壁外調査を翌日に控え、その日の訓練は最終確認だけで終了し解散した。
 調査兵団の実行部隊は今頃すでにウォール・ローゼ東側の城壁都市カラネス区へ向かっているが、エレンを所有するリヴァイ班は寸前まで待機命令を受けているために今夜はまだ古城での夜を過ごさなければならず、夜明け前にカラネス区へと出立し大部隊と合流する。

「おお、エレン、お前対人格闘はうまいな」
「これだけは訓練兵時代からいい成績取れたんです」
「ガキにしては、だ! 調子のんな!」
「ぺトラとならいい勝負出来るんじゃないか?」
「言ってくれるじゃない。エレン、勝負する?」
「お願いします!」

 古城に戻ってきたはいいが、今日は訓練らしい訓練もしておらず、まだ日が高く夕食までの時間を持て余した班員達は外でエレンを相手に組み手をしていた。決め手には欠けるものの自分よりずっと体格のいいグンタ相手にでもエレンは器用に身体を動かし拳をかすらせる位は出来る。エルドに煽られ傍で見学していたぺトラが前に出ると、エレンと向かい合い構え攻防を応酬した。

「いいぞエレン、いざとなったら巨人化してしまえ!」
「ちょ、それ本気で冗談にならないから!」

 激しく本格的な攻防が交わされながら、傍では笑い声が上がっている。この古城での生活も約一ヶ月が経ち、エレンを含め班員達は仲間として良い信頼関係を築けていた。

「一発も当たりませんね、エレンは」
「おお、、お疲れさん」

 エレンとぺトラの対人格闘を眺めるエルド達の元へがやってきた。
 壁外調査が近づくと医療団もその準備に追われる。全員の検診をするだけでも丸三日はかかる上に、各兵に持たせる最低限の治療道具を人数分揃えるとなると膨大な手間と時間がかかった。も数日前から明日に向けての準備に追われていたが、にはここでの特別な任務があるために作業を他の医師に任せ古城を訪れていた。

「当然だ。ぺトラはあれで随分手を抜いてやってるぞ」
「いくらなんでも新兵に負けるわけにはいかんからな」
「あんなガキにやられてみろ、俺が許さんぞ」
「兵長は入団早々分隊長クラスを負かしたって話だけどな」
「そうなんですか?」
「リヴァイ兵長とあのガキを一緒にすんな!」

 オルオの怒鳴り声が上がった時、ぺトラのしなやかな腕がエレンの腕を絡め取りすかさず綺麗な打撃が顎下に決まった。エレンは膝を崩して顎を押さえ、ゴメンゴメンと謝るぺトラのうしろで拍手が沸き起こった。

「弱いわねぇエレン」
「しょうがないだろ、この先輩達に勝てるわけないんだから」
「リヴァイさんは入団早々分隊長クラスに勝ったんですって」
「リヴァイ兵長と一緒にすんな!」

 いまだ涙目で顎を押さえながらエレンは尻もちをついたままに拳を振り上げる。城の向こう側に日が暮れていく夕暮れにいくつもの笑い声が重なり響いていた。
 そんな和やかな班員達の様子を城の二階の窓から見下ろすのは、帰還早々ひとり城に入っていったリヴァイ。さぁそろそろ夕食の準備に取り掛かるかと城に入っていく班員達と、エレンを引っ張り起こすの姿を感情の見えない静かな目で見ていた。

 古城で過ごすのは一端今日で終了となるリヴァイ班は、この面子で取る最後の夕食の準備に取りかかり、エレンは最後の診察を受けにと診療室へ入っていったが、十分元気なエレンは診察の必要も無く、ぺトラに食らった顎の痛みを冷えたタオルで癒すことから始まった。

