どうか、お元気で。
いつまでも、お幸せでありますよう・・・










STAND BY YOU!!   File4:赤い傘のお迎え










人の噂というものは、悪いものほど楽しみ広がっていく。
たった2人、天城君ともめた事のある人がケガをしたというだけで学園中そんな話でいっぱいだった。天城君とケンカして死んだやつが彼に取り憑いているんだとか、天城君には悪霊が憑いていて近づくだけで呪われるんだとか。


「あの時4組にいた人たちに聞いたんだけど、特に物が飛んできたわけでもないし誰かが衝撃を与えたわけでもないのに突然ガラスが割れたらしいよ」
「ほらな?やっぱポルターガイストじゃん。天城になんかがついててそれが天城がキレると同時に暴れるんだって」
「ポルターガイストっていうのは人のストレスが原因であることもあるらしくて、とくに低年齢だと割りと多く発生してるらしいんだって」
「へー。つまりは天城自身が原因ってこと?っていうか毎度毎度お前は知らない間によく調べてるなー」
「・・・。前回のコックリさんの件で発表したとおりに」
「英士、頼むから無視はやめて」


放課後のベース。
調査対象はもちろん今日の昼に突然割れた4組の窓ガラスの件と、天城君に関する噂。研究熱心な英士君は資料と教本片手に次々と推理を働かせていく。肝心のリーダーは、小難しい話についていくのがやっとで話の合間に相槌うったりつっこんだりしてはサラリと流される。それによってどんより悲しむ結人を、ドンマイと慰めながら英士君の話を真剣に聞いて調査をサポートするのが真田君。学園サイキックリサーチ「セブン」はそんな体制で進行していた。


「俺たちが学校新聞であんな事を発表したから今学園内は怪奇現象が一種の流行りになってる傾向がある。だからこそこれだけ天城の件が騒がれてしまったという事もあると思うんだ。でも今回天城に関わった人が怪我をしたという件についてはともかく、実際にガラスが割れた事とこの前の雨に降られても天城が濡れてなかったっていう現象は確実に不可思議な力によるものだと思ってる」
「だろー?だろー?だーから俺が言ったじゃん!」
「でも、は何も見えないんだろ?」


あの後も天城君は何事もなかったように授業を受けていたらしいけど、やっぱり居づらかったんじゃないかと思うんだ。なんでもない顔をしてるけど、孤独って言うのは、一人の時に感じるんじゃなくて、大勢の中にいる時こそ感じるものだと思う。


?」


でも天城君は強いから、負けじと自分を叩きつけて。でもそれが、自分にも人にも、痛みを感じる事でしか自分が今ここにいるという事が、分からなくなってしまっているのかもしれない。


?」


彼に冷たい目をさせているものは、なんなんだろう。
暗い暗い心の底で、あの人は何を見ているんだろう。


!」
「え?」


呼ばれて顔を上げると、みんなが私を見ていた。


「あ、ゴメン、なに?」
「どうした?ボーっとして、気分でも悪いか?」
「ううん、ゴメン、違う事考えてた」


どうやらずっと呼ばれていたみたいで、自分の思考に飲み込まれてしまっていて気づかなかった。ただ考え込んでいただけなのに、またみんなに心配させてしまって、駄目だ、私は。みんなほんとに心配してくれるから、しっかりしてなきゃ。


はどう思う?天城の件」
「あたしは・・・、やっぱり何も見えないし、霊じゃないんじゃないかなって・・・。じゃあなんなんだって言われても、何も言えないんだけど・・・」
に見えなくて、でもポルターガイストのような現象が起こるってどういう事だと思う?」
「まず本当にただの事故でポルターガイストでも何でもないという事。あとの調子が悪くて今回は見えてないのかもね。にも見えるときと見えないときがあるみたいだし」
「あ、ゴメン、私がちゃんと見ようとしなかったのかもしれない。今度天城君に会った時はしっかり見てみるから、ごめんなさい」


