君と、僕を、見比べて、たどり着いた答えは・・・





STAND BY YOU!!   ss:ストロベリー・オンザ・ショートケーキ






風邪をこじらせてしまったは、あれからしばらく学校を休んでいる。
つまりそれはもちろん、ここ数日俺たちのベースにも来てないわけだ。


がいないとヤル気出ねーなー」


机にだらけて結人が言った。どういう意味かは分からないが、そういう事を簡単に言えるのは結人だからだと思う。ある意味羨ましいことだ。


「テスト週間なんだから調査じゃなくて勉強にヤル気だしてよ」
「げ」
「げじゃないよ。ちゃんと勉強してるの?俺たちの活動なんて大して認められてないし、ましてや部活単位なんてもらえるわけないんだからしっかり勉強してよね」
「してるー・・・、よーな気がする」


ダラダラと答える結人に、英士があからさまにため息をついた。来週から2学期の中間テストがはじまる。だから今はどの部活も活動停止で勉強一色だ。テスト前と言う事で授業は昼までで終わり、特別講習や自習中心の時間割になっている。俺たちもベースに集まっているけど、調査ではなく、教科書とノートを開いていた。


「てかさ、あいつテスト前にぶっ倒れちゃって、あいつこそ勉強大丈夫なの?」
って勉強できるの?」
「まー俺よりは」
「だろうね」


テスト前に寝込んでしまって、それでもテストは来週に迫っている。は転校してきたばかりだし、一応うちは私立でそれなりに勉強も進んでいて、前の学校からの穴埋めもあるし、大変なんじゃないだろうか。
でもは特に勉強を聞いてきたりしないし、たぶん自力で全部やってるんだろうな。聞こうにも一番近くにいるヤツは・・・


「なー、三角形の面積の公式ってなに?」
「「・・・」」


これだ。ああ、心配になってきた。
全く中身がない結人を、こんな時ばかりは英士が超スパルタで勉強を叩き込む。結人がまたテストの点が悪くてまた留年問題にでもなってもらっちゃ困るからだ。


「もーわからん!そんなの!」
「なんでわからないの」
「わかんないから聞いてんじゃん!」
「授業ちゃんと聞いてないからでしょ。全部憶えるまで次進まないよ。全部終わるまで帰さないよ」
「もー英士ヤダー!一馬がいいー!」
「甘ったれるな!」


・・・でも、それもこれも結人のためだし、こんな時ばかりは俺も口を挟まないでおく。勉強してるにも関わらずベースの中は結人の声で騒がしい。そんな中、ベースのドアがガチャっと開いた。


「あ、やっぱりみんないた」
!」


ドアを開けて顔を覗かせたのはだった。は私服の上にいつものセーターを着て、何枚ものプリントを持って中に入ってくる。


「どーした、カゼはもういいのか?」
「うん、熱は下がった。先生に呼ばれて来たんだけど、みんないるかなって思って。良かった」


はプリントの下に持っていた小さなタオルで口を抑えながら喋った。自分の持っている風邪菌を気にしてるらしい。でもそんなに結人はお構いナシに近づいていく。は熱は下がったと言うけど、やっぱり病み上がりだからか、仕草のひとつひとつがちょっと力ないような感じだ。


「勉強どう?ついていけてる?」
「やっぱりむずかしくて、たいへん」
「だろだろ?お前も俺の仲間だ!」
「先生に呼ばれたってなんで?」
「心配してくれて、問題集とかくれた。理科と数学と、英語と社会と」
「センセーまでにだけやさしーな、ズリー」
「先生だって教え甲斐のある生徒に教えたいんだよ」
「俺は教え甲斐がないと?」
「あると?」


にらみ合うけど明らかに英士に勝てていない結人を見て、は笑ってた。しばらくここにいなかったのが嘘みたいにきれいに俺たちに混ざっている。完璧にではないかもしれないけど、もうすっかり元気そうだ。


は何が弱いの?」
「んー、数学と、理科かな」
「理数は一馬が得意だよ、教えてあげれば?」
「・・・え?」


突然英士が俺に話を振って、俺は思わずひじを机から滑らせてしまった。に目をやると、バチッと目があった。


「そうなんだ、スゴイね」
「スゴイ?」
「あ、ただ単純に自分に出来ない事が出来るっていうだけでスゴイって事なんだけど」
「そんなメチャクチャ出来るわけでもないんだけど、まぁ、分かるとこは教えるよ」
「ありがとう。でもさっき職員室で三上センパイに会って、なんか成り行きで数学教えてもらう事になっちゃって」
「は・・・?」


三上・・・ってあの・・・?


