17. Salvation
「へー、それで生き返らなったわけか」
「そういうこともあるんですね・・・」
「なんかショックだなぁ。あんなことがあっても何とか乗り越えて、みんなしあわせにやってると思ってたのに」
みんなで話がにぎわううちに、話題はの両親の話になっていた。
ここにいるみんなには俺以上にかかわりの深い話だから、人事でもないんだろう。
【トランクスおぼっちゃま、アボさまよりお電話でございます】
「アボ?」
俺のうしろにやってきたメイドロボが電話を持ってきたから、俺はそれを取って席を立ち家の中に入った。
『トランクス!もーやっとつながった!昼からずっとかけてたんだぞ!』
「ああ、ごめん。なに?」
そういえば、部屋で寝てるとき何度か電話で呼ばれて、断ったっけ。
『でも何ともなさそうでよかったよ。今日学校に黒スーツ着たヘンなやつらが来てさ、おまえとのこと聞きまわってたんだ』
「黒スーツ・・・?」
『なんかヤバそうな感じだったぜ』
「・・・」
俺はアボにあやまって電話を切り、急いでの家にかけた。
いやな予感がした。
「!?大丈夫か?なんか変わったことなかった?」
呼び出し音が数回繰り返したのち、やっと音が途切れそう問いかけたけど、電話が繋がってる音はするのにの声が返ってこなかった。
「・・・?」
『・・・その声は、カプセルコーポレーションのおぼっちゃんかな?』
「!?・・・」
電話から聞こえてきた声は、予想してた声とはまったく違う、男の声だった。そしてその男の声としゃべり方が、俺には聞き覚えがあった。
「おまえ、きのうの・・・」
『礼を言うよトランクスくん。君のおかげでこの娘の居場所がやっとわかったんだ。ありがとう』
「なっ・・・、なんで・・・!?」
『キミはもう少し自分の立場を理解すべきだ。キミは自分で思っているよりずっと有名人なんだよ。とくに我々のような業界人にとってはね』
「・・・は、をどうした!?」
『すぐに返すよ、こちらの用が終わればね。もうここにはいないから無事かどうかは分からないが、あのお嬢さんしだいだろうね』
「フザけるなっ!!」
俺の怒鳴り声はあたりに響き、窓の外のみんなが何事かと振り返る。
だけど電話はプツリと切れて、頭に血を上らせる俺は思わず電話を床に叩きつけ壊した。俺はそのまま急いで庭にかけ出て、暗がりの夜空を見渡しの気を探った。
「なに、どーしたのよトランクス」
けどの気はまるで掴めなかった。
さらに小さくなってるのか・・・、俺が焦って集中できていないせいか・・・
「母さん、スターカンパニーって分かる!?」
「スターカンパニー?たしか、不動産かなんかの?」
「場所わかる!?」
気を探りながら母さんに聞くけど、母さんも知らなかった。
クソ、どうしたら・・・、とりあえずの家に行くか・・・!?
「スターカンパニーっていったら、表向きは小さな不動産だけど、裏じゃけっこうあくどいことしてるっていう会社じゃなかったかしら」
「!?ビーデルさん、知ってるの!?」
「今じゃけっこういろんなところに勢力広げてるらしいけど、本社は西の都だったはずよ。たしか・・・、東のほうだったと思うけど」
「東・・・!」
「待ちなさいトランクス、どうしたの!」
そこまで行けばの気が掴めるかもしれない。
俺はドンと一気に気を膨らませ、東の空に向かって飛び出した。
「おいおい、何ごとだぁ?」
「もう!あの子ったら・・」
「ビーデルさん、そんなことよく知ってただなぁ」
「私、むかし警察にはよくクビつっこんでたので・・・」
「なんにせよトランクスのあの様子は普通じゃないな、ボクも行ってみますよ」
「お願い悟飯くん。あの子あんなに頭に血上らせて、何するかわかんないわ」
「はい」
「ボクも行く!」
そうして悟飯さんと悟天は俺を追いかけて、夜の空に飛び上がった。
けど俺にはもうよそ事は一切頭に入らず、夜を飛ぶエアカーやスカイラインをくぐり抜け一目散に東へ飛び抜けていった。
東区まで来たところで空中で急停止し、もう一度の気を探った。
街中から少し外れているとはいえ人はたくさんいて、どれも小さな気でひとりを探すのは難しかった。
落ち着け・・・
の気だ、分からないはずがない・・・
「・・・いた!」
わずかな切っ先を掴んで、下の道路へ降り立ち、掴んだほうへ走った。
きのう感じ取った気よりもさらに小さい・・・
近づいてってるのに、見失いそうだ・・・
走りついた先は大きな建物だった。周囲をコンクリートの壁に囲まれ、要塞みたいな佇まいで真っ暗な夜の中にシンと静かにそびえたつ。軽く背丈を越える大きな鉄の門が閉まっていって、その門を通過した車が建物の入り口で停まって人が降りた。
「おい!」
門を飛び越え降り立つと、車を降りた男が俺に振り返る。
「あ!あのガキきのうの・・・!」
「おどろいたな、どうやってここが分かった?」
そいつはさっき電話で話した、きのう教会で会った男だった。
そのうしろにはきのう俺が吹っ飛ばしたガタイのいい男もいて、俺にずかずかと迫ってくるとガシッと俺の髪を掴んだ。
