君色ぷかり




屋上は、休み時間になると人が多い。
なんでかってゆーと、空が見えて気持ちいいとか高いところはスリルがあるとか。

・・・んなわきゃない。
いい隠れ場だしもちろん職員室からも見えないから、悪いやつが集まってくるだけだ。
そうここは、カッコウの喫煙場なのだ。
だからってまさか俺は吸わない。そんなことしたら一発でレギュラー落ちどころか退部だって。制服に匂いがつくことすらこえぇよ。否定するのも難しいんだ。世の中あるものを証明するよりないものを証明するほうがずっと難しいんだよ。(お、俺今カッコいーこといった)

じゃーなんでこんな、喫煙者のたまり場なんて用も無い場所に来るかってさ。

「よー。お前また遅刻してきただろ」
「おーっす。まーねまーね、あたしってホラ、重役だから」
「何言ってんだバァカ」

長くて派手な爪先に細いメンソールの煙草を挟んで、がカラッと笑う。
そんないさぎいいの笑い方はこの清々しい青空にこそ似合えど、煙草は、似合わねーと思う。
でもは周りのやつらと同じよーに煙草をふかすし、きれーだった髪染めてバシバシに傷めるし、制服着崩してスカート短くして足さらけ出して歩くし、じゃらじゃら腕やら首やらにアクセつけまくってる。ちょっと見ないうちにまーた化粧濃くなったな。似合わねー。

ー、おまえ学校ちゃんと来ないとダブるぞ」
「だって起きれないんだもん。きのーもオールでさ」
「元気だなー」
「越野には負けるよ。バスケ部もーすぐ大会だもんね」
「よく知ってんじゃん」
「だって期待のバスケ部だし?」
「俺はエースだし?」
「エースぅー?越野がぁ?」
「なんだよ、文句あっか」
「エース名乗りたきゃ仙道こしてみろってー」
「おまえ、俺がちょっと本気だせばなぁ・・・。いや、やめとこ」
「あはっ、なんだよ最後までいきがれって!」
「いいよムナシーから」

制服の袖を口に押し当ててはカラカラ笑う。
俺は知ってるんだよ。お前はそーやって俺に煙がつかないようにすることとか、俺が近づいてくと絶対煙草消すこととか、他の連中の煙がつかないようにお前のほうから寄ってきてくれるとか。
お前はそーゆー気配りっていうか、人のこと考えられる人間でさ、やっぱ煙草なんて、めちゃくちゃ似合わねーんだ。

「なー知ってるか?週末に流星群がくるって」
「うん知ってる知ってる。みんなで見にいこうかとか話してた」
「みんなって誰」
「なんか、あそこにいる子らと。あたし行かないけど」
「行かんのかい。なんで?」
「だって二人で行くんだもーん」
「あーあ、デートですかぁー」
「はい、デートですよー」

に男が出来たのは、2年になってからだと思う。
それからだ。の周りの人間が変わってって、自身もちょっと変わってって、こんな屋上にタムロうよーになったのは。つまり、付き合った男がそーだから、もそーなっちまったわけだ。
そう、がこんなになっちまった元凶は、の彼氏にある。

「あーあ、いーよなぁ。俺だって星見に行くなら女と見たいっつーの」
「誰かに声かければいーじゃん。越野だったらすぐ出来るって」
「よっくゆーよ」
「ほんとほんと。越野じゅーぶんモテるって。あっさり行くーって言われるよ」
「じゃーおまえが付き合えっ」
「ム・リー」

冗談に本気8割混ぜて言ってみたら、100%冗談で返された。
まーわかってたことだけど。

あーあ。

「いーよなぁ男もちは。なんでも楽しめちゃうよなぁ」
「んー、そーでもないよ。いろいろあるって」
「なんだよ、いろいろ」
「いろいろは、いろいろだよ」

ちらりと、の笑顔が曇る。
しつこく口を押さえてるのは煙草の匂いを気にしてじゃなくて、たぶん、微妙な表情を隠してんだ。

「なんだよ、またケンカか?」
「んーまぁ、いろいろあるさー」
「こないだ仲直りしたーって言ってたばっかじゃんよ。今度は何」
「いやいや、越野に相談するほどのことでは」
「いーじゃんラクになるなら言えよ」
「やーめーてー」

きゅうっと両耳を押さえてフラフラ離れてくは、慰められるのを拒否した。
わかってるんだろう。慰められると自分が弱くなってしまうこと。
何より、俺にそれをされることを悪いと思ってるんだ。

お前、俺がお前に惚れてるの、わかってるからな。

「ま、週末までに仲直りできなかったら言いにこい。場所確保しといてやっから」
「それってビミョー」
「なんだよ、喜べよ。そして俺に感謝しろ」
「うわ恩着せがましー」

だから今は、8割の本気を冗談でねじ伏せて、笑ってやるしかない。
笑わせてやるしかない。
お前が、やっぱ煙草は身体に毒だと、気づくまで。

じゃーね、と俺から離れてくは、また煙草にしゅっと火をつける。

ー」
「んー?」
「元気だせよ、ちゃんと学校もこいよ」

透明の空気にぷかりと毀れる煙すら愛しく感じる俺は、相当重症だと思うわけだ。
未練がましかろうが、恩着せがましかろうが、構いたくて堪らない俺は、結構切ないわけだよ。

「越野の彼女って、ぜったい幸せだよね」
「・・・」

ぷかり、白い煙がを隠す。

「いーヤツだもん、アンタ」
「ははは、今頃気づいたか!」
「ほんと、気付かない私ってチョーバカ。バイバイ」
「おー」

バイバイ。
手を振って、煙の巣窟から出ていった。

「あーくっそぉ、匂いついちまった」

悪いやつだ、お前は。
そんなこと言われちゃ、俺はいつまでたっても、お前に冗談をかけ続けなきゃならない。
煙草の煙の中へ飛び込まなきゃならない。退部になったらどーしてくれる。

「くそぉ・・・」

ごしごし。ごしごし。
取れない。匂いも、お前も。

でもこの匂いすら、お前色な気がする俺は、やっぱ、相当重症だ。





君色ぷかり