モブリットは心配性 - Levi:attack on titan(連載ヒロイン) 副官であるモブリットの朝は、上官であるハンジの元へ向かうことから始まる。 巨人で頭がいっぱいの上司は平気で二・三日、昼も夜も通して没頭してしまうから 「ハンジ分隊長、起きてください。また机で寝て」 「あーモブリット・・・、あと30分・・・」 「朝食の時間が終わってしまいますよ。また検診で栄養不足って言われますよ!」 「あー・・・今日は検診の日だっけ・・・」 兵団の中でも相当な幹部の位置にある人なのに、この体たらくはどうにかならないものか。 きっとリヴァイ兵士長の副官だったなら、部屋の片付けや入浴の心配までしないだろうに。 ミケ分隊長の副官だったなら、訓練場へ無理矢理引っ張っていったりしなくても済むだろうに。 午前中に済ませたい事前検診のため療養棟へとハンジを連行ていく。 この人は巨人についての何かを思いつくと、すぐそれを優先してすべてを放棄してしまうから。 「やはり朝は混んでますね」 「だから言ったじゃないか。検診は昼下がりが一番狙い目なんだよ」 ハンジは順番待ちの兵たちの合間を抜け、突き当たりにある小部屋に入った。 そこは上官待機室。日当たりのいいそこで、椅子に座るなりハンジは目を閉じる。 そんなハンジの向こう側に、モブリットはリヴァイの姿を見た。 「おはようございます、リヴァイ兵長」 「朝っぱらからだらしねぇツラを目の前に持ってくるな」 「すみません・・・」 苦笑いで返しながら、モブリットは早くも寝息をたてているハンジの隣に座った。 傾いていく体を背もたれに戻してやる。まるで老人や酔っ払いでも相手にしているかのよう。 手慣れた所作が余計に日ごろの苦労を物語らせた。 「リヴァイ兵長は何時ですか?」 「時間なんか取ってねぇよ。空いたら呼べと言ってある」 普段は静かな療養棟だが、事前検診の日は多くの兵が押し寄せるために騒々しい。 扉を隔てていても廊下の順番待ちの兵士たちの笑い声で、小さな会話など軽く掻き消された。 「お前何脱いでんだよ!」 「当然だろ、検診なんだからよ」 「全部脱ぐ必要ねーだろうが!」 「脱げって言うから脱いでやったんだよ。この俺の肉体美が見たいんだってよ」 「誰がお前なんか!」 喧嘩の声にゲラゲラと笑い声が混じる。取っ組み合うような兵士たちは朝から明るく騒々しい。 「彼女、来てるんですか?」 「さぁな、知らん」 「知らんって・・・」 特に、事前検診には毎度やってくる医療団の彼女の部屋の前はいつも男の兵士たちが列を成す。 これだけ騒々しく、一部屋だけ長い列ができているからには、彼女が来ているのだろうと思った。 鍛えた筋肉を持つ兵士たちは何かと服を脱ぎたがる習性があることをモブリットは知っている。 そんなここの男たちを、まだ年端もいかぬ彼女が相手にしているのだ。心配にもなるだろう。 それはまるで、群れを成すオオカミに囲まれた一匹の野ウサギのような図。 だけど、リヴァイは先程から顔色ひとつ変えず、窓から差す朝日を浴び静かに座っている。 「あの・・・心配になったり、しないんですか?」 「何がだ」 「やはり・・・中には、ちょっと冗談が過ぎるやつも、いるじゃないですか。彼女、まだ若いし」 「あいつは医者だ。野郎の裸なんぞ見慣れてる」 「そうですけど・・・」 まるで何も案じていないリヴァイは普段通り平然と答え、じきに呼ばれ待機室を出ていった。 モブリットは普段、リヴァイが彼女とふたりでいるところなどまず見たことはないけど、 あの二人は本当に・・・恋仲なのだろうかと疑うほど、まるでそんな空気を感じ取れなかった。 「あのリヴァイが心配なんて口にするわけないでしょ」 「あれ、起きてたんですか」 出ていったリヴァイが、列ができている部屋とは別の診察室に入っていくところを眺めていると モブリットの隣で目を閉じたままだったハンジがまだ気だるそうに口を開いた。 