kiss me kiss you - Levi:attack on titan


(リヴァイは普段兵舎だけど彼女と過ごすためにおうちも借りてるよ設定)


通常訓練を終え昼休憩の時間になり、兵士たちは訓練場を後にする。
立体機動装置を外すリヴァイもまた出口をくぐり本部へと向かった。
その道中、傍に立つ療養棟の治療室に、白衣の彼女のうしろ姿を発見する。
しかし何故かその彼女の正面に、ハンジの姿まで見える。
その組み合わせだけでいい予感はしなかったが、その上何だかハンジは慌てた様子。
俯く彼女の頭を撫ぜながらしきりに言葉をかけ、取り繕うような仕草を見せていた。


「おいハンジ」
「えっ?」

いやーまいったまいった、と頭をポリポリ掻きながら本部の食堂へと入ってきたハンジを
早々にリヴァイの低い声が襲いかかりハンジはドキッと体を飛び跳ねさせた。

「な、なんだいリヴァイ?」
「テメェ今まで何してやがった」
「え? なにって・・・何か予定でもあったっけ?」
「あいつに何してたんだって聞いてんだよ」

なんとか笑って誤魔化そうとしたハンジだけど、目の前のリヴァイはその睨みを緩めてはくれない。

「いやね、ちょっとした出来心というか。彼女があんまりリヴァイの話を楽しげにするものだから、ちょっといじめたくなっちゃってさ。もしリヴァイが他の子を好きになったらどうする? って聞いたんだ。ほんの冗談のつもりだったんだよ。どんな顔するかなーって」
「何くだらねぇことしてんだこのクソメガネ」
「いやー悪かったよ、まさかあんな風になるとは思わなくて」
「あんな風?」
「もう思考停止って感じで、動かなくなっちゃってさ。君からもゴメンって言っといてよ」
「・・・」

謝るハンジを一蹴りし、リヴァイは去っていった。
一体どんなことがあったのかとあぐねていたリヴァイだけど、聞いてみればそんなこと。
バカバカしすぎて怒る気にもならないくだらないことだった。
たかがそんなこと。
もしもの話もいいところ。
なのに、何をやってるんだ、あいつは。

ほとんどの兵が一日の訓練を終え、夕暮れが近づいたころ。
療養棟前の訓練場でリヴァイは最後のひとりになるまで居残っていた。
時折訓練場の外に目をやり、療養棟から出てくる人に目を配る。
何度か見過ごした後、ようやく姿を見せた彼女を見つけ、リヴァイは柵の方へと寄っていった。

「おい」

声をかけるとすぐに彼女は振り向き目を合わせる。
だけど、いつもならすぐ笑みを見せ駆けよってくるところを、今は何やら戸惑いを見せている。

「帰るのか」
「あ・・・はい」
「うちに来るか?」
「あ・・・今日は・・・」
「何かあるのか」
「い、いいえ」
「ならメシ作って待ってろ」
「はい・・・」

晴れ切らない彼女の目を見つめるも、うまくは合わさらない視線。
やれやれとまたリヴァイは息を吐いた。

今日中にまとめなければならない書類が今日に限って多く、家に着いた頃には陽が落ちていた。
馬をつけ玄関を開けると、ランプの明かりがちゃんと来ている彼女の存在を示す。

「おかえりなさい」

音を聞きつけ玄関に駆け出てきた彼女にリヴァイは安堵した。
帰宅したリヴァイの世話をする時も夕食の間も、彼女は普段通りだった。
笑顔で労をねぎらい、同じ食卓で食事を取り、他愛のない話をする。
リヴァイが湯を浴びている間に片付けをし、ソファに腰掛けるリヴァイにお茶を差し出す。
途切れない笑み。楽しそうな表情。普段通り。・・・普段以上。

「今日、ハンジと何話してた」
「・・・え?」

突然切り出したリヴァイの言葉に、カップに口をつけようとしていた彼女は間を置いて答える。

「い、いえ・・・何というほどでも・・・」
「俺が、他の女を好きになったら?」
「・・・」

取り繕うようだった笑みが溶けて消える。
いや、残り香のような笑みはあるが、そのまま止まってしまう。

「いちいちあのクソメガネの冗談に付き合うな」
「はい・・・」
「それでそんな下らんことにいちいち傷つくな」
「・・・」

ただの冗談。他愛ない戯言。ありもしないもしもの話。
なのに彼女の表情は次第に曇り、今にもその瞳から降り落ちそうなほど。

「想像で泣くな・・・」
「だ、だって・・・本当に、もしそんなことになったらって、いろいろ考えたら・・・どうしていいのか、分からなくなって・・・」
「二・三発殴ればいいんじゃないか」
「殴るだなんて、そんな・・・」
「俺がそんなことを言いだしたら、お前にはそのくらいの権利はある」
「私だって、そんなこと、ぜったいに嫌だけど・・・、もし・・・もし・・・リヴァイさんが、本当に、この世界の、どこにもいなくなったら・・・」
「・・・あ?」
「そんなことになるくらいなら・・・私のそばにはいなくても・・・生きててくださるだけで」
「どこまで話が飛ぶんだ」
「他の・・・方とでも、リヴァイさんが、幸せでいてくださるなら・・・私は・・・祝福を・・・」

