15. Dividing line
街中まで戻ってくると背の高いビルの屋上に降りて、街を見下ろした。
少し冷たい風をすぅと吸い込んで、溜めてゆっくり吐き出し、目を閉じて神経を集中させた。
夜になってもにぎやかな街の明かりと人々の息遣いを感じ取る。
ひとりひとりに目を配るように細かく、心の真ん中に灯した形を探る。
いつも見ていた姿。そばで感じた空気。触れた質感。
分からないはずがない。
「・・・いた!」
気配をつかまえて目を開け、感じ取ったほうにまた飛んでいった。
この方向は、学校か?来てたのか?
夜の中を飛んでいると、学校より少し手前の暗い道を歩くを見つけ止まった。そのままより少しうしろに降りたって、走り追いかけた。
「!」
静かな中で俺の声はやたら響いた。
澄み渡るようにそれはへ届いて、そのうしろ姿は立ち止まり振り返った。
「よかった、やっと見つけた・・・」
「・・・なに?」
「探してたんだ、学校来なかったし」
「だから、なに?」
は俺の様子なんてお構いなしで用件だけを聞いてくる。
まったく、なんてらしくて、笑えてくる。
「に話さなきゃいけないことがいっぱいあってさ、もう何から話せばいいのか分かんないくらい」
「うん?」
「でもやっぱり、一番決まってるとこから話すよ」
「うん」
なぜだか、息が切れていた。
ただ飛んできただけなのに。
きのうからずっと考えてた。
どうやって言おう。どこから話そう。
いろいろ考えて、でも絶対に行きつくところがあった。
「俺が好きなんだよ」
「・・・」
「だからのこと分かりたいって思うし、俺のことも知ってほしいって思う」
・・・結局はそこだった。
話す必要があるのか、じゃなく、ただ言いたかった。
のものを分けてほしかった。俺のことを知ってほしかった。
「だから俺、怒ると思うけど、の親のこと少し調べた・・・。今日は教会に行ってマザーに話も聞いてきた」
「・・・」
「もう、ほんといっぱい言うけど、ぜったい嘘も冗談もないから、最後まで聞いて。えーと、まず・・」
「・・・あのさ」
「え?」
そうして俺が順序をたどって話そうとした、矢先、がぽつりと遮った。
「なに?」
「なにって・・・、そんなこと、そんな風にサラッと言うこと?」
「え・・・?」
俺は瞬間的にはが何のことを言ってるのか分からなかったけど、自分が言ったことをたどってみると、分かった。
「あ、ごめ・・・、俺ほんと言わなきゃいけないことがいっぱいあって、そっちで頭いっぱいになっちゃって、なんかもう、が好きなのは当たり前みたいに思っちゃってて・・」
「・・・」
「ごめん・・・」
はとても複雑そうな顔をしてた。
そうだよな、これだって一応告白みたいなものだ。
俺のその気持ちがなければこれから話すことのほとんどが意味を持たなくなってしまうから、まずそれを言わなきゃと思ったんだけど、大事にしなきゃいけないのは、そこだった・・・。
「ごめん、言いなおすよ・・・」
「いいわよ。話さなきゃいけないこと先にどうぞ」
「あ、うん・・・」
は相変わらず質素に言って先を歩きだし、俺もそれについて隣を歩いた。
「まず、のお父さんとお母さんのことなんだけど・・・」
それから俺は、俺の知ってることのすべてを、できるだけ分かりやすく、できるだけ鮮明に話した。
セルのこと、ドラゴンボールのこと、の両親が生き返らなった理由。
はほとんどを黙って聞いてくれたけど、ちゃんと信じているかいないか、分からない顔をしてた。特にドラゴンボールに関してはそんなことあるの?と完璧に信じてないみたいだったけど、それについては母さんが保証すると言ったら、また複雑な顔をした。
全部を話すには長い時間が必要だった。
すべてのことに繋がりがあり、その全部に長い歴史があるから。
「・・・それが、に関係した話」
「・・・」