「私も前にヤキモチ焼いたりしないの? ってからかったことあるけど、ガキじゃねぇんだって一蹴されたよ」 「さすが、リヴァイ兵長ですね。どんなことにでも平常心といいますか、人間が出来てるんですね」 「はは、出来てると言うのかな、アレは」 「え?」 椅子から立ち上がり、背伸びしたり腰を回したりと体をほぐすハンジを見上げる。 「確かにヤツはこと戦闘に関しちゃ飛びぬけて冷静で思慮深くて、普段も平然としてるけどね。 そういう男こそ、意外と中身は呆れるくらいに子どもだったりするものだよ」 「あのリヴァイ兵長がですか?」 「実際リヴァイがどうかなんて知らないけど、普段見えてるままの男なんていないってことさ。 特にああいう堅物ほど、恋人と二人きりの時はベタベタに甘えたりするんじゃないの」 「あの・・・リヴァイ兵長がですか?」 「だったら爆笑だよね。ていうか気持い悪いよね」 ハハハと笑い飛ばし、ようやく目を覚ましたらしいハンジはメガネを拭いてつけ直した。 「ねぇどうしよう、リヴァイがおなかが痛いでちゅーとか言ってたら」 「ぶっ・・・やめてください、そんな兵長見たくありません」 「あはは! どうしよう、笑いが止まんなくなってきた」 「今度こそ本気で殺されますよ」 ある部屋の前ではおそらく今日はずっと長い列ができていることだろう。 そしてこの騒々しさもずっと続くのだろう。 順番待ちの兵士たちの声に混ざって、涙が出るほど笑い転げるハンジをモブリットが諌め続けた。 リヴァイさんも心配性 - Levi:attack on titan「モブリットが?」 「はい。注意するに越したことはないと」 ソファの隣に座る彼女は、何十枚と溢れる事前検診のカルテを整理しながら 今日、検診の時に廊下ですれ違ったモブリットから受けた指摘をリヴァイに話した。 彼女の身を案じるモブリットは、兵士といえど相手は男、注意するに越したことはないと。 「まぁ当然だな。聖人じゃねーんだ、お前なんか隙あらば食われる」 「そんなこと・・・。今まで一度だって危険なことなんてなかったですよ」 「・・・」 どうも彼女はその手の事柄に対して清廉で無垢過ぎる。 彼女の身にこれまで危険が及ばなかったのは、彼女が救援の医師であること。 多くの兵士から信頼が厚く、上層部にも顔が効くということ。 そして、彼女はリヴァイと懇意である・・・らしいというまことしやかな噂のおかげであったから。 モブリットほどの心配があるわけではないが、一度は釘をさしておいた方がともリヴァイは思う。 「お前には考え及ばんことかもしれんが、ここの奴らは身体と命を張って生きてるからな」 「え?」 「生命力が強い分性欲が強いのも当然だろう。お前の知らないエグイことなんて兵の間にゃいくつもある」 「・・・」 一枚一枚カルテをチェックしている彼女の横顔を見ながらリヴァイはカップを口にする。 話しながらも仕事をしていた彼女は、ふとその手を止めてリヴァイに振り返った。 もう少し動揺するか(そのまま床にでも流れ込むか)とも思ったが、彼女の黒い瞳は淀みない。 まっすぐ向いている目を見返しながら、リヴァイはカップを置き彼女に手を伸ばそうとした。 「生物は自分のコピーを作りたがるもの・・・生命の本能ですね」 「・・・」 「死を強く感じることで種の保存を図ろうとする。性的欲求が高まる・・・なるほどなぁ」 なにか、とてつもなく関心してしまっている彼女に、リヴァイは意図を失う。 誰も医学の世界を説きたいわけではないというのに。 ふーと息を吐き、面倒くさくなったリヴァイは彼女の手からカルテを取りそのまま迫った。 「え、え?」 「生命の本能だろ」 「そ、そういう、意味では・・・」 「性欲に意味もクソもあるか」 リヴァイは構える彼女の手を避け身を寄せていく。 身を添わせると彼女の体の凹凸が自分の身体にピタリと当てはまるように収まった。 弾力ある柔らかさが硬い筋肉を受け止め跳ね返す。