Black hole - Levi:attack on titan


(連載ヒロイン。完全にくっついて間もないくらい)
(4編連作)


 肉体と一体化していた糸がパチンパチンと切られ肌から引き抜かれていく。
 身を裂いていた傷口はようやく塞がったがまだ痛々しい痕が残るリヴァイの右足の脛。

「まだあまり無理なさらないでくださいね」
「治ったんだろ」
「完治するまでは控えてください。また傷口開いちゃいますよ」

 足元に膝をつく彼女が、線状に白く残る傷痕にてんてんと消毒液を塗っていく。
 彼女の手にかかれば裂傷など跡形もなく治るんだろう。
 半月前の調査で負った傷ももう完治に向かっていた。

 怪我を負って帰っても、もう彼女が以前のように動揺することは見られなくなった。
 調査後も治療中も、彼女はマスクの中で柔らかく微笑んでいる。
 まるですべてを包み込むような。まるですべてを覚悟しているかのような。
 傷口を再び包帯で巻こうとする彼女は、手元の包帯が残り少ないことに気付いて立ちあがり、包帯がしまってある棚へと寄っていった。

「・・・」

 背を向けている白衣の彼女を見上げ、リヴァイも立ち上がり歩み寄る。
 振り向こうとした彼女はリヴァイの胸に背をぶつけ、驚いてリヴァイの目を見上げる。

「リヴァイさん・・・?」
「・・・」

 棚とリヴァイとの狭い隙間で彼女は思わずのけ反ってしまう。
 リヴァイの目がまっすぐ降りてくる。息遣いすら感じる。
 目前に迫ったリヴァイの口が鼻先まで来ると、彼女は焦ってリヴァイの胸に手を突き立てた。
 言葉が口をつこうとした。ここは兵団の治療室、今は職務中と。
 ・・・けど、そんなことはリヴァイも百も承知。

 合わさっていた視線が外れ、リヴァイは彼女の背に腕を回し肩に口唇を下ろす。
 温度と匂いが清浄な空気の中で混ざる。

「今日は、帰るのか」
「え・・・? あ・・・家に、何も言ってませんし・・・」
「・・・」

 しばらくして、リヴァイは今度は彼女の首元に口唇をあてる。
 素肌にあたった柔らかな感触に彼女はそわりと肌を逆立てた。

「り、リヴァイさん」

 背に回るリヴァイの手を取り、彼女は強く頑丈な身を離させる。
 治療室の外には誰かの声が響いている。窓の外には何人もが行き交っている。
 首元から離れたリヴァイの口唇は前髪が触れ合う距離で、再びふと吹きかけた。

「今夜来るなら今はやめておく」
「ッ・・・」

 耳から神経を伝って脳へ、骨の髄から皮膚へゾクリと響く。
 うろたえる彼女は視線を俯けるばかりで、うまく口も開けない。
 すると彼女の背から離れたリヴァイの手が彼女の口をくいっと上げさせ、カプリと噛みつくようなキスをした。
 激流のように熱と感情が身体の中を巡り巡って、指の先まで力が抜けていく。

「返事は?」
「・・・はい・・・」

 目前の彼が何を言っているのか、はっきりと分かっていながら分かっていないような。
 魔法にかかったように、先の見えない森に迷い込んでしまう。
 甘い甘い罠。強い強い引力。
 抗えない。逃げられない。

 再び近づいてきた口唇は、にわかに笑っているように見えた。




dozed of fighter - Levi:attack on titan


 日が暮れるまで待っていろと言われ、その日彼女は普段よりも長く本部に滞在していた。
 太陽が傾き日が陰っていけば自然と周りが帰らなくてもいいのかと心配してくる。
 それに彼女は誤魔化すように笑って返し、迎えが来るまで診察を続けた。

