会場の半分を飲みこんだ氷壁を溶かし、轟はゲート内へ引っ込んだ。試合直前に”あいつ”が現れたせいで酷くイラついてしまった。纏わりつく熱気が鬱陶しい。轟はクソッと嘆を吐き握り締めた左手をポケットに突っ込んだ。
舞台の整備中、席を立っている人が多い廊下を轟は観客席へと向かう。通り過ぎる人が「凄かったな!」とかけてくる声に頭を下げる。クラスに戻る気にはなれない。適当なところで見ようと階段を上がろうとした時、耳に「すげぇ、エンデヴァーだ」と囁く声を拾い、ついその方を見てしまうと、顔や体に炎を纏っている忌々しい姿と共に、それと向き合う体操服姿の小さな背中を見つけた。
ほどなくしてその背中は進行方向に向き直しこちらに歩いてくる。エンデヴァーは周囲を人に囲まれながらもそいつをしばらく見ていた。緩やかなカーブを描く廊下を歩いてくる、それはだった。
「おい」
目の前を通り過ぎていこうとするに声をかける轟。
声をかけられようやく轟に気付いた。
「あいつと何話してた」
腹の底から這い出て来るような声色。平穏でない顔つき。
さっきの攻撃同様、随分荒立ってるなと泪は思った。
「”あいつ”に聞けよ。息子なんだろ」
立ち止まったのも束の間、はざわめく客席へ上がっていった。
なんだ、何か聞いたのか。知ってるのか。何なんだ。
またどうしようもなく苛立ちを覚えた轟だったが、何に当たれることもなく、歯を噛み締め客席へ上がった。先に行ったはA組に混ざっていた。障害物競走の後はクラスから離れていった癖に、よくわからない奴。
舞台が乾いた頃、第三戦が開始され、A組上鳴VS.B組塩崎茨の試合が始まった。始まったがすぐに終了。上鳴の個性「電気」も「ツル」を操る塩崎にまるで歯が立たず瞬殺された。
続く第四戦、A組飯田VSサポート科発目明。発目の要請で本来なら禁止のサポートアイテムを着用し登壇した飯田は、その実、発目の内なる作戦にうまく利用され、サポート会社への売り込み材料として扱われながらも満足し場外へ出た発目に勝利を授与された。
そのまま順当に進んでいくトーナメント戦。多くの生徒が出場しているA組は控室に立ったり戻ってきたりと出入りが激しい中、試合を観戦するだけのはぼうっと舞台を眺めながら酷く退屈を感じていた。笑い、賑わい、興奮し、悔しがる。このお祭り騒ぎの戦いに何の意味があるのだろう。理解できなかった。
「つまんねぇってツラだな」
第七戦が開始されると同時に席を立ち階段を上がっていく爆豪が、頬杖ついて舞台を眺めるの隣を通り過ぎる。
「目ぇ覚ましてやるよ」
悪人顔の笑みで通り過ぎていく爆豪。
現在熱戦を繰り広げる「硬化」の切島とB組の「スティール」鉄哲の殴り合いは互いに最強の盾であり最強の矛であるダダ被りの個性で決着がつかずにいたが、ついに互いに力尽き同時に倒れ引き分けとなった。
「次、ある意味最も不穏な組ね」
「ウチなんか見たくないなー……」
次いで名を呼ばれる爆豪VS麗日。A組同士、しかも相手があの爆豪とあり女子たちは麗日を案じ胸中穏やかではなかった。
開始早々、速攻を仕掛ける麗日は爆豪へ向かって突進していくが爆豪は「爆破」で迎撃、麗日は来ると分かっていても避け切れずに爆撃を食らい、それでも立ち上がり突進を続ける。何度も、何度も、粉塵の中フェイントをかけ何度も立ち向かうも反応の早い爆豪には触れられず全て返り討ちにされた。あまりの容赦ない爆撃に場内からブーイングが飛ぶも爆豪は一切気を緩ませず手を止めず神経を集中させて爆撃を撃ち続けた。
「へぇ……」
ふらつき、傷つき、それでも尚向かっていく麗日。
