12. Conference
”M‐17の悪夢”
17年前、とある町で突然人々が物や衣服を残して消えるという怪事件が起こった。それはすぐにセルという怪物の手によるものと判明し、その後セルは世界中の人々の命をかけたセルゲームという武道大会を開き世界を混乱と恐怖に落とした。
しかしセルゲームは、武道の世界チャンピオンであるミスター・サタンの活躍により勝利し、セルは倒され世界の平和は守られた。そしてその後、セルに殺された人々は悪い夢を見ていたかのように皆生き返り、その不思議な事件はミスター・サタンの奇跡とも言われている。
・・・だけど俺たちは知っているんだ。
その出来事のすべてと、奇跡と謳われた事の真相を。
「あら?トランクス、アンタ学校は?」
「あ、うん・・・、ちょっと母さんに聞きたいことあってさ」
「聞きたいこと?なによ」
家に帰るとちょうど時間は昼ごろ、父さんと母さん、おじいちゃんとおばあちゃんが昼ごはんを食べ終えたところだった。ティーポットにお茶を淹れてる母さんは俺にも入れてくれて、俺は母さんの正面の椅子に座った。
「あのさ、セルのときの話なんだけど・・・」
「セル?なによそんな昔のこと」
セルの名前を出したことでお茶を飲んでる父さんも俺の話に気を留めた。
「父さんたちがセルと闘ったあと、ドラゴンボールでセルに殺された人たちをみんな生き返らせたんだよね?」
「そうよ、あの時は未来から来たトランクスもセルに殺されちゃって、神龍に生き返らせてもらったんだもの。そういえばあの時あの子17才だったわよね。今のトランクスと同じ年かー、早いわねぇ」
「あのトランクスはコイツみたく軟弱ではなかった」
「あの子とは生きてきた環境が違うんだもの、しょうがないわよ」
「いくら平和になったといえ、お前も修行していれば・・」
「うん、あの、その話はまた今度で・・・」
たしかにあのトランクスはいい男だったわねーなんて言う母さんたちはすっかり話がずれて(しかもなんだか俺には都合悪い方向に・・・)、俺はセルの話に戻した。
「でさ、そのとき、セルに殺されたのに生き返らなかった人っているのかな」
「えー?みんな生き返ったはずよ、世界中で奇跡だーってニュースで騒いでたし」
じゃあ、の両親はセルに殺されたんじゃなかったということか・・・?
「じゃあたとえば、セルに直接殺されたわけじゃなくて、その時の混乱の中で事故とかで死んじゃった場合でも、その人は生き返るのかな」
「うーん、どうだろ・・・それはわかんないな。誰の話?」
「うん・・・、の、両親なんだけど・・・、が小さいときに亡くなったって聞いただろ?それがあのセル事件の時だったらしいんだ・・・」
「えっ?そう・・・そうだったの・・・」
母さんも俺と同じように驚いていた。
なんだか突然、まったく別の世界がくっついてしまったみたいに、違和感だったんだ。
「ご両親がどう亡くなったかはくわしく分からないの?」
「うん、教会の人は、セルの被害にあった町の子だからその被害者なんじゃないかとしか言ってなかった。そこでと町の人は後から発見されたのに、の両親だけは見つからなかったらしいって・・・」
「そっかぁ・・・。セルに殺されたなら生き返ってるはずで、でも生き返ってないとなると・・・、なにか理由がありそうね」
母さんでも分からなかった・・・。
やっぱりはっきりした事情が分からないと考えようもない・・・。
「あの時、セルに殺されたカカロットも生き返らなかった。そういうことじゃないのか」
「え・・・?」
「あ、そっか!そうそう、ドラゴンボールはね、一度生き返った人は二度は生き返れないのよ。そうよね、あのとき孫くんも死んじゃったんだもんね」
思いだした母さんはポンと手を叩くけど、普通忘れるか?というような父さんの突き刺さる視線に苦笑いを返した。
一度生き返った人は二度は生き返れない。
そういえばそんな制約があったような気がする。
「でも、悟空さんならともかく、の両親なんてきっと普通の人だろ?そんな人が前にドラゴンボールで生き返ってることなんてあるのかな」
「あるわよ、そのセルの時みたいに、今までも何度かドラゴンボールでたくさんの人を生き返らせてもらったことあったもの。だからもしちゃんのご両親が前に一度そうやって生き返っていたのならありえるわよ」
「そっか・・・」
個人的にじゃなく、セルの時みたいに大勢の人を生き返らせた場合でも、二度は無理なんだ・・・。そうだとしたらつじつまが合う・・・?
