13. Fortune

翌日、俺と悟空さん、それにパンちゃんの3人は砂漠に向かって飛んでいた。

「すいません悟空さん、ついてきてもらって・・・」
「かまわねーよ、オラもばーちゃん久しぶりだしな」
「それにしても、パンちゃんすごいですね・・・、まだ3才なのに」
「ああ、すぐバテちまうけどな」

俺は一応カプセルを持ってきたんだけど、悟空さんはパンちゃんに舞空術を教えはじめたらしく、訓練のためにと飛んでいくことになったのだ。まだ飛ぶというより悟空さんの足につかまってふわふわ浮いてる程度だけど、それでも十分すごい。そのうち組み手も教えるそうだ。

「それはそーと、ブルマはこなかったのか?」
「来たがってたんですけど、ブラの学校に行く用事ができちゃって・・・」
「へー、あいつまだ赤ん坊なのに学校なんて行くんか」
「ブラもう2歳ですよ。それに学校っていっても幼稚舎だし」
「都会はてーへんだなー。パン、おめーも学校いきてーか?」
「パン、じーちゃんと特訓がいい!」
「はは、だよなー」

この世はもう長いこと平和を保っているというのに、悟空さんも父さんも相変わらず毎日体を鍛えて修行している。父さんは生まれ育った環境がそうだからうなづけるが、悟空さんは地球で育ったんだからもっと地球人っぽいのかと思ったらそうでもないし。

やっぱり”サイヤ人”というのは、そういう人種なんだなぁ。
父さんたちに比べたら、俺なんてぜんぜん地球人だ。

「それにしても、その占いババさんってそんなにすごい占い師なんですか?」
「ああ、すげーぞ。オラも昔占ってもらったけど、なんでもわかっちゃうんだもんな」

飛んでる間、悟空さんの昔の話を聞いていたけど、やっぱり一癖ありそうな人だった。聞けば聞くほど不安を感じてくるけど、まぁ、悟空さんが一緒なら大丈夫だろう・・・。

「あ、あれですか?それっぽい建物」
「ああそうだ。降りるぞパン」

日差しの強い砂漠地帯に入って飛び続けると、まっ平らな平地の奥にキラリと光る湖と宮殿が見えてきた。その宮殿めがけて降りて入口の前に着地すると、まるで俺たちを待っていたかのように、ふわふわ浮く白い透き通ったおばけのような物体がいた。

「おやおや、おひさしぶりでございます。お待ちしておりました」
「え・・・?」

頭に笠を乗せた白いおばけは悟空さんを見て笑う。
亀仙人さんが連絡しておいてくれたのかな・・・。

「さっすがばーちゃん。オラたちがくるの分かってたのか?」
「ええ、楽しみにしておられましたよ。占いババ様は奥におられます、こちらへどうぞ」

白いおばけが入口の中へと案内し誘導していく。
なんだかとっても怪しく見えて仕方なく、けど悟空さんは立ち止ってる俺の背中をポンと叩いて行くぞと中に入っていった。そのあとをパンちゃんも小さな歩幅を細かくくり返しついて行くから、俺もやっと一歩を踏み出した。

「ババ様、みえました」

トンネルのような入口をくぐっていくとすぐに丸い部屋について、先頭を行く白いおばけが暗い中に向かってそう声をかけ、俺は身を乗り出し前を覗き見た。

すると、真っ暗な中にぼんやりと丸いものが浮かび出た。
よくよく眼を凝らして見てみるとその丸いものは大きな水晶玉で、その玉の上に黒い服ととんがり帽子に身を包んだ怪しげなおばあさんが乗っていたのだ。

「来おったな悟空」
「ばーちゃんひさしぶり、元気だったか?」
「もちろんじゃ。そっちはベジータの息子の、トランクスじゃったかのう」
「あ、はい、どうも・・・」
「ばーちゃん、こっちはオラの孫のパンだ。ほれパン、あいさつ」
「こんにちは!」
「ふぉふぉふぉ、お前に孫とはな」

母さんからも昔の話はいろいろ聞いてきたけど、ほんとにあやしさ満点なおばあさんだった。とてもよく当たる占い師の割りに名前が売れてるわけでもないし。(こんな辺境に建ってたら仕方ないか・・・)

「でさぁばーちゃん、このトランクスがばーちゃんに見てもらいたいことがあるんだってよ、いーだろ?」
「ええじゃろ、わしの占いはちと高くつくがな」
「えっ・・・」
「ばーちゃん、そんなこと言わずにさぁ。トランクスはあの魔人ブウと闘って地球を守ったひとりだぞ」
「フン、おぬしらにそんなこと言われちゃキリがないわい」
「しょうがないなぁ、じゃあオラ闘うぞ!」
「冗談じゃないわい、それこそ商売あがったりじゃ」

占いババさんは何かと難癖つけたがったが、結局は悟空さんの説得で占ってくれることになった。悟空さんがいなかったらどれだけふっかけられていたことか、ついてきてもらってよかった・・・。

「ほれ、占ってやるぞ」
「あ、はい!」
「じゃオラたちはあっちにいるからな」

占いババさんは水晶玉から降りて、俺は急ぎ駆けよる。すると悟空さんは出口から奥へ歩いていき、外に出てパンちゃんと一緒に湖を覗いて遊びはじめた。

「あの、ぼくの友達にっていう子がいるんですけど・・・」

そうして俺は占いババさんにのことを話し、の両親が死んだいきさつをたずねた。その話を聞き入れてくれた占いババさんは水晶玉に手をかざし、呪文をかけると水晶玉はぼんやりと光り出し、何かを映しだした。