「はーっ?なんで三上センパイ?あの人教えるほど勉強出来んのっ?」
「何言ってんの結人。あの人いつも成績張り出される30位以内にちゃんと名前連ねてるよ」
「なにぃーっ?」
「結人、自分が関係ないもんだから見たことないんでしょ」
「信じられん・・・、あのエロタレ目が学園の30位以内?・・・いやいやダメだ!あんなエロタレ目に何教わる気だ!!」
「だから数学を・・」
「ダメったらダメ!あいつの半径3m以内に入るんじゃない!」


なんで?と首を傾げるは結人が何をそんなに警戒しているのかまるで分かってないようだ。口には出さないけど俺だって言いたい。あの人は、ちょっと・・・。いやだ・・・。


ー?」


教科書ほっぽりだして騒ぐ結人の声が響いているベースのドアが開いて、を呼ぶ声がした。まさか三上センパイかと思ったが声が違う。ドアの向こうから顔を覗かせたのはあの人じゃなく、


「あれ、翼センパイじゃないッスか」


科学部の部長の翼さん。なんで翼さんがここに?
ていうか、今・・・って・・・


「何してんの?早くしてよ」
「あ、はい、ごめんなさい」
「え、なになに?どこ行くの?」
「ここに来る途中で翼センパイにも会って、そしたらまた成り行きで理科教えてもらう事になって・・・」


・・・今度は翼さんかよ!


「まぁそういうわけで、お姫さん借りてくね」


翼さんに急かされてはバタバタと出ていく。そんなを連れて、翼さんはにこりと笑ってドアを閉めた。


「なんなんだ!どいつもこいつも拉致りやがって!」


・・・まったくだ。大体はまだ病み上がりなのに、そんな急に勉強させたらまた熱出すぞ。そもそもあの人たちが出てこなくったって、数学や理科くらい俺が教えてやれる。英語や社会だって出来なくないし、英士だっているし、ここで事足りるのに、なんで連れていかれなきゃなんないんだ。なんでみんなしてを連れ去って、そしてなんでアイツはそれにひょこひょこついてってしまうんだ。


「一馬、どうしたの?」
「え?」


机に深く視線を落として頭を抱える俺に、英士が不思議そうに声をかけた。


「さっきから全然進んでないじゃん」
「あ、ああ・・・」


もう連立方程式どころじゃなくて・・・。今頃翼さんと勉強してんのかなとか、まさか2人きりじゃないだろうなとか、何話してんかなとか・・・。
ああ、駄目だ、俺・・・。


「俺ちょっと、トイレ」


俺は立ち上がって、ベースを出ていった。頭が変なほうへ走っちゃって、ちっとも集中出来ない。廊下を歩いていって水道で顔を洗う。さすがはテスト前とあって、こんな真昼間なのに静かなもんだ。水が流れる音さえうるさく響くほど。はーと息を吐きながら少し冷たい廊下の壁にどっともたれてしゃがみこんだ。

なんか、むしゃくしゃする。なんでだろう。
最初は転校してきたに小学校の頃を重ねて、悪かったなって思ってただけなのに、特別な力を持ってるんだとわかって、でも今度は逃げずにちゃんと受け止めて、守ってやろうと思って、・・・そしたら、気になって、目を離せずにいられなくなってしまって・・・


「やっぱ、好き・・・、なのかな・・・」


・・・自分で言って恥ずかしくなってきた。
ああ、なんで俺、こんなことになってしまったんだろう・・・。

が側にいても何も出来ないのに、いないと落ち着かない。が誰か話してると気になって、酷いと結人にまで少し、ヤキモチやいて。でもそんな自分が嫌で忘れようとするんだけど、今どこにいるのか、何してるのか、気になって。でも隣にいたってうまく喋れなくて。

