Time 2002/1/24 15:13
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From 三上センパイ
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Sub 無題
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帰ってきたら連絡しろ
---END---
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メールを開くと、それだけ入っていた。
それを見た途端、私の中で、不安でしょうがなかったものが少しだけ、形を変えた。
「お母さん、学校帰る」
「え?もう?」
「うん、お願い」
英士には・・・ごめんねとメールを入れておいた。
ケーキも、お母さんに渡してもらうことにした。
もう、食べたくないかもしれないけど。
まだ夕暮れには早い時間、車に揺られながら、学校に近付くにつれ頭に響く鼓動が大きくなっていく。これはいわゆるときめきなのか、それともまだ、怖いのか。分からないまま学校が見えてきて、一層ドキドキがうるさくなっていった。
・・・だけど、学校を囲むフェンスの横道を走りながら、私の不安はまた少しずつ治まっていった。グラウンドの外周を走っている白い練習着が、見えたから。それは見間違うことなく、三上先輩で、私は寮のほうへ向かっていた車から下りて校門のほうに走り、グラウンドに急いだ。
寒い中走ると耳が冷たくなって、頭に音が痛みを帯びて響いてくる。
白い息を飲み込んで、フェンスの前で、遠くを走っている姿を見た。
・・・三上先輩が走っているところは、よく見る。練習の後、試合の後、大会の後・・・、三上先輩は何か、納得がいかないことがあった後は必ず一人でただ走ってた。
「あ・・・、お疲れ様です」
「なんだ、早ぇな」
グラウンドをぐるぐる回ってた三上先輩が、グラウンド入口の、私の近くまで来たときに私に気づいて足を止めた。青空が見えていたときは冬とは思えないくらいあったかかったのに、陽が落ちてくると一気に冷え込んでくる。やっぱり季節はまだ冬だった。
「で?」
「えっ・・・?」
「プレゼント」
「・・・あ、ああ!」
会ったはいいものの、何から話せばいいのかと悩んでいたところで突然答えを求められ焦ったら、・・・違った。(恥ずかしい)
「あっ、そうだ、誕生日プレゼント・・・!」
「お前、二日も待たせたあげく・・・」
「ご、ごめんなさい!今度、必ず・・・!」
「もーいーよ」
三上先輩はヤレヤレといった感じでため息ついて、ベンチのほうに歩いて行った。ベンチに置かれたタオルを肩にかけ汗を拭く。一体どれだけ走っていたんだろう、練習着のシャツ一枚だけでこの寒さの中、体から汗が蒸気のように上がっている。
「三上センパイ、やっぱりサッカー続けるんですよね」
「ああ」
他にやることねーもん。
何の曇りもなく返ってくる返事が、三上先輩だなと思った。
「で、お前の返事は?」
振り返って、三上先輩はあまりに唐突に、そして普通に私に求めてきた。
「あ・・・、あの、いっぱい、考えたんですけど・・・」
「うん?」
「その・・・」
いっぱい、いっぱい考えた。
おとついての、三上先輩の誕生日から、ずっと。
けど
「・・・」
「・・・」
何か言おうと口を開いて、だけどうまく出なくて、あれ言おうこれ言おうと思ってきたのに、でもやっぱりうまく、言葉にできず・・・。
手先がかじかむ。寒さがしみる。風がぐるぐる渦巻いている。
「・・・あのなぁ」
「は、はいっ」
結局何一つ言葉の出ない私より先に口を開いたのは、三上先輩のほうだった。
「俺はお前と違って、薄着なんだよなぁ」
「え?・・・あ、あ!」
さすがに少しの時間が経つと、走りこんで火照っていた体もこの空気の冷たさですぐに温度を奪われる。熱が収まればこんな寒空の下でシャツ一枚なんて、震えるどころの騒ぎじゃない。
「じゃあ、あの、とりあえずどこかに・・・」
「それくれ」
「え?」
「それ」
そう言って三上先輩が指差したのは私・・・、私の、マフラー。
「いや、こんなのであったかくならないですよ、食堂とか、寮まで行ったほうが」
「お前寮で話できんの」
「・・・いいえ」
無理だ。この時間、自宅に帰っていた部員のみんなも寮に帰ってきている時間だ。現に今も一般の生徒たちが続々と寮に向かって、グラウンドの向こう側の道を歩いてるのが見える。今でさえ誰に見られるかと冷や冷やしてるくらいだ。誰かに見つかったら、ただじゃすまない気がする。だって一緒にいるのがあの、三上先輩なんだから・・・。
仕方なく言われるがままに私はマフラーを解く。
今年の冬に編んだばかりの紺色のマフラー。
毛糸に包まれてた首は無防備になり、ビュっと冷たく風が撫ぜた。
それを三上先輩に差し出す・・・けど、先輩はその前で、ポケットに手を入れたまま手を出さなかった。
「あの・・・?」
「つまりさ、お前は俺にそう言われりゃ、それを差し出すわけだ」
「え?」
「じゃあたとえば、俺まだここで走ってるから部室で待ってろって言ったら、お前待ってんの?」
「え?は、はい・・・」
「それから食堂でメシ食うぞって言ったらついてくる?」
「あ、はい・・・」
「明日の放課後買い物付き合えって言ったら?」
「・・・行きます」
「ふーん・・・」
三上先輩が、何も急かさずに、何も慌てずに、歩み寄ってくれてるというのが、分かった・・・。
「じゃ、今すぐ目ぇつぶれって言ったら?」
「えっ・・・」
急にこの間の、部室でのことを思い出して、ぼっと顔が赤くなる。
思わず身を引いた私の手からマフラーをひったくった三上先輩は、私にマフラーをぐるりと巻きつけて、
「つぶれ」
見下ろしながら、冷たい掌で私の視界を覆い隠した。
二度目は、一度目のときより冷たかった。
HAPPY BIRTHDAY to 三上!
2010年1月22〜25日に開催した三上と郭の合同誕生会です。
選択式なので郭バージョンも合わせてお楽しみください。