私には英士君みたいな確かな論理や証拠があるわけでもなくて、ましてや努力して得た特質でもなんでもない。その時々で使えたり使えなかったり。私には見たり感じたりすることしか出来ないのに、違うなんて言い張って、しっかり見ようともしないで・・・。私なんて、何も見えないならここにいる理由なんて・・


「バッカ何謝ってんだよ。俺らお前の力は期待してるけどさ、でもそれだけじゃないんだからな、お前がここにいるのは」
は俺たちみたく情報と資料で組み立てていくワケじゃないんだから、思った事を言えばいいんだよ。俺たちはそれが出来ないから仕方なく知識に頼ってるだけなんだから」
「そーそー。べつに勉強じゃないんだから、ヤル気ないときにやる必要ナシ」
は俺たちに気使いすぎなんだよ。もっとラクに考えろよ。俺らなんてアゴで使われたってに何も言えないんだから」
「そーそ、お前はうちのエースだぞ?もっとドシッと構えてろ!」
「・・・ん」
「じゃー当面は、ポルターガイストかどうかの真偽を確かめるってとこだな」
「だったら一度天城にも話聞いたほうがいいかもね」
「え、あの天城に?誰が?・・・ええーもしかしてもしかしなくても俺ぇ!?」
「他に誰がいる?ていうか聞き込みはいつも結人の役目でしょ」
「そーだけど、でも、あいつ喋ってくれっかなぁー・・・」
「それは結人の腕の見せ所でしょ」


みんなは、私の考えていることとはまったく別のところにいる。いつもいつも、私は自分の中に逃げ込んで、でもそれがどんなに小さくてバカバカしいかと、笑ってしまう。


「私、天城君に会ってくる」
「マジ?あいつと喋れんの?」
「話してくれるかどうかわからないけど、聞いてみる」
「んー、じゃあ俺も一緒に行ってやる」
「行ってやるじゃなくて結人が行くべきなんだってば」


ばし、とノートで軽く頭を叩かれる結人と私はふたりで天城君探しへと出かけることになり、英士君と真田君は学校の温度計とカメラをチェックしにいった。

二手に別れ下駄箱に向かった私たちは、天城君の靴箱にまだ靴が残っているのを見てまだ彼が学校にいることを確認した。でも帰りがけに通った4組の教室にはもう天城君はいなかったし、部活なんかもやってないと聞いた。まさかまた、ケンカじゃないといいんだけど・・・。

下駄箱前で結人と、とにかく探すかと歩き出そうとすると、廊下の先から人の声が聞こえてきた。やってきたのは同じ学年の男の子たちで、数人でガヤガヤこっちに近づいてくる。

その彼らを見た瞬間、また私の頭にビキッと激しい頭痛が襲った。


「痛っ・・・」
「えっ、どうしたっ?」


頭を抱える私に驚いて結人が私の体を支える。こめかみ辺りに突き刺す痛みが走って、まだズキズキと響く振動が治まらない。その痛みの中、それでも私はその男の子たちの一人を見て、思い出した。いつかも感じたこの痛み。


「・・・あの人、前に天城君とケンカしてた人だ」
「は?」
「あの、コンビニに買出しに行った時、天城君がケンカしてたって言ったでしょ?」
「ああ、あのときの。あいつらだったのか」


でも今はそんな事より、と私を心配してくれる結人は、とにかく私を休ませようと下駄箱の隅に座らせた。


「なぁコレどーする?」
「捨ててやれば?」
「それじゃツマンねーじゃん。もっと面白くしよーよ」


私たちのいる下駄箱よりひとつ手前の下駄箱に入っていった彼らは、靴を履き替えながら大きく笑って何かの話をしていた。


「ボロボロに刻んで机の上置いとくとか?」
「あ、いーねー!ちょっと原型留めとくくらいでな!」


愉しんでる彼らの会話が何の話かわからなかったけど、昇降口から出て行こうとする彼らの、ひとりが手に持っていたものを見て、私は彼らが何をそんなに楽しんでいるのかを理解した。その人の手には赤いお守りがあった。ちゃんと確証があるわけではないけど、私の頭の中に赤いお守りと言えばそれしかなくて、それに今までの彼らの会話を合わせれば、自然と彼らの考えも繋がる。


