Happy merry X'mas - 2008
13:宵闇脱出






東の塔で穏やかな時間を済ませた一行は、このままバレないように屋敷を抜け出そうとしたのだけど、みんなでそろっと塔の扉を出た瞬間に誠二が大きなくしゃみをぶちかまし、結局屋敷中を捜索してた黒メガネたちに見つかりまた逃げ回る羽目になった。

どの出入口も封鎖されていて、抜け出る隙間もない。あとは亮と誠二が入ってきた、屋敷の中心にそびえたっている暖炉の煙突から出るしかない。バタバタ走りまわる4人は暖炉の大広間に向かってひた走った。

すると、赤じゅうたんの上を先頭で走っていた亮が突然ピタリと足を止めた。
うしろに続く誠二は担いでいる白い袋を落としそうに、一馬と結人も誠二にぶつかりながら足を止める。


「いってぇ、なんだよ急に!」
「えー、ここで、皆さんに大事なお知らせがありまーす」
「えっ、なになにー?」
「・・・まさか」


みんなの前に立つ亮は、目の前で3方向に分かれている廊下の中心でくるり振り返る。


「迷いーましーたー」
「・・・」


フザケンナー!
一馬と結人は声を揃えて叫ぶけど、亮は走り回り過ぎたせいでどこから来たのかもどこへ行けばいいのかもさっぱり分からなくなってしまった。


「まーまーテキトーに部屋に入ってみれば意外と広間に行きつくカモネ!」
「うんうん、道に迷ったら誰かに聞けばいーんだよーアハハッ」
「お前ら泥棒の自覚あるのかー!」


これだけ屋敷中に侵入者を知らせる警戒音が鳴り響いているというのに、泥棒兄弟はちっとも緊迫した空気もなく笑い合っている。このままじゃ捕まってしまう。しかも売れば数十億と言われている天才画家・椎名の絵を背中に担いでる泥棒と一緒・・・、牢獄行きは免れない。


「駄目だ結人、こいつらと一緒にいると確実に捕まる。俺たちは俺たちで逃げるぞ」
「うん!」
「バーカお前らなんかに出口見つけられるくらいなら俺らが見つけてるってんだよ!」
「俺らは見つかっても泣いて謝れば済むもんね!子供だから!」
「テメェこんな時だけ子供の権力を最大限に活かしてんじゃねーよ!」
「誰かいるの?」


ウーウーと警戒音と赤ランプが止まらない屋敷の中、一馬と亮が廊下のまん中でぎゃんぎゃん怒鳴り合っていると、そんな二人の声を聞きつけたのか、4人の傍の扉が開いて、中から屋敷のメイドがひょこりと顔を出した。


「あ・・・」


顔を合わせ動きを止める4人と1人は、しばらく目を丸くして見つめ合った後でギャー!と声を張り上げた。だけど亮はそのメイドの顔を見て思い出したのだ。このメイドは、さっき屋敷に入ってきたときに出会ったメイドの、アイコだ。


「誠二!アメ出せアメ!」
「アメ?」


一馬と結人、そしてアイコがギャー!と騒いでる隣で、亮は誠二を前に押し出す。
そして誠二はいつも持っている棒付きキャンディーをまた、かこんとアイコの口に入れた。それはさっきも口に甘い味を広げた、イチゴのキャンディー。途端にアイコは動きを止め、目の前の誠二をぽかんと見つめる。


「また会ったね」
「・・・」
「暖炉はどっち?」
「・・・あっち」


アイコは甘い味と香りに目をハートにさせて、廊下の先を指さした。
するとすぐさま亮はアイコが指さしたほうへと走り出し、一馬と結人も意味が分からないままついていく。


「じゃーね、お仕事がんば!」


ぽん、とアイコの肩に手を置いて、袋を担ぎ直す誠二もみんなの後をついて走りだす。口から棒をはみ出させるアイコは両の手を合わせて組んで、王子様・・・と呟きながら赤じゅうたんにヘタリと座り込んだ。


