そう、言いたかったのは、伝えたかったのは

ただそれだけなんだよ





STAND BY YOU!!   File6:サイン






ええっと・・・、何が起こってるんだ?これは・・・


!どうしたんだよお前、何がしたいんだー!」
「結人、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかーっ!」


どう見てもおかしいんだから!そういう英士の声も、らしくなく動揺して聞こえる。
一馬なんて言葉にならないくらいうろたえてるし!


「と、とりあえず、離れろ、な!」
「・・・」
!離れなさい!」
「・・・!!」


なんとかを藤代から引き離そうとするが、その体は一向に離れようとせず、それどころかしがみつく一方で、ビクビク恐れた目で俺を見上げてきた。待て、なんで藤代にはそんなに懇親の力で抱きついておいて、俺にそんなビビった目をするんだぁ!藤代は藤代で、頭にハテナを浮かべたまま小首をかしげてるし!


「ええっとー、なんだかよくわかんないけど、怖がってるみたいだからやめよーよ」
「お前は黙ってろ!そしてドサクサ紛れに抱くなー!!」


と、とにかく、がおかしいのは明らかだ。が人に抱きつくなんてことぜぇったいにありえない。それに、ていうか、俺にビビるたぁどーゆー了見だ!!これは早急に対処しなくては。緊急事態だ。俺たちはそう決断すると、英士は藤代の手をどかせ、一馬は藤代からを引き離し、俺はその隙にをガバッと上着にくるんで捕まえた。


「やーっ!!」
「あ、喋った」
「いいから早く!」


俺の腕の中でじたばた暴れるを押さえつけて、俺たちはベースへと全力で戻っていった。





「こら!おとなしくしろ!」
「ちょ、危ないって!うしろ、机!」
「ああ!もおーーっ!!」
「結人、そっち行った!」


どたばたどたばた、ベース内では走り回り逃げ回り、机にぶつかり椅子につまづき、資料をなぎ倒し機材に追突して、・・・とにかくベースを駆け回って散々に散らかしまくった。なんだかとっても俺たちにビビッてる。これはもう絶対に、じゃない!


「わかった!分かったよ、もう捕まえようとしないから、な!落ち着け!」


フー!フー!毛を逆立てた猫のように俺たちに威嚇しながらはおどおどとした目でにらみつけていた。ベースの隅っこで小さくなって、泣きそうなのを必死で我慢して、ぎゅっと身を小さくして抱きすくめた。

はぁー・・・。
俺たちはこの寒い中汗をかいて、首周りを緩める。


「・・・でさ、どう思う?」
「どうって、様子がおかしいとしか・・・」
「じゃあなんで急におかしくなったんだと思う?」
「俺たちただ、ウサギ探してただけだよな」
「うん」
「・・・じゃあ、急に様子がおかしくなるって、どういうときになると思う?」
「・・・」
「・・・」


これは、俺たちがこんな研究をしているせいだろうか。
それとも、がそういう力を持っていると知っているせいだろうか。


「俺の意見言っていい?」


それはきっと俺だけじゃなく、英士も一馬の頭にも、ふとよぎったことだろう。


「これってもしかして、・・・なんか憑いた?」
「・・・」


俺の言葉に英士と一馬は何の返事もなく、だけどしばらくしてみんなで頭を抱えた。
だって、もうそうとしか、考えられない・・・。


「もしそうだとしたら、どうすればいいんだっけ?」
「どうすればって・・・、そもそも何が憑いたわけ?」
「それが分かったところでどうやって元に戻すの?」


俺たちの考えは堂々巡りを繰り返し、3人集まってもちっとも結論に至らなかった。じゃあるまいし、霊に喋りかけることなんてできないし、追い出すこともできないし、かといってこのままじゃに何かあったら困るし、そもそもがこのままでも困るし・・・。


「とにかく、ほんとにの中に何かが入ってるのかを確かめなきゃ。入ってるんだとしたら取ってもらわなきゃ」
「だからどうやって」
「・・・あ、」


そうして、俺たち3人の頭には同時にポンと、ある人物が浮かび上がった。
きらきらひかる、あの胡散臭いほどに輝いた、金色の髪。






「毎度おーきにー」
「シゲー!!」


相変わらずサラサラとした金髪をなびかせて、今日はオマケに黄色のサングラスまでつけて胡散臭さ20%増なシゲが学園にやってきた。よかった、連絡先聞いておいて・・・。前に会ったときはなんてフシダラな破戒僧かと思ったが、今は後光が差して見える。