葉隠や耳郎はもう見ていられずに視界を覆うほど、麗日は爆豪に挑み続けた。
痛みながら立ち上がる麗日は、両手の指をピタリと合わせる。麗日の個性「重力無効化」は触れたものを浮遊させる。低姿勢の突進で爆豪の攻撃を下方へ集中させ、爆撃で壊した舞台のコンクリートを無重力化、空高く飛ばし蓄え、今それらを解除し舞台上に流星群のようなつぶての雨を降らせた。
つぶてが降ってくる中、尚も爆豪に突進し何とか爆豪に触れようとする麗日。しかし爆豪は手を上げ、つぶて全てを大爆撃砲一発で粉砕、まるで隙を与えなかった。愕然とする麗日。それでも折れない。自分で決めた道の為、夢の為、勝つと決めた麗日は再び爆豪へ立ち向かう。も、足の力が抜け倒れ体力が尽き起き上がれず敗北を期した。
「麗日ぁ〜……」
「よく戦ったわお茶子ちゃん」
場内から割れんばかりの称賛の拍手が担架で運ばれる麗日に贈られる。
試合を終え戻ってきた爆豪は元座っていた席へ戻っていく。先程通りがけに見せたような笑みはなく、勝利しても晴れない顔。めんどくさい奴……、頬杖つくは思った。
第一回戦の全試合が終わり、七戦目で引き分けた切島と鉄哲が腕相撲で勝負。
切島が勝利し二回戦進出を決した後、再び会場内は注目度を上げた。
第二回戦、緑谷VS轟は、緑谷がどうあの完全無欠の轟の氷結に対抗するのかという点に着目された。スタート直後、緑谷目がけて襲う轟の氷結。それを緑谷は超パワーを指に集中させ弾いた衝撃で氷結を突破した。しかし緑谷の指も負傷し使えなくなっていく。二度・三度と繰り返されるごとに指を失っていく緑谷。その上、個性の強さだけでなく判断力、応用力、機動力、全てにおいて轟は鍛え抜かれていた。この体育祭中、普段冷静な轟が何故か緑谷に向かってだけやけに対抗心を見せ緑谷もまた応戦していたが、やはりその差は歴然だった。
「やっぱ強すぎだよ轟くん、まだ氷のほうしか出してないのに、オニ強だよ」
「轟くんは戦闘に於いて”炎”の方は使わないと言っていたが……、やはり緑谷くん相手でも使わずに勝つつもりなのだな。騎馬戦の時は少し見せたのだが……」
指だけでなく腕も負傷した緑谷にもう勝ち目はないように思えた。轟もまたこの試合を終わらせようと、とどめの氷結を緑谷に発する。しかしその氷結を、負傷した指を使い撃破する緑谷。轟の顔色が変わり始めた。
「震えてるよ、轟くん……。個性だって身体機能の一つだ。君自身、冷気に耐えられる限度があるんだろう……!? で、それって左側の熱を使えば解決出来るもんなんじゃないのか……?」
両手とも痛手を負いボロボロの緑谷が、それでも血染めの拳を握る。
「……っ!! みんな……本気でやってる、勝って……、目標に近付くために……ッ、一番になるために! 半分の力で勝つ!? まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!」
緑谷の声が観客席まで届く。強く強く燃え滾る熱情が、目の前のただ一つの戦いに懸命に食らいついた者たちに響かせる。
「全力でかかって来い!!」
緑谷の啖呵に対し冷静な轟が垣間見せる強情。
攻撃を仕掛ける轟の隙をつき踏み込んだ緑谷の拳が轟に痛烈な一撃を食らわせる。砕けた右腕で、ボロボロの身体で、それでも訴える。曇りきった轟の表情に、心に、訴えかける。
「なんでそこまで……!」
「期待に応えたいんだ……!」
満身創痍。でも向かう。勝ち目など無い。でもそこじゃない。
「笑って応えられるような……、カッコいいヒーローに、なりたいんだ! だから全力でやってんだ、みんな!!」
凍り付けたものを、覆い隠した部分を、いつの間にか忘れてしまったものを、こじ開ける緑谷の声。
