Happy merry X'mas - 2008 クリスマスってなに?よく分からない人の誕生を祝って街全体で大賑わいして、結局楽しみたいだけのお祭り行事。 サンタクロースって、なに?今さら子供だって信じちゃいないものを毎年毎年はやし立てて、デパートじゃサンタの格好をした付け髭の大人たちが大きな笑顔で、その癖手には「プレゼントはデパートで」なんて看板を持ってて。 毎年この時期大賑わいのデパートは、夜が更けても人が行ったり来たり。大きなプレゼントを持った親子が満足そうに笑顔で見合う。大人は子供への愛情をプレゼントの大きさで表現し得意満面。子供にとったら、買ってくれれば誰でもいいのにね。 「なぁ一馬、やっぱあいつらに入り方教えてもらったほーがいいんじゃないの?」 「いいんだよ。そんなのわざわざ教えてもらわなくったって」 「なんで?」 「あのバカ兄弟は絶対今夜またシイナの家に入り込むんだ。あの家の警備は厳重だって言ってただろ?だったら必ず家中大騒ぎになるはずだ。そのすきに俺たちはを見つけて連れ出せばいい」 「あ、なーるほど!・・・で、じゃあなんでデパートに来たの?」 「それとは関係ないよ。せっかくクリスマスなんだから、このチャンスを逃す手はない」 早くもすっかり日が落ちた街の中、それでも明るくあたりが見渡せるのは眩しいくらいにライトアップされたデパートのおかげ。年に一度の大賑わい、食事にプレゼントにと大勢の人が集まるこの場所はきっと、今日一日で大儲けしてるはず。 デパートの入り口ではサンタの格好をした店員たちがいらっしゃいませー!と声を高らかにして客一人一人に愛想を振りまく。デパートに入って行く客たちに混ざって、一馬と結人は中に入ろうと一歩を踏み出した。 すると、目の前の大通りに一台の大きな車が流れるように入ってきて正面でピタリと止まった。それから降りてきたのはきっちりとスーツを着た大きな男。その男がデパートに向かって歩き出すとすぐさま近寄ってきたメガネをかけた女の人が丁寧に頭を下げた。 「社長、おかえりなさいませ」 「どうだ、今日の客入りは」 「好調です。昨年の動員をはるかに上回り売上も順調に延びております」 社長、という言葉に一馬はピクリと耳を反応させた。 「今日一番の売筋商品はなんだ?」 「はい、やはりオモチャ売り場が一番の売上を出しています。次に宝石売り場、展望レストランも好調です」 「子供向けのプレゼントだけでいい。今年はどんなものが人気あるんだ?」 「はい、お子様に一番人気なのは先日発売された5万円の人気ゲームソフト、それとトータル30万円の一流ブランドのお洋服も大変人気です。加えて今年の目玉商品の純金プラモデルはすでに100個完売しております」 秘書がスラスラと読み上げる売上を聞いて、社長と呼ばれた男はいい結果だと頷いた。やっぱり天下のセントデパート、その売上もハンパない。客に混ざって小さく話しているふたりの影で、一馬はひとつにやりと笑みをこぼした。 そこに小さく電話の呼び出し音が響き、ポケットから携帯電話を取り出した社長はデパートの中へと歩きながら通話ボタンを押した。 「イリオンか?ああ、今帰国した。・・・いや、まだ無理だ、今日は夜中まで帰れない。遅くなるから先に寝ていなさい。・・・明日もまた出張で海外に行く予定だ、帰国は3日後になるだろう。心配するな、プレゼントはもう用意してある」 電話で誰かと話しながら、社長は今まで低くしっかりとしていた声色を若干和らげて話し、後ろにいる秘書に目をやった。すると秘書は別の資料を広げ、「イリオン様には今年はインド象3頭と、運転手付きのジャンボセスナ機をご用意いたしました。総額は去年の2割増しとなっております」と答える。 「どうだ、満足したか?・・・、なんだ、何が不満なんだ、何が欲しかったんだ?・・・ゲームがしたい?ならプロのチームを買い取ろう。好きに選手をトレードしゲームを組み立てればいい。・・・、そういう遊びは友達とやりなさい。・・・俺は無理だ、今日は帰れない。・・・、またサンタクロースなんて子供じみたことを、ほしいものがあるなら俺に言えばいいだろう」 デパートへの階段を上がって回転ドアをくぐり中に入ると、外の寒さなんて嘘みたいに温かい空気が体を包んだ。