Time 2002/1/24 16:03
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From 英士
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Sub 無題
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今日、一馬がカゼ引いてこれなくなった。だからまた今度にしようってことになったけど、どうする?
---END---
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メールを見て、私はすぐに英士に電話をかけた。
呼び出し音を聞いていると英士はすぐに電話に出て、あの質素で寒そうな声で、ごめんねとつぶやいた。
「え、何が?」
『せっかく帰ってきたのに』
「ううん、いいよそんなの。一馬君大丈夫なの?」
『きのうは喉枯らしてる程度だったんだけど、悪化したみたい。練習も休んだし』
「そっか、心配だね」
『うん』
英士は電話で話していても、その顔が簡単に思い浮かぶ。
まっすぐ前だけ見て、まるで片手間みたいな顔で話してるんだろうな。
『ケーキ作ってた?』
「うん、もうできた」
『どうしようか』
「うーん、ま、いいじゃん。ふたりで食べようよ」
ね!と言ってみたけど、英士からの返事がなかった。
英士は必ず、最後に言葉をくれる。メールも必ず英士からの返信で終わる。
いつかそれに気づいて、私がしつこくなんでもない言葉を返し続けてると、本当に終わらなくて夜が明けてしまったことがあった。英士は絶対に、私で終わらせることがないんだ。
「あのね、英士」
『うん?』
英士の言葉が返ってくることに私は安心する。
いつでもどんな時も私は大事にされてたこと、私は知らずに。
「思い出したよ、昔約束したこと」
『・・・』
「小学校の時は私も、ずっとそう思ってた・・・」
毎日流れる時間の中で、かすんでいったもの。こぼれていったもの。
昔の私は、仲間はずれにされたりケンカしたりするといつも必ず落ち込んで、泣きながら英士のところに駆け込んでた。だけど英士は、上手に人に混ざれなくても、それで悲しんだり泣いたりすることがなくて・・・。
「私、変わったかなぁ・・・」
『いいんじゃない』
「え・・・?」
『人は変わるものだよ。変わるべきことのほうが多いよ。が泣くより笑うことのほうが多くなったんなら、それはいいことだしね』
「でも英士は、変わってないの・・・?」
『うん、変わってない』
「・・・」
英士はかなしくないの?
一度も英士の涙なんて見たことなかったから、そう英士に聞いたことがあった。
そしたら英士は宿題しながら、九九でも口ずさむような声で。
が俺の分も泣いて、俺の分もが笑えばいいよ
俺は友だちが10人いるより、がひとりいるほうがいい
『変わってないことが、変わったってことなのかもね』
「・・・?」
『が泣くより笑うことのほうが多くなったなら、それは俺も同じってことだからね』
「・・・」
小さな腕を大きく広げて、弱い力でぎゅうと抱きしめた。
英士のそばが心地よくて、英士の匂いが大好きだった。
あの頃私と英士は何も疑わなかった。
「あたし、小学校の時はずっと、ほんとに英士と結婚するんだって思ってたよ」
ふ、と、電話口に英士の息がかかった。
『今でもそう思い込んでる俺は何?』
英士の言葉が、ふわって軽く飛び跳ねてるみたいだった。
英士が今どんな顔してるのか、分かった。
『、外出てこない?』
「え?」
『今家の前』
その言葉を聞いて、私は立ち上がり窓のカーテンを開けて下を見た。
そこには本当に、練習帰りの英士が白い息を生みながら立っていた。
私は急いで階段を下りてキッチンに駆け込み、ケーキを箱にも入れずにお皿のまま持って玄関に走って行った。
玄関から外に出ると門の外で英士がこっちを見た。
携帯切りなよ、って笑って言った。
私は上着も着ないでケーキを抱えたまま、英士が向こうから門を開けてくれて。
「久しぶりだね、のケーキ」
「来年も作ってあげるよ!」
冬にぽかりと生まれる白い息みたいにささやかな英士の笑みが、少し止まる。
変わらない。英士の静かな目の中に、私がいる。
「毎年作るよ、ずっと作る。あと80回くらい!」
「・・・長生きしなきゃね」
「うん、長生きしてね!」
ふと笑って、英士はケーキを指先で掬った。
「甘すぎ」
「・・・」
「イチゴはおいしい」
「・・・無農薬ですから・・・」
はは、と英士が声をあげて笑った。
あと80回、私はケーキを作る。英士はこんな風に笑う。
「誕生日おめでとう、英士」
「うん」
あしただけどね。
英士はまた笑って、そうつぶやいた。
HAPPY BIRTHDAY to 英士!!
2010年1月22〜25日に開催した三上と郭の合同誕生会です。
選択式なので三上バージョンも合わせてお楽しみください。