01. Rivalry
西の都に複数ある高校のひとつ、ゴールデンバーナード・ハイスクール。
都内から各分野に秀でた若者が集まるこの学校からは、各界に多くの実力者、有名人を排出している有名校である。
「わたし、ジュニアスクールの頃からトランクスさんに憧れてたんですぅー」
「あ、はぁ・・・」
「ぜひ一度お話したくってぇー、あのー、今日なんですけどぉ、」
「あー!アボ!こっちこっち!」
「よぉ、トランクス」
「ごめんごめん、遅れちゃって!先行かないでくれよー!」
「は?」
通りかかった友達を大声で呼び止めて、前の子に謝って走っていった。
色とりどりの花が舞い散る中、多くの人の目線を集めていて、恥ずかしい。
「おいおい、いーのかー?めっちゃ睨まれてるぞ」
「いーよ、あの子、きのうも校門出るまでずっとついてきたんだ」
「うわ、こえー。モテんのも考えもんだなー。俺凡人でよかった」
「なんだよそれ・・・」
ひとつクラスが上がったころ、当たり前に下級生が入学してきて新しい年が始まる。とはいえ俺は何も変わらない生活をまた繰り返す・・・はずだったんだけど、なんだか最近今まで以上に周囲の目が気になるようになってきたのだ。
「やっぱアレが効いたよなー、世界のジュニアトップ10!」
「そうなんだよ・・・!あんなの出るんじゃなかった・・・」
「いっきに有名人だもんなー、俺よく自慢するもん」
「なんでお前が自慢するんだよ・・・」
学校が始まる前、母さんに連れていかれたテレビ局で俺はカプセルコーポレーションのジュニアとして紹介され、一気に顔が知れてしまったらしい。今までチラッとテレビに出ることはあっても、ひとつの特集が組まれるほど堂々と出ることはなかった。生活がしにくくなるから変に顔を知られたくはなかったし。
あの時母さんは、自分がテレビに出る付添だと言って俺を連れていった。でも本当は、それは各界のジュニアを紹介する特番で、母さんは俺がそういうの嫌いだって知ってるくせに、今人気絶頂の大好きな若手俳優が一緒に出るからと出演を快諾してきたのだ!
「騙されたんだよ母さんに!アレ以来うちの前に知らない女が待ってたりヘンな親父に儲け話持ち出されたり、迷惑してんだから!」
「儲け話って!カプセルコーポより儲ける話があるなら聞いてみたいよなー」
「笑いごとじゃないんだってほんとに!」
俺の気も知らず、友達も母さんも笑い飛ばしてばかり。
当の俺は大変な毎日を送っているというのに・・・。
この学校はいろんな分野に秀でた生徒を多く持っているだけに、今まではそんな俺だけが注目を集めることはなかった。ただ家が大手企業だっていうだけの俺より、たとえば・・・
「お、もう一人のジュニアがご登校だぞ」
アボはじめ、道中の生徒たちがみんな空に目を向ける。
校舎上の空には大きな飛行機が大きな音をたてて現れ、風を巻いて下りてきた。
多くの女生徒がキャアキャアと声をあげて寄っていく。
「おーお、今日も派手だな。お前もアレくらいで登校してこいよ、持ってんだろ?」
「ヤダよ・・・」
降り立った飛行機の扉が開いて、中から一人の男と付き人の老人が下りてくる。
きっとこの学校で一番の有名人だろう、父親は有名な写真家らしいし。
「キャア!キュールー!」
「キュール!おはよーう!」
「おはようみんな」
周りを囲む女の子たちに笑顔で応え歩いてくるキュールは俺と同じ年。
若者に人気のモデルでテレビにもよく出てるから広く顔が知れてる。
この学校でも一番の有名人だろう。
「あいつ、なんで急にコース替えてきたんだろうな?前はスポーツコースだっけ?それがいきなりテクノロジーコースだろ?どんな方向転換だよ」
「さぁ」
「分かった、トランクスに対抗してだ。ライバルだと思われてんだよお前」
「はぁ?やめろよメンドくさい・・・」
「あ、見ろよトランクス」
校舎に入ろうとしたところで、アボが廊下の先を見て言った。
そこには先に校舎へ入っていったキュールが誰かと話している。
「あれ、じゃないか?」
歩いていくごとに近づいてくる、廊下の端で話してるふたりは周囲の視線をよく集めていた。さすがにキュールの周りを囲んでいた女の子たちもいなくなって、朝の白い陽光が照明のように二人は照らされている。
「キュールの目的はあっちかもな」
「目的?」
「コース変更の理由さ」
「え?それは・・・、ないだろ・・・」
というのは、俺と(つまりはキュールとも)同じコースの女の子で、入学以来トップを独走し続ける成績は学校創設以来の天才と言われるほどで、そう言う意味では彼女もトップクラスの有名人だ。真っ黒な艶髪が背中で踊る細身の容姿も、他とは明らかに一線を引く。
「いいのかートランクス、あとから来たヤツに持ってかれちゃっても」
「・・・、はっ?なにがっ?」
「しかもキュールだろ?なんか負けた感が倍増だよなー」
「だから、何がだよ!」
ニヤニヤとからかう目線をよこしてくるアボ。
バシッと一殴りしたいけど出来ないこのもどかしさ・・・!
