もしこの思いが届くなら
私はなんと、伝えよう





STAND BY YOU!!   File6:サイン





小屋からウサギが1匹ずつトラックに移されて、俺たちはそれをただ見ていた。藤代は寂しそうな顔をしていて、でもそれを見られないためにか、俺たちには背を向けていた。ざりざり、地面のコンクリートをこすりつけて、なんでもないフリしてた。


「誠二、そろそろ時間」
「おー」


笠井に呼ばれて振り返った藤代はもう、いつもの藤代だった。
そして藤代はトラックの荷台に寄っていって、ウサギが入ってる籠を覗き込んだ。ポケットからビニール袋を取り出して、ウサギの籠の中にパラパラと袋の中のものをあげていた。


「・・・」


隣でがじっと、その藤代を見つめていた。


「どうした?」
「ううん、なんでも」
「顔白いぞ、寒いのか?これ着とけ」


夕暮れで冷えてきた空気に体温を奪われて、は肌の色を落としていた。いいよ、大丈夫と笑うに無理やりバサッと上着をかぶせる。


「・・・あれー?」


ウサギを全部トラックに移動させて、小屋の撤去作業がはじまった。そんな時、藤代がウサギの籠を見つめながら間延びした声を出す。


「なに、どーした?」
「ウサギがたりない」
「たりない?」
「生まれたばっかのな、白くてちっさいウサギがいるはずなんだよ。あれ、まだ小屋かな」


そういうと藤代はウサギ小屋に走っていって、壊そうとしている作業員の手を止めて小屋の中に入っていった。


「藤代、いたか?」
「いなーい。おーい、どこいったんだー?でてこーい」
「どこいったんだ?逃げたのかな。うお、ウンコ踏んだ」


小屋の隅の木箱の中も、ダンボールに入れられたイグサの中にもウサギはいなくて、俺も一緒に中に入って探したけど、見つからなかった。


「・・・あ」
「どうしたの、
「今、何かはねた」


ウサギ小屋の外にいたが、校舎裏の花壇のほうを見ながら歩いていった。


「結人、ウサギ外にいるかもしれないよ」
「外ぉ?」


について英士も一馬も花壇の方へ走っていき、俺たちも外へ出て、花壇の中、木の下、校舎裏と隅々まで小さなウサギを探し回った。

小さな溝から狭い隙間まで覗き込んで、その白くて小さなウサギを探し回っていると、はまたふと、飛び跳ねる何かを目の端に捉える。


「あ」


三角形に切りそろえられた植木の奥に入り込んで覗くと、そこには白くて小さなウサギが体を小さくしていた。寒さか怖さか、白い綺麗な毛並みをぶるぶる震わせて、紅い目をきらり、光らせた。

ゆっくりゆっくり近づいて、はそのウサギにそっと手を伸ばした。ウサギはぴょこっと後ろに一歩下がって、おびえるように耳をぱたりと横たわせる。


「大丈夫だよ、こっちおいで」


そっと、驚かさないようにはウサギに手を伸ばした。するとウサギはひくっと鼻を動かし、の手の匂いをかいで、少しずつその目をに合わせ、にこりとが微笑むと突然ウサギはぴょこんと跳ねて、に飛び掛った。


「わっ、」


どさっとは植え込みの間に倒れこんで、肩から掛けていた俺の上着が植木の上に落ちた。





「あー寒ぃー。おーい、いたかー?」
「いないよ」
「おい藤代、ほんとにいなくなったんだろーなー。ウサギなんて全部一緒に見えるぞ」
「ほんとだって、1匹だけすげぇちっちゃいから見たらすぐわかるんだよ」


がさがさ、学園の敷地を囲む植え込みの中で藤代は葉っぱを被りながらいつまでも探し回った。そんな藤代を見ながら思わずため息が出る。下を見てばっかりで疲れてきた背中をぐぐっと反らせて、そしてふと思い出して、周りを見渡す。