こんな小さく柔な身体なのに。 「だ、駄目です、まだ・・・その・・・明るいですし・・・!」 「朝だろうと昼だろうと誰も咎めやしない」 「きゃっ・・・」 彼女の上にまたがりながら、リヴァイはシャツを脱ぎ棄てる。 明るい部屋の中に、普段は白いシャツの中に隠された隆々とした体躯が露わになり 彼女はあまりの恥ずかしさに目を背けて覆い隠し、わぁわぁと騒いだ。 「男の体なんざ見慣れてるだろうが、医者」 「そ、それと、これとは・・・ッ」 「・・・」 検診時、何かと脱ぎたがる兵士たちは彼女に見せつけるように服を脱ぐ。 けれどもそんなことには動じない医者の彼女はそれを笑って受け流している。 だけども、こんな態勢になれば、こんなにも取り乱してしまう。 真っ赤になって。大慌てで。涙目になって。 「お前、一瞬でも兵士たちにそんな反応してみろ・・・お前なんか三秒で押し倒されるぞ」 「な、なりませんよ・・・、リヴァイさんじゃない人に・・・」 「・・・」 真っ赤に赤面している顔を覆い隠す彼女の口唇がぷるぷると震えている。 そわりと肌が逆立って、なんだかこそばゆくなって、リヴァイはごしっと後ろ首をこすった。 もーいーや。 半分冗談のつもりだったけど、冗談で済まなくもなって。 頑なな彼女の腕を取り払って、その慌てる真っ赤な口唇に口付けた。 Take over - Levi:attack on titanその日、リヴァイ宅にはかつての部下たちが集まっていた。 外の世界の話が尽きないエレン。興奮しすぎて纏まらないエレンの話を補強するアルミン。 酒にほろ酔いエレンに茶茶を入れるハンジ。みんなが飲み食いし空いた皿を下げるミカサ。 「兵長も次は行きましょうよ、絶対に面白いです!」 「もう兵長はやめろエレン」 「だから、俺にとって兵長は死ぬまで兵長なんですって!」 まだまだ食べざかりの彼らの手によりテーブルの料理は次々と平らげられていく。 よく食いやがるとリヴァイがグラスを手に取ると、向かいからジャンがビンを手に取り酒を注いだ。 「手伝います」 「いいのよミカサ、そこに置いておいて」 騒がしい広間から続く台所で料理を作る彼女の元へミカサが空いた皿を届ける。 たまに治療で対面する彼女はずっとマスクをつけているけど、今はしていない。 背中に垂れる長い黒髪に、敷き詰められた黒いまつ毛に黒い瞳。 似ているようで・・・やはり違う。彼女の顔をミカサは思わず見つめた。 「なに?」 「い、いいえ」 振り向き微笑む彼女から目を逸らしミカサは流しで皿を洗いだす。 「分隊長になったんですってね、おめでとう」 「ありがとうございます」 「かっこいいわ。女性の分隊長だなんて」 「ハンジ分隊長がいます」 「・・・ヤダ、そうだった」 トントンと野菜を切りながら、ふふと笑う横顔の彼女。 酢漬けされた野菜を一切れ寄こされ、どう? と聞かれる。おいしい。 「料理・・・上手ですね」 「そう? 大したものはできないけど。ミカサは料理するの?」 「子どもの頃に・・・手伝いくらいは」 「お皿洗いも手つきいいものね。何かお母さんの味とかあるの?」 「・・・」 綺麗に皿に盛り付ける手つき。作る料理。味。そのどれもが内地に近い味。 母がよく作ってくれた味とは、どこか違う。 「あの・・・貴方にも、あるんですか?」 「何が?」 「・・・東洋人が受け継ぐ、印」 「・・・」 ナイフを持つ彼女の手が止まり、黒い瞳がミカサに振り向く。 ミカサは皿を洗う手を止め、彼女に向いてめくり上げていた右手首を見せた。 そこに刻まれた、印。 「私は9歳の時に、母からこれを受け継ぎました」 「・・・そう、そんなものが、あるんだ」 「じゃあ・・・」 「私は母に育てられていないから」 コトンとナイフを置いて、彼女がミカサの右手首に触れる。 東洋人が受け継ぐ印。母から子へと。途絶えゆくその血筋を誇るように。 「貴方のお母さんにも会ってみたかったわ」 「・・・私より貴方の方が、母に似てます。