「悪いな、遅くなった」
「いいえ」

 窓の外がすっかり暗くなった頃、コツとガラスを叩く音に振り返ると外からリヴァイが手招いた。
 療養棟を後にして、リヴァイは彼女を連れ兵舎へと歩いていく。
 兵士以外入れない兵舎。今はちょうど晩飯の時間で兵士の姿はそう多く見られない。
 リヴァイは彼女に白衣を脱がせ、守衛の目を掻い潜って彼女を部屋へ連れ込んだ。

「リヴァイさんはお食事済まされたんですか?」
「いや」

 彼女をソファへ座らせると、リヴァイも隣に座り小脇に抱えていたカゴの上の布を取る。
 中にはパンといくつかの果物が入っていて、リヴァイは食えとパンと彼女の手に渡した。

「いいですよ、リヴァイさんはちゃんとお食事なさってきてください」
「これとそう変わらんさ」

 布でリンゴの表面を磨き、かぶりつこうとすると彼女が「皮むきますよ」と手を差し出す。
 ナイフを持つ細い手がするするとリンゴの皮をむき、食べやすい大きさに切り分けられた。

「裁縫といい、器用なものだな」
「医者ですから」

 縫うのも切るのも朝飯前か。呟くリヴァイの隣で彼女はふと笑った。
 彼女の髪を覆う被り布やハンカチなどに施されている刺繍も彼女の手によるもの。
 確かに料理も裁縫もたどたどしい医者に治療されるのは心許ない。
 右足の傷を縫う手もそれはそれは慣れたものだった。

 軽い食事を終えて束の間、リヴァイは残してきた仕事があると机に向かった。
 日常的に訓練している姿はよく見ているが、机に向かっている姿はまず見る機会がない。
 なんだか新鮮な気持ちを抱きながら、彼女もまたカバンから本を取り出し静かに時を過ごした。

 リヴァイが紙とペンを前に、思案しながらペンの先でコツコツと音をたてる。
 その音を聞きながら、彼女はページをめくる。
 ぺらり・・・薄い紙のこすれる音さえ届くほど、静かな室内。
 普段なら一人しかいないこの部屋は、暖炉もつけていないのに何故だか、暖かい気がした。

 月が昇る頃、書類を書きあげ、リヴァイはようやくふと息をつき背もたれに身を任せた。
 その呼吸を感じて、彼女は立ちあがりポットからお茶を入れリヴァイに差し出す。

「遅くまで大変ですね」
「巨人だけ狩ってりゃいいと思ってたんだがな。エルヴィンに騙された」

 普段言葉など交わされることのない部屋に、ふふと彼女の笑い声が広がる。
 再びソファに戻った彼女を追って、リヴァイもまたソファに場所を変えた。

「何の本だ」
「物語です。昔読んでいたことがあって、先日本屋で見つけたものですから」

 リヴァイは彼女が読んでいた本を手に取り開いてみる。
 本を読む習慣などなかった自分には無縁のものだと思う。

「3冊ある内の2冊目なので、それじゃ分かりづらいかもしれませんよ」
「どんな話だ」
「豊かな世界で暮らす子どもたちが、別の世界の存在を知って冒険に出るお話です」
「ありがちなネタだな」
「そうですね。調査兵団の皆さんと重なるところがあります」
「読んでくれ」
「え、私がですか?」
「他に誰がいる」

 ええ、と恥ずかしがる彼女にリヴァイは本を託す。
 最初のページを開き彼女の声が文章を追い出すと、リヴァイは寝転がり彼女の膝の上に頭を置いた。

「リ、リヴァイさん・・・」
「続けろ」

 重みを感じる足にさらに恥ずかしくなるが、彼女は気持ちを押さえて本を読む。
 聞いているのかいないのか、膝の上でリヴァイは目を閉じていて分からない。
 彼女の語り口で進んでいく少年少女の冒険譚。
 ページがめくられ、たまにリヴァイが口を挟み、それに彼女が答え、物語は進んでいった。