「緊張はしてないみたいね」
「ああ。昼に団長の話を聞いてた時は、実感が湧いてきてちょっと緊張したけど、先輩達と組み手してたら落ち着いた」
「いい先輩達ね」
「今回の調査は短距離で、行って帰ってくるだけだし、グンタさんも俺をシガンシナへ送るための試運転だって言ってたからそう気負う必要もないだろ」
「油断だけはしないでね」
「分かってるよ」

 はエレンが押さえるタオルを外させ、赤くなった顎を見る。
 すぐ鼻先にいるを見ながらエレンは、結局このマスクが外れることは滅多となく、本当にずっとつけてるんだなぁと思った。

「早く家に行けるといいね」
「あ……うん。まだ何回も壁外調査を重ねて、ウォール・マリアの穴を塞いで内地を取り戻してからだから、かなり時間はかかると思う。でも団長は確かな活路を見出してるみたいだった。オレの家に行けば絶対に何か巨人に関することが隠されてるはずなんだ。オレの家の、地下室に」

 真剣な目でエレンは自分の首にかけている紐を手繰りその先についている鍵を手にした。それはエレンが父から託された地下室の鍵。ずっと秘密にされていた地下室に入れてやると父が言った日に巨人が襲来し街を追われ、そのまま帰れなくなってしまったエレンの生まれ故郷。

「母さんが死んで、父さんはおかしくなってった。それで急にいなくなった。父さんが地下室に何を隠してたのかも、オレに何をしたのかも分かんないけど、それも全部地下室に行けば分かるんだ」
「お父さんにも会えるといいね」
「……それは、分からない。オレ、許せないんだ。これまで大勢の人が巨人に殺されてるんだ。ちょっとでも巨人の情報を持ってるならハンジさんみたいな専門の人に協力してもらえばもっと早くに何か突破口が見つかったかもしれないのに……。父さんは何かを絶対に知ってるはずなのに、それをずっと黙ってたんだ。なんでなんだよ」
「それは……お父様にも、きっと理由が」
「分かってるよ。分かってるんだよ。父さんが逃げたり、無意味に隠したりするわけないってことは。でもさ、やっぱり許せないんだよ。これが……誰か他人ならまだしも、父さんなんだよ、オレの父さんなんだよ。家族だから許せないんだ。あるだろ? そういうの」

 鍵を握り締めていたエレンは目の前のに目を上げる。
 ”家族だから”

「……そうね……」
「本当は父さんが見つかればもっといいのに……ったく、どこにいるんだよ」
「今は、それを言っててもしょうがないわ。あまり思い詰めないで。体温とってエレン」

 が肩をポンポンと軽く叩く手で落ち着き、エレンは鍵から体温計に手を替えわきに挟む。すると目の前で聴診器を耳に当てるの襟元に目がいった。

もそれ、いつもつけてるな」
「これ?」

 エレンがのマスクの下、襟元から見えている紐を指差すと、はそこへ手を寄せ紐を引っ張りその先についた青い泪型の石を取り出しエレンに見せた。

「貰い物?」
「ええ。もう随分古いから形が変わっちゃったのよ。元はもう少し綺麗な石だったんだけど」
「ふーん……誰に貰ったの?」
「母よ」
「へぇ……のお母さんってどんな人?」
「私も早くに母を亡くしてるから、覚えてないのよ」
「そうなんだ……」

 ふと笑んで、はペンダントから手を離しエレンの胸に聴診器の先を当てた。

「でも、のお母さんなら、たぶん、いい人だ」
「そう?」
「うん。それで、たぶん綺麗で、すげぇ優しくて」
「嘘言ってない? 心臓がドキドキしてるけど」
「ほ、ほんとだって!」

 思わず声を上げるとは聴診器を離し、ありがとうと笑った。
 窓から射してくる光が弱まり、夜が近づき部屋の中は次第に暗くなっていく。扉の外からは食事の匂いが漂ってきて、はエレンに体温計を外させた。

「もういいわよ。食事の準備手伝ってきたら?」
「うん。も今夜はずっといるんだろ? メシ、用意できたら呼びに来るよ」
「いいわよ私は。兵団の食事をいただくような身分じゃないんだから」
「なに言ってんだよ、ずっと食ってないんだろ?」
「いいから、いってらっしゃい」

