Would END 「翼・・・!!」 うしろから聞こえる。が俺を呼ぶ。 やめて、俺を見ないで、こんな自分を見られたくない。 「っ・・・」 なのにこの足は全力じゃない。ちっとも本気で逃げてやしない。 足は前に、想いはうしろに。 俺に、のいない世界になんて行けやしないんだ。つっぱねてみても、そっぽ向いて見せても、結局俺は、がなだめてくれるのを待ってるんだ。 俺を見て、俺だけに微笑んで、俺を抱きしめてよ・・・ 隠れた目の奥で、ずっと叫んでた。 「翼っ・・」 の手が俺を捕まえた。ふたりして肩で息をする。 気持ちが高ぶってる俺と、走り慣れてない。 でも怖くて、怖くて怖くて、振り向くことなんてできなかった。 「あ、あのね、翼・・・」 それでもわかる。の声が、困っていること。 だって、だもん・・・ そんなに、困らないで。俺を傷つけまいと、俺に同情して、そんなに困ってるのに、まだ、俺を大事にするの・・・ 「離せよ」 「翼・・」 「俺と顔も合わせたくないだろ?喋りたくもないだろっ?」 「何言ってんの、そんなこと」 「気持ち悪いって思ってるだろっ?」 がビクリと身を堅くして、息を飲んだ。 やっぱり、気付いてるんだ。俺のこの、知られたくなかったこの積年の想い。 ずっと押さえ込んできた、この衝動。 「あの、翼、とにかく、帰ろう?ね・・・?」 「・・・」 「翼、お願いだから・・・」 それでもは、姉であろうとする。 俺をあの家に戻そうとする。 「いやだ、帰れるわけない、帰りたくないっ。もう嫌だ、家も、も、俺を苦しめるばっかりだっ!」 「翼・・」 「なんで俺だけ、俺ばっかり・・・、好きで弟なんかに生まれてきたんじゃないのにっ!!・・・」 もう俺は限界だった。いや、限界なんて、とうに超えていた。 どんな常識を並べたって、きれいごとで包んだって、本当は、本当の俺は、もうを、姉としてなんて見れなくなってた。 この体が俺のものである限り、がである限り、俺たちが姉弟として存在している限り、取ってはいけないその手が、ぬくもりが、 俺は、欲しくて、たまらなかった・・・。 「もう、家にいるのも、といるのも、苦しくてたまらないんだ・・」 「・・・」 「もう俺、今までどおりになんて顔できないよ、父さんにも母さんにも、にもっ・・・」 ただただ、この体さえ違えば、恋と呼べるはずだったこの気持ち。 「・・・ずっと」 小さい頃から、ずっと 「好きだった・・・」 はらはら、はらはら、 夢の中でだけ咲いた花は、虚しい空に舞いあがった。 ただ、それだけ・・・ ささやかでちっぽけな願いだった。 「・・・翼・・・」 は、俺を傷つけることなんて、できない。俺を拒否したり、拒絶したりなんて、絶対にできない。 その、果てない優しさが、慈悲深さが、 俺を駄目にしたんだよ・・・ 「・・・」 苦しそうな顔。 ああ、なぜ、こんな気持ち生まれなければ、俺たち、ただの天使でいられたのにね・・・ ずっと、あの頃のままだったら、よかったのにね・・・ にそっと手を伸ばした。は、逃げなかった。 そうやっては俺を否定できないから、俺はをずっとこの腕の中に入れておける、なんて錯覚に自惚れてたんだ。 きゅっと、抱きしめる体は小さかった。俺よりも小さかった。 抱きしめてきたはいつでも俺より大きくて、俺より小さくなった頃にはもう、近づくことさえできなくなってたから。 ごめん ごめんね 好きになって、・・・ 「ごめん、・・・」 「・・・」 ・・・大切な人を思いやって、自分の翼ひとつ折れないなんて。 ぽとり、の頬に涙がおちた。 美しい羽は、我侭な翼と相成りて、ひらり、空に堕ちた。 |