俯く目からついにポタリと落とす彼女は、両手で顔を覆いさめざめ涙する。
はぁと深く息を吐き出し、リヴァイはボロボロ落とす彼女を隣へ引っ張りソファの上で向き合った。
他の女を好きになったら、などと、ありもしないことに踊らされて・・・と思いきや。
彼女の思考はもっともっと深くに迷宮入りし、男女のソレどころか生死の境目にまで飛んでいた。

「俺が死ぬくらいなら、他の女とでも祝福すると」
「・・・いやです・・・それも絶対にいやです、けど・・・」
「ならお前がすることは一つだけだろう」

ず・・・と涙を引きずる彼女は目の前のリヴァイに目を向ける。

「俺をとことん惚れさせとくことだ。ほら、キスしろ」
「・・・」

涙に溺れる彼女のそばに顔を寄せ、指先で彼女の口唇を招く。
滲む瞳は戸惑い揺れるけど、そっと近付きリヴァイの口唇に口唇を寄せた。
触れる程度の下手くそな口付けだったけど、合わされば愛が溢れて何度も何度も重なった。
リヴァイはそのまま彼女の身を抱き後ろに倒れる。
離れることを忘れた口唇は次第に深く求め交わり、涙も忘れて酔いしれた。
リヴァイの手が背中から腰へと撫ぜ下ろし、シャツの下へと入り込むと、今度は素肌を伝いながら一気に捲し上げシャツが脱がされた。

「やめるな、俺を惚れさせるんだろ」

外気がひやりと背中を撫ぜ、恥ずかしげに頬を染める彼女の乱れた髪を撫ぜながら
それでもリヴァイは何度も口付けを求めるから、その愉しんでいるような口唇に寄っていった。
リヴァイの手が髪から背中から、やがて胸へと滑って、重なる口唇の合間から息がこぼれる。
刺激に体をビクリと震わせると、口付けながら目下のリヴァイがフと吹き出した。

「俺の上に裸で乗る女なんてお前だけだ」
「っ・・・!」

優越に浸りながら、悦楽に興じながら、身体を弄びながら。
リヴァイは口付けを強要し続ける。

俺がキスを受け入れるのはお前だけ。
お前の体にキスをするのも俺だけ。
それ以外、この世界に何が必要か。




星の瞬く夜だから - Levi:attack on titan


(古城生活中。男二人の猥談)


 ご苦労様です、と言葉を添えて目の前に置かれたカップ。
 報告書から目を上げると同じカップを持って斜め前の席に座ったのはエルドで、めずらしいなとリヴァイは思った。
 いつもお茶を差し出してくるのは大抵ペトラだから。

「エレン寝ました。寝ましたっていうか、部屋に入りました。番はグンタです」
「ああ」
「すいません、俺が入れた茶で。せめてペトラがいいですよね」
「これが酒なら誰が持ってこようと歓迎だがな」
「ですよね。酒、支給されないですかね。エレンの歓迎会ってことで」
「あいつに暴れられたら酔っ払いよりタチが悪い」
「はは、巨人も酔っ払うんですかね、試しに飲ませてみましょうよ。新しい倒し方が見つかるかも」
「クソメガネがすっ飛んでくるからやめろ」

 夜になって気温が下がると石畳に囲まれる古城の中はさらに温度が下がる。
 いくらか塞いだものの隙間風は入るし、そもそも窓が割れている部屋はいくつもある。
 暖炉のあるこの食堂だけが夜にいられる部屋だった。

「ペトラは部屋か」
「ですかね。さっきまでオルオとやり合ってましたが。あ、やり合ってるって言ってもアッチのやり合うじゃないです」
「・・・お前も溜まっているな」
「ええもう。兵長は平気なんですか」
「溜まるな」
「ですよね」

 この古城生活に入ってかれこれ20日。
 限られた食材での食事も、狭苦しい寝袋もそろそろ苦痛に感じてきた今日この頃。
 街からも離れ、余興も何もないここでの楽しみなど釣りや狩りくらいだが、それはむしろ食材調達。

「兵長は、アレですか。やっぱ女は胸っすか」
「お前くらいの年の頃はそれがすべてだったな」
「マジっすか。俺は胸です。とにかく胸です」
「でかけりゃいいってもんでもない」
「変わるもんすか」
「変わるというか定まるな。女という漠然としたものから目の前のヤツに」
「ああー・・・まぁ確かに彼女、そんな胸は・・・・・・いや、すんません!」
「謝ることじゃない。片手でも余るレベルだ」
「じゃあ彼女、どこがいいんですか?」
「あいつは肌と、脚から尻にかけてだな。あとなかなかいい声で鳴く」
「声! いいっすねぇ。尻は気付かなかったな、今度見ていいっすか」
「見れるもんならな。あいつのガードの固さは鉄並みだ」