 診断書に文字を書き込みながら背中を押しやられたものだからエレンは歩きだし診療室を出た。この一ヶ月の間でここを訪れたが班員達に食事に誘われたことは何度かあったのにはそれをすべて断っていた。結構ガンコだよな……と思いながらエレンは食事の匂いがする方へ走っていった。

 エレンの足音が遠ざかっていくのを聞きながら、は続きを書こうとしたが窓から差し込んでいた光が薄まり室内が随分暗くなっていることに気がついた。は石台の上に置かれたランプに手を伸ばし、火を擦りランプの芯に灯すと手元から橙色の明かりが丸く広がった。夕餉の香りがする中では診断書を書き上げ、この一ヶ月間書き留めてきたエレンの体調管理に関するファイルの中に綴じる。これでここでの任務も終了。あとは明日の調査から全員が無事に帰還することを祈り、医療団として待ち受けるのみ。前回の調査からもう一ヶ月。長かったような、早かったような。とにかく新たな出来事や感情、不安や期待、焦燥や希望の入り混じった重い一ヶ月だった。

 明日また、彼らは壁外へと向かう。
 石畳に響いていた笑い声も、のどかな風に乗る夕餉の香りも、明日は忘れるだろう。
 いまだ一人の犠牲も無く調査を終えたことは一度も無い。不安は拭えない。恐怖には抗えない。指先から冷やりと伝わる冷気を握り込んで、は立ち上がり明日班員達に持たせる薬や道具の準備を再開した。

 分量を調節した薬を個別に包みポケットに収まるサイズに丸めるも、紙の上に少しずつ落とす粉が風にそよいで外へと零れてしまった。窓の隙間から冷たい風が流れ込んできている。真っ暗な外を透かしている窓。ランプの明かりがガラス戸に反射し、室内も自分をもガラスに映しこんでいた。
 髪を覆う白い布とマスク。目しか見えていない自分。胸元にぶら下がる青い泪型の石がついたペンダント。濁った青は光を反射する力もない。

「家族だから……」

 頭に残っていた言葉がマスクの中でだけ小さく零れ出る。
 その時、コツンと石畳を叩く音が小さく聞こえ、は伏せていた目を再び正面の窓に向けた。黒い窓に映った部屋の入口にリヴァイの姿を見てすぐに振り向いた。
 開いた扉口に立つリヴァイはランプの光を受け、影を作りながら静かに立っている。
 はしばらく黙ったままのリヴァイを見返し、笑みを作った。

「リヴァイさん、何か?」

 石畳の室内で反響もしない声はまっすぐリヴァイに届き、リヴァイは中に歩を進める。
 夜の帳を壊さないリヴァイの静けさを前には言葉を待った。

「明日、お前は内地で待機しろ」
「……え?」

 リヴァイがここを訪れ言いそうなことをいくつか想定はしたが、そのどれもに当てはまらず、考えも及ばなかったリヴァイの言葉には反応鈍く返した。

「内地とは……? 出発はカラネス区ですよね」
「カラネス区には入らなくていい」
「待ってください……どうしてですか? いつも通り門前ではいけないんですか?」
「駄目だ」
「……」

 余白も残さないリヴァイの返答には困惑した。
 ただただリヴァイの静かに見据える目を見返す。でも見つめれば見つめるほど視線にすら余白はなく、は笑みすら忘れていった。

「何か……問題でも?」
「……」
「いつも通りの調査ですよね……、なぜ門前ではいけないんですか?」

 は納得のいく説明を求めた。けれどもリヴァイの口はそれ以上開かれない。
 静けさと冷気がふたりの間の空気をどんどんと凝縮するかのようだった。
 そんな折、遠くからカツカツと近づいてきた足音がドア口でピタリと止まり、ぺトラが顔を出した。