「あれ、天城君のだ」
「え?」
「天城君のお守りなの、大事そうにしてた。天城君から取ったんだ・・・」
「取ったって、その天城はどこにいんだよ」
「わからないよ、わからないけど、でもあれは天城君の大事なものなの」
「え、おい!」


あれを見つめる天城君は、本当にあたたかい目をしていた。きっと今の天城君にとって無くてはならないもので、まさかあんな人たちに遊ばれていいものじゃない。私は雨の中、昇降口から出て行く彼らを追いかけ呼び止めた。


「それ、返してください」
「は?」
「それ天城君のでしょ?返してください」
「なにお前、つか誰」


私がこんな事を言ったところで、彼らが素直に返してくれるはずもない。どうすればいいんだろうと考える私の後ろから、結人が出てきて彼らにそれ返してくんない?と普通に声をかけた。そうだ、同じ学年なんだから、結人は友達なのかもしれない。


「若菜、何なのお前まで」
「なんかさ、大事なもんなんだって。返してやってよ」
「だからなんでお前がそんな事言うんだって。お前天城とダチだっけ?」
「そうじゃないけどさ、返してやれよ」


結人は彼らに近づいて、お守りを持つ人に手を差し出した。


「お前こないだの新聞、アレ何。コックリさんすると霊が集まるって、お前学校新聞まで使ってアレはねーだろー」
「あー俺も見た!ちょーウケる。お前ら幽霊の研究とかかなりフザけてんじゃん。アレで活動単位取ったら笑うよ」
「おー笑え笑え。だからそれは返せ」
「だからなんで」
「なんでもいーから返せって。そんなことしなくても堂々とケンカふっかけりゃいーだろ」
「うるせーよ、お前にカンケーねーだろ。つかあいつが肌身離さずお守りとかマジウケねー?こんなもんに何拝んでんだよだっせぇ」
「そーゆーのバカにすると呪われるよー」
「っはは、呪われてみてー」


結人の言う事さえふざけて聞いてくれない彼らに業を煮やした結人は、その人の手から無理やりお守りを奪った。


「何すんだよ!」
「こんなくだらねーやり方するくらいならな、最初っから天城にケンカなんかふっかけんなよ!」


お守りを持つ結人は取り返そうとする彼らに無理やり引っ張られ雨の中に倒された。それでも結人はお守りを放さないから彼らは数人がかって結人を地面に押し付けてお守りを奪おうとする。水溜りで服を汚して、雨に打たれて蹴られて、それでも結人はお守りをぎゅっと握っていた。


「やめて・・、結人っ」
!」


私たちの騒ぎを見つけ、英士君が私の元まで走ってきて真田君が真っ先に結人の元へと走っていった。


「なにしてんの、何があったのっ?」
「天城君のお守りを、あの人たちが取って、結人がそれを取り返そうとしてっ・・」


話も聞かずに結人を助けに行った真田君は結人から彼らを離そうとするけど、向こうは人数が多くて真田君まで巻き込まれてしまう。雨の中、結人がうずくまって真田君も突き飛ばされて、私たちはもうどうすればいいのか分からなくて、・・・

そんな私たちのうしろから、天城君がやってきた。
私たちの横を通り過ぎてまっすぐ騒いでる彼らのほうへ歩いてく天城君は、今までのいつよりも冷たく堅い顔をしていた。お守りがないことに気づいたのか、さっきの私の話を聞いていたのか、今の彼はまるで平静じゃない。