 本も5分の1が読まれた頃、彼女はふと気付き本を上げ目下のリヴァイを見た。
 感じたとおり、リヴァイは膝の上で寝息をたてていた。
 息が深く、呼吸が胸を膨らませ、無防備に目を閉じて。
 ランプの明かりの中で初めて見る、リヴァイの寝顔。
 それは彼の背負う使命や責任も、壁の外の脅威も、世界を包むあらゆる雑ごとからも解放するような。

 呼吸のたびに揺れる前髪に触れてみる。
 深く掘り下がる鼻筋。影を落とすまつ毛。少し乾燥した頬。息を通す口唇。
 この人に、こんな風に触れられる時がくるなんて。
 この人の、安らぐ時の中に共にいられるなんて。
 じわり滲んだ涙が、落ちて眠りを妨げてしまう前に、拭った。

 どうか、永遠でなくとも、この先も戦士に穏やかな休息を。





honeymoon - Levi : attack on titan


 部屋の各所に置かれたランプは隅々までを照らしてはくれない。
 けれども何故か、それが心地よい。
 本を読むにも、物を書くにも不便な環境なのに、こんな夜は、心地よい。

 ツンと刺すような髪をなめらかに撫ぜる。
 丸みを帯びた耳を指先で辿り柔らかい耳たぶまでツと滑らせる。
 人体などすべて同じものが揃い同じような形で存在しているのに、ふと笑えた。
 この人も、誰もと同じ、ただ一人の人間なのだと。

「・・・っひゃ」

 揺らぐ灯火のような穏やかさは、細い指先をガシッと掴んだ大きな手で容易く崩れた。
 眠れるリヴァイがこそばゆく耳に添う手を掴み、動揺する指をカリッと口に含んだ。

「リ、リヴァイさん、起きて・・・」
「お前が起こした」
「ごめんなさい」
「いや」

 手を掴んだまま身体を起こし、リヴァイはつい鼻先までやってくる。

「せっかくの時間を無駄にするところだった」

 口唇に触れる口唇が言葉を終えると、彼女の息を飲みこみ深く口付けた。
 いつ振りか、まともに重なる口唇。甘く離れ、求めて吸いつき、口先で遊び、舌が入り込む。
 おはようと頬にあたるキスとは違う。ねとりとまどろんだ、欲情を生む交わり。

「・・・いいか?」

 離れまっすぐ視線をあてるリヴァイの口唇が動く。
 熱が上がり、頭の中が呆けて、また魔法にかけられる。

「でも、あの・・・」
「うん?」
「綺麗じゃ、ないので・・・」
「・・・」

 恥ずかしげに頬を赤らめ目を伏せる彼女の前でリヴァイは目を丸くする。
 そうだ。昔は、当然身体を清めてない女なんて、抱くどころか触る気にもならなかった。
 綺麗じゃないと言われたものを、こんなに触れたいと思うなんて何事か。
 彼女以上に何か、恥ずかしさを感じ、リヴァイは心の中で舌を打った。

「シャワー浴びるか」
「え?」
「今の時間なら大丈夫だろう」

 立ち上がり、リヴァイは奥の寝室に入っていく。
 カゴの中にタオルとシャツを入れて戻ってくると、彼女を手招き部屋のドアを開けた。
 廊下は暗く、シンと静か。ずっと遠く、階下では明かりが滲み笑い声が響いているけど。
 この階は上官クラスしかいないために階下と違って静かななもの。
 誰もいないことを確認し、リヴァイはひとつランプを持つと軋む廊下を歩いていった。

 行き着いた奥の扉を開けると、中から湿気が漂い水の匂いが鼻についた。
 広い脱衣所はロッカーが多く設置されている。
 板間の脱衣所の奥は石床となっていてシャワーがいくつも並んでいる。