「あ、兵長、こちらにいましたか。食事が出来ましたよ。も一緒にどうぞ」

 明るいぺトラの声が入り込んでくるが、室内のどの空気とも混ざり合わずに散っていった。リヴァイは振り返らず、奥のも返事をせず、ぺトラはすぐに異様な雰囲気を感じ取った。

「すぐに行く。先に食ってろ」
「あ……ハイ、分かりました」

 僅かに顔を向けたリヴァイの命令を聞き、ぺトラは一歩下がると来た時同様カツカツと、しかし今度は細かな足取りで離れていった。その音が完全に無くなった頃リヴァイは再びに向き直すが、はその視線から目を離した。

「明日の調査はこれまでとは違う。何があるか分からない。お前はカラネス区には入らず内地で待っていろ」
「何が、違うんですか? 今回は行って帰ってくるだけだって……距離も短いって……」
「前も門は壊されただろ。お前ら医療団に被害が出なかったのが奇跡だ。普通はそうはいかない。お前ひとりで下がれないと言うなら医療団ごと下がっていい」
「……」

 普通なら。
 あの日、超大型巨人が壁の上から顔を出し門を破り、大勢の人が怪我をし、死んだ。5年の均衡が崩れ人々は逃げ惑った。……それも調査兵団には普通。生き残ったことこそが奇跡。奇跡はそう何度も起こらないこと、彼らはよく知っている。

 あの時直面したこと。
 死。流れる血。助けられない命。地鳴りの足音。巨人の顔。大きさ。捕食されるという戦慄。
 喉が乾燥し張り付く。呼吸もままならない。動悸が治まらない。震えが止まらない。
 怖い。助けて。怖い。助けて。助けて。助けて―

「……納得できません」
「命令だ」
「わたしは……医療団です。兵団の命令に、したがう、理由がありません」
「……なら俺個人として言う」

 口唇が震えるあまり細かく言い淀むは地面に当てていた丸い眼を正面に向けた。

「お前はここにいろ」
「……」

 静かなリヴァイの瞳。変わらない表情。まっすぐな姿勢。目線。
 だけど分かった。今のそれは、一瞬前のそれらとは違うこと。
 だからは何も言えなくなった。言葉は脳裏にいくつもあったのに。

「分かったのか」

 言葉が形にならない。ボロボロと崩れていくようだった。
 息が喉を通らない。言いかけるまでは出てくるのに、声にならない。
 言葉より感情が突き抜けて瞳に涙が溢れこぼれそうになり、はリヴァイから顔を背けた。言葉ごと涙を飲み込みごくりと音をたてた。

「お前はもう無理をするな。一ヶ月前からずっとお前は怯えた目をしてる。それは結局無くならなかった。今もだ」
「……」

 そんなの、当然だ。あんなものを間近で見てしまったのだ。
 人が食べられる。まるで小枝のように握り潰され。虫のように踏みつけられ。
 それでもその惨状は、これまでだってずっと見てきたものだ。戦い続けてきた人。死んでいった人。手足を失った人。心を失くした人。



 カタカタと震えた。
 だって……怖いのはその恐怖が、自分に降りかかることじゃない。



 すぐそばで名を呼ばれ、ハッと目を覚ますとはいつの間にか目の前にいたリヴァイにマスクをぐいと下げられた。
 ひゅ、と息が通った。纏うものがなくなって、隠すものがなくなって、誤魔化すものがなくなって。

「……これまでと、違うなんて、言わないでください……」
「……」
「いつも通りだって……、行って帰ってくるだけだって、言ってください……」

 ブルブルと骨の髄から凍えているような声が細く小さく零れ出る。
 それを目の前に、リヴァイの瞳はにわかに淀んだが、堅く引き締まったその口から求めるような言葉は発されなかった。
 待っても待っても、慰めても誤魔化してもくれない。
 はついに涙を溢れさせ、力を無くすかのように椅子に座ると深く俯き涙を押さえた。暗闇が大きく潜む診療室で、小さく丸い橙色の光の中、小さな肩が震え涙が白い手をポタポタ零れ伝っていった。