「きのうはやってくれたよなぁボウズ」
「どけ、今は手加減してやる余裕はない」
「ハッ!じゃあやってみろよ!」
目の前の男が拳を握り、豪快な拳は俺の顔面に向かって振り下ろされる。ガンと鈍い音が夜に響いて男はニヤリと顔を緩めるけど、その顔はすぐに悲痛に歪み、俺から手を放しぶつけた拳の痛みにもがいた。
「このヤロォ!」
怒りを露わにしてまた俺に殴りかかろうとする男の、懐に入り込んで握った拳を突き出した。当てはしなかったけどその爆風で男は吹っ飛び、停まってた車の窓ガラスに頭を突っ込みピクピクと動かなくなった。
「何だコイツ!?」
「おい、上に連絡して人集めろ!」
前に残っていたふたりが建物の中に駆け込んでいく。
俺は建物を見上げて、の気を感じる場所にふわりと浮いた。
・・・突然窓の外から衝撃が吹き込み、建物の中の部屋や廊下が壊れ人が転がりこんでいく。中にいた人間がみな何ごとかと慌てだし、バタバタと走る足音が四方から近づいてきて、ドアを蹴破り廊下に出た俺の前を数人が銃を構えてふさいだ。
「なんだ、ガキじゃねぇか」
「なんでもいい、捕まえて連れてこいって命令だ」
は、もっと上らしかった。
俺は銃を構えてじりじりと歩み寄ってくる男たちの真上の天井に向かって手を上げ、気功波で天井を突き破った。天井は崩れ男たちの上へと降りかかり廊下の人間たちがガレキに埋まる。崩れて穴が空いた天井からさらに上に飛んで奥のドアを見た。がそこにいる。
「・・・!」
カギのかかっていたドアを蹴破って中に入ると、窓もない真っ暗な個室の隅で倒れているを見つけた。駆け寄り起こすけど、うしろで手錠が繋がれていて、意識がない。ざわりと身の毛がよだって、目の前が真っ赤になる。
「動くな、そこまでだ」
明かりを差し込ませるドアの手前に、さっきの男が銃を突きつけ現れる。
他にも大勢人間が集まってきてこの小さな個室を包囲する。
「おかしなガキだな、何モンだ?」
「・・・」
「いいネタになるぜ、カプセルコーポレーションの息子がこんなバケモンだったとは・・」
男がしゃべり終わるより先に、俺は男の顔を掴んで廊下まで押し出し、壁に押しつけた。ここまで移動したことにも気付かない周りの連中は音を聞いてやっとうしろに振り返り、俺の手の中で男は意識を失い廊下に崩れていった。
「なんだコイツ・・・!?」
「う、撃て!」
一斉に銃が向けられ発砲音が響く。だけど壁に穴が開くばかりでもうそこには誰もいないことに気づく。俺は廊下の端に飛んでいて、銃を構えてる連中に向かって掌を向けた。
何も考えなかった。
ただ怒りしかなかった。
バチバチと空気をはじいて手に気が集中する。不穏な空気を感じ取った連中がやっと俺に振り返ったときにはもう気功波を発していた。
・・・けど、それがやつらに直撃する手前に悟飯さんが現れて、俺の気功波をはじき飛ばして天井を大きく貫いた。
「もう十分だトランクス、ここまでにしよう」
「・・・どいてよ、何が十分だ!」
「やめるんだ、トランクス」
ふざけるな。こんなんで今までが感じてきた哀しさを、寂しさを、痛みを払しょくできるもんか。たとえこいつら全員消したって晴れやしない。
俺はもう一度手に気を集中させる。
その時、下から破壊音がくり返し響いて、建物全体が大きく揺れ始めた。
「ホラホラ早く逃げないとこのビル崩れるよー!みんな走った走った!」
床を突き破って飛んできた悟天が大声で叫ぶ。
建物はグラグラとバランスを崩し始めて、残ってた人たちはみんな階段を駆け下り逃げていった。
「・・・」
「トランクス」
目の前の悟飯さんが、まっすぐ俺を見る。
俺は気を静め、手を下した。
「ほらトランクスくん!この子助けなくていーのーっ?」
悟天が個室からを抱いて出てきた。
俺はハッと気づいて走りだし、悟天に抱かれてるを見下ろす。
「・・・」
まだ意識のないの頬は切られたような痕が生々しく残ってた。手首についた手錠の鎖は悟天が引きちぎったんだろう、輪だけが残って、赤く腫れていた。服も足も汚れてて、よっぽど逃げ回ったんだろう。
また、悔しさがこみ上げる・・・
「はい、トランクスくん」
「・・・」
抱いてるを差し出す悟天の腕からを受け取る。
細くて軽い、まるで空気みたいだ。
それから俺たちは窓から外へ飛びあがって、崩れていく建物を見下ろした。
静かな夜に地響きのような音を立てて建物が崩れていく。
地上では細かく見える人たちが逃げ出ていくのが見えた。
すると、俺の腕の中でピクリと動いたがそっと目を開けた。
「、大丈夫・・・?」
「・・・」
はすぐそばにいる俺を見上げ、少しずつ意識を覚ましていく。
「トランクス、先に戻ってるぞ」
悟飯さんは俺にそう言い置くと、悟天を連れて飛んでいった。
それを見たは、やっといま俺たちがいるのが空中だと気づいて驚き俺につかまった。
またが、超サイヤ人の俺を見たときみたいな、移ろう目で俺を見る。
「ごめん、・・・」
「・・・」
守れなくて、ごめん
どうしても好きで、ごめん・・・