「一番奥を使え」
「は、はい・・・」

 脱衣所にも浴室にも誰もいないことを確認し、リヴァイは彼女にランプとカゴを持たせ奥へ押し出す。
 ひとつひとつのシャワーが一枚板の隔たりだけで区切られた浴室。
 自宅のそれとは勝手も形式も違い、あまりに広く開放的過ぎて戸惑いを隠せない。
 一番奥のシャワーの前で明かりとカゴを置き靴を脱ぐ彼女は一度脱衣所を振り返る。
 暗がりの中、こちらに背を向け浴室前のベンチに座ったリヴァイが見えた。

 彼女はシャワーの傍に寄り、タオルを隔たりにかけるとシャツのボタンを外していく。
 栓をひねると高い位置のシャワーから水が降り注ぐ。
 最初それは冷たく、しばらくして湯が出始めて、彼女はホッとシャワーの下に入った。
 束ねた髪だけ濡らさないように湯を浴びる。顔を洗い、首から腕を流し、足先まで湯を浴びた。

「・・・」

 サーと細かなシャワーが石床を叩き、パシャンと水音が弾け飛ぶ。
 冷え込んでいる浴室の一番奥でだけ熱い湿気が生まれ、白い湯気が脱衣所まで漂った。
 普段自分も使っているシャワー。その温度も様子もありありと思い浮かべられる。
 降り注ぐ湯が胸に落ち腰へと流れているんだろう。
 手を全身に滑らせ、流れ落ちる熱い湯の中、腰から脚を這い、指先まで。
 簡単に想像つく。シャワーの様子も。彼女の身体も。

 ガタンと立ち上がり、リヴァイは床板を踏みしめる。
 その音をシャワーの中で聞きつけた彼女は隔たりの上から脱衣所に振り向いた。
 リヴァイがこちらに近づいてくる。
 彼女は何かあったのかと思いシャワーを止め、かけていたタオルを取って身体を覆った。

 一番奥の隔たりの中まで来たリヴァイは、案じた彼女の言葉も聞かずに距離を詰めた。
 湯気が鼻孔を突き、湯にあたり火照った彼女の毀れ髪に指を絡めると引き寄せ口付けた。
 口唇を塞がれながら、動揺する彼女は壁に追い詰められながらもタオルをしっかりと抱く。
 だけどそれもリヴァイの手によってはぎ取られ、ヒャッと悲鳴を上げるも声にならなかった。

「リ、リヴァイさ・・・」
「我慢出来ねぇなんて、ガキじゃあるまいしな」
「ッ・・・」

 首筋にキスする口が喋るとゾクリと身が硬直する。
 痛く吸いついて痕を残し、リヴァイの口はそのまま肌をコロコロと流れる水滴を飲みこんだ。

「リヴァイさん・・・、濡れちゃいます、から・・・」
「・・・随分余裕だな」

 追い詰められて涙を溜め、真っ赤に頬を染める彼女が、それでもそんなことを案じてくる。
 リヴァイは頭からシャツを脱ぐと後ろの隔たりにかけ、厚い胸板で押し潰すように彼女を抱いた。
 身体を重ね合わせても跳ね返してくるような弾力ある彼女の肉体。
 耳に首に鎖骨に、吸いつきながら舐め下ろし、香を嗅ぐように鼻をうずめながら滑り落ちた。
 柔な胸を味わいながら先を食み、舌で転がしながら彼女の反応を見上げる。
 響く浴室で細かな声と途切れ途切れの吐息を口の中に閉じ込める彼女を開放したくて、刺激を強めた。
 高揚と羞恥の狭間でリヴァイの口と手、身体が熱く強く攻め立ててくる。
 ビクリ、ビクリと反応し始める彼女の身体に味をしめ、リヴァイの手は彼女の身体を這い脚を撫でた。