今日までカゼで寝込んでいたからしばらく会えなかった。
だからもう少しそこにいて欲しかったんだ。ただ目の届く場所にいて欲しかった。だけなのに。


「あーあ・・・」
「どうしたの?」


・・・ん?
すぐ隣で小さな声がして、バッと顔を上げた。


「うわ!」


すぐ目の前にがいて、俺に顔を覗かせていて、焦って顔を引くとうしろの壁で頭を思いっきりぶつけた。


「だっ!・・」
「わ、大丈夫っ?ゴメン、ビックリさせた?」
「やっ、だ・・、だいじょうぶ・・・」


反動でかなり思いっきりぶつけて、ほんとはあまり大丈夫じゃない痛みに襲われる。頭の中がガンガン回って音が渦巻いて、絶対涙目だ、顔上げれない・・・。
すぐそこからの心配する声がする。なんでここにいるんだ?


「大丈夫?ごめんね、ほんとにごめんなさい」
「や、ほんとに大丈夫。は、なんで?帰ってきたの?」
「うん」


俺は頭を押さえる振りをしてしっかりと涙を拭いて、まだ痛むけど笑って顔を上げた。


「センパイたちも勉強あるのにずっと教えてもらうのも悪いし、大事なとこだけ教えてもらってきた。三上センパイは途中で呼び出されて行っちゃったんだけど」
「呼び出し?なんかしたの、あの人」
「んーん、女の人」
「あ、そ・・・」
「ベース戻らないの?」
「ああ、先行ってて」
「真田君は?」
「すぐ行くよ」


ちょっと、いやかなり、ドキドキしすぎて、今あいつらのとこ戻れる気しない。こんな顔であいつらの前にはちょっと、いられない。


「やっぱり頭痛い?あ、気分悪い?あたし風邪うつしちゃったかな」
「や、全然、そんなんじゃないから」
「でも頭は心配だし、こぶとか出来てないかな」
「!」


は俺の頭に手を伸ばして、強打した後頭部に手を当てた。

ちょっと待て、触るな!それはなしだ!


「や、ほんき、大丈夫だから!」
「でもちょっとこぶになってるかも、痛い?痛いよね、冷やしたほうがいいかな」
「大丈夫、ほんと大丈夫だから、すぐ治るから」


焦る心と心臓を抑えようとしたけど、どうにも慌てた声は毀れ出てしまって、でも、は笑って「そう」と頷いた。


「あの・・・、早くベース、戻った方がいいよ。ここ寒いし」
「うん、大丈夫」
「でも病み上がりなんだし、無理すんな」


は笑ってはいと返事した。


「あ、俺上着持ってるから貸すよ、着て帰っていいから」
「本当に大丈夫、もう治ったから」
「どうだか、は自分の事に鈍感すぎるんだよ」
「あれ、それいつかも言われた気がする」
「じゃあみんなそう思ってんだ」
「えー、そうかな」
「そうだよ」


だから、目を離すと危なくて。ずっと見てないと、駄目な気がして。


「そうだ、が元気になったらどっか行こうって言ってたんだけど、どこがいい?」
「あれ、遊園地じゃないの?」
「結人に聞いた?」
「あー、ううん、そうじゃないけど」
「遊園地でいいの?絶対お化け屋敷とか連れてかれるよ」
「それはちょっと・・・」
「はは、やっぱり?」


こんなトイレの前で、ヘンだな、俺たち。


「テスト大丈夫そう?」
「うーん、まぁ、なんとか」
「わかんなかったら聞けよ」
「はい。ありがとう」



は、あんな感じ。ケーキの上のイチゴ。
すっぱくて硬くて。でもケーキが甘いからケーキに乗ってるイチゴはすっぱくないといけない。そんな、ケーキの上だからこそ鮮やかになる、イチゴ。


「ほんと寒くない?」
「心配性だなぁ」


みんな欲しがるイチゴ。
だけど今だけは、そっと僕だけのもので、もう少しだけ、僕の前で。

真赤に鮮やかに、ちょこんと輝いていて。











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三上センパイは近しい人以外からはあらぬ誤解で嫌われてればいいと思う。
(名前しか出てないのにいきなり三上の話ってどうですか)
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