「それってさ、はっきり分からないかな。たとえばピッコロさんとか、デンデさんに聞けばとか・・・」
「うーん、そこまでは分からないんじゃないかしら。あの時デンデくんも神様になったばかりだったしねぇ」
「そう・・・」
やっぱり、はっきりさせる術はもうないのか・・・。
「なに?ちゃんが知りたがってるの?」
「あ、ううん、はむしろ知りたくないんじゃないかな。親のことなんてどうでもいいって言ってたし、唯一残ってる両親の写真も5才の時に自分で破り捨てたらしい」
「あら、想像以上に激しい子ね」
「フン、お前よりサイヤ人らしいんじゃないか?」
「いや、困るよそんなの・・・」
よけいに手に負えないじゃないか・・・。
「ちゃんが知りたくないんだったら、無理にはっきりさせなくていいんじゃないの?今の話を聞いた限りじゃ、おそらくちゃんも一度セルに殺されて生き返ってるんだわ。殺されたことがあるなんて、赤ん坊の時だったとしてもそんな気分のいいものじゃないんじゃない?」
「あ、そっか・・・・」
「ま、誰かさんは2度も殺されてるけどォ」
「フザけるな、2度目は殺されたわけじゃない」
「アラそうだったかしら?物は考えようよね」
「何ィ?」
はっきりさせることが、にとって絶対に幸せなわけじゃないんだ・・・。
今以上に抱えるものが増えるかもしれない。
の言うとおり、何も知らないほうが、いっそ・・・。
「あーッ!そうだ!」
「!?」
父さんと口ゲンカしていたかと思ったら、突然母さんが声を張り上げた。
俺も父さんもその声に驚き、立ち上がる母さんを見上げる。
「占いババっていう、なんでも占っちゃうスゴイおばあさんがいるのよ!亀仙人のお姉さんなんだけど、あの人ならそういうこと分かるんじゃないかしら」
「占い、ババ・・・?」
「でもあの人まだ生きてるのかしら・・・。まぁあの姉弟は人並み外れて長生きだから、きっといるわ。亀仙人さんに聞いておいてあげる」
「あ、うん・・・」
「でもすっごくがめついばあさんでねー、1回占ってもらうだけですんごいお金とられるはずよ。でも確か、向こうが用意する選手と闘って、勝てばタダで占ってもらえるんだっけ。その人、もう死んじゃってる達人を連れて来ることができるのよ。それで占いを頼みに来る人と闘わせて楽しんでるんじゃなかったかしら」
「フン、おもしろそうじゃないか」
「バカねー、トランクスだけでも余裕で勝っちゃうのに、アンタまで行ったら逆に追い返されちゃうわよ」
「母さん、その人どこにいるの!?」
「どこだったかなー、どこかの砂漠の中に宮殿があったと思うんだけど・・・。それも聞いておいてあげるわ」
「ありがとう母さん!俺行くよそれ!」
は・・・、一緒には連れていかないでおこう。
何があるか分からないし、いきなり全部を知るには、母さんの言う通りショックが大きいかもしれない。
「でもトランクス、本当のことが分かったら、それちゃんに話すつもりなの?」
「え・・・?」
「そのことを説明するにはドラゴンボールのことも、あなた自身のことも、避けては話せないわよ」
「・・・」
普通の人たちに混ざって都会で暮らしていくために、隠してきたこと。
いつも全力で力を抑えて暮らしていること。
ジェット機やエアカーなんかよりずっと早く飛べること。
この世は何度も滅びようとしてたということ。
ほんとは、地球人じゃないということ・・・。
「まずはあなたがどうしたいのか、はっきりさせるほうが先なんじゃない?」
「うん・・・」
「ま、いきなり話されたって簡単に信じられることじゃないけどね。私なら突然そんなこと言われたって信じないわー」
「変身してやればいいだろ、超サイヤ人に」
「いきなりあんなの見せられたらそれこそ心臓ひっくり返っちゃうわよ。いーいトランクス、力づくになっちゃダメよ」
「う、うん・・・。でも、やっぱりその占いババって人のとこに行って、はっきりさせてからまた考えるよ」
「だったら孫くんについて行ってもらったら?孫くんが頼めばすぐ占ってくれるかもしれないし」
「そーなの?じゃあ悟空さんに頼んでみようかな・・・」
「なんだか楽しそうねー、私も行こうかしら。べジータ、あんたも行く?」
「闘いがないなら行かん」
「あっそ」
そうして、母さんはその日のうちに亀仙人さんに連絡を取ってくれて、俺は悟空さんに一緒に行ってもらうよう頼み、翌日その占いババという人を訪ねることになった。