「あれ?どこいった?」
「その辺にいない?」


どこまで探しに行ったのか、見渡す限り、の姿が見えなかった。ー?と声を張り上げると英士も一馬も周りを見渡して、いつの間にかウサギ探しが探しになっていた。


「あいつどこまで探しに行ったんだ?」
「あ、ねぇあれ」
「ん?」


ウサギよりずっと探しやすいはずのが見つからずにいると、英士が花壇の奥の植え込みを指差した。そこには俺がに貸したはずの上着がかかっていて、そこまで走っていって上着を取ると、ふと、植え込みの下に茶色いスカートが見えて、覗き込んだ。


「おい、!」


植え込みの間にが倒れていて俺は上着を放り投げ植木を飛び越えに駆け寄った。顔を覗き込んで声をかけるけどの反応がない。


「なに、どうしたの」
!どーしたんだよ!」


俺の騒ぐ声で英士と一馬も駆け寄ってくるけど、まったく返事をしないは静かに瞼を閉じてまったく意識を覚まさなかった。体のどこにもケガなんてないのに、体をゆすっても叫んでもはその目を開けなかった。


「ちょ、なんで?英士!」
「とりあえず、あの、保健室!」
「ほ、保健室!保健室!!」


急いで運ぼうとの体を起こし背中におぶろうとすると、一馬が待って!と俺を止め、なんだよと振り返るとを覗き込んでる一馬が笑っていた。がゆっくりと目を開けたのだ。


!」
、大丈夫か?」


目を開けるはぼんやりとしていて、そのままの目でゆっくりと俺たちを見渡す。


「なんだよ、ビックリさせんなよー」


は痛がる様子も苦しむ様子もなく問題なさそうだった。だけどきょろきょろと俺たちを見て、なぜか少し不安そうに顔をゆがめて、おかしく思った俺たちはジッとを覗き込むんだけど、そうするとはますます怖がるように怯え出した。なんだよ、どうした?とさらに深く覗き込むと、の目がうっすらと赤く滲んでるのが見えた。

は怯えて俺たちから離れようとあとずさり、でもその体はうまく動かなくてパタンと転げてしまう。転げたにまた近づくと、はさらに怖がってじたばた逃げるように暴れた。


「なに、どうしたんだよ、!」


どう見ても、いつものじゃなかった。巧くコントロールできない体を引きずるようにして俺たちから逃げようとして、腕を掴んでいる俺をペチペチ叩く。
とにかく、何かが変だということは一目瞭然だった。だからどんなに嫌がられようととにかく逃がすまいと、その腕だけは離さなかった。


「おーい、どーしたー?」


意味がわからずその場ですっかり呆けてしまっていた俺たちのとこに、ずっとウサギを探していた藤代がやってきた。何やってんの?と俺たちを覗き込んで、俺は咄嗟にを隠す。


「や!なんでもない!ウサギ、いたか?」
「いやぁ、それがさぁー」


話すまでもなく、藤代のその顔を見れば見つからなかったんだろうということがわかる。でも俺としては今はウサギどころではなくて、とにかくをベースに連れ帰ってどうにかしなくてはと思っていた。


「・・・」


そんな俺のうしろでは、じっと藤代を見つめた。


「ん、なにちゃん」


の視線に気づいた藤代がに問い返す。すると、はいきなり藤代にぴょんととびより抱きついたのだ。


「・・・は?」
「え?」
「な・・・」


飛びついてきたに驚いた藤代は受け止めきれずに後ろに倒れ、なんとかを受け止めはしたものの二人で芝生になだれ込んだのだ。


「・・・・・・へ?」


なにがなんなのか。俺たち以上に意味が判らない藤代は倒れたままハテナを浮かべる。当のはぎゅううっと藤代に抱きついたまま離れなかった。














----------------------------------------
こりゃあもう完全に七不思議じゃない。

 

1