双子として生まれてきた誠二と
生まれる前から二人は同じ場所にいて、生まれた後もそれは変わらずに育ってきた。
いつでも一緒。なんでも一緒。
周りが物珍しげにマジマジと自分たちを見てくるのが、なんだかちょっと特別な感じがして、楽しかった。

”双子”

それは二人にとって、勲章のようなものだった。
いつでも胸の真ん中に掲げておきたい、二人だけの、一つだけの、勲章。

でもそれは、この広い現実世界の中で、ゆっくりと、でも確実に、形を変えていった。





「スッゲー、ほんと見分けつかないよなぁ」
「たまにお父さんも間違うんだよ」
「え、マジで?そりゃすげぇや」
「だからせめて髪型変えたりしてさ」


それを先に感じたのは、いや、思い知ったのは、のほうだった。


あれは小学5年の時。
誠二との学年に、双子の転校生がやってきた。
片方は誠二のクラスに、もう片方はのクラスに入ってきた。
双子同士、だから、すぐに仲良くなった。


「あまりに近所の人が間違うもんだからさ、秀がほっぺたにペンでほくろかいたの」
「あっはは!マジで?」
「うん、でもそれで周りが俺たちを区別しようとすると今度は遼がほくろ書いたりしてな」
「結局みんな分からなくなってすげー混乱してた」
「いーなぁー、そーゆーの楽しそうでー。入れ替わったりとか出来んじゃないの?今度やってみよーよ!」
「授業?」
「そーそ、こっそり入れ替わるの!」


でも転校してきた双子は、二人とも男の子で、一卵性。
誠二とは男と女で、二卵性だった。
雰囲気こそ似てるにしても、間違っても見間違えられるなんてことはなく、見分けるための目印なんていらない。
むしろ、双子だという目印が、必要なほどだ。


「ねーねー、かたっぽの思ってることとか分かったりすんの?」
「よくわかんないけど、買い物行って帰ってきたら同じもの買ってたとかはあるよ」
「あとさ、前の学校で運動会のとき、俺が徒競走でこけてドベになったらさ、秀もこけてドベになったの!」
「なにそれー!偶然に?」
「ぐーぜんぐーぜん!先生にマジでわざとじゃないだろーなとか言われたし」
「いーなぁー、そーゆーのやりたーい。俺らじゃ絶対無理だし」
「あんま似てないもんな」
「そーだよ、双子って感じ全然しないよ。俺も一卵性がよかったなぁ」





・・・なんだかものすごく、冷めた感覚がした。
頭の中がやけに静かで、手を握ってみても力が入らなくて、
歩いているのになんだかふわふわして、どこに向かっているのか分からなくて。

空が灰色に見えて、雨でも降るのかとふと思った。


「え??」
「どこかにいなかった?帰る時見なかったの?」
「いや、見なかったけど・・」
「どこ行ったのかしら、もう暗いのに。誠二、お母さんちょっと探してくるから留守番してて」
「俺も行く」
「待っててよ、帰ってくるかもしれないから、ね」





似てない双子。
それのどこが、双子なんだろう。それに、なんの意味があるんだろう。
周りに珍しがられてどうでもいい優越感を味わう?いつでも身近に遊び友達がいて厭きない?
それなら普通の兄妹でよかったんじゃないのだろうか。

言わなきゃ分からないようなその血筋を、私たちは何を頼りに確かめ合えばいい?
同じ顔はしてない。年々姿かたちもずれていく。
趣味もさほど似てない。私もサッカーは好きだけど、誠二ほどじゃない。
誠二の思ってることが伝わってくることなんてない。
私がお腹が痛くて泣いてても誠二はケロッとしてる。

この体内に流れる確かな同じ血液を、感じられないわけじゃない、けど、
それは小さい頃から刷り込まれた”貴方たちは双子なのよ”という言葉で固められている気がして・・

どうして、双子に生まれたんだろう。
どうして、ちゃんと双子じゃないのだろう。

誠二は私の何?

私は誠二の、何?











声が聞こえて見上げた太陽に重なって、誠二の形をした影が木の葉と共に降り立ってきた。
目の前にがさっと着地すると、すぐ後ろの崖に足を取られそうになって、おわっと慌てて態勢を立て直す。


「誠二・・」
「何してんの、ほら帰るよ」


顔の周りにたかってくる細かな虫たちを払いのけながら、誠二が手を伸ばす。
その手を見つめて、でも手を出さない私の前に誠二はしゃがみこんで、私の身体にかかっている葉っぱや砂を払ってくれる。

ここは近所の公園の裏にある小さな山で、危ないから子供だけで入っちゃ駄目だと、ここの子供なら誰しも強く言われてる。
ついこの間の台風でがけ崩れが起きて、山頂に程近いこの場所は山肌が露になって大きく削れてしまった。
そのへこみは、山の上からも下からも見えず、木に掴まって注意深くここまで下りてこないとそこに何があるかなんて、分からない。


どうしてここが、分かったのだろう。
誠二とここに来たことなんてない。それどころか私も初めてで、普段は近寄りもしないのに。


「お前ねー、危ないよこんなとこ。崩れたらどーすんの」
「・・・」
「帰ろ。お腹すいた」


ね、と顔を近づける誠二を前に、次第に涙をためてこぼす私に、誠二はワケが分からずどうしたのと繰り返し、
よしよし、と頭を撫ぜて、抱きしめた。


誠二は私がなぜ泣いてるのかわからない。
私がなぜ急にいなくなったのかも、今何を思って、何に怖がっているのかも、きっと分かってない。

そう、きっと、だ。
私も「きっと」としか分からない。
おそらく分かってないんだろう、なんて憶測しかたてられない。


それでも私たちは、双子なのだ。

何故だか分からないけどなんとなく分かる。
その程度に、双子なのだ。


ぎゅうううう、と、子供っぽく、苦しいよと笑ってしまうほどに抱きしめる誠二の力だけが
この不安を拭い、解き放ってくれる。

でもそれは不安に陥れる原因でもあるのだ。


私たちは意志の疎通なんて出来ない、出来損ないの双子。
だからこそ、誠二が私を見つけないのなら、誰にも見つからなくていい。


それでも誠二は、その血すら飛び越えて出来ないことをやってのける。
この世でたった一人の、超人的ハンターなのだ。











かくれんぼーマー


(わたしは、ここ)

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