「やっぱり分からねぇ、こんなに怪しいのに・・・トナカイなのに・・・」
「あはは、おもしろい人だったねー!」


ケラケラ笑って、一行は廊下を走り行きついた先の大きな扉を開ける。
そこはやっと、探し求めていた屋敷一番の大きな暖炉のある部屋。
4人は見つかる前に暖炉の中へと潜り込み、ようやくこの屋敷から脱出しようとした。


「なぁ、その絵持って上がれないだろ、俺が持ってやるよ」
「あ、ほんと?あんがとー」


体の大きな誠二は暖炉をくぐるので精いっぱいで、背中に絵が入った袋を担いで暖炉に入ることが出来なかった。誠二から絵を受け取る一馬は暖炉の前で袋を担いで、早く!と急かす結人の声に返事をしながら暖炉に足を踏み入れる。


「見つけたぞお前らぁあー!!」
「うっわ、ヤベェ!早く行け!行け!」
「お前ら逃げられると思うなよー!!」


やっと逃げられると思った矢先、黒メガネの集団が暖炉の部屋にいた4人を見つけ駆け込んできた。白い袋を担ぐ一馬は急いで狭くて真黒な煙突の梯子を駆け上がっていく。

すると、必死に煙突をかけのぼる一馬の下のほうから、パチパチと小さな音が聞こえてきた。暗いはずの煙突の中がほんのり明るくも見えて、一馬は何事かと足の下を見下ろす。

すると、遥か下の暖炉に、導火線のついた爆弾が放り込まれたのだった。


「うわ、シャレになんねー!」
「わっ、なに、なんなの一馬!」
「いーから早く上がれ!爆発するぞ!」
「えっ!?うわぁ!!」


結人を急かし急いで煙突を上っていくけど、下のほうの爆弾はみるみる導火線を短くしていき、4人がついに煙突の出口に差し掛かったと思った矢先に、ドカン!と爆発してその強烈な風を煙と一緒に煙突の中に突き上げた。


「うわぁああああーーー!!」


下から込み上げる爆風に押され、一馬と結人の軽い体が飲みこまれると、それに押されて誠二と亮も煙突の先から押し出され、砲弾のように真っ暗の空へポーンと放り投げられた。

ぎゃぁぁああああ!!
4つの悲鳴が星の瞬く夜の空へ放り出され、ビュンと果てのない空へと飛んでいく。
一生を振り返る間もなく、確実に死んだと誰もが目を閉じた、その時。
ボスン、と4人は何かにぶつかり、体が止まった。


「・・・へっ?」


視界に広がるのは変わらぬ夜の星。口から洩れる白い息さえ凍りついてしまいそう天高い空の中、なんとか体を起こし4人が目にしたものは・・・


「まったく、なんてとこから飛んでくるの」
「・・・」


白い大きな袋を積んだ、ソリ。
そのソリを引いて何もない空中を走る、トナカイ。
そのトナカイの手綱を引く・・・


「ま・・、マスタぁー?!」


喫茶カイロスのマスター、英士だった。


「なっ、なっ、なんだよお前、なんなんだよ!」
「何って・・・」


だって、今夜は、12月25日。


「サンタクロースだけど」
「・・・」


えぇぇえええええーーー!!??
夜空の中で響く4人の叫び声は、壮大な空に簡単に飲み込まれてしまう。
変わりにシャンシャンと鈴を鳴らすソリの音は、冬の夜によく響き、空をかけるトナカイは多くの人たちの目にとまった。

プレゼントに胸を躍らせて眠れない子供たち。
靴下にプレゼントを詰めようとしていたお父さんお母さんたち。
サンタクロースの衣装を脱いでやっと仕事が終わった大人たち。

クリスマスを忘れない、サンタクロースを忘れない、世界中のすべての人たちへ。


だって今夜は、クリスマス。







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おいしいところは全部持っていく。それが英士。