ぽーん、と、ぬいぐるみをニアの背中にぶつけると、ゆっくりとニアは振り返った。


「なんですか?」
「・・・」


眉間に深いしわを寄せてじとりと睨み上げてやるけど、何も言わない私にニアは、すぐに顔を元に戻してまたパズルをはめだした。

今私がニアに不満を持ってることは、ニアでなくとも私の顔を見れば一目瞭然だけど、ニアはそんな私にさらに深くどうしたのかなんて聞かない。きっとニアは「何かあるんだろうけど、言わないなら聞いてやらない」と思ってるんだ。言いたいことがあるならはっきりと口で言え、判ってもらおうとするな、と。

そんなニアに、私はさらにしわを深くする。
ひたりと音をたてないようにニアに近づいて、ニアの手元に転がってるパズルのピースをひとつそっと取ってやる。ニアは静かに振り返る。私は知らん顔でつんと顔を背けてやる。


、」
「言いたいことは口でいってください」
「わかってるならそうしてください」
「いや」


いら、
重い前髪の下でニアが気分を害した。

それでもニアは私に甘く歩み寄ろうとしない。
どうしたんですか。なにがほしいんですか。
判ってるだろうに、甘く、やさしく、折れてくれない。
不満をどんどん募らせる私は、フンとわざとらしく鼻を鳴らして部屋から出ていった。

だからといってこの家に、ニアのいるリビング以外暖かい場所はない。
雪も積もる真冬、ストーブも暖房もない部屋で過ごすのは自殺行為だ。
冷たい床から白い窓から冷気が伝ってくるのに、だからって今更寒いからとニアの隣へ戻れない。戻ったところでニアは私に振り返りもせず、あまつ、ほら見たことかとにやり笑うかもしれない。簡単に想像がつくその顔にいらっと頭に血が上った。


滝のような水の音が響くバスルーム。
冷たいタイルに座り込んで、蛇口から流れ出るお湯に手を晒しながらバスタブに溜まっていく湯面を見下ろしていた。暖房がないから湯気で暖をとるなんて、ものすごく寂しい。

クリスマスなのに。

激しい水の音に紛れて、ず、と鼻をすすった。
まさかお風呂に鼻水は混ぜれないし、一度泣いたら、泣き止む自身がないから。

すると唐突にガチャリ、バスルームのドアが開いた。
なんでニアはノックができないんだろう。(必要がないからだ)
急に開いたものだから涙を拭うヒマもなく、じわり滲んだ目でニアを睨み繧ーてしまった。迫力も何もあったものじゃない。オマケにこんなところで篭ってさめざめ泣いてたのかと思われるのも嫌だ。



「なによ」
「ピースが幾つか足りません」
「・・・」


だからどーしたっ!

いら、どころかわなわなと震えてしまいそうだ。
この人は、自分は人を甘やかさないクセに自分のことは甘やかせようとするのだ。なんか間違ってる。育て方間違ったよロジャー。


「ニアのパズルなら水没しちゃった」


ふい、と目を逸らしてバスタブに乗せた両腕に目を押しつけた。
ニアからこっそり(バレてただろうけど)奪ったピースは今溜めてるお湯の底。奪っても文句をいわれなかったから沈めてやった。だってこいつは、クリスマスの夜にずっとニアに触れられてるのだ。いやば恋的だ。天敵だ。


「これじゃはめられないじゃないですか」
「はめなきゃいいのよ」
「はめなきゃパズルのピースじゃない」
「じゃあパズルなんてやめればいいのよ」


溜まっていくお湯の底でゆらゆら揺れてる真っ白いピースより私に触れればいいのよ。年がら年中愛撫しても厭きないものはピースじゃなく私にしたらいいのよ。

くだらないピースへの嫉妬はとどまることを知らず、女々しい涙はとどまることを知らず。湿気の篭った白いバスルームにさめざめ流れた。

ふぅ。
背中で聞こえたため息がやたら大きく聞こえた。


すると、どうしたことか、突然ニアが後ろからがばりと私を抱き包んだ。


「どうしたんですか」
「え、え?」
「なにがほしいんですか」


なんだ。なんなんだ。
急にニアが、私がほしかった言葉を吐きだした。
急にその辺の人みたくやさしく私を抱きしめた。

お湯に沈む私の手の甲に手を被せて一緒に熱いお湯の中に白い手を沈め、寒い背中にくっついてうなじに口唇をつけて、ぴたり、隙間なんてないくらいに抱きついた。


「クリスマスですから、なんでもしてあげますよ」


にやり、後ろから大きな目を覗かせて笑うニアは私がほしかったニアなはずなのになんでだかひやりと恐怖を感じ、あんなに求めていたのになんでだか、違和感だらけ。


「・・・わかった、ニアはニアのままがいいんだね」
「わかりましたか」
「うん」


ごめんなさい。
あした新しい真っ白のパズルをプレゼントします。

でもせっかくだから、もう少し、もう少しだけ、
胸焼けするほどの甘い言葉を私にプレゼントすればいい。


「少しといわずに朝まで付き合いましょう」
「・・・誰」


聖なる夜の延長戦。

ニセモノニアは、1年に一度でいい。












Merry chiristmas 2006.
No.1- Near write by URAN @ D.N.A

 

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