Fanfare!




べつに、ヒトメボレだとか、ホレたとか、そーゆーんじゃねーんだよ。

「あのー」
「あ?」
「大楠くん?」
「なんだよ」

ぜんぜん知らなかった。同じクラスだったんだけど。
そりゃ何人かちょっとカワイー子くらいは覚えてたけど、そいつは、ぜんぜん。

「きのう英語の小テストがあってね、授業休んだでしょ?」
「あー」
「放課後再テストだって。授業終わったら英語の松井先生のところに」
「松井?知らねーな」
「ああ、じゃあ一緒に行く?私も受けるの、きのう学校休んでたから」
「いや、いーわ」
「行かないの?」
「どーせ行ってもわかんねーし」
「問題?あ、じゃあコレあげるよ」

突然話しかけてきた女は、手に持ってた紙を俺に差しだした。
それには、英語でつらつら、なんか書いてある。

「友だちに問題聞いたからわかってるんだ、全部じゃないんだけど」
「ハッ、いーのかそんなズルしちゃって」
「いらないならいいけど」
「てか問題だけもらっても結局わかんねーし」
「それは自分でやって。私もそこまで英語得意じゃないし」

じゃあお互い頑張りましょう。
それだけ言って、そいつは自分の席に帰っていった。
俺は手渡された紙を見るけど、やっぱどうしたってわからない。

「なぁ、おい」
「おいって言わないで、
サン、間違っててもいーから答え教えてよ」
「あ、行く気になったんだ」

そいつ・・・の席のとなりに座って問題を解いてると(いや、解いてるのはで俺はたまに辞書引く程度)、周りのクラスメイトから視線が注がれた。コソコソささやき合って、バカにするみたいに笑って、睨み返すとすぐ目を反らす、よくある視線。

「違う違う、u-n-c-l-eだから。nじゃないよ、uでひかなきゃ」
「あーもーわかんねぇ」
「わかんなくないよ、あいうえおがabcになっただけだよ」
「俺ぁ日本人なんだよ、エーゴなんて一生使わねぇよ」
「英語はともかく、辞書の引き方知らないのはどうかと思うなぁー」
「バカにしてんのかテメェ」
「早く調べてくださーい」
「チッ」

人が向けてくるそんな目には、慣れてる。
教師だろうと生徒だろうと、俺たちを一目見ればみんな同じ態度。
今さらそんなの、怒りもしねーし気にもしねー。

「おい、このhiroshiってなんだ」
「ヒロシ」
「だからなんだよ」
「ヒロシだよ、人の名前。ヒロシくん」
「・・・。なんっだそりゃ、名前くらい日本語で書きやがれ!」
「だって・・英語だから・・・」
「コソコソ笑ってんじゃねぇよ!」
「あははははっ」
「堂々と笑ってんじゃねぇよっ!」

廊下を歩けばみんな避けていく。ちょっと見ただけでビビって目を反らす。
こんな風に、何の抵抗もなく話しかけてきたり、さも当たり前のように親切してきたり、肩叩いて大笑いしてきたり。

「大楠くん、すごいキンパツだね。自分で染めたの?」
「おー、これは俺のしょちょうだ」
「へぇ、所長かぁー」
「おおよ」
「ははははははは」
「だっから何なんだよオメェはよ!」

名前を、呼んだり。
そういう、仲間内でしか見ないような当たり前なことを、そいつはやけに普通にしてきたものだから、目についただけだ。

ちょっと、頭に残っただけだ。

ちょっと、胸に刺さっただけなんだ。




Fanfare!