もみ合う彼らの元へ寄っていく天城君は、お守りを握り締める結人を蹴り続けていた男子の背中を思い切り蹴りつけた。雨音に混ざって蹴られた人の濁った声が辺りに響く。


「て、天城・・・」


天城君を見て、誰もが物怖じした。それほどまでに天城君は怒っていた。天城君は次にまた別の人に目をつけ有無を言わさずに思い切り殴りつける。また次に逃げようとする背中を捕まえて引きずり倒し、腹部を力の限り踏みつけた。


「ヤベぇ、こいつマジやべぇよっ!」
「やめろ天城!もーやめろっ!」


誰も天城君を止められない。波打つ地面に倒れ蹴られ殴られ続ける男の子から血が流れ、水溜りに染まっていった。本当にもうヤバイと感じた結人が天城君を止めようとするけど、天城君にはもう誰の声も聞こえないようで、真田君さえ押し退けて。

押し倒された結人の手からお守りがこぼれて水溜りに落ちる。我を忘れたように人を殴り続ける天城君の姿があまりに怖くて涙が出た。誰も止められない天城君には、何を言っても届かなかった。

その天城君に、殴られ倒れていたひとりが花壇のレンガを持って殴りかかってきた。


「天城っ!!」
「やめてっ!!・・・」


レンガを持って走ってきた人は天城君の後ろでそれを振りかざし、彼に向かって振り落とした。

だけど、それが直撃する瞬間に、襲い掛かった彼の手の中でレンガが粉々に割れて砕け散った。


「え・・・」


砕けたレンガの破片がパラパラと、咄嗟に守ろうとした天城君の腕に降りかかる。ここにいる誰もが何が起きたのか理解出来ずに静まり返った。レンガは跡形もなく地面に砕け散り、雨の音だけが周囲を包んでいた。


「な、なんだよこれ!なんなんだよ!」
「やっぱコイツおかしーんだよ、ヤベーよ!」


理解できない現象に驚き恐れ、彼らはみんな逃げるように走っていった。彼らと同じように全てを見ていた私たちも、まだ一言も発せずその場で立ち尽くして、何が起きたのかを理解しようと少しずつ動きを取り戻す。


「な、なんだ・・・?なんで割れたんだ・・・」


結人も真田君も、英士君も天城君も、雨に打たれるレンガの破片を見つめていた。
私は、水溜りの中に落ちていた天城君のお守りに気づいて、それを拾った。

それを手にし瞬間、ふわりとあたたかい風が流れた。
その風に誘われるように私は、地面に膝をついたまま天城君を見上げ、目を見張った。


?」
「あ・・・」


呆然とする私に気づいたみんなが私に声をかけ、天城君も私に振り返り見下ろした。傷ついた体を立たせて水溜りを踏みつけ結人が私に駆け寄ってくる。


、どうした、大丈夫か?」
「うん、なんでも・・・、でもあの、誰だろう・・・、おばあさんが見える・・・」
「おばあさん?」


私の目にははっきりと、天城君を包むあたたかい空気と、その後ろに年老いた女の人が見えた。


「着物着てて、髪が長くて、やさしそうな・・・、ずっと天城君を見てる」
「・・・」


それを聞いて、天城君が少し目を大きくした。


「・・・かずえ?」
「え?かずえって誰、なんなの?」


天城君がその名前を口にした途端、私に見えていたおばあさんはよりはっきりと姿を濃くして、そしてふわりと穏やかに目を細めた。誰だか分からないけど、とても優しそうな人。とても穏やかに、愛しそうに、天城君を包んでる。