 ハハ! と硬い石畳にエルドの笑い声が響く。
 すると同時にリヴァイの背後で扉が開く音がして、エルドはパッと口を閉じた。

「ビックリした。今の、エルド?」
「ああ、悪い、デカイ声でちまった」
「何を笑ってたの?」
「いや大した話じゃねーよ」
「なによ、気になるなぁ」

 いくら兵士仲間とはいえ、まさか若いペトラにこんな話をしていたと言えるわけもない。
 ペトラは二人の前のカップを見て私もお茶いただきますと暖炉の上のポットを手に取った。

「ペトラ、内容はこれでいい。明日までに清書しておけ」
「あ、はい!」

 カップに熱いお茶を注ぎエルドの隣の椅子を引こうとしたペトラに、リヴァイは目を通していた報告書を差し出した。
 急ぎリヴァイに駆け寄るペトラは紙を受け取り、カップとともに部屋を出ていった。

「さすが、迅速な人払いですね」
「ガキを交えて猥談ともいかんだろう」
「ガキって、ペトラ彼女とそう年変わんないでしょう。むしろ彼女の方が随分幼く見えます」
「言ってやるな、本人相当気にしてる」
「ペトラもなぁ・・・経験ないんだろうなぁ。でもあいつけっこうモテてますよ。何人か言い寄ってるんじゃないですかね」
「あいつが黙ってないだろう」
「はは、そうです、なんだかんだで邪魔するんですよね、あいつが」

 ぐいとお茶を飲み干したリヴァイがカン、とカップをテーブルにつける。

「ああ・・・ヤリたくなってきたじゃねーか」
「すんません。明日くらいにまた来るんじゃないですか、彼女」
「あいつが来てもここじゃどうにもならん。生殺しだ」
「時間作りましょうか。俺とグンタでエレン見てますから、あいつらは買い出しにでも行かせて」
「任務中だ」
「たまの息抜きも必要ですよ。息抜き? 精抜き?」
「精なら割といつも抜いてる」
「俺最近2回いきゃあいい方なんですよね、年ですかね」
「年には勝てん。ある時ガクッとくる」
「兵長、最高何回いったことあるんですか」
「相手が違えば5・6回はいけたな」
「相手が違えばって、どんな状況ですかそれ」
「昔の話だ。だからまぁ・・・同じ女を何度も抱いてんのは、今だけだ」
「いい話っすねぇ・・・。でも問題発言ですよそれ」
「墓場まで口を割らん」
「そうですよ。そんなの知れたら彼女・・・」
「・・・」
「寒いっすね・・・そろそろ休みますか」
「ああ。凍りつきそうだ」

 冷えた外気にさらされて肌がブツブツと逆立ち、背筋からゾクリと悪寒が走る。
 めっきり冷えた手で空のカップに再び熱いお茶を入れて、エルドは扉に向かった。

「では兵長、貴重なお話ありがとうございました」
「間違ってもあいつで抜くなよ」
「御意。今夜もおとなしくうちのに慰めてもらいます」
「そうしろ」
「あ、兵長、とりあえず明日、彼女来たら釣りに行くので外出許可頼みますね」
「さっさと寝ろ」

 ハハッと再びエルドの軽い笑い声が響くと、ガタンと重い木の扉は閉まった。
 いい部下を持ったもんだ。
 パチパチと暖炉の中で燃える薪の音だけになった静かな部屋でリヴァイがひとりごちる。
 もう冷たい空のカップをゴロゴロと転がし、硬い背もたれに身を任せ天を仰ぐ。
 パチパチ、ゴロゴロ、パチパチ、ゴロゴロ。

「・・・・・・」

 ガタッと席を立ち、カップを手離しリヴァイもまた部屋を出ていった。
 日が暮れればランプしか明かりのない古城。夜は長い。各々の時間もまた長い。
 今夜も星の瞬く夜は深々と更けていく。





古城にて - Levi : attack on titan


(脈略なくがっつりエロ)(リヴァイとエルドの猥談の翌日)


 昨夜の満天の星空が暗示させた通り、翌日は朝から綺麗に晴れた空だった。
 季節の変わり目の高い空。薄い雲が青を彩って遠くの壁へと吸い込まれていく。

「ペトラ、報告書は出来たか」
「はい、出来てます!」

 朝食の後、日常訓練を終えた特別作戦班の面々が休憩しだした頃。
 リヴァイの元へいち早くお茶を運んできたペトラは昨夜頼まれた清書した報告書を差し出した。
 だがリヴァイはカップに口はつけたが報告書に手を伸ばさない。