「君の力じゃないか!!」
いつの間にか、忘れてしまった、声。
ごお! と強烈な炎が轟の閉じ込めた左側から巻き起こる。
「使った……!」
客席にまで飛び火する熱波。ついに解放された轟の”左側”。
は轟から沸き上がる炎を見て先程の男を思い出した。
燃焼。ヒーロー。父親。
凍傷を起こしかけていた轟の右手が熱で溶かされダメージが回復されていく。観客席から叫ぶエンデヴァーの声も聞こえていない程、目の前の好敵手に、幼き頃に抱いた夢に、かの人の言葉に、呼び戻される。
右足の氷結と左側の燃焼を爆発させる轟と再び拳にパワーを集中させる緑谷の対峙に、これ以上は危険と判断したミッドナイトとセメントスが止めにかかる。ぶつかり合う二つの強大なパワーがセメントスの壁をも撃破し会場を衝撃で埋め尽くした。
スタジアムを揺らすほどの爆煙が少しずつ風に流され吸い上げられていく。舞台上は砂埃と蒸気で埋め尽くされ、やがて姿を現すのは、台上の轟。場外まで吹き飛ばされた、緑谷。
「緑谷くん場外……、轟くん、三回戦進出!!」
ワアアアア……!! 超パワー同士の決戦に会場中が沸き上がった。
力尽きた緑谷はすぐに保健室へ運ばれ、轟はゲートへ静かに歩いていく。
再び崩壊した舞台を修復するため試合は再度中断となり、飯田と麗日、蛙吹と峰田が緑谷の元へ行こうと駆け上がっていった。
「大丈夫かなぁ緑谷くん、心配だね、私たちも見に行く? ちゃん」
「……」
「ちゃん?」
試合中の緊張感も解けざわざわと歓談の声が行き交う観客席で、は修繕作業の始まっている競技場を見下ろしていた。おーい、ちゃんてば。隣で声をかける葉隠の声にも反応しない。
その葉隠の声を聞き振り向いたのは、前の席に座る爆豪だった。さっきまでつまらなさそうに頬杖をついて眺めていたが、その手もなくし思い耽った顔で競技場をまっすぐ見つめている。それも右側のゲート口。緑谷が運び込まれていった方のゲート口を。じわり、不快が滲む。
舞台が修繕され再開した第二回戦。二戦目の飯田VS塩崎は、飯田の先手必勝で塩崎を場外へ追い込み勝利。第三戦の芦戸VS常闇は、常闇の問答無用の圧倒的勝利。そして第三戦、切島VS爆豪は開始後「硬化」で連撃、爆豪の爆破もその強靭なガードでダメージを受けず切島の勝利かと思われたが、やがて爆豪の攻撃が鉄壁のガードの切島に効き始め、硬化の綻びを突かれ爆豪が切島を撃破。ここに四強が揃った。
「すごーい! A組強いね!」
「あいつらどんだけスゲェんだよ! 今から冷や冷やするぜ、これからの全試合!」
準決勝、一戦目、轟VS飯田。ついに「燃焼」を使い始めた轟を警戒し、今回も開始直後に仕掛けた飯田は轟に重い一発を食らわせるも、場外へ引っ張り出そうとする間にエンジンを氷結されそのまま全身飲みこまれた。先程の緑谷戦では封じていた左側を解放した轟だったが、今回は氷結のみで勝利を掴んだ。
続く二戦目、常闇VS爆豪。またしても爆豪は鉄壁のガードの常闇に終始苦戦するも、阿修羅のごとく爆撃を連打する爆豪が戦いの最中に見出した常闇のただ一つの弱点を突き、常闇を追い込み降参させた。
『さぁいよいよラスト! 雄英1年の頂点がここで決まる! 決勝戦、轟体爆豪! 今スタート!!』
開始の合図と共に舞台を飲み込む轟の氷結。呑みこまれた爆豪。あっという間に勝敗は期したかと思われたが、氷の中から爆撃で掘り進め姿を現した爆豪。轟もそれを読んでおり攻撃を再開するも爆豪の戦闘センスは回を追うごとに研ぎ澄まされ轟を追い詰めていく。ただ一位、目指すは完膚無き一位。全てを蹴散らし圧倒的一位を目指す爆豪に立ちはだかる轟。