「で、ここからは、俺の話・・・」
これは、にとっては不必要な話、かもしれない。
知ってもらいたいというのは、俺の勝手だし・・・
「そのセルを倒したって言うのが、俺の父さんとその仲間の人たちで、あの時のテレビ映像にも残ってるらしいけど、あのセルに勝てるのは父さんたちだけだったんだ」
「・・・ミスター・サタンが倒したっていうのは?」
「あれは・・・、うん、あっちがウソ・・・。あの人そういう人だから」
「知り合いなの?」
「うん、何度も会ったことあるし、俺の仲間の人の奥さんがミスター・サタンの娘のビーデルさんだし」
「・・・ふぅん」
「で、俺が言いたいのは、俺の父さんは・・・その・・・異星人なんだ、サイヤ人っていう・・・」
「・・・、え?」
「昔地球にきて、地球に住むようになって、母さんと結婚して、俺が生まれた。だから俺はその父さんと母さんの子どもだから、半分はサイヤ人の血が混ざってるってことになって・・・」
そこまで話すと、さすがには足を止めて俺を見た。
俺もそれが一番緊張したから、一緒に足を止めるけど、の顔を見返すことができない。
「見た目はぜんぜん地球人と変わらないんだよ、父さん見たことあるだろ?俺は生まれも育ちも地球だから、サイヤ人のことは父さんから聞いた程度しか知らないんだけどさ・・・」
「・・・・・・さすがにもう、どう信じたらいいかわからないな・・・」
「・・・。俺の仲間のことや起こった出来事は信じてもらうしかないけど、サイヤ人だっていうことは、今でも少し、証明できる」
「・・・どんな?」
「サイヤ人は戦闘民族っていって、闘うことがすべてなんだ。生まれた時から大きなパワーを持ってるし、地球人に比べたらケタ外れに強いし・・・、さらに強くなるために、変身もできる・・・」
「変身・・・?」
「うん・・・、見る・・・?」
「・・・」
は、うんともいいえとも答えられずに俺を見ていた。
俺は今までのいつよりも心臓を打ちつけて、そのまま少しずつから離れて、大きくなりすぎないように力を押さえながら、気を込めた。
あたりの空気がパシンと張りつめて弾かれ、俺の体を金色の光が包むと爆風を巻き上げ地面を揺らす。
は巻き起こる風に煽られてよろめいて、手をかざしながらその隙間から見た俺に目を張った。本気で言ってるのか冗談なのか、とても信じられない俺の話をどこまで受け入れてくれてるかは分からないけど、超サイヤ人の俺を見るは驚きを隠せない顔で地面に膝をついた。俺はそれを見てすぐに気を解いてに駆け寄った。
「、大丈夫・・・?」
「・・・」
金色に照らされていたあたりはシンと静かな夜に戻る。
は真っ暗な中でも俺を見上げていて、俺はそのに手を伸ばし立たせるんだけど・・・、は立ち上がると俺からそっと手を引き、目を迷わせ・・・。
「ごめん、いきなりこんな話して・・・」
ほんとは、それが一番、不安で怖かった・・・
俺の言うことを信じてくれるかよりも、俺のことをちゃんと見てくれるか、受け入れて、受け止めてくれるのかのほうが・・・
「・・・」
俺が、怖い・・・?
「・・・」
は俺のすぐ目の前で、何かを必死に考えてるような、でも何も分からないような・・・。ふと俺に目を上げて、まっすぐ見つめて、何か言おうと少しだけ口を動かすんだけど・・・、言葉は出ずにまた目を伏せて・・・
「ごめんなさい・・・」
ぽつり、涙を落とすみたいにささやかに、声をこぼした。
「今日は、帰らせて・・・」
僅かな星光を吸い込んで、の瞳が鈍く光って揺れる。
軽く握ってる指先は震えてるようにも思えた。
俺は、哀しさに飲み込まれそうだったけど、そっとから手を離した。
頭のどこかでは仕方ないという気持ちはあった。
それでも言おうと決めたんだ。
けど、それ以上に胸は痛くて
先にいなくなってあげることもできなかった・・・