「お前が直接本部へ届けろ」
「え? 私が・・・今からですか?」
「届けたら他の奴らにも必要なものを聞いて買い出しに行って来い」
「買い出し・・・?」
「もうここでの待機も半月以上が経つ。女一人で、お前も苦労があるだろう。今日一日自由時間にしていい」
「兵長・・・」
「日没までには戻れよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
「ただしオルオと一緒に行動しろ」
「ええ・・・」

 ペトラが苦い表情をすると、離れたところで聞き耳を立てていたオルオが「なんだその顔は!」と声を荒げた。
 俺と行動を共に出来ることを光栄に思え! 口を歪めて言い放つオルオにペトラはいい加減呆れも通り越し「ハイハイ」と流しエルド達の方へと歩いていった。

「買い出し? 兵長が許したのか」
「兵長が言いだしてくれたの。さすがリヴァイ兵長よね、部下のことをちゃんと見てくれてる。私感激しちゃった」

 石垣に腰を下ろし休んでいたエルドとグンタに「何か欲しい物ある?」と問いかけたペトラは、リヴァイの心配りに両手を組んでうっとりとした。
 そんなペトラに、エルドはクククと笑みを噛み殺す。
 グンタは「なんだ?」と聞いてきたが、いまだ夢見ているペトラは気付きもしない。

「じゃエレンにも聞いてからいってきます!」
「ああ」

 エルドとグンタの必要なものをメモしたペトラは浮足立って古城の中へ駆けていく。
 訓練を終えたエレンは今、城の入り口近くにある診療室にいる。
 皆が訓練をしている間にこの城へとやってきた主治医の彼女の検診を受けるため。
 そうしてペトラは報告書とメモを持って、馬に乗ってオルオと共に本部へと走っていった。

「エレン、釣りに行くぞ」
「え、釣り・・・ですか?」
「リヴァイ兵長が許可をくれた。どうやら今日は皆休暇だそうだ」
「休暇って・・・いいんですか?」
「1ヶ月もこんな城に閉じこもりっきりじゃ身がもたんだろ。兵長の心遣いだ、ありがたく頂戴しよう」
「はい、分かりました」

 ペトラがいなくなったかと思えば、今度はエルドが診療室へ顔を覗かせた。
 まさか休暇だなんて言葉をこの1ヶ月の間に聞けるとは思わなかった。
 兵長がそんな心遣いをしてくれるだなんて。エレンはとても新鮮なものを見た気になった。

「もう少し待ってくださいね、あと採血だけで終わりますから」
「ああ。馬を用意しておくぞエレン」
「はい、すみません! すぐに行きます!」

 休暇、釣りと聞いて、エレンは次第に体をわくわくと弾ませる。

「良かったわねエレン」
「ビックリした。兵長が休暇をくれるなんて」
「もうここでの生活も長いものね。ゆっくり羽伸ばしておいで。浮かれ過ぎて怪我しないでね」
「分かってるって!」

 採血をしている間も頬を紅潮させてエレンはそわそわし通し。その姿はまるで子供に見えた。
 検診を終えあっという間に診療室を飛びだしていくエレンは馬に乗り、エルドとグンタと共に川の方へと駆けていった。
 嬉しそうなエレンの姿に彼女はマスクの下で微笑む。
 普段ならピリピリと緊張感の漂う壁外調査前の調査兵団だけど、今日はこの空みたく、のどかだった。

「リヴァイさん、失礼します」
「ああ」

 診療道具をまとめ彼女は再び古城を出るが、その前に階上へ向かいリヴァイの部屋をノックした。
 ペトラとオルオ、エルドとグンタとエレン。班員の誰もいなくなった城は広く涼しくなんだか空虚にも思えたが、その部屋には差し込む日の光がリヴァイの白いシャツを光らせ温度をもたらしていたから、彼女はマスクを外し嬉しく笑んだ。

「エレン異常ありませんでした。今日はもう失礼しますね。エレン、エルドさんたちと釣りに行きましたから。休暇だなんて、そんなことあるんですね」
「今日だけだ。もう二度とない」
「エレンもペトラさんも、さすがリヴァイ兵長だって喜んでましたよ。お優しいですね」
「・・・」

 明るい窓辺の椅子に座るリヴァイも、いつもなら白いシャツの上にベルトとジャケットを身につけているが、今はそのどちらも着用していないことが今日という日の特別さを物語るようだった。

「リヴァイさんも一緒に行かれたらいいのに。気分晴れますよ」
「俺が行ったら意味がないだろう」

 陽だまりの中で立ち上がるリヴァイの言葉の意味が一瞬分からなかった彼女だけど、部下たちに気を使わせないためかと答えを見つけまた嬉しげに笑んだ。
 陽の光で温度が増している部屋をリヴァイは扉の方へ、彼女の元へと歩み寄る。
 すぐ目先まで来て立ち止ると彼女を静かに見下ろし、彼女もまたその目を従順に見返した。
 この古城での生活ももう20日程が経つ。その間、こうしてたまの逢瀬はあるもののそれは仕事でしかない。
 用件が終われば離れなければならない。どれだけ心が残っていても。