「テメェ虚仮にすんのも大概にしろよ!」
吠える爆豪。爆豪は轟が戦いに集中しきれていないことに苛立ちを募らせていた。緑谷戦以降、解放したかと思えばそれ以降使ってこない左側。
「頑張れ!! 負けるな!!」
猛攻の爆豪を前に闘い方を見失っている轟に叫ぶ、緑谷。
轟は士気を取り戻し左側の炎を巻き起こすも、何かが轟の心をまだ覆う。
炎は消え、爆豪の特大火力が消沈の轟に痛烈に浴びせられる。轟は場外まで吹き飛ばされた。
「……は? は? オイ、ふざけんな!!」
こんな勝利、こんな一位、こんな結果。
爆豪は舞台を飛び出し気を失う轟に掴みかかるも、主審ミッドナイトの力により眠らされ、体育祭の全競技が終了。今年度雄英体育祭1年ステージの優勝は宣誓通り、爆豪のものとなった。
「ふぃ〜無事終わったぁ……、なんか見てるコッチが疲れちゃったよ、ね、ちゃん」
「そうだね」
めんどくさい奴。
運ばれていく爆豪と轟に惜しみない拍手が送られる中、はやっと終わったと背筋を伸ばし首を鳴らした。
その後表彰式が行われ、三位の常闇と飯田、二位の轟、一位の爆豪にメダルが授与されるが、飯田は事情により早退し壇上に姿はなかった。怒り冷めやらない爆豪は両手両足を拘束されながら、無理やりメダルをかけられるも暴れたくっていた。
体育祭が終わり全生徒は着替えて教室へ戻っていく。詰めかけた観客、視察に来ていたプロヒーローたちも続々学校を出ていきいつも通りの学校に戻っていった。
「おつかれっつうことで、明日あさっては休校だ。プロからの指名等をこっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながら休んでおけ」
負傷が大きすぎてリカバリーガールの治癒でも治しきれずに腕を吊っている緑谷と、いまだ怒りの冷めない脳内が沸騰した爆豪。そしてこれまで冷徹にも思える程の冷静さを崩しつつある轟。今回の体育祭がもたらしたものはそれぞれの胸に熱く残り、それは確実な一歩として残った。
「は残れ。他は解散、以上」
げっ! と表情を歪める生徒たち。そういえばすっかり忘れていたけど。
教室の中ほどから集まってくる窓際の泪への視線。
それも泪は無視して窓の外を眺めていた。
「どう? 何話してる?」
「いや、まだ話してねぇ、っていうか相澤先生声ちっさすぎてわかんねぇ。耳郎、聞いてくれよ」
「え、バレたら怖いじゃん」
「じゃあ障子っ」
「声でかいって切島ッ」
「除籍とかヤダよぉ、ちゃん……」
「やっぱソレかなァ……! アイツひとりだけ予選落ちだもんなァ」
いつもなら終了と共にさっさと退室する相澤が教壇に残り、生徒たちは気がかりながらも相澤のさっさと出ろという視線が痛くてそそくさと教室を出ていった。目を80度に吊り上げ口にメダルをぶら下げる爆豪だけがドシドシと帰っていき、他の生徒はドアの外の廊下で壁に張り付き中の様子を窺っていた。すると前の扉がガラッと開き相澤が睨んだものだから全員その場を慌てて立ち去った。
「お前みたいな跳ねっかりでもクラスメイトか、殊勝な心持ちだな」
誰もいなくなった廊下を確認し扉を閉める相澤は、ホームルーム中からずっと変わらず窓の外を見やるの傍まで寄り、手前の机に腰を下ろす。
「どうだった。馬鹿馬鹿しかったか」
問いかけても返ってこない。
先のUSJの事件から一切この調子で、相澤はヤレヤレと頭の中で息を吐く。
「ジョーが来てたようだな。メール来てたぞ、おまえのこと今後もヨロシクってよ」
「何がよろしくだ」
「そこは応えるんだな」
相澤の言葉に不躾だった表情はさらに不機嫌めいて、ガキかと吐く。