「あ、っ・・・!」

 脚を遡り、狭間に滑り込んだ指先がぐしゅりとぬめりを感じると、堪え切れない彼女の声も漏れた。
 ビクビクと身体を硬くして、彼女はリヴァイを抱き締める手を強くする。
 肌の匂い、弾力、声、ぬめり、熱、柔らかさ・・・
 何日ぶりかも知れない行為は、状況も合わさって欲情をさらに掻き立てた。
 細かく刺激し音を立ててかき混ぜれば、彼女は身体を震わせ立ってもいられなくなる。
 白衣を着ている間は絶対に聞くことのない彼女の声を耳元に、リヴァイは熱を上げる下腹部に苦しさを感じた。

「リ、ヴァイさ・・・リヴァイさ・・・っ」
「・・・」

 泣き声の彼女もまた抱き締める腕を強くする。
 滅多に二人きりで会えなくて、寂しかったのは、抱き合いたかったのは、どちらも同じ。
 もう、すべて脱ぎ去って、無茶苦茶に抱いてしまいたい。
 この細くか弱い身体を、気遣ってもいられないくらい、身体の動くままに、本能のままに狂いたい。
 大地を飲みこむ大波のような欲情を、抑える術を思い出せない。

 ・・・だけと突然、ガタンと脱衣所から扉が開く音がして二人は意識を覚ました。
 案じる彼女の口を閉じさせ、リヴァイは隔たりの上から脱衣所を覗く。

「リヴァイ兵長、今頃湯あみですか?」
「ああ」
「僕も、ハンジ分隊長に付き合ってたらこんな時間になってしまって」

 脱衣所に現れたひとつのランプの中で見えたのはモブリットだった。
 こんな夜更けにまだ兵服を着たまま、今頃仕事を終えたようだ。

「構わん、入れ」
「あ、はい、ありがとうございます」

 モブリットはジャケットを脱ぐも入ってこない。上官の入浴中に隣に並ぶことなどしない。
 脱衣所に注意しながら、リヴァイはかけていた自分のシャツを取り彼女に着せた。
 リヴァイの陰に隠れビクビクと身を小さくする彼女を撫ぜ、リヴァイはカゴを手に取った。
 服を脱ぎ一番手前のシャワー室に入るモブリットがシャワーを浴び始める。
 リヴァイは彼女の服が入ったカゴと靴、ランプを取り、タイミングを見計らって彼女を連れ出す。
 シャワーを浴びながら「お疲れ様です」と声をかけたモブリットに返事をして浴室を出た。

「ハンジの野郎、明日ぶっ飛ばす」
「ハンジ分隊長のせいでは・・・」

 脱衣所から出る時、裸足の彼女はリヴァイがまとめて持ってる中から靴を取ろうとした。
 けどリヴァイは彼女を抱き上げ、暗い廊下を部屋へと戻っていった。
 運よく誰にも見つからずに部屋に入り、リヴァイはそっと彼女を下ろす。
 床に脚を着いた彼女がやけに赤い顔をしているのが明るい部屋の中では分かった。

「なんだ」
「い、いいえ・・・」

 なんでもないと首を振るも、彼女は恥ずかしげに俯いて目を合わさない。
 シャツの裾を押さえ、その下からスラリと延びている白い脚を少しでも隠そうとしている。

「さっきまで裸だっただろ」
「さっきは・・・。服・・・服ください」

 彼女が脚を見せることなど一切ない。仕事中はもちろん、普段でも。
 暗がりの部屋の中、ベッドの中でもない限り。
 リヴァイは彼女から距離を取り、少し離れて彼女を眺めた。

「いいな。ずっとそれでいろ」
「そんな、はしたない・・・」
「もっとはしたないことすんだから気にするな」

 羞恥が極まる彼女を、リヴァイは再び抱き上げ寝室へと入った。
 ベッドに下ろし、その前にひざまずく。
 まだ濡れてる脚にキスをしながら撫で下ろし、音をたてて吸いつき舐め回す。
 指からふくらはぎ、膝から太ももへと滑り上がっていくと同時に昇りくる熱情。
 あまりに丁寧な所作にキュンと胸が鳴る。
 明かりなどない寝室で、隣の部屋から洩れる明かりと白く差し込む月明かりの合間で。

