「「ズルーイー!!」」


12月31日、暮れも迫った年の瀬。
テーブルの上の大きなホールケーキを前に、ふたつの声がピタリと重なった。


「なんで今日だけなのー?いつもは今日と明日と二日やるじゃーん!」
「そーだよー!それになんでチョコレートケーキなのぉ?今年はチーズケーキって言ったじゃーん!」
「しかもなんで惣菜から揚げ?手抜きだ手抜き!」
「お寿司も安いのばーっかり!手抜きだ手抜き!」


机をバンバン叩くから並べられたフォークや皿はガチャガチャ音をたてる。
そんな騒ぎに目もくれず、居間では毎年恒例の大晦日番組が盛り上がっているテレビを
コタツに入ってボーっと見つめる父と兄は、我関せずとミカンを頬張るばかりだった。


「しょうがないでしょ。喪中っていってね、その年に死んじゃった人がいる年はお正月しちゃだめなの」
「「お正月じゃないもん!誕生日だもん!!」」


はぁ、と気苦労の耐えない母のため息が台所で漏れる。
こんな時ばかり双子の力を発揮して同調する二人に耳を塞ぎたい気分だった。

あと数時間もすれば日にちが変わり、それと同時に新たな年もやってくる。
そんなめでたい1月1日は、さらにめでたいことに双子の誕生した日でもあった。
しかし毎年、二人が誕生日なのにご馳走は一度きり。しかもお正月と一緒にされる。
損だ損だ、二重損だ!と双子は文句を並べていた。
そうしていつからか双子の誕生日は、12月31日と1月1日の二日間行われるようになったのだ。
大晦日と正月なんだからどこの家庭も少しはいい食事をしている、なんて実情に気づかずに双子は手を叩いて喜んでいた。

なのに、今年は親族の不幸により正月をめでたがってはいけないという。
正月がナシとなれば必然的に誕生日の気も薄れる。それも本番のはずの1月1日に、だ。
母に纏わりつく双子の鬱憤は堪る一方だった。


「ケンタッキーが食いたいぞー!」
「トロが食べたいぞー!」
「誕生日をちゃんと祝わなきゃな、イイコに育たないんだぞー!」
「ちゃんとお正月しなきゃいい年にならないんだぞー!」
「うーるーさーいーのよ!文句あるならやめるわよ!」
「オニ嫁ー!」
「誠二、母だよ、母」
「オニ母ー!」


そんなことゆーならお母さん一人でケーキ食べちゃうわよ!
ケーキにフォークを突き立てる母を、双子はぎゃあぎゃあ全力でくい止めた。
そんな母と双子の騒ぎ声を背中に、やっぱり父と兄は知らん顔でぬくぬくとテレビを傍観するばかり。


「ねープレゼントはー?」
「お父さんにもらいなさい、お母さん手が離せないから」
「おとーさーん、プレゼントはー?」
「あっち」


振り向きもせずに、父は隣の部屋のほうを指差した。
やっぱアムロだよな〜。父さんは朋ちゃんだなぁ。なんて小さな会話が聞こえてくる。
もはや双子の騒ぎ声などに微動だにしない父と兄を気にすることもなく、双子は隣の部屋に駆け込んでいった。


「料理が手抜きなんだからプレゼントは豪華じゃないと気がすまないよな!」
「うん。二つあってもいいくらいだ」
「だよな!俺ゲームソフトも頼めば良かった!」


ぶつぶつ。文句を言いながらも、包みを開ける手は気が逸って綺麗にラッピングされていた包装紙は
跡形もないほどにビリビリになってじゅうたんに散った。


「おお!見て!新しいシューズ!」
「うわーブランド品だ。アンタそんなの頼んだの?」
「シューズ欲しいとは言ったけどメーカーまでは言ってなかったと思う」
「あーあ、お母さんの意地だ。無駄に高いんだよきっと」
は?」
「帽子とコートとスカートと靴のセットー。かわいーでしょー」
「また服ー?売るほど持ってんじゃん」


空き箱とビリビリの包装紙に包まれて、もらったプレゼントのファッションショーが始まって、
暖房もない部屋は寒かったけど双子の笑い声はいつまでも響いていた。
リビングから母の声が響いて、いつもよりずっと豪華で、いつも通りの賑やかな夕食がはじまり、
鐘の音と共に1年最後の日が過ぎ去って、待ちに待った誕生日がやってくる。


1年に一度の誕生日。
双子がこの世に生を受けた日。
大騒ぎして、寒い中初詣に出かけて、眠い目を擦って12時まで起きて。
そうしてやっと双子は一緒に眠りにつく。

いつもなら二人の広い部屋で隅と隅に置かれたベッドで眠るけど、誕生日だけは同じベッドで眠るんだ。
寒さを紛らわせてぎゅっと抱き合って、くすぐり合ったり笑い合ったり、喋りつかれて寝息を立てるまで。

11年前もこんな風に、お母さんの中で二人抱き合って寝てたんだ。
この世に生まれてきて、二人は別々の生き物になってしまったけど、
二人は永遠に、誰よりも近い存在。
そう信じてる。


藤代家にとって、1年で一番出費のかさむ、騒がしくて賑やかな日。
1月1日。
双子の誕生日。


好きなものが並んだ食事と心躍るプレゼントに気をとられて、毎年お年玉を貰っていないことに気づくのは
まだまだ、先の話。

















まれた


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