 リヴァイは見つめたまま頭を下げ彼女の口に口唇を寄せた。
 駄目だと思ったのに、その眼に見つめられれば身動きを忘れてしまって、彼女はリヴァイの口唇を待った。
 柔らかくぶつかる口唇。優しく食む口。漏れる吐息。繰り返される口付け。
 陽の光がリヴァイの背中でキラキラと光り輝いて、まるでそこは夢の世界だった。

 しばらく味わって口先をつけたままふと離れると、いつの間にか腰に回っていたリヴァイの手を感じた。
 白衣の中の腰から背にリヴァイの手が滑り込み、再び口唇が頬に当たりチュと音をたてる。
 そわりと肌が逆立つのを感じ、けれども、その感情に身をゆだねてしまうわけにはいかないから、彼女は苦しく感じながらもリヴァイの口唇から顔を引いた。

「・・・帰ります」
「・・・」

 きゅと口唇を引き締め、彼女はリヴァイの腕に手を添え離させる。
 肩のカバンをかけ直し、甘くほだされていた頬を引き締めパッと顔を上げ、また来ますねと笑んだ。
 そうしてリヴァイに背を向け彼女は開いている扉に向く。・・・けれどもぐと腕を掴まれ、そのリヴァイの腕を辿るように彼女は振り返った。

「何のために人払いしたと思ってる」
「え・・・?」
「俺が優しい? 笑い草だな」

 意味が分からず目をパチパチとさせる彼女と相反し、落ち着き払ったリヴァイの手が彼女のカバンを肩から下ろし床に放った。
 一度も離れずに迫ってくるリヴァイの鋭い眼光が動揺の彼女を突き刺す。

「リヴァイさ・・・」

 再び口を塞ぐ口唇。けれどもそれはさっきのような甘く柔なものではない。
 口の奥深くまで重ね合わせ、開いた隙間から侵入する舌が彼女の口の中で同じ感触を探った。
 リヴァイの厚い胸と強い腕に挟まれ彼女は身動きが取れないながらリヴァイを離そうともがく。
 けれどもそんな力は敵わずに、リヴァイの強い手が今度は白衣を肩から下ろし彼女の腰を伝って腹部のシャツのボタンに寄っていった。
 ぷつりぷつり、腹から胸へと手がボタンを外しながら上がってくる。
 ボタンがすべて取られるとリヴァイの手は衣服の下へ滑り込み素肌を撫ぜながら彼女の胸を掴んだ。
 ビクリと肩を震わせ声を絞るも、塞がれたままの口から言葉は生まれない。
 胸を揉みほだすリヴァイの右手。距離を取ることを一切許さない背中の左手。
 なんとか言葉を出そうとするあまり口端から液がこぼれ落ちる。
 シャツの前が肌蹴て寒さが余計に肌を逆なでる。
 明るい日の光の中で無くなっていく纏いがさらに羞恥を刺激した。

「腕。白衣脱げ。汚したくねーだろ」
「駄目、駄目です、リヴァイさん・・・職務中ですから・・・」
「本気で止めたいなら最初から受け入れんじゃねぇよ」

 彼女の腕で止まっていた白衣を脱がすとパサリと石の床に落ちる。
 リヴァイの手が彼女の細いベルトを外すと腰を抱かれ持ち上げられ、壁際の土台だけのベッドの上の寝袋へと下ろされそのまま下着ごとすべてを引きずりおろされた。

「やっ・・・リヴァイさんっ」
「悪いがあまり余裕がない。時間も、俺もな」

 靴がカツンと石の床に落ちる。その上に脱がしたズボンも覆いかぶさる。
 リヴァイは首元のスカーフを外しながら彼女のヒザに噛みつき、そのまま脚に舌を滑らせながら太ももへと徘徊し柔らかな内腿に吸いつき跡を残した。
 その光景を、彼女は明るい陽の光の中で目にして堪らず赤面してしまう。
 こんなこと。こんな明るい部屋の中で、シャツ一枚しか残っていない乱れた恰好で、まさかこんなこと。
 ぬるく柔らかな感触が次第に核心へと迫ってくる。彼女は見ていられずに目を背けた。
 ひたり、舌先がもっとも敏感な個所に当てられる。ぞくり、体を支える背筋にしびれが走る。

「おい、こっちを見てろ」
「っ・・・」

 内腿にチクチクとリヴァイの髪が刺さり、脚の間で言葉を発したリヴァイの吐息がまたぞくりと神経を撫ぜる。
 舌をあてがいながら目を向けてくるリヴァイと目が合うと動揺と羞恥は最上級に上り詰め、涙がまつ毛を濡らした。
 細かな声と熱い息が耐えられず彼女は口を覆い塞ぐ。
 それでも声は毀れ体はビクリと跳ね上がる。熱く強い舌がぐいぐいと押しつけ舐め回してくるから。