「今日の出来は目を瞑るが、今後は真面目に取り組めよ」
机から腰を離す相澤はぴらっと一枚の紙をの机に差し出す。
「明日、忘れずちゃんと行けよ。忘れずじゃねぇか。いつもわざとだもんな。ほら、名前書け」
「……」
「書いたらとりあえず罰走として日が暮れるまで外走ってろ」
机に置かれた紙を見下ろす。相澤の判が押された「外出許可証」。
教室前から追い出され下駄箱まで来たA組生徒たちは、靴を履きながらもうしろ髪を引かれる思いが拭えなかった。相澤の口から容易に想像できる「除籍」の言葉が誰の脳裏にも蘇る。
「あ、のぉ……」
下駄箱から歩き出せずにいたA組の面々の元へ、一人の女子生徒が恐る恐る声をかけてくる。全員の目が自分に集まるとひぃっと身を縮めてしまうような小柄な女の子。
「あの、わたし、普通科のF組の者なんですけど……、あの、髪が短くて、こう……静かにしゃべる感じの……人、女の子、A組にいますか? 障害物競走の時、私のこと助けてくれたんですけど、クラスとか名前とか、分かんなくて……、トーナメントの時に、皆さんと一緒に座ってたの見て、A組の人かなぁって……」
「助けた?」
切島が今ここにいる女子たちに目を向けるけど、誰もその子を知らず首を振る。
「え、じゃあ? 助けたって?」
「わわわたし、ゲート出た後すぐに、凍ってた地面に足はまっちゃって、動けなくなっちゃって……、その時にその人が助けてくれて……、ちゃんとお礼言いたいなって、思って……探してて……」
凍ってた地面。そう聞いて轟は表情を歪める。
「これだ! おまえ、それ相澤先生に言ってくれ!」
「えええええええっ、なななななんなんでですか!?」
「人助けしてたって言えば除籍じゃなくなるかもしんねーよな!」
「あ、入試の時みたいな救済ポイント!」
「それ! な、頼む! 今すぐ!」
「ええええええ」
「やめろよ、離してやれよ」
小さな女子生徒を囲むように立つA組のうしろからかけられる質素な声。
振り向くとそこには体操服姿の泪がいた。
「! おまえ、どうだった!? 相澤先生なんて!?」
「除籍とか言われた!? そんなのヤダ!」
「言われてないよ、帰れよもう」
「え、言われてないの……?」
みんなの合間を抜けは下駄箱に上履きをしまい靴を履き替える。
「どこ行くんだよ、体操服で」
「罰走だって」
「罰走!? 予選落ちのか? それで除籍免除!?」
「ああ、良かったぁ、良かったー!」
「あ、あの……、あの……」
「何度も礼言われる程のことじゃないよ、帰りな」
みんなの間を通り抜け、は外へ出ていく。
散々気にかけた自分たちはなんだったんだと拍子抜けしてしまうほど。
「なんか、あの子ぜんぜんわかんない……」
「掴めない方ですわね……」
「そんなことないよ、ちゃんは最初っからやさしかったよ! 戦闘訓練の時、轟くんの氷で動けなかった私のことも助けてくれたんだから!」
轟くんの氷。それでさらに顔を歪めた轟に緑谷はハハと苦笑いした。
「良い奴じゃねぇか、! 俺も付き合うぜ罰走!!」
カバンを放り投げを追いかけた切島だけど、ウザイ、帰れと両断された。それでも切島は追いかけ走っていってしまい、一安心したA組生徒たちもそれぞれ帰路についた。
「飯田くんに連絡してみなきゃね、デクくん」
「そうだね」
ポケットからスマホを取り出すも、片手の緑谷は操作しづらく麗日は私がやるよと自分のスマホを取り出した。
日が暮れかけた体育祭のその日。
昨日と今日で何かが変わって、それはこれからも毎日続く。
変調の日だった。
10話目にして、ようやく前置きが終わった感じです……