 リヴァイはそんなを見下ろし、細い首に手を伸ばした。
 指先が静かに肌に触れる。そのままリヴァイはの首にかけられた紐の金具を外しペンダントを抜き取った。
 はポトリ一滴涙を落としながら手を離しリヴァイを見上げる。
 リヴァイはのペンダントを自分の首に着けると青い泪型の石を襟元から服の中へと落とした。

 ”生きて”―

「戻ったら返す。お前は内地で待ってろ」
「……」

 もう明日の方を向いているリヴァイ。

「はい……」

 何も信じられるものはないけど。どこにも光は見えないけど。いつでもそこに闇は潜んでいるけど。
 貴方が向いている方には必ず、希望がある。
 歩き出す貴方の背中には、自由への翼がある。

 信じていたものを思い出す。
 どんなに長い夜でも必ず朝はやってくる。
 どんなに絶望的な今日でも必ず明日はやってくる。
 人の意思はなくならない。
 人類は世界を取り戻す。自由を掴み取る。夢を描き続ける。

 そこには必ず、希望という名の光が降りてくるのだと―思いこむみたいに、信じている。


 翌朝、まだ薄暗い中、荷物を積み馬にまたがるリヴァイ班六名はついに壁外調査の為カラネス区へと出立する。リヴァイを先頭に、エルドとグンタ、オルオとぺトラ。

「じゃ、いってきます

 そして、エレン。

「エレン、約束ね」

 馬にまたがりしっかりと手綱を握る。
 高いところでエレンは「ああ」としっかりと返した。
 リヴァイが馬を進めると、それに続いていくエレンと班員達。
 はその姿を見えなくなるまで見送り、祈った。

「どうか、ご武運を……」

 まだ雲も広がる薄暗い空。命を懸けた戦いの朝。何かが変わる一日の始まり。
 壁の向こうから朝陽は昇ろうとしていた。

「―エレン、約束って?」

 古城を囲んでいた森を抜け整備された道を走りだすと、前を行くエレンにぺトラが聞いた。

「ああ……無事に帰れと」
「エレンにだけか? 冷たいな」
「エレンに何かあったら俺達は誰も生きていない。エレンを守るのが俺達の使命だからな」
「そうですよ、はみんなの無事を願ってます」

 エレンにとっては初めての壁外。だがそこは5年前までは安全が保障されていたウォール・マリアの内地。故郷を取り戻すため、人類の進撃の為の第一歩。

「あの……兵長と、は、家族みたいなものなんですね」

 エレンが前を走るリヴァイの背に投げかけると、リヴァイは静かに振り向いた。

「あいつがそう言ったのか」
「あ、いえ……」

 エレンはただ、自分とミカサのようだと思ったからそう言っただけ。
 だけどリヴァイの目は酷く蔑むように細まった。

「馬鹿言え。あいつは家族なんかじゃない」
「え?」
「俺の女だ」

 重なる蹄が地面を叩く音、前からうしろへと風が通り抜けていく音でリヴァイの小さな声は聞き取りにくくもあったが、確かに聞こえた。おそらく全員の耳に。リヴァイのうしろを走る全員が唖然と口を開けていたから。リヴァイはもうそんなこと過ぎたことのように軽やかに先頭を走っているけど。

「あがァッ!!」

 弾む馬の背でガチン! と舌を噛んだオルオの叫び声が上がる。
 それに全員がハッと気づいて口を閉じ、その後誰も口を開くことはなかった。

 遠くに見えるウォール・ローゼの壁。その上空にもう朝陽は上がっていた。
 調査兵団の大部隊が待つカラネス区まであと数時間。
 人類にとって大きな、彼らにとって長い一日の、昨日とは別の今日が始まる―。

 

未知らぬ夜に

Unknown nocturne