「リヴァイさっ・・・、もう、だめっ・・・」

 ビクビク、わずか一点から全身へ刺激が突き走る。ゾクゾク、体の裏側から何かが押し迫ってくる。
 感じたことのない、何か。

「やだ・・・やだ、リヴァイさんっ・・・」
「は・・・」
「ダメ、ダメッ・・・」

 逃げる彼女の腰を押さえ、リヴァイは彼女の脚を上げさせるとさらに強く圧迫し溢れる液を飲みこんだ。
 ビクビク、支える彼女の脚が過敏な反応を見せる。細い腕が体を支えられなくなる。
 女のこんな様子は当然見たことあるリヴァイだが・・・彼女で見るのは、初めてだ。

「いやっ・・・リヴァイさんっ」
「怖がるな、感じろ」

 きつく握りしめる手で真っ赤な顔を押さえ、迫りくる波に押し流される彼女は全身を硬直させて感情に耐えた。
 ビクンッ・・・背がのけ反り肌が逆立ち、聞いたことのない彼女の悩ましい声が天井に放たれた。
 後を引く痺れがいつまでたっても彼女の脳内をかき混ぜる。
 静まった彼女の熱い体から口を離すリヴァイはベトベトとまとわりつく口回りを拭いながら、荒い息遣いで起伏する汗ばんだ彼女の体の上を辿り顔を押さえている彼女の真上にきた。

「覚えとけよ、その感覚。まぁ忘れられんだろうがな」

 呼吸で汗ばむ胸を膨らまし、すぐそばでリヴァイの声を感じながらも彼女は手で顔を隠したまま。
 リヴァイはその手を掴み引き離す。赤く色づいた熱っぽい頬、涙に濡れる黒い瞳。
 力ない彼女の瞳。リヴァイは熱い頬に掌をあてまつ毛の涙を親指で拭う。
 すると彼女の目がゆっくりとリヴァイを見上げて映し、とろけそうな彼女の表情がさらに下腹部にこみ上げる欲情を募らせ、リヴァイは服を脱ぎ捨てた。

「リ・・・ヴァイさ・・・んっ・・・」
「はっ・・・」

 彼女の体内で興奮がぐちゅぐちゅと音を立てて膨らみ続ける。
 熱い熱い、柔い柔い。これまでにない感触がリヴァイのもっとも過敏な部分を飲みこみ刺激し、思わず意識が飛びそうだ。
 これまで何度も彼女の中で果ててきたのに、それらすべてがまるでままごとだったかのよう。
 いかせた後の体がこんなに気持ちいいとは。こんな快楽。こんな感情。

「おい・・・あまり抱きつくな、動けねぇだろ・・・」
「・・・も・・・苦しいです・・・こわれそう・・・」
「・・・」

 彼女の言葉でまたゾクリと肌が逆立つ。
 まったくこいつは・・・
 舌を打ち、リヴァイは彼女の細腰の下へ腕を差し込むと強く抱き寄せる。きつく抱きつく彼女が耳元で鳴いた。

「いいんだよそれで。俺はお前を壊したいんだよ。もっと俺を求めろ。こんなとこまで来ておいて・・・さっさと帰ろうとしてんじゃねぇ」
「リヴァイさッ・・・」

 強い力で引き寄せる腰にどこまでも沈んでいきそう。
 耳元でリヴァイを呼び続ける彼女の声が麻薬のように回り、もうこの世界がどうなろうとどうでもよくなって、世界で最も愛しい言葉を知った。
 振動とともに毀れ続ける彼女の声が耳を刺激し、沈み続ける快楽がやがて突き昇り、予期せぬうちにリヴァイの快楽は彼女の中で放出される。
 ビクビク、ビクビク、いつまでも後を引く痙攣が彼女の柔な体を痛く抱き締め、静かに遠のいていく意識をそのまま手放したくなった。
 だんだん薄れていく意識の中で、抱きつく彼女の腕を引き剥がす。
 力なく目を閉じている彼女の小さな赤い口唇に、リヴァイは深く口付けた。

「ー・・・ん・・・」

 汗ばむ身体から熱が溶けていき、冷えた身体に寒気を感じふと目を覚ます。
 意識が朦朧として目の前に何があるのか分からないが、抱き締めている柔らかい身体だけは覚えている。

「・・・」

 目の前の彼女を見て、リヴァイはバッと頭を上げる。
 部屋が暗い。温度も下がっている。窓の外はなけなしの明かりを滲ませている。
 しまった・・・。リヴァイはまだ寝入っている彼女を起こさないようにゆっくりと回っている腕を離させ起き上がろうとした。
 けれども起き上がれない。体がまだ、繋がったままだ。
 こんな状態で寝てしまっただなんて。ガキじゃあるまいしとリヴァイは己を恥じた。

 しかしそれに感慨ふけっている場合ではない。
 もう日没・・・釣りに行ったエルド達も、買い出しに行かせたペトラ達も戻っているだろう。
 リヴァイは仕方なく彼女を起こし体を彼女の体内から抜き冷え切った彼女の体に毛布をかけた。

