け出し廊下の端へ連れて行った。
「、大丈夫か?何か見えたのか?」
「ん、ん・・・」
「何が見えた?ってか大丈夫かよ、真っ青だぞ」
は自分の震えを止めるようにギュッと腕を抱くんだけど、思いとはかけ離れてその体の震えは止まらず、目に涙を溜めて震える口唇を噛み締めた。がこんなにビビッてるのは初めてだ。いつも嫌だ嫌だと目を伏せることはあっても、こんなにガタガタ震えるほどじゃない。
「犬・・・、狼、かな。すごい、大きくて、黒くて・・・、あんなの、初めて見た・・・」
が震えた口でしゃべるからその声は酷く揺れる。
やっぱり、確実に何かいるんだ。今、学校中に。
「あ、若菜!うちの教室見た?前の生徒会室ん時とおんなじ!」
でも今は騒ぎよりもとにかくを落ち着かせたくて廊下の隅で座り込んでいると、俺たちを見つけた藤代が笠井と近づいてきた。1組の教室とその周りは楽しんだり怖がったりする生徒たちで大騒ぎになっていて、先生がやってきてガラスが片付けられているようだ。
「なぁなぁ、こんな事が続くなんてやっぱ幽霊いんのかな」
「どーだろ、まだ分かんないよ」
「生徒会室は?なんか分かった?」
「それもまだ」
「なぁーんだー」
「なんだじゃねーの!面白がんなっつーの!」
藤代は見るからにガッカリ、という文字を背に負っていた。そんなの俺だって背負いたい!けど、そんな事間違っても今のの前で言えなくて、楽しんでる藤代をわざとらしく叱咤した。
「ちゃん、どうしたの?」
いろいろ聞いてくる藤代とは全然違うテンションで、笠井がの異変に気づいて傍に寄ってきた。はさっきより落ち着いたようだったけどまだ指先をぎゅっと握って震えを止めようとしてる。そんな状態のクセして笠井に大丈夫だと落ち着けた声で言った。
「顔色悪いよ、気分悪いの?保健室行ったほうがいいよ」
「ん、大丈夫だから」
「いいよ、行ってこいよ。放課後も来なくていーから寮に帰れ」
「・・・ん・・・」
「ムリしないほうがいいよ、保健室わかる?俺ついてこうか」
笠井が青ざめたの手を引いて立ち上がらせる。そのまま笠井と一緒に階段のほうへ歩き出して、階段を降りる手前で一度は俺に振り返った。何か言いたげな顔だったんだけど、でもそのまま階段を下りていって、見えなくなった。
「なになに、ちゃんなんか見たの?ユーレイ?うっそどんなの?ねぇ」
「・・・」
ちきしょう、簡単に言えていいなお前は・・・
楽しそうに聞いてくる藤代には絶対何も教えてやるもんかと受け流してやって、そうしてるとそこに英士と一馬が通りがかった。移動教室だったようで何があったかも知らず、この人だかりはなんなのかと聞いてきた。
「また電気が割れたんだよ。何人かケガしたみたいだぜ」
「割れたって、故意に?」
「現場は見てないけど何もしてないのに急に割れたみたい。でがめちゃくちゃ震えて顔も真っ青になってさ、本気で気分悪そうだったから保健室行かせた」
「気分悪いって、何か見たの?」
「ああ、犬だか狼だか、すげーデカくて黒いって言ってた。あとうちのクラスの女子にもなんか憑いてるって言っててさ。人に取り憑き始めたらヤバイんじゃないかって言ってたよ」
「・・・なんか、ほんとでかい話になってきたな」
「それで、は大丈夫なの?」
「んー、大丈夫だって言ってたけど、すげぇビビってたから今日は来ないほうがいいと思ってそのまま寮帰れって言っといた。今は笠井が保健室までついてってる」
「笠井?なんで笠井?」
英士と一馬は二人してきょとんとして、俺はああ、と思い出した。そういえば二人に言うの忘れてた。
「笠井と、ちっちゃい頃に知り合いだったらしー。なんつったっけ、なんたら園・・・」
「菖蒲園だろ?」
「あ、そーそー」
俺が思い出せずに悩んでると藤代が口を挟んだ。
てか、まだいたんだ、藤代・・。
「てかその菖蒲園ってなんなの?」
「施設だよ、養護施設」
「養護施設って?」
「親と暮らせない子供が生活するところ。事情があって育てられないとか、虐待とかで親と離したほうがいい場合とか、親自体いないとか、いろいろあると思うけど」
「タクは近所に住んでたからよく施設の子と一緒に遊んでたんだって。でその中にちゃんがいたらしい」
「・・・それって、あいつ親いないって事?」