顔立ちも・・・、背だって私ほど大きくはなかったし」 ミカサより10センチは低い位置にある彼女の瞳。 黒い髪、黒い瞳、肌色、顔立ち。 印を継いでも、母の味は・・・もう思い出せない。 「それはそうでしょう。だって貴方には、お父様の血も流れているんだから」 「・・・」 「お母様とお父様が、ここに在った証が貴方なのだから」 ふと風が吹き抜けるように、ミカサの黒い髪が揺れた。 どこか母に似た黒い瞳を見下ろし、涙がこみ上げ、けど口をつぐんで飲みこんだ。 「貴方もエレンと同じね」 「え?」 「泣き方がヘタ」 クスクスと笑い声をこぼし、彼女の小さな手がミカサの髪を撫ぜた。 彼女が、まるで母のように柔らかく微笑むから、同じ笑みがこぼれた。 「あれ? ミカサー?」 ミカサがいないことに気付いたエレンが広間からこちらに首を伸ばす。 彼女に新しい料理を手渡され、ミカサは皿を持って広間に戻った。 「兵長、また組手してくださいよ、今度こそ勝てる気がします」 「100年早ぇよ」 「リヴァイの連勝記録は現役引退したっていまだに抜かれてないからね」 「新兵はどうですか? いいのいます?」 「お前らの時ほど手がかかることはない」 「ちょっと、俺たちとこの死に急ぎ野郎を一緒にしないでくださいよ!」 「ああ!? お前だってクッソガキだっただろ!」 「はは、久々に聞いたなそのあだ名」 「エレンは今でもクソガキ」 「お前らまで・・・!」 騒ぐ声と共に殴り合いが始まりエレンがミカサに引き戻される。 ガチャンと酒が毀れみんなでテーブルを拭く。 喧嘩しても笑って、昔のままに仲間のまま。 脅威の無くなった世界になっても。酒を飲み交わす年になっても。 「拭くものくれ」 「はい」 教えてあげたい。あの頃の私たち。 涙も笑顔も忘れてしまう位に苦しい今も、行き止まる事はないこと。 暗いままではないこと。 「落としたもの食うなよエレン」 「だってもったいないだろ、せっかく作ってくれたのに」 「相変わらず彼女が大好きだねぇエレンは」 未来はある。 時は流れ続ける。 この今に繋がっている。 あの頃の君たちが信じ続けた未来が、ここに。 Starting over - Levi:attack on titan陽が落ち星が輝く向こう側へエレン達が帰っていくと、普段通り静かな家に戻る。 食器を片付ける彼女の後方で部屋を片付けているリヴァイはその汚さに舌を打つ。 普段床を汚す人もいないこの家では目新しい光景。 だけど彼女には片付けるリヴァイの背中が怒ってなどいないこと、容易に見てとれた。 「まだ起きてらしたんですか」 片付けを終えシャワーを浴び、彼女が寝室に入るとベッドで枕を背に座っているリヴァイを見た。 今日は随分と酒が進んでいたからもう眠りについているものだと思っていたのに。 「エレン、久しぶりにリヴァイさんに会えて嬉しそうでしたね。もっと会ってあげたらいいのに」 「あいつもそう暇じゃないだろう」 「班を持つって言ってましたね。ミカサも、少し前までまだ新兵だったのにな」 「あいつらはどの代よりも死線をくぐってきたからな、成長も著しいのは当然だ」 「リヴァイさんも、彼らと一緒に外の世界を見たいんじゃありません?」 「あいつらが見ていればそれでいい」 「行きたいクセに」 傍でクスクスと笑ってくる彼女を見返し、リヴァイは彼女をベッドの奥へと引っ張り込む。 リヴァイは決まって彼女をベッドの奥側に置く。彼なりの定位置があるらしい。 「ミカサがまた来るって言ってました。お料理を教えて欲しいって。どうしよう、私も勉強しなきゃ」 「あいつが料理? まな板ごとぶった切るんじゃねーか」 「ヒドイ。ミカサは繊細な子ですよ」 傍らのランプを吹き消すと部屋はひとつ暗くなる。 結んでいた髪を解きふとんを整え、眠る準備をする。 「ミカサと、何を話してた?」 そうしてリヴァイにもふとんをかけようとしたが、リヴァイの問いかけに彼女は手を止めた。 