冬は決まって寒くて目が覚めるけど、その日は違った。
目覚めるとき、必ずふとんが半分ベッドの下に落ちているけど、その日は違った。
いつもの時間に煩い目覚まし時計に起こされて夢を消されるけど、その日は違った。
いつも眠い目をこすり見る景色はただの狭いワンルームだったけど、その日は違った。
チェストの上の写真はいつも古い笑顔のまま佇んでいたけど、その日は違った。
「おはよ、」
「・・・」
ベッドの中でふとんに包まれて、夢か現実かも分からない。そんな状態で、朝の挨拶なんてくれるはずのない声が聞こえたのだから夢だという方が納得いく。こんな風に朝を迎えて心が満たされたあとで、二度目の目覚めを迎えた朝は、いくらでもあったけど。(つまりただの夢だったという事)
今朝の私は激しい睡魔に襲われている。今しがた聞こえた声に答えることも出来ずに瞼が堅く閉じたまま、でもすぐそこにいる空気は感じている。
ベッドの端が沈んでギシリと音をたてると、額にやわらかい感触が当たり、まだ目を開けない私のすぐ鼻先で、ふ、と笑った息がかかった。
こんなに目覚めの悪い朝でも、今日が何日かは分かってるのよ。
おかしい?
真っ暗な部屋の中、ひとつのふとんの中で、暖め合うようにして眠った。
重ねたふとんに暖房にと、こんなに重装備なのに、笑っちゃうよ。
ふたりして、服を忘れてしまったね。
外は雪が降るほど凍えそうなのに、熱は上がる一方で。
もみの木も、イルミネーションも、サンタクロースも。
雪も、ケーキも、プレゼントもクリスマスソングも。
それらが揃う日だからこそこうして私たち会えているのに、そのどれにも目をくれずに、お互いばかり見ていたの。
笑っちゃうでしょ?
ねぇ、あなたは知ってるかな。
眠ってる間も、あなたはやさしいの。あなたは私にふとんをかけるから、うずくまるように眠って、寒いに決まってるじゃない。私もあなたにふとんを分けてあげたら、あなたはまた私にかけて、眠るの。
だからあなたに半分かけてあげるんだってば。
寝ぼけてる。慌ててふとんを戻してる。
だから、あなたにも半分、掛けてあげたいんだってば。
おかしいの。また全部私にかけてくれてる。
愛しくて愛しくて、おでこにキスをしてみる。
あなたはくすぐったそうに笑って、私にもくれるから、またあげたくなる。
ああ、だからこんなにも眠いんだ。
瞼の向こうが明るいのは、わかってる。
もうとっくに朝が来て、外はきっと雪が積もっていて、白くまぶしい光にきっとあなたは目を細めてる。
私も目を覚ましたいの。覚まして、あなたを見たいんだけどね、体が言う事を聞いてくれなくて、ごめんね、起きられないの。
体の上にやさしい重みがかかる。
ふとんの向こうから包むように寄りかかって、耳の傍でクリスマスソングを口ずさむ。クリスマスだもんね。楽しみたいよね。
ごめんね、今、起きるから。
鼻歌はだんだんと大きくなって、次第に言葉を口ずさみはじめる。
なんて言ってるのかわからないよ。せめて英語で歌って。
まるでもみの木の下のプレゼントを心待ちにしている子供のように、その声は楽しそうに弾む。
歌い終わると、次にその唇が私の耳に降って、頬に鼻に、目に額に、髪に口に。
おきてよ、おきてよ、そんな声が聞こえそうなくらい。
そうね、そろそろ起きないと。
そろそろ飛行機の時間だものね。
本当は一生覚めたくないけど、ずっとこのまま、側にいてほしいけど。
「・・・くすぐったい」
「あ、おきた」
「おはよう」
目の前でユンが眩しく笑う。
「Merry Christmas」
待ちに待った言葉を呟きながら、朝一番のプレゼントを額に落とす。くすぐったいと、私は笑う。僕にも、なんて子供っぽく口唇を指差して、ちゅとあげると、ユンはくすぐったそうに笑った。
一年に一度の聖なる夜。
一緒に眠ろう。先の事など、忘れてしまって。
そしていつかは、毎日が聖なる夜になるよう、
眩しい光が差せば、目を覚まそう。
次の聖なる夜まで、あと、365夜。
クリスマス企画2005作品