「にゅっ、入院ん!?」
「・・・」


一馬の言葉にあまりに驚いて、素っ頓狂に叫んでしまった。
チームのみんなが一斉に俺たちに振り向いて、一馬はバカ!と俺の頭を押さえつける。だけど俺はそれどころじゃなく、一馬の腕を払いのけた。


「な、なんでだ、どーしたちゃん!病気か、転んだか?流産か!?」
「縁起でもない事ゆーな!なんか、今日検査で引っかかったらしくて、様子見るために入院するんだって、2・3日だけ」
「だからって入院って、どこが悪かったの?」
「なんか、妊娠・・・中毒症?とか言ってたけど」
「中毒ぅ!?食中毒か!」
「だから妊娠中毒だって・・」


一馬のヨメである(まだ予定だけど)ちゃんが妊娠して4ヶ月目に入った。
俺たちは会うたびに、まずちゃんの話をするわけだけど、今回の話はなんともいただけない。

一馬の頼りない話によると、安定期に入るまではいつ何があってもおかしくないらしく、特にちゃんは”ツワリ”がヒドイというし、これでも俺は毎日何かと気にかけている。

だって、一馬の子供というからには俺の子同然だ。
むしろ俺が父親だと言ったっていいくらいに!


「で、いつから?」
「明日から。今日は準備しに家に帰ってる」
「そか、じゃあ俺も今日は妊婦に激励に・・・」
「来んなよ、気使わせんな」
「ええー!いーじゃん最近会ってないし、どーせ一馬このあと行くんだろ!俺もちゃんに会ーいーたーいー!」
「だーめーだ!」
「俺の子ー!」
「お前の子じゃない!!」


このガンコ者め、すっかり一人で大きくなったような気になりやがって!
今までこの俺が散々取り繕ってやったから今の二人があるくせに!
そうぎゃんぎゃん騒いでやるけど、一馬は一心不乱にストレッチしてる。
ていうか、さっきからずっと前屈ばっかして、これしかできないみたいだ。


「あれ、そーいや英士は?」
「今日は休みって言ってただろ、知り合いの葬式だって」
「あそっか。こんなときに葬式って縁起わりーなぁ」
「それはお前、死んだ人に失礼だろ」
「そっか」


こーゆーとこ、一馬のいいとこだよな。
気になってしょうがない事があっても、いろんなことを考えられるってゆーか。

一馬のことは学校の友達にはもちろん、クラブや代表の連中にも一切他言無用だ。
それが俺にとってどんなに苦痛で苦労か。
だってもう、言いたくて言いたくてしょーがないんだもん。
一馬のヤツよく黙っていられるよな。


「そういえばさ、男か女かまだわからないの?」
「あー、病院が教えてくれないらしいよ」
「え、なんで?普通どっちか知りたいですかーとか聞かれてさぁ、どーするー?知っておいたほうがふたつ揃えなくていーじゃん?でも生まれた時に女の子ですよーとか言われたほーがよくない?とか言って楽しみにするもんじゃないの?」
「俺も全く同じ事言ったんだけど、病院がそういう方針なんだってさ」
「えええー、つまんねぇぇええ!あ、でも産む時はもち付き添うんだろ?その時にどっちか分かるってのもいーかもな!」
「それもダメなんだって。衛生上?の問題でその病院立ち合い出産してないんだ」
「なんだそりゃ!ダメダメだらけだな!もー病院変われよ!」
「無茶ゆーなよ。そこはんちが昔から世話んなってるとこで、前にのカウンセラーに来てた先生もそこの先生だし、でかい病院だし、ちょっとでも安心出来るとこが一番なんだよ」
「だって、産む瞬間一緒に見てたくないの?」
「・・・。いーの、ちゃんと子供が産まれるなら俺は」
「ええええー、俺ヤーダー!」


一馬のヤツ、こーゆーとき絶対ワガママ言わないんだよなぁ。
そりゃちゃんやその家族には言えないだろーけど、俺にくらいグチったっていーのに。


「でも、だったら名前ふたつ考えなきゃな!ユイなんてどう?」
「それってもしかしなくても結人の結?」
「もちろん。真田結、いー名前だぁー」
「なんで俺の名前も入れずに結人の名前が入ってんだよ」
「だって一馬の名前じゃ女の子に付けらんないじゃん。それに親の名前付けると子供が親を追い越せない子になっちゃうってゆーしな」
「え、そーなの?」
「ほら決定!ユイちゃん、女の子だといーなぁー」
「男でもユイってつけんの?女みたいでヤダなぁ」
「じゃあ男だったらエータローだな」
「それはやっぱり英士の英?」
「もち!」
「誰の子だよ、ったく」


そんな感じで、俺はまだ見ぬ子供に完全浮かれきっていた。
一馬の心配もちゃんの不安も重々に承知ではあるが、だって楽しみだろ?

子供が生まれるんだよ?
幸せだ。


「あー早く産まれないかなー」
「まだまだ先だろ。俺はとにかく早く安定期に入ってほしいよ。心配で目も離してられない」
「そーだなー。あ、じゃあ安定期になったらみんなでどっか行こっか!」
「あ、それいーな。・・・みんな?みんなって?」
「俺と一馬と英士と、ちゃんとちーちゃん」
「げ、森野もかよ」
「だってちゃん一人じゃかわいそーだろ」
「まぁそーだけど」


どうせなら旅行とかいーな。近場なら心配ないだろうし。
あーほんと楽しみだ。産まれたらすぐ抱かせてもらうんだ。
生赤ちゃんなんて初めてだなー、かわいーんだろーなー。


「あー楽しみだなぁーもう!!」
「ははっ」


グラウンドに向かって叫ぶと、隣で一馬が笑った。


「なんだよ?」
「結人と話してると、何の心配もない気してくるよ」
「だって心配ばっかしてたってしょうがないじゃん。もっと今を楽しめよ!」
「そーだな、も結人がいると心強いって言ってるよ」
「マジでっ?」
「俺もさ、あんま口に出せないようなこと、お前がサラッと言っちゃってくれるから、それが結構ラクになるんだよな」
「えっ・・。だろ、だろー?」


それはそれは、なんとも・・・


「じゃあもう今日は二人を激励しにオジャマするきゃないっしょ!」
「いや、それはいい・・・」
「行くもんねー!待ってろよマイハニー!」
「コラッ!」


そーかそーか、俺でも役に立ってることがあるのか。
それはうれしーことだ。

俺にはそんな事しか出来ないけど、やっぱ心配しながら待つより、今しかないその時のことを楽しみに生きてたほうが、幸せに決まってんじゃん。

スッゲー楽しみだ。早く産まれておいでよベビー!
君には何倍もの幸せが待ってるゼ。
なんてったって、こーんないいパパが待ってるんだから。

ちょっと心配性だけどな!













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