おばあさんは私の前まで来て、お守りを持つ私の手にそっとシワシワの手を重ねた。
ふわりと柔らかさを感じる。


「え?」
「なに、、何が見えんの?」


目の前でおばあさんは、ゆっくりと口を動かす。
まるで私に、その言葉を伝えて欲しいというかのように。


私はもう、ぼっちゃまのお側にいる事は出来ません。
でもいつまでもぼっちゃまの幸せを願っています。
もう傷ついたり、傷つけたりするのはやめてください。
私は・・・


「私は、ぼっちゃまが好きなことをがんばっている姿が、一番うれしいんです・・・」
「・・・」


動きを無くしていた天城君が、地面に手をつき私に近づいてくる。


「かずえがいるのかっ?」
「うん、ここに・・」
「かずえ・・・」


天城君は突然必死な顔をして、私の手の中のお守りを取った。すると天城君にもふわりとあたたかい風が流れて、天城君は振り返り大きく目を見開いた。天城君の目に映ったおばあさんは、今まで以上に優しくやわらかく、そして幸せそうに微笑み、祈るように手を合わせた。


どうかお元気で・・・
ぼっちゃまがいつまでも、幸せでありますよう。




「消えた・・・」


震える手でお守りを握る天城君は、空に消え行く人を追って天を見つめながら、雨に混ざってあたたかい涙を流した。


「かずえっ・・・」


堪えきれない涙を流しながらいつまでも天を見上げる天城君は、もしかしたら、あのおばあさんが亡くなって、初めて涙を流したんじゃないだろうかと、ふと、そんな気がした。


「あ、雨が止む・・・」


思い雨雲がゆっくりと溶けて、空はだんだんと白から水色へと変わっていった。
最後の雨の一雫が水溜りにポタリと落ち波紋を描いて、雨は止んだ。





「悪かったな」
「何言ってんだよ、お前らしくもねー」


みんな雨でびしょ濡れになりながら、それでもみんなすっきりした顔でそこにいた。天城君はお守りをしっかりとその手に持って、私たちに丁寧に、とても穏やかにお礼を言ってくれた。


「あ、そうだ」


私はパッと思い出して昇降口に走った。そして天城君の黒い傘を持ってきて、天城君に差し出す。


「はい。貸してくれてありがとう」
、雨上がってから返すのかよ」
「あっ・・・」


そういえばと声をもらす私にみんなが笑い、それにつられてか天城君もほんの少しだけふわりと目を柔らかくして笑った。そうして天城君は、雨上がりのキラキラ光る道の上を、傘を持って帰っていった。


「いやぁ今回はもう大変なのはないかと思ったけど、最後の最後でどっときたなー」
「ほんとだよ。まさか学校でケンカするとは思わなかった。これ親になんて言お」
「若い時分にはいろんなことがあるんですよって言っときな」
「んん!青春時代のいい思い出になったな!」


みんなが濡れた顔を拭い、汚れた服を気にしながらも清々しく笑う。


「でもやっぱ霊いたじゃん、なんで気づかなかったんだよ
だって調子悪い時もあるでしょ」
「そーだよ。いーじゃん、悪い霊じゃなかったんだし」
「ひょっとしたらは悪い霊にだけ反応するのかもね」
「なるほど〜。そうだとしたらあんま反応して欲しくねーなぁー。なぁ


別の意味で大変ではあったけれど、後味はそう悪いものではなかったらしく、雨上がりの空のように私たちはすっきりと、晴れ晴れしく、


「おい、?」
「ちょ、!」


私も、みんなが喜んでいると、みんなが笑ってると、
うれしくて、幸せな気分になって、・・・


「うわー!ーっ!」
っ!!」


幸せな気分のまま、倒れてしまった。





目が覚めたのは、少し騒がしい人の声だった。


「結局赤い傘はただの噂だったんじゃない」
「わかんねーよー?あ、きっとかずえさんが天城を赤い傘で迎えにきてたんだよ」
をあんなに急き立てておいて無理やりなんだから」
「俺だって代わってやれるもんなら代わってやりてーよ!そーすりゃの苦労も減り、リーダーとしての才覚も発揮し少しはお前らもこの俺を尊敬するよーになるのだ!」
「たとえ結人にそんな力があったってそんな日は来ないと思うよ」
「なんだとっ?なんかあってもぜってーお前は助けてやらんからな!」
「お前らそんな無意味なケンカ・・・」
「「一馬は黙ってろ!」」