「リヴァイさん・・・」
「いい、お前はそこにいろ」

 薄暗い中で服を着るリヴァイは急ぎ部屋を出ようと扉に手を伸ばす。
 確か・・・この扉は開けたままになっていたはず。
 そんなことを思い出し、嫌な予感を感じながらリヴァイは階段を下りていった。
 食堂からは声と明かりが漏れている。その扉を、一度息を吐き出してから開けると、班員全員がリヴァイに振り向いた。

「あ、兵長、おはようございます!」
「よく休めました? 食事、とってありますよ」
「ああ・・・」

 最悪・・・バレたかとも思ったが、誰もそんな様子はなかった。
 ペトラはいつも通りお茶を用意するし、オルオはいつも通り腕を背もたれに堂々と座っているし、グンタはいつも通り食事の後片付けをしているし、エレンはいつも通りそれを手伝っている。

「ドアは俺が締めときました」

 そしていつも通り、リヴァイが不在時に班員たちへ指示をするエルドがリヴァイのそばに歩みより、手で口元を隠し誰にも聞こえない声で報告した。

「・・・」

 いい部下を持ったもんだ。
 リヴァイはいつもの席に着きながら、心の中でひとりごちた。





残り香 - Levi:attack on titan


あんまり良ろしくない系の性描写あり)


 溜まった書類がようやく片付き腹の底から息を吐く。
 もう何日こうして仕事に追われているだろう。
 けど今は、そのほうがよかった。時間に追われ面倒な仕事に追われ、忙しくしている方が。
 もう何日も触れていない、会ってもいない、彼女を思い出さずにいられるから。

 ランプの火も小さくなり、消え行こうとしている。
 眠るか、と椅子から立ち上がった時、ドアがコンコンとノックされた。
 日にちも変わろうとしている夜更け。こんな時間に訪ねて来る者など思いつかない。

「こんばんは」
「・・・守衛は居眠りでもしてんのか」

 ドアを開けてみると、真っ暗な先に女がいた。  先日もこんな夜更けに兵舎の廊下をこそこそと行き来していた女。
 それを偶然見つけたリヴァイは「夜這いならバレないようにやれ」と忠告した。

「ここに用はねぇだろ」
「体が空いちゃって。一緒に飲みません?」

 女は酒瓶を見せながらニコリと笑む。
 けれども一切表情を変えないリヴァイは「他を当たれ」と扉を閉めようとした。

「兵長、もう私は相手にしてくれないんですか?」
「・・・」
「そうですよね。兵長、何も知らない無垢な子が好きですものね」
「お前もべつに持て余して無いだろう」
「持て余してますよ。だって下手な男が多いんですもの。ちっとも満足させてくれない。最中に、別の女の名を呼ぶなんて、最低じゃありません?」
「その程度にしか扱われないのはお前のせいだ」
「酷い。でも気持ち分からなくもないんですよね。その人と出来ないなら、別の人で埋めるしかないんですもの。だって・・・まさか本物の聖女様は、そんなご奉仕してくれないですもんね」
「・・・」

 部屋の中に踏み込んでくる女は、リヴァイの胸に手をつきながら近づいてくる。

「兵長はよくご存じなんでしょう? 聖女様はどんな声で、どんな風に感じるのか。教えてあげたらどうです?」
「出ていけ」
「最近、彼女来ませんね。溜まってるんじゃありません? 私でよければお相手しますよ」
「代用品は嫌なんだろう」
「許します。兵長なら」

 棚に酒瓶を置き、女はリヴァイの傍に寄りシャツのボタンに手をかける。
 プツリプツリと外していって、胸から腹の筋肉を指でなぞり、床に膝を着く。
 ねとりとズボンの上から手を這わせ、細い指がなぞり中に潜んだものをくすぐる。

「やめろ。お前には勃たん」
「その気にさせてみせます。兵長に仕込まれましたから」

 ファスナーを下ろしズボンと下着を下げ、女は中から取り出したものにペロリと舌をつける。
 ランプも少ない扉口、リヴァイは暗がりの中で女の頭を見下げた。

「あんなおしとやかそうなお嬢様にも教え込んでるんですか? 兵長お好きですもんね。汚いことなんて何も知らない綺麗な顔にかけてあげるの」
「・・・」
「そうやって思い通りに調教して・・・上手に出来るようになったら捨てちゃうんですもの。酷い人」

 チュと先端に吸いつきながら、目下の女はシャツを脱ぐ。
 熱い息を吹きかけて、細長い指でもてあそびながら辺り一帯を音を立てて舐め回す。
 リヴァイの手を露わになった胸に添わせ、腹の筋を辿りながらリヴァイを見上げる。
 ・・・だけど、暗がりで見た目は酷く冷め切っていて、とてもこの行為と結びつかない。

