11. Hometown

「ねー、アレなに?あの回ってるやつ」
「空中遊園地」
「うわぁ、行ってみたい!行こうよ!」
「アンタがチケット代出すならね」
「ケチっ。なぁトランクス、行こーよ空中遊園地!」
「ダメだって、昼までには帰るって言ってあるんだから」
「チェ、ふたりともケチ!」

窓に張り付いてたピスタは、足を投げ出しての膝の上に座った。
遠くの街中にぽんと突出している高い建物、空中遊園地。
ずいぶん前にできて以来客足は絶えず、都一の遊び場となっているところ。

隣のも、流れていく空と街並みを見ている。
朝からと言葉を交わしたのは朝一で聞いた「おはよう」と、学校行くついでに俺が教会まで送ってくと名乗り出た時の「ありがとう」のみで、それから今までずっと会話はない。が無駄に言葉を発さないのはいつものことだけど、俺はどう話題を持ち出していいかわからなくなっていた。・・・きのうの、思いもよらない自分の行動のせいで。

・・・あのあと、唐突に自分の行動に目を覚ました俺はすぐにから離れ、の反応を見るより先におやすみと言い残してバタバタと部屋を出ていった。翌朝はいつも通り質素におはようと返してくれたけど、いまだまともに顔は見れない。

「すっげーなトランクス!俺こんなの初めて乗った!」
「はは・・・」

今ここにピスタがいてくれて、ものすごく助かっている・・・。


教会の前に着陸すると、ピスタはあーあとため息を漏らした。
そう大きくはない教会はかなり古いもののようで、ところどころ老朽化している。その教会の裏に位置する建物が家なんだそうだ。

「ほら行きな。ちゃんと謝りなさいよ」
行かないの?」
「私は今から学校なの」

に背中を押され、ピスタはひとりでしぶしぶ歩きだす。

「あー!ピスタだ!」
「ほんとだー、悪い子ピスタだー」
「おかえりピスタ」

ピスタが門を開けるとそれに気付いた子どもたちが窓から顔を出し、出てきてピスタに駆け寄り手を引っぱって招き入れていた。まるで幼稚園のようなにぎやかさ。



ピスタを見届けた俺たちもエアカーに戻ろうとして、すると門の中から修道服に身を包んだおばあさんがを呼んだ。

「おかえり、少し休んでいったら?」

中にも入らずに帰ろうとしただけど、その人にそう言われると足を止め振り返った。
は俺に先に学校に行けと言ったけど、まだ時間は早かったし、しばらく付き合うことにした


「かれしだー、のかれしだー」
「ちがう!こいつはただのむすこなの!」
のむすこだって、すげー!」

いやいや、それも違う・・・。
ここの子どもたちはみんな年がバラバラで、みんな朝からそれぞれに掃除をして一斉に朝ごはんを食べることがここの毎朝のようだった。

はさっきの、マザーと呼ばれる人とずっと話していた。
ここを出た時から一度も帰っていないらしいから久しぶりなんだろう。
普段の大人びた表情じゃない、うつむき話す顔がなんだかかわいかった。


「・・何してるのよ」
「え?あ、おわった?」

話し終えて俺のところまで来たが、子どもたちに乗られて格闘する俺を見下ろした。年の大きな子たちは勉強の時間らしくみんな机に並んで、俺は小さい子たちのカッコウの遊び相手となっていた。

「ごめん、遅くなって。行こ」
「いーじゃん、どうせもう授業間に合わないよ。久々なんだからゆっくりしてけば」

なー、と胸の上にいた子を持ち上げ高く上げると、ぼくもわたしもと他の子たちが押し寄せてきてつぶされた。小さい子はみんなブラと同じ、高いところと面白い顔でケタケタ笑い、楽しいことはしつこいくらい何度でもくり返す。

ー、いまどこにいるの?」
「ここより広い?海みえる?」
「勉強しなさいよアンタたち」

は少し渋ったけど、テーブルで勉強してる子が寄ってくるとその子たちを元の椅子に座らせてみんなの勉強を見始めた。

が育ってきたところ。もそうしていた環境。
ここのみんながそうなように、もこんな風にしてきたんだろう。

「トランクスさん・・でよろしいですか?」
「あ、はい!」
「ピスタと、先日はがお世話になりましたこと、ありがとうございました」
「いえ、俺はぜんぜん、なにも・・・」