ベースに顔を出したシゲはすぐに部屋の隅にいるに目をつけてスタスタ寄ってきた。はその足音を聞いて振り返り、もっともっと隅へ逃げようとベースの壁をがりがり引っかく。そんなにお構いナシにどんどんと突き詰めていって、部屋の角にまで追いやるとシゲはの目の前にしゃがみこんだ。


「どう?」
「ん?まぁ憑いてんな、動物霊や」


やっぱり!
俺たちは顔を見合わせた。


「なにが憑いてんのっ?」
「小さいモンやな、これウサギか?」
「ウサギ?っていうと、あの?」
「なんか思い当たるんか?」
「さっきウサギ小屋が撤去されてさ。でもべつにウサギは死んじゃいないか」
「1匹見つからないやつがいたじゃない」
「ああ!・・・でも藤代があのウサギはさっきまでいたって言ってたよな」
「浮遊霊ならべつに怨みあってとり憑くわけやないし、期間は問題やないよ。そいでそのウサギは今も見つからんのか?」
「どうだろ、藤代のやつまだ探してんのかな」
「中庭にはいないよ」
「それより、は元に戻せるの?」
「こんなん落とすくらい簡単やけど」
「けど?」


シゲは、部屋の隅で小さくなるをじっと見つめた。はまだ目に映るもの全部に怯えてびくびく体を震わせて、それでも精一杯シゲをにらんでいた。
そんなを見ながら、シゲはごそごそと腰に下げていたバッグから何かを取り出しての前に差し出した。なんだ?と思ってシゲの背中から覗き込むと、それは棒つきのチョコレートだった。

そんなものどうするんだろう、と俺たちはシゲの後ろから食い入るように覗き込んでて、するとは目の前に出されたこげ茶色の物体の匂いに誘われてそれに目を留めた。目の前のチョコレートとシゲ、その両方を交互に見やって、警戒しながらも少しずつ鼻を近づけ、目の前でシゲがにこりと微笑むとはさらに顔を近づけてパクリ、チョコレートに噛み付いた。口の中でもぐもぐチョコレートを転がして、は警戒してた表情を解かしてチョコレートを食べ始めたのだ。


「シゲ、それなんなの?」


チョコレートに夢中のの頭をシゲはよしよしとなぜる。すると、は部屋の隅から少しこちらへ歩み寄って、目の前のシゲにどんどん近づいてきた。また鼻をひくひくさせて、もっと頂戴というようにシゲにペタペタ纏わりつく。シゲはまたひとつカバンからチョコレートを取り出して、の鼻の先で欲しい〜?とチョコをちらつかせ、はその匂いに飛び掛るとシゲはをひしっと抱きしめた。


「餌付けしとる場合かっ!」
「だって抱きついてくるこいつなんてレアやしー」
「遊ぶなバカ!真面目にやれ!!」


俺たち総出で思わず怒鳴ると、は怒鳴り声にビビッてシゲにしがみついた。


「おーよしよし、こんな奴らに囲まれてたんじゃ怖かったなー。もー大丈夫やでなー」
「バカやってないで、早く元に戻してくれよっ」
「まぁえーやん、そんな悪いもんに憑かれてるんやないし。これはこれでめっさかわえーで?」


ゲラゲラ笑ってを餌付けするシゲに、俺たちはがくっと肩を落とす。
あれだけ緊迫・心配してた俺たちはなんなんだ!