寝起きの頭では、ここがどこなのか、何が起きているのか、わからなかった。とにかく私は真っ白いベッドに寝ていて、その周りを真っ白なカーテンが囲んでいて、そしてその向こう側から結人と英士君と真田君の声がした。


「あーあ、でも俺も見たかったなーかずえさん。天城の母親代わりの人だって言ってたっけ」
「あの天城を育てたわけだから、きっと宇宙規模の心の広さを持ってると思うな」
「だっは!じゃなきゃやってらんねーよなぁ!」
「2人とも、それかずえさんに聞かれてたらどうするの」
「うわすんませんっ!」
「カンベンしてください!」
「一馬本気でビビってるー」
「ビビるだろ普通!」


ボーっとする頭の上に冷たいタオルがあって、もう頭痛も気持ち悪さも消えて、みんなに声をかけようかどうしようか迷った。


「あなたたち、ここは保健室なんだからもっと静かにしなさい」
「いーじゃん俺ら以外誰もいないんだし」
「病気の子が寝てるのよ」
「センセーわかってないなー。は俺らの仲間だよ?こんな騒がしさくらい日常ちゃはんじなの!」
「日常茶飯事」
「それなの!」
「ていうかやっぱり風邪引いてたんだな」
「体調悪かったからきっと力も働かなかったんだろうね」
「だから無理すんなって言ったのに。絶対自分で風邪ひいてるって気づいてないんだよ」
「あいつはやっぱどっか抜けてる」
「「うんうん」」


なんだかボロクソに言われている。こんな時ばっかりみんなで意見合わせちゃって。


が元気なったらみんなでどっか遊びにいこーぜ」
「そういや学校の外で会った事ないもんな」
「俺たちあるもんね〜」
「え?いつ?」
「ナ・イ・ショ〜」
「なんだよそれ、なんでナイショなんだよっ」


もう放課後だし、みんなも早く帰らないとそれこそカゼを引いてしまうかもしれないし、起き上がろうとするんだけど、でも、みんなの騒がしい声を聞いてると、私はすごく安心して、終わりになんてしてしまいたくなくて。


「俺遊園地がいい!あいつ絶対お化け屋敷入れねーよ」
「あー嫌がりそーだなー」
「俺あれ乗りたい。二回転コースター」
「英士意外にそういうの好きな」
「俺も乗りたい!」
「だったら結人、三半規管サークル入れば?」
「バカ言え!俺がいなくなったら我がサイキックリサーチ・セブンが成り立たないだろ!」
「いや、意外と大丈夫ですよ?」
「ご心配なく。お達者で」
「おまえらなあ!」


みんなの声を聞いてるだけで笑いが止まらない。みんながどんな顔を話しているか、簡単に想像ついてしまうほど。
英士君も真田君も、あんな事を言っていてもちゃんと分かってるんだ。結人はセブンにとって一番必要なものを持っているという事。だからこそ結人をリーダーとしてセブンは成り立っている事。どんなことにでも明るさとパワーで突き進む結人と、どんな時でも冷静に状況を判断してみんなを助けてくれる英士君と、正反対でどうしても気持ちが互い違いになってしまうふたりをその間でしっかりと繋ぎとめてる真田君と。

3人が3人とも全く違う性格をしているのに、こんなにも波長が合っているのは、彼らが2人じゃなく、3人だから。彼らはひとつになればどんなものにだって立ち向かえる。どんなことだって乗り越えられる。本当に、いいチームなんだ。


「4人っていーよなー。遊園地って3人だと中途ハンパじゃん?」
「そうだね。乗り物も大概2人乗り出しね」
「てゆーか俺ら3人で遊園地なんていったことないし」
「あ、そーだっけ?まぁがくるまで取っといたってことでさ!あーがいて良かったぁー」


・・・ああ、あったかいなぁ。
心地よくて、やさしすぎて、泣けてきちゃうよ・・・。



赤い傘のお迎え、一件落着。









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