中に入ると途端に電話を切られてしまったらしい社長は、溜息をつきながら携帯電話をポケットにしまう。 「まったく、何が不満なんだ。何を買い与えても満足しない。一番人気のオモチャも高価な洋服やアクセサリーだって全部持っているのに、ワガママなやつだ」 ぴたりと後ろを歩く秘書だけに聞こえるように小さく愚痴る社長の少し後ろを歩きながら、一馬は心の中で小さく「バカ」とつぶやいた。 すると、まさかそれが聞こえるはずもないのに突然目の前を歩いていた社長が振り返り一馬と結人に目をつける。その鋭い目にドキッとした一馬が急に足を止めると、デパートの中を楽しそうに見渡し歩いていた結人も一馬の背中にぶつかって足を止めた。 「君たち、どこにいくんだ?」 「お、俺たち?俺たちは、えーと、オモチャ売り場に・・・」 「プレゼントを買いに?君たちだけで?」 「あ、今、お父さんとお母さんは別のところで買い物してて・・」 「そうか。ところで君たちは今一番何が欲しい?」 「いま?えーと、ゲームとか、プラモデルとか・・・」 「そうか」 やっぱり、とでも言いたいかのように社長はまた溜息をつきながら前を向きデパートの奥のほうへと歩いて行った。 「なに?あいつ」 「このデパートの社長だってさ。それより結人、オモチャ売り場探すぞ。やっぱり一番設けてるのはオモチャ売り場だ」 「よっしゃ!」 そうして二人はデパートの上へと駆けていき、大勢の家族連れが賑わう中を押しつぶされるようにして進みながら目的の場所を目指した。 キラキラ光る宝石やブランド品売り場ではきれいに着飾ったカップルで賑わって、オモチャ売り場では親子連れでさらに騒がしく、浮足立つ今日という日はまさに、絶好のチャンスだった。 「よし、もういいだろ。行くぞ結人」 「うん!」 ポケットをパンパンに膨らまして、二人は大勢の客の流れに沿うように回転ドアをくぐり外へと出て行った。一気に白くなる息、つんと鼻を突く冷たい空気。それでも足早に二人は階段を駆け下りていく。 「ちょっと待てお前ら!」 ぐい、と腕を掴まれ引きとめられた一馬。その後ろでは結人もがっしりと別の男に抱き捕まえられている。きっちりと黒いスーツを着た大人たちが一斉に一馬と結人を捕まえ取り囲む。監視カメラで客の動向を見ていたデパートの奥の人間たちに二人の行動は見張られていたのだ。 「な、なんだよ!離せよ!」 「なんだよじゃねーよ、全部バレてんだよ!」 「何がだよ!痛い痛いっ、離せー!」 「こんなきったねぇ格好でウロウロしてるガキなんて怪しいに決まってんだろーが!」 掴み上げられて、締め付けられて、周りを行きかう人たちは何事かと視線を投げかける。騒ぎが大きくなるにつれ周りのデパートの前でチラシを配っていたサンタの店員たちまで集まってきて、なんとか逃げようともがく二人の首根っこを捕まえて地面に押さえつけた。 悲鳴と怒声が飛び交うデパートの正面でもう一馬も結人も見えないくらい大人たちに囲まれもみくちゃにされていた。店から出て行くプレゼントを抱えた上品な親子は遠巻きに二人を見て、これだから貧乏人は・・・と怪訝な目を投げかけながら、一人の婦人が人ごみの合間から見えた一馬と結人の顔に、何か気付いて声を張り上げた。 「あ、この子たち、今日レストランでお金盗んだ子どもたちだわ!またこんなことして、警察に突き出してちょうだい!」 「なんのことだよ、しらねーよババア!」 「まあ!」 「ガキが、大人ナメてんじゃねーよっ!」 押さえつけられ、怒鳴りつけられ、周りの非難の目が冷たく突き刺さる。そんな憐れむような目を振り払うように一馬も結人も暴れ続けるけど、小さな二人の体が大きな大人たちの力に適うはずもなく、二人の足は宙を蹴るばかりだった。 そんな中、きゃあ!、うわぁ!と大きな悲鳴が飛び交った。もはやこのおしくらまんじゅうのような人ごみの中のどこから、なんでそんな声が響いているのかは分からない。そんな声もかき消されるほどデパートの前は小さな捕り物で騒然となっていた。 一馬と結人は掴み上げられて、ポケットの中に詰め込まれたお金や宝石を次々と露呈される。あまりに騒然と押し寄せた人ごみの中でボロボロだった服はさらに汚れて泥だらけになって、二人はそのまま大人たちの手によって連れて行かれた。 -- NEXT --
いい加減タイトルに限界を感じてきた |