シゲはその後もノンキにと遊び、そんな二人の状況を見ていると俺たちも少しずつ気が落ち着いてきた。はやけに人には慣れてるらしく、エサでつれば俺たちへの警戒も薄くなって、ビビッて部屋の隅に逃げることはなくなった。なんだか寒そうだったからまた俺の上着を着せてやって、するとはじっと俺を見上げてきて、何か言いたげに鼻をひくひくと動かした。

・・・うん、まぁ、確かに、これはこれで・・・かわいい。


「こいつ喋んないのかな」
「さっき喋ったよね」
「アレ喋ったっていうのか?」
「とにかく声は出るんでしょ」


確かにさっき中庭から無理やりをつれてきたときにコイツは叫んだ。
じゃあ一応、声は出るんだな。


「喋るかな。、俺がわかるか?ゆーと」
「・・・」
「ゆーと。言ってみな」
「ちょっと、結人まで遊ばないでよ」
「いーじゃんちょっとだけ。なー、言ってみー。ゆーと」
「・・・」


するとは俺の口を見つめながらちょっとだけ口を動かした。


「お!ゆーと、わかる?」
「・・・うー」
「ゆ・う・と」
「うー、と」
「おお、もうちょい!」


思わずそんな事に真剣になっていると、の口は徐々にはっきりと動き出した。確かにこんなにじっと見つめてくるはめずらしい。こいつはいっつもどこかうつむきながら喋るし、目が合うとさりげなくはずすからな!そんなにひたすら俺の名前を呼ばそうとレッスンしていると、ついに、のたどたどしいその口がはっきりと、俺の名前を紡いだのだ。


「ゆーと」


ぐは!なんだこりゃ、かなりかわいい・・・!
目の前で目をくりくりさせてジッと見上げてくるにノックアウトされていると、うしろから英士に本で殴られた。


「ほな今日そいつ連れて帰るわ」
「え、なんで?」
「そんな動物霊でもとり憑かれてんのは相当疲れ堪るよってな、一人にしとくのもヤバイし」
「あ、そっか。は寮だもんな」
「ほな帰ろかー


そう言ってシゲはに手を伸ばして、は意味が判らず不思議そうに目を大きくさせていた。手を引っ張ってを立ち上がらせるシゲと一緒に俺たちも帰るかということになり、とっくに活動時間が過ぎていることに今になって気づいた。


「あれ、俺のサイフどこいった?」


担いだカバンの中にサイフが見つからなくて、俺は部屋の中を見渡した。部屋中散々に荒らされたせいで散らかり放題のこの部屋の中、探すのはちょっとした苦労だ。机の上、資料の山の下、床を見渡してまで英士も一馬も一緒になって探してくれてるけど、サイフは一向に見つからない。あれがないと帰れないんですけどー。

そうやってみんなで部屋の中を探し回っていると、シゲの傍らにいたがぺたんと床に座り込んだ。そして床に顔を近づけると鼻をひくひくさせて、俺の足元に積まれてた本をどさっと倒した。・・・すると、倒れた本の中から俺の財布が現れたのだ。


「おーあったー!」
「さすがは動物の鼻」
「ありがとー、ありがとー!」


財布を取って、探してくれたをなぜなぜ頭を撫でた。


「やー危うく帰れなくなるとこだった。ありがとーな!」
「・・・」
「わかる?ありがとー!」
「・・・」


はくりくり目を動かして、やっぱり何のことかわからないのか、じっと俺を見つめていた。


「ほなな、明日には届けるよって」
「おー、頼むなー」


そうしてシゲはをつれ、ベースを出ていった。


ちゃんと元に戻るかなー」
「・・・結人、ちょっと戻らなくてもいいとか思ってるでしょ」
「はっ?思ってねーよ!」


フーン、なんて疑わしい目で英士と一馬は俺を見てきた。


「思ってるわけないじゃん!が元に戻らなかったら・・、ほら、我がサイキックリサーチ・セブンも活動続行の危機だし!」
「フーン・・・」
「なんだよ!そんな目で俺を見ーるーなー!!」


まさかそんなこと、
確かにあのはかなりかわいくてレアだったけど

まさかまさかそんなこと!!

・・・はは


俺への疑いは晴れぬまま、ベースを後にしようとしてた俺たちの耳に入ってきた廊下をかけてくる足音。それはどんどんベースに近づいてきて、ついにベースのドアがばんっと開いた。そこから顔を出したのはまた、あの金髪。シゲはベースに入ってくるなり部屋中をきょろきょろ見渡して、なにか焦ってるようだった。


「なに、どーした?」
「・・・や、ヒジョーに言い難いんやけどな?」
「なに?」


部屋中を見渡したシゲはへらりと笑って


に、逃げられてもーた」
「「「・・・」」」


なにーっ!?

















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