「でも小学校のときはそんな話聞いたことなかったよ。それに親がいなかったらうちの授業料とか寮費とか、払えないんじゃないの」
「あそっか」
これでもうちは私学。一般的な市立に比べればかかる費用はバカ高い。その上あいつは寮費だってかかってくる。
「なんか俺ら、あいつの事あんま知らないよな」
「そんな話しないからな」
「だよなー」
「でも結人、それに聞いちゃダメだよ」
「・・・ん、分かってる」
俺たちがを迎え入れるのは、簡単なんだ。でもあいつが心を開くかどうかはまた別の問題で、あいつがちゃんと俺たちと向かい合っていろいろ自分から話してくれるのを、俺たちは待つしかない。
「あそーだ。なぁ藤代、前に生徒会の会計やってたヤツが入院してるって言ったよな」
「ああ、言ったけど」
「それってなんで?事故ってどんなの?」
「車に轢かれたって言ってたかなぁ。横断歩道で、赤だったのに渡っちゃって車にぶつかったんだって。でももう元気だよ、俺2・3日前に会ってきたもん。それがどうかした?」
「いや、あいつが言うには、生徒会室じゃなくて生徒会の誰かに憑いてんじゃないかってゆーもんだから、ちょっと気になって」
「え、マジっ?まさか俺!?」
「元気じゃんお前・・・、しかもキラキラして言うなよ・・・」
「でもそれは考えられるね。生徒会が引っ越してから元・生徒会室には何の変化もないし。カメラとか持ち込むと霊はしばらく静かになるって言うからそのせいかと思ってたんだけど」
「へーそーなんだー」
「藤代、お前あんま首突っ込むと三上センパイに首切られんじゃないの?」
「だいじょーぶ、あの人怒鳴るけどそんな事しないから。あー俺マジでセブン入りてー」
こいつ、俺と同じじゃなくてきっと俺以上だ。(俺は同じお騒がせボーイでも自覚がある)
その後、休み時間終了のチャイムが鳴ってまだ大勢人が集まってる1組の教室の周りも波が引くように人気がなくなっていった。最後の授業が始まって、いなくなった隣を気にしつつ俺は授業そっちのけでまた考え込んでいた。多発する怪奇現象の事とか、の事とか。
6時間目も終わり、みんなが帰って行く中で俺ものカバンを一緒に持って教室を出ていった。とにかくまずは保健室に、と廊下を走るんだけど、後ろから一馬が俺を呼び止める声がして、振り返ると英士と一緒に歩いてきているのが見えた。
「結人、英士がスゲー事に気づいた」
「え、なになに?」
どうやら英士も一馬も俺と同じらしい。頭の中、こればっか。
「生徒会室の周り?」
「そう。が何か感じたっていう1−2の教室と美術室とLL教室、それとさっきの2−1の教室は階数は違っても全部校舎の東側なんだよ。それでその真ん中には」
「生徒会室!ってことはやっぱ元・生徒会室に何かあって、そこを中心に霊が増えてるって事っ?」
「でもその肝心の元・生徒会室には、ここんとこ何もないんだよな」
「でもが言った生徒会の誰かにっていうのも外せないね。その入院してるっていう会計の人に会いに行ってみようか」
「そーだな、なんか分かるかも」
ちょっとどころか相当光が見えてきた俺たちは3人で階段を下りていった。でも、いつもなら当然のように本棟を渡ってベースに向かうのに、俺たちは自然と1階まで下りてきて、ある場所へ向かっていく。やっぱみんな一緒なんだ。頭の中、怪奇現象と、の事ばっか。
3人で保健室に入っていくと、奥の半分だけカーテンが引かれたベッドにが見えた。でもそのの前には誰かの背中があって、
「あれ笠井、来てたの。心配しょーだな」
授業が終わってすぐに駆けつけた俺たちよりも早くに笠井はいた。俺の声に振り返る笠井の、その向こう側にいるはもうベッドから起き上がっていて、顔色も元通りになって元気になったみたいだ。大丈夫か?とカバンを渡すと、受け取るは頷いてベッドから立ち上がった。
「どーする?今日は帰るか」
「ううん、もう大丈夫、なんともない」
が平気そうに俺たちを見上げて言うけど、その隣で笠井が「またそんなこと言って」と呆れた声で言いだした。
「帰って休みなって、また気分悪くなったらどうするの」
「もう全然大丈夫だから」
「でもあの寮じゃどっちにしても心配だな。ちゃん、やっぱ病院行く?あ、それか今日だけうちに泊まる?」
「たっくん、気にしすぎだよ」
「た・・」
たっくんん??!