さっきまでと話していたマザーが俺の元までやってきて、丁寧に頭を下げられたものだから俺は座り直してかしこまった。

「学校でもお世話になってますようで・・・、あの子はちゃんとできていますか?」
「そりゃもう、学校で一番優秀ですから。ちょっと融通きかないっていうか、がんばりすぎるとこありますけど・・・」
「昔からそうでした。勉強も手伝いも、何かしていないと落ち着かないそうで」
「ああ、そんな感じです」
「またご迷惑をおかけるするかもしれませんし、ほどほどにしろと言い聞かせてやってください。なかなか言うことを聞いてくれない子ですけども・・・」
「はい」

やわらかく、包み込むように微笑む人。
すべての物事を慎み深く受け止めてしまいそうな。

「あの、聞いてもいいですか?」
「はい」

俺は奥にいるを一度見て、声を小さくして聞いた。

の両親は・・・?」
「あの子の両親はあの子がまだ赤ん坊の時に亡くなったと聞いています。私どもも細かな事情は分かりませんが、17年前の事件の被害にあったとか・・・」
「17年前の事件・・・?」
「今の若い方は知らないかもしれませんね。今から17年ほど前、得も知れぬ怪物が人や街を襲った事件があったのです」
「・・・それって・・・」
「あのミスター・サタンさまが世界を救った事件と言ったほうが分かりますか」
「えっ・・・」

ミスター・サタンって・・・、セル事件!?

「で、でも、あのとき殺された人たちは、その・・・、みんな生き返ったって聞きましたけど・・・?」
「ええ、世界ではそのような奇跡が起こったそうで、あの子もほかの町の人たちも無事発見されたらしいのですが、両親だけは見つからなかったそうです」
「・・・」

どういうことだ・・・?
たしかにセル事件のあとでドラゴンボールを使ってるはずだ。世界中の人たちが生き返ったのにの両親だけ生き返らなかったって・・・、そんなことあるのか?

「ねぇ」

ダメだ、俺じゃはっきり分からない。
あのときのこともドラゴンボールのことも、母さんのほうが分かる。
帰って母さんに・・・

「・・・え?」
「そろそろ行かないと、昼の授業にも間に合わないよ」
「あ、うん、そうだな」
、帰るのなら少し待っててちょうだい」
「なに?」

が目の前まで来ていて、立ちあがると、マザーも立ち上がり部屋を出ていった。もう帰るのーと子どもたちに引き止められながら外へ出て、みんなと別れていると戻ってきたマザーが俺たちの元までやってきて、に持ってきたものを差し出した。

「これを持っていきなさい
「なに?」
「あなたのご両親の写真よ」
「えっ・・・」

俺はより先に声を出してしまって、すぐに口を押さえた。
赤く分厚いパットに挟まれた本のようなそれは、とても大事に保管されていたよう。は今までそれを見たことなかったのかな・・・。

「いらないわ」

けどはそれを受け取らず断り、俺はまた「え!」と声をあげた。

「もらっていけよ、見たことないんだろ?」
「必要ないもの」
「ふふ、そうでしょうね。これはアナタが5才のときに一度破り捨てたのよ」
「だからいらないってことでしょ」
「5才のアナタが捨てるのと、今のアナタが捨てるのでは違いますよ。今のアナタが捨てるのなら私は戻したりしません」
「じゃあ捨てておいて」
「自分でなさい」

マザーはもう一度に差し出すけど、の手がそれに伸びることはない。

「そう。じゃあこれは、トランクスさんにお預けしましょうか」
「なんでよ」
「じゃあ俺もらいます」
「だからなんでよ」
「だって俺も見たいし・・・」

俺がそれを受け取ると、は見限って先に歩いて行ってしまった。

「トランクスさん、をよろしくお願いします」
「はい!それじゃ!」

マザーに一度頭を下げ、を追いかけ走っていく。
みんながバイバーイと手を振ってくれる中、俺も振り返して飛んでいった。

、写真どうする?」
「いらないわよ」
「なんで?唯一の親の形見だろ?」
「親のことなんてどうでもいいの。何も知らなくていいと思ってる」
「じゃあ、なにそんな怒ってんの?」

が口数少ないのはいつものことだけど、今は妙に言葉に苛立ちを感じる。

「ねぇ、このあたりで降ろしてくれない?」
「え?学校は?」
「今日は行かない」
「あ、そう・・・」

突然が言い出して、俺は降りれそうなところを探した。
が学校行かないなんて、どうしたんだろ・・・。
とにかく近くの広場に車を降ろし、はありがとうと下りた。

「それ、開かないでね」

に渡すと捨てられかねないからやっぱり俺がそれを持っておくことにして、そのままと分かれ俺はまた飛んで行った。

今ならまだ母さんが家にいる。
俺も学校に行くのをやめて、急ぎ家に向かった。