「トランクスくん、おはよう」
「え?ああ、おはよう・・・」
アボを黙らせようとしながら廊下を進み、ちょうどさっきのふたりの後ろを通り過ぎようとしたところで、キュールが俺に気づき突然呼びとめてきた。
さして仲がいいわけでもないのに声をかけてくるキュールは、去年の中ごろから俺と同じコースに入ってきたからそれなりに交流はあった。そうでなくても有名な親を持つジュニア同士、本人たちに関係なく周りは比べたりひとまとめにしたがるもの。
コースが違う時は同じ学校にいながら喋ったことも会ったこともなく、時々話題が上がってもまるで雑誌を見てるみたいな感覚だったのが、今じゃ巻き込まれてる感覚だ。向こうがやけに好意的に寄ってくるせいもあるけど・・・。
とはいえ、ライバル視なんて御免被りたい。俺はこいつと違って目立ちたくはないのだ。自分のことならまだしも、家や親のことでなんてなおさら。
「テレビ見たよ、めずらしいねテレビに出るなんて」
「ああ・・・、もう二度とないよ」
「そう言うなよ、カッコよかったよ。どう?今度は雑誌にも」
「いや、遠慮しとく」
「はは、君は大人しいな」
そっちが目立ちたがりなんだよ・・・。(なんだそのキラッと光る白い歯は)
「そうだ、も一度どう?」
「それいーじゃん、モデルっぽいし」
「君ならどんな子より人を引き付けると思うな」
キュールの話にアボまで乗っかって話を盛り上げる。
だけどは・・・
「いいえ、興味がないわ。じゃあ」
分からないくらい少しだけ口端を上げて、は階段を上がっていった。
アボはやっぱなと呆れて笑い、俺もはそう言うだろうなと思った。
「トランクスくん」
「え?」
見えなくなって行くを見つめていたキュールが俺に振り返る。
いつもやけに自信満々な笑みを見せてくるキュールが妙に真面目な顔をして。
「きみは、と何かあるのかな」
「え?何かって・・・?」
「きみが来た途端はやけにそっけなくなってしまった」
「は?べつに、何もないよ」
「そうか。じゃあ気にしないでくれ」
じゃ、と言い置いて、キュールはいつもの顔で階段を上がっていった。
「があんななのはいつものことなのになー。キュールのやつ、今まで女の子が振り向かなかったことなんてなかったから気に食わないんだぜきっと」
いひひと笑うアボも階段を上がって、俺もそれについていく。
学校にチャイムが鳴りだしてみんな教室へ急ぎ始める。
とはクラスメートだ。この学校に入った時からずっと。
でも話したことはない。たまに研究や実験で同じグループになることはあっても必要以外の会話はないし、同じ教室にいても、はあまり人と仲良く話をしてるところを見たことがない。
けど、これまで一応、同じ教室で同じことを学んできた、クラスメート。
アボだってキュールの会話に乗っかって軽口叩くくらいの親しさは持っている。
でも俺は今まであんなふうに親しく話したことなんてない。
”きみが来た途端はやけにそっけなくなってしまった”
ほんとに・・・ほんっっとに、何もないんだけど・・・。