「だってさ、もう若菜からもなんか言ってやってよ」
「えっ?ああ、えーっと・・・」
ちょっと、ビックリして、脳ミソがスッポーンと抜けちゃったよ・・・
「、体は本当にもう大丈夫なんでしょ」
「うん」
「じゃあいいんじゃないの。また気分悪そうだったら俺らが送ってくし」
「ちょっと、真田まで」
「だいじょーぶだいじょーぶ、ちゃんと俺らが見てるから。じゃーな笠井、行くぞ」
「若菜!」
笠井がまだなんか言ってたけど、俺たち3人はさっさと保健室からを連れて出てった。なんか俺ら、ほんとに最近考えてる事似てきたんじゃないかな。とにかく俺も英士も一馬も、あの場所から、というかあの空気から?を出したかった。そんな風に俺たちはを連れ出してまるで逃げるようにさっさと保健室から出て行くと、なんでだかは俺たちの真ん中で、笑っていた。
「なんだよ、なに笑ってんの」
「ん、なんでも」
「言っとくけど自己申告制だからな、気分悪かったら自分で申し出るよーに!」
「はい」
「じゃあジャンケン。勝った二人は病院、負けたやつはと居残り調査」
「ジャーケーンホイ!!」
「ぃよし!!」
ほんとまぁナイスなチームワークを発揮してきたもんだ。それから英士と一馬は、予定通り入院しているという生徒会の会計のヤツに話を聞きにいくため学校を出ていった。俺とは一度ベースに向かい、また学校の中を調査して回ることにした。
「じゃあ俺生徒会室のカメラ取ってくる」
「あたしも行く」
「いいよ、お前あそこ行きたくないんだろ?」
「でももうあんまり感じないし、一回見てみようかなって」
「そんな事言ってまた気持ち悪くなってもしらねーぞー?」
まぁがそういうなら。俺たちはベースを出て本棟へ歩いていくけど、元・生徒会室に近づいても今度のは前のように何かを感じる様子はなかった。やっぱりこの部屋にはもう何もなくなってしまったんだろうか。
「温度異常なし。カメラも、なーんかまたおんなじ映像見せられそーだなぁ」
「ずっと何も映ってない画面見っぱなしだもんね」
「もうこの部屋は見飽きたな。、やっぱ何も感じない?」
「んー、」
「なに?なんか見えるっ?」
「見えはしないけど、なんか、重い・・・」
重い?は狭い部屋の中を見回して、俺も同じように見回してみたけど俺にはやっぱり何もわからなかった。
「なんだ、お前らか」
「げっ」
開きっぱなしのドアの向こうから姿を見せたのは、三上先輩だった。俺はロコツに嫌な顔をする。もう状況反射だ。そんな俺の頭の上を三上先輩の目は悠々と越えて、部屋の隅に設置してたカメラを見てにやりと口端を上げた。
「スクープ映像撮れたー?」
「うるさいなぁ、てか何しに来たんスかっ」
「ひやかし?」
「・・・。俺たちはスクープの為にカメラ回してるわけじゃないんで!」
「なんだ、何も撮れてないのか」
コイツのこのニヤケた顔がいつもいつもムカつくっ!