「ふむ・・・、たしかにその一家はセルに殺されておる。セルは武道大会を開催する前にテレビで世界中に姿をさらし、そのとき見せしめに街を破壊したんじゃ。そのとき娘と母親は死んだ」
「・・・、じゃあ・・・お父さんは?」
「父親は・・・、軍人だったようじゃな。セルが武道会を告知した数日後に軍はセルに攻撃をしかけたんじゃよ。父親はその中におった。自ら志願したようじゃな」
「・・・」

それは、いくらか覚悟していた話ではあったけど、それ以上のものがあった。
突然、災難とも言い難いものに巻き込まれ、知らないうちに命を落とす。
家族が見せしめのように殺されて、黙っていられるはずもない。
たとえ殺されるかもしれないとしても、何もしないよりずっと・・・

「・・・あの、でも、セルに殺された人たちはその後ドラゴンボールで生き返ったはずですよね?なぜの両親は生き返らなかったんですか・・・?」
「ふむ・・・ちょいと待て・・・。うーむ・・・、どうやらそのふたりは前にも一度ドラゴンボールで生き返っておるようじゃな」
「やっぱり・・・!それはいつか分かりますか!?」
「一度目は・・・、おお、あのときか。ピッコロ大魔王が復活したときじゃ」
「ピッコロ、さん・・・?」
「ピッコロといってもおぬしが知っておるピッコロとは少し違う。ピッコロの生みの親で、その昔、圧倒的な力でこの世を魔の世界に変えようとした悪の大魔王がおったのじゃ」

それから占いババさんは、俺にも分かるようにくわしく話をしてくれた。
はるか昔に神様が自分の中に潜む悪の心を追い出し、それが悪の大魔王となってしまったこと。ピッコロ大魔王は一度封じ込められたが、復活しまたこの世を乗っ取ろうとしたこと。ピッコロ大魔王は再び封じ込められることを恐れ、名のある武道家を次々と殺し、亀仙人さんに餃子さん、クリリンさんまでもが殺されたということ・・・。

「ピッコロ大魔王はドラゴンボールで若さを手に入れさらにパワーを強め、あの神龍をも殺してしまいおった。そしてドラゴンボールはなくなり、誰も生き返れなくなったんじゃ」
「神龍を・・・?そんなことが・・・」
「じゃが、孫悟空がピッコロ大魔王を倒した。そして悟空は神に会うことを許され、神龍は神の力で復活し皆生き返ったんじゃ」
「悟空さんが・・・」

俺はちらりと外に目をやった。
パンちゃんを抱いて湖で遊ばせてる悟空さんがそこにいた。

俺は今まで母さんや他のみんなに昔の話を聞くことはあっても、たいてい父さんが地球に来てからの話で、そんな昔の話まで聞いたことがなかった・・・。悟空さんはすごい、みんなが悟空さんを好きなのは、俺もよく分かる。・・・けど俺にはどうしても、父さんだって、という思いのほうが強かった。

俺の知らない世界が、歴史が、たくさんある・・・。
そのとき改めて悟空さんという人を、思い知った気がした。

「・・・で、そのとやらの父親じゃが、当時は軍に入ったばかりでキャッスルタワーの護衛をしておった。まだ若いというのに入ったばかりでピッコロが現れるとは不運じゃったのう」
「・・・、じゃあのお母さんも・・・?」
「同じじゃ。キングキャッスルの町に住んでおってピッコロに町ごと吹き飛ばされ死んでおる。そのときふたりは一度ドラゴンボールで生き返った。だからセルのときには生き返らんかったのじゃ」
「・・・」

この世が今まで、どれだけの危機に直面してきたか・・・。
人々がこれまで何度、圧倒的な力の前に死を感じてきたのか・・・。

ドラゴンボールという、普通ならないはずの、奇跡・・・




「悟空さん、今日はありがとうございました」
「いーや、楽しかったよなーパン」
「うん!」

空は遠くのほうから少しずつ茜色に染まり出していた。
悟空さんはパンちゃんを背中に乗せて、くるくると飛びまわる。

「じゃーなトランクス、たまにはうちにも遊びに来いよ」
「悟空さんこそ、うちにも来てくださいよ。母さんがパーティーに呼んでもこないって怒ってますよ」
「はは、まぁ近いうち顔だすさ。じゃーな!」
「あ、悟空さん!」

広い空の中で悟空さんたちと別れようとしたところで、俺の声に悟空さんが振り返る。

「あの、俺もたまには、父さんに修行つけてもらいます」
「ん?どーした急に」
「・・・やっぱり俺も、強くありたいから」
「そっか。ベジータも喜ぶぞ」
「はい!」

それから悟空さんはまたじゃあなと手を上げて、パンちゃんと一緒に飛び去っていった。パンちゃんの笑い声がどこまでも響いて、やがて見えなくなった。

「・・・よし!」

俺は、父さんたちの言う”イザというとき”というのが、イマイチ分からなくなっていた。俺たちが子どものころに直面した闘いも、周りの人たちと同じように、俺の中からもだんだん消えようとしていて・・・。

これから先、そんなに強い敵が現れるかどうか。これ以上強くなって、その先に何があるというのか。それよりも俺には現実的にしなきゃいけないことがある、って・・・。

重荷にさえ感じていた・・・、サイヤ人の血・・・。

けどやっぱり、父さんほどではなくても、闘える自分でなければ。
もしこの世にまた、圧倒的な危機が起こったとき、自分の弱さに嘆くことはしたくない。誰かを守れなくて悔しい思いをしたくない。

いつかまた君に、どうしようもない悲しみが降りかかったとして・・・

それらすべてを吹き飛ばす、俺でありたい。