「無理だと分かったら出ていけ」
「・・・」

 冷ややかな声。女は再び手を戻し先端を舌先で刺激し、周辺に至るまで念入りに舐めた。
 深く咥え強く吸いつき、何度も何度も前後すると少しずつ反応を見せて、女は咥えた口でふと笑んだ。

「兵長、おとなしいセックスばかりして感じ悪くなったんじゃありません? 彼女、口でなんてはしたないことしてくれないんでしょう」
「・・・」
「もっと昔みたいに、強引で激しくて最高に感じるセックス・・・したいんじゃありません? 楽しみましょうよ。もっと、今を」

 感じる個所を容赦なく攻め立ててくる口と手にリヴァイは眉を顰める。
 自分がやり方を教え込んだ。身勝手に、我儘に、ただ自分が快楽を得るためだけに。
 そういうものだった。この行為はただそれだけの。ただの行為。ただの発散。

「お前が求めるなら、謝罪しよう」
「・・・」

 彼女の手が止まり、口も離れる。

「間違っていたとは言わない。だがそれでお前が何かに囚われているなら、お前の何かを変えてしまったというのなら、詫びよう」
「なんです? それ」
「それ以外、俺がお前にしてやることはもうない」
「・・・たまに相手してくれるだけでいいんですよ。彼女がいない時は、部屋に入れてくれるんですよね、今みたいに」

 リヴァイは彼女の前から歩き出し、タオルで舐められた部分を拭い服を整える。
 その背はもう、今のことでさえ、過去のことのような。
 もう何も、感じてない。

「・・・そんなにいいんですか? 彼女」
「・・・」
「やっぱりあの噂、本当なんですね。東洋人とのセックスは・・・最高に気持ちいいって」

 リヴァイを挑発するように女は投げかける。
 けどその直後、リヴァイは女の髪を強く掴み顔を上げさせた。
 見上げたその眼は先程の比じゃない。人を見ている眼とも思えない。
 まるでそれは・・・壁外のような。

「気をつけろよ・・・、貴重な調査兵だろうと、どうでもよくなる時がある」
「ッ・・・」
「二度とそのことを口にするな。分かったな」

 ゾクリ・・・臓腑に氷が落ちたような感覚に襲われる。
 掴んだ強さとは裏腹に、呆気なく手を離すリヴァイは体を翻し扉を開けた。
 床のシャツを拾い、女の腕を掴みドアの外へ一緒に放り出し扉を閉めた。
 まるで不用品。まるで過ぎたこと。まるで、視界の外。
 女は口唇を噛み締めるがどうとも出来ず、シャツを被り去っていった。

「・・・クソ野郎が・・・」

 静かになった部屋で、リヴァイは女の感触の残る自分の体を無償に気持ち悪く感じた。
 胃の底から吐き気がこみ上げるようで、紛らわせるように壁を思い切り殴った。
 ヒビが入りパラパラと欠片が落ちる。
 そこから奥へと歩き寝室のベッドにギシリと腰を下ろした。
 額を支え深く息を吐き出し、腹の中に渦巻く反吐を吐きだしたかった。

 東洋人・・・。今ではそう聞くことも無くなったその単語を昔は頻繁に聞いた。
 稀少な東洋人は金になる。そいつらは・・・抱き心地が最高なんだそうだ。
 その頃は何とも思わなかったが、今は身の毛もよだつ気色悪さが襲う。

 ふぅ・・・と息を吐き、体内に渦巻く汚染物を吐き出す。
 そして視線を枕元に流した。
 花の刺繍が入った白いハンカチ。甘い香りの残る、彼女の忘れ物。

 ハンカチ一枚に染みついた匂いだけで思い出せる。
 ひたと見つめるまっすぐな黒い瞳。指に梳き通る黒髪の感触。
 流線形の肉体、浮かび上がる鎖骨、体と体で混ぜる汗、貪るほどの口付け。
 掌に収まる柔な胸、溢れる液の味、沈んでいく身体、悩ましい声、耳に残る熱い息。

 リヴァイさん・・・、リヴァイさん・・・

 あいつを手放せないのは、東洋人だから? こんなにも求めているのは、東洋人だから?
 長く会えない時間を、これまでのように穏やかに過ごすことも出来ないのは、あいつだから? 東洋人だから?

「・・・クソはどっちだ」

 そんなこと、考えるまでも無い。
 ハンカチの中に、抑え切れずに吐き出した欲の塊がこびりついている。
 毎夜毎夜、思い出しては吐き出して、後悔するのにまたその香を欲して。
 なのに他の女なんて気持ち悪くて。触られようが舐められようが、代わりなんてなくて。
 こんなに、一人の女に固執するなんて。

 ただ吐き出していた頃は楽だったのに。ただ快楽だけで良かったのに。
 何故傍にいない。何故手を伸ばせば抱ける位置にいない。何故呼べば応える所にいない。
 指先に絡みつく長い髪の感触を、辿っても、残り香しかない。

 畜生・・・