「・・・リヴァイさんて」
「うん?」
「脚・・・お好きですよね」
「・・・」

 リヴァイはいつも行為の始め、服を脱がすと、生の脚に何度も口づける。
 彼女に許された人間でなければ脚を見ることも触れることも、ましてや口付けることなんてない。
 特別の証。ただ一人、自分だけに許された行為だから。
 そしてそんなリヴァイの癖を知っているのも、彼女だけ。

「ならどこがいい、どこでも舐めてやる」
「そん・・・きゃっ!」

 脚を持ち上げると彼女は後ろに倒れてベッドがギシリと大きく揺れた。
 ベッドに乗り上がるリヴァイは高々と上げた彼女の脚に口付け舌を滑らせる。
 暗がりの中でその行為ははしたなく、恥ずかしく、だけど身体の奥底からじくじくと。
 月明かりが壁の向こうへと引いていくまで。新たな光が壁の向こうから上がってくるまで。
 自分しか知らない。貴方しか知らない。
 誰も知らない蜜月の夜を、もっと。
 もっと。





Good morning - Levi:attack on titan


 リヴァイの朝は早い。
 寝室にひとつしかない窓から朝日が差し込めば自然と目が覚めて起き上がる。
 肌蹴たふとんから何も纏っていない上半身の素肌に多少肌寒さを感じる。
 春に向かっている季節といえど、まだ太陽の弱いこの時間は空気が冷えていた。

 隣で、まだ寝息を立てている彼女の白い肩が朝日に照らされる。
 まるで絵画のような。美術品のような。吸いこまれるように、触れずにはいられない。
 指先で髪に触れ、指の骨で輪郭をなぞり、指の腹で肌を滑り、掌で肩を包みこむ。
 少し冷えている。ふとんを引っ張り彼女の肩まで上げると、彼女は少し動いたが起きなかった。

 喉の渇きを感じ、リヴァイはベッドから脚を下ろす。
 床に散らばっている服の中からズボンを拾い、脚を通しながら立ちあがる。
 踏みしめればキシッと音を立てる板間を歩き寝室を出て、タオルを取りながら部屋を出た。
 水道場で顔を洗い口をゆすぎタオルで拭く。
 多少濡れたタオルで首や腕や胸を拭き、沁みついた汗の匂いを取り去った。

「おはようございますリヴァイ兵長。お早いですね」
「お前もな」

 近くの部屋から出てきたモブリットは、ちゃんとシャツを着ているが寝ぐせのまま敬礼をする。
 この階に部屋をもらうからには彼もそれなりの実績と地位を持った兵であるが、隣の水道が空いていてもリヴァイが終わるまで腕を背に組み待機した。

「あの、兵長・・・」
「なんだ」
「あ・・・いえ、なんでもないです」

 言いかけたモブリットに振り向くも、彼はそれ以上口を開かない。
 リヴァイもまたそれ以上は聞かず、待たせたなと言い置いて部屋に戻っていった。
 昨夜の音か声でも拾ったかと思ったが、まさか聞き返しはしなかった。

 身体を拭きながら部屋に入ると、奥の寝室からギシリとベッドのスプリングが軋む音が聞こえた。
 ベッドの軋みも床板の沈みもよく響く。壁もそう厚いわけではなく隣の物音がよく聞こえてくる。
 大きく静かな真夜中に響かせれば尚更。

 リヴァイはタオルを右肩にかけながら寝室へと向かった。
 覗くと、ベッドの上で彼女が起き上がっていた。肩からふとんを被り、大きく包まれたまま。

「起きたか」

 声をかけるも、背を向けている彼女からの返答がない。
 そのまま近づいていき傍に立ち「おい?」と再度かけるも、彼女は応えずまっすぐ前を見つめている。
 リヴァイは静かなままの彼女の前に腰をおろし、その顔を覗き込んだ。