昼間・・・台所でミカサと彼女が何やら話しこんでいたのをリヴァイは気付いていた。 その後の彼女が楽しく笑い歓談している合間にも、どこか気を逸らしていたことも。 答えを待って見つめてくるリヴァイに、彼女はふと笑みをこぼす。 そうして彼女は昼間に聞いた話、ミカサの右手に刻まれていた印のことを口にした。 「―東洋人で良かったなんて思ったこと一度もないけど、いざ・・・こんな話を聞いてしまうと、なんだか寂しく感じますね」 数少ないランプの明かりに照らされる彼女の横顔がゆらゆらと揺らぐ。 自分の白く綺麗な、何の痕跡もない右手首に左手を添えながら。 多く影を作り、微笑んでいながらも、その表情には空虚が散らばっていた。 「今さらどうしようもねぇことだろ、気に病むな」 「気に病んではいません。けど・・・」 橙色の光が彼女の白い頬と白いナイトウェアの色を染める。 「きっと母は、その印を持っていたんでしょうね」 「・・・」 「母の印は、途絶えてしまったんだな・・・って・・・」 ランプの火ほどに小さく弱い彼女の声が揺らぎ空中に溶け込む。 その隣で、リヴァイはベッドのヘリに乗せていた右手を彼女の黒い髪に寄せ、指で頬に触れた。 その感触を感じ取って彼女は左側を見る。 「お前はもう受け継ぐことは出来ねぇんだ。お前に出来ることがあるとしたら・・・受け継がせることだけだろう」 「受け継がせる・・・」 「欲しいか? 子ども」 「・・・」 少ない明かりの中、影に隠れようとしているリヴァイの声はとても力強く響いた。 そのまっすぐな視線も。まっすぐな意志も。 目を少し大きくして、彼女は言葉に詰まってしまう。 この血を受け継ぐ子ども。 「怖いか」 「・・・リヴァイさんは・・・」 「そりゃあな。だが・・・それだけでもない」 頬をかすめるリヴァイの指先が髪を撫ぜ頭を抱きよせ、リヴァイの匂いに包まれる。 「これからの世界も、壁の外と同じだ。何があるか分からない。だが壁の外を行くあいつらは楽しそうだろう」 「ん・・・」 「壁の向こうの、もっと先の世界を見るには俺達だけでは足りない。次の時代を生きる者が必要だ」 抱きしめながら、慈しむような口付けが耳でちゅと音をたてる。 肩に落ち、首に添い、輪郭を辿りながら口唇へ行きつく。 繰り返し口付けて、意志を通わせるように絶え間なく視線を混ぜ合う。 見つめ合って口付けて、頬から肌から髪から・・・指先まで愛しく撫ぜて。 優しく、優しく、優しく。 「・・・東洋人にも、安全な世界になってくれるかな・・・」 「さぁな」 「酷いことされたり・・・悲しいことがあったり・・・」 「ないことはないだろうな」 軋むベッドで熱が昇って、身体の中へと、血肉まで、骨まで沁み込むように。 肌にいくつも痕を残す。自我の印。思慕の証。我儘に刻み込む。 欲が滲み出て呼吸は荒れていくのに、二人の胸で反響し合う鼓動は湖底のように穏やか。 愛したい。愛したい。愛したい。愛されたい。 「リヴァイさん・・・何があっても・・・守ってくれますか・・・?」 腰を引き寄せぶつけ合うと身体の奥で弾けて、彼女の締まる喉から声が漏れる。 壁に揺らぐふたつの影が一時も離れない。 想いのままに求め合う今までとは・・・どこか違う。 「どんな生まれ方をしようと何も起きない人生などない。苦しみもするだろう。痛みもあるだろう。だがきっと出会える・・・。何があろうと乗り越えられる、一生をかけられる奴に」 熱い吐息に乗って、愛しくて愛しくて堪らない愛が奥底で絡み合う。 どくどくと響く。管を通る血が沸騰しているよう。 果てても愛しくて口付けて、濡れるまつ毛を撫ぜて。 「そういう奴が現れるまでは俺が全力で守ってやる。心配するな」 涙を滲ませる彼女をキスで慰め続ける。 柔く撫ぜ、口付け、想いを受け止め、怯えた瞳が光をうつすまで。 いくつも越えてきた夜が、今日は新しい夜に思えた。 反響し合う鼓動がまた一つ、生まれた気がした。 |