「やっぱこんなサークルやめてうちに来るべきだと思うんだけど、ちゃん?」
「なっ、なんでセンパイがの名前知ってんスか!」
「お前がずっと言ってんじゃねーか」
「だからって覚える必要ないっしょ?呼ぶ必要ないっしょ!?」
「るせーな、お前のモンじゃあるまいし」
「結人・・、」
「ひやかしなら帰ってくださいよ!ジャマ!」
「バーカ、ほんとにひやかしに来るほどヒマじゃねーよ」
「キー!じゃーさっさと帰ってくださいよ!」
「結人っ・・・」
「なにっ!」
ドア口でこの憎たらしい三上先輩と言い合うのに夢中で、俺はの一言目に気づかなかった。振り返るとは俺のすぐ後ろにいて、なんだか神妙な顔で俺の背中のシャツをきゅと掴んでいた。
「なに、どうした?」
「やっぱり駄目、出よう」
「え?なんか見えんの?」
「お願い早く出て、早く」
がまた青ざめた顔で、不安げな顔で怯えた声を出すから、俺は目の前の三上先輩を早く出ろっと外へ押し出し部屋を出た。
「キャッ・・」
「え?」
するとうしろで小さくの声がして、その声に振り返るより先に俺のシャツからの手が離れた。は転んだのか、床に手をついていて、片足をうしろに伸ばし、その足を引っ張ろうとしていた。
そのにどうしたんだよと近づこうとした時、俺との間でドアが、突然バンッと閉まった。
「・・・え?」
「やだ、結人、あけて!」
「え?なんで、ちょ・・っ?」
突然閉まったドアを、俺は開けようとドアノブを回すんだけど何かが引っかかってるような硬い感じがして、ドアは全然開かなかった。何が起きたのかよく判らなくて、でもドアの向こうではずっとが俺を呼んでいて、
「やだ、ゆうとっ!」
「ちょっと待って、開かない、なんで?!」
「何してんだよ、どけよ」
「開かないんだよ!、大丈夫か?!」
たった一枚のドアが、押しても引いてもびくともしない。鍵がかかってるとか何かが引っかかってるとか、そんな感じじゃない。まったく動かないんだ。それに、ドアの隙間を覗き見てみても、鍵なんてかかってもない。
「、大丈夫、今開けてやるからな!」
「はやく、助けてっ!やだ、結人、結人っ!」
びくともしないドアの向こうで、の声がどんどん荒々しくなっていく。早く、開けて、助けてと、俺の名前を繰り返し呼ぶその声はだんだん涙が混ざって聞き取りにくくなって、掠れるほどに叫んで、俺の心をどんどん巣食っていく。なのにこのドアは押しても引いてもまったくビクともせずに、
すると、の声は突然にピタリと止まった。
「・・・、、どうしたっ?!」
全身の力を込めて押しても、割れるほどの拳を叩きつけても、それとは正反対にドアの向こうは静かになった。
そして次の瞬間、
「キャアアアアアアッ!!!」
けたたましい叫び声がドアの向こうから襲って、俺の心臓はビクッと大きく跳ね上がった。手に力が入らない。体が動かない。
「・・、っ?返事しろよ、っ!!」
「どけっ、壊すぞ」
「っ!!」
ドアを叩く俺を押しのけて、三上先輩がドアを蹴り飛ばした。最初はびくともしなかったドアが、2・3回蹴り続けるとガタンと大きく揺れて、割れる音がして、すると俺が持っていたドアノブがガチャっと緩み、ドアノブを回すとドアは簡単にガチャリと開いた。
「!!」
ドアを開け中に入ると、すぐ足元にがいた。
「、大丈夫か?!」
床に倒れてるの体を起こして何度も声をかけるけど、は頬を濡らしたまま目を閉じて、俺の声に応えることはなかった。
「!っ!」
「おい、足・・」
「え?」
三上先輩がの足を指して、俺もそこに目をやった。の右の足首は、靴下に血が滲んでいて、どんどん広がっていた。
「なんだよ、コレ・・」
「とにかく、保健室連れてくぞ」
「・・・・・・」
俺の腕から先輩はを抱き起こし、そのままの体を持ち上げた。の体がふわりと浮いて、俺は部屋から出る前に先輩を止めて、上のシャツを脱ぎそれをの右の足首に巻きつけた。
「血付くぞ」
「いいよ、そんなの・・・」
このままの足から血が滲んでいるほうがイヤだった。そしてそのままを抱きかかえて、三上先輩は保健室までを運んでいってくれた。
部屋から出る前にもう一度振り返って中を見てみるけど、やっぱり俺には何も見えないし感じもしない。・・・でもその床にはハッキリとの赤い血が擦れた跡が残っていて、ドア元にも透明な水滴が落ちていて、
が呼ぶ、俺の名前がいつまでも耳に残った。
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副会長愛。
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