「どうした。どっか痛むか」
「・・・」

 はっきり問いかけるも、返答はない。彼女の眼は確かに開いているが、焦点が合わない。
 寝ぼけているのか、それとも何か・・・機嫌を損ねているのか。
 昨夜は不満だったか? リヴァイは彼女が過剰に反応しそうな問いかけをしてみた。
 が・・・やはり反応がない。
 リヴァイはさらに、彼女が肩から被っているふとんを引き下げた。
 肩からふとんが落ちてまた白い素肌が朝日に照らされる。
 肩どころか身体を支える細い二本の腕も、その奥に潜んでいる胸も、黒髪が揺れるなめらかな背中も。
 普段の彼女ならこんな明るくなっている室内で裸体を晒すなどあるはずのないこと。

「・・・」
「・・・」

 それでも彼女は、恥ずかしむどころか言葉もない。表情ひとつ変えない。
 ぼんやりと目の前の何かを見つめたまま、静かに座っている。
 リヴァイは思い出した。いつだったか、彼女の家族が言っていた言葉。

”あの子は少し、朝に弱くて・・・”

 多少語弊があるようだ。これは強い弱いの範囲ではないだろう。起きているのにまるで寝ている。
 明るい陽の光の中ではしっかりしている彼女。静まった夜の中でも落ち着いた佇まいの彼女。
 そんな彼女の思いもよらぬ弱点。リヴァイは思わずふと鼻を鳴らした。

 ・・・それにしても、まだたとえベッドの中だろうと彼女の裸体をここまではっきりと目にすることはない。
 身体を支えている二本の腕と胸元まで垂れ下がる長い髪、腰元に残っているふとんが局部をうまい具合に隠してしまってはいるが、それはそれで・・・さらに高揚感を刺激するよう。

 もう少し肉をつけたほうがいいな・・・。腰はもう少し締めるか。
 脚はいいが・・・こいつはケツッペタだからな。加減が・・・

 素のままの彼女を前に、リヴァイは右手を口元に当てながらまじまじと観察する。
 そうしていると、無表情だった彼女がぐと目を閉じ、支えていた右手で眼をこすった。
 ゴシゴシゴシゴシ何度もこすり、喉の奥からぐずるような声を出す。
 目を覚ましそうだ。リヴァイはネコのように顔を撫ぜあくびをかみ殺す彼女をなおも見つめた。

「・・・・・・あれ」

 俯けた顔を上げ、ようやく目をはっきりと覚まさせた彼女が目の前のリヴァイを見つめる。
 裸体の・・・まるで迫ってくるような態勢の彼女が、まだ弱いとろけるような瞳でまっすぐ見上げてくる。

「リヴァイさん・・・おはようございます・・・」
「ああ」

 まだはっきりと覚めぬ意識の中で、しっかりと挨拶だけは口にする。
 徐々に意識を覚ましていく彼女。そして何かを感じたのか、ふと自分の身体に目を落とした。
 腰元にふとんが残っているとはいえ・・・冷えた外気に晒されている肌、背中、肩、胸。

「ッキャアアアアアア!!!」

 発狂しふとんを引っ張って身体を覆い隠す彼女はそのまま後ずさりベッドの端まで逃げていく。
 鳥のさえずりしか聞こえないような静かな朝に彼女の切り裂く声がキーンと突き刺さった。
 隣どころか、この階の端まで聞こえただろう。まだ大半が寝ているといいが。

「な、な、なん、」
「ひとつ言っておくが、お前は外泊禁止だ。特に野郎がいる場所では絶対に寝るな」
「え・・・?」
「だがまぁ・・・悪くない」
「は、はい・・・?」

 顔を赤らめ涙目でふとんを強く握っている彼女は、混乱した髪と頭で理解できないでいる。
 自分の体質まで理解出来ているのかいないのか・・・。
 とにかくリヴァイはギシリとベッドに手をつき、身体を覆い隠している彼女ににじり寄り再びふとんを剥がしにかかることにした。