LESSON13 - Killer

 A組生徒たちが職場体験へと全国のヒーロー事務所へ離散して3日目。
 ヒーロー殺しの一件以来警戒モードの強まる東京都保須市で敵による急襲が起こった。日没頃、街中に突然異形型の敵が出現すると暴れ出し街の至る所で炎上、人々の悲鳴が飛び交った。

 保須市のヒーロー事務所で職場体験をしていた飯田はその騒ぎに直面し、体験先の監督ヒーロー、マニュアルと共に人々の救出と敵退治へ走り出した。しかし飯田の目的は兄の足を切りつけヒーローとしての生命を断った「ヒーロー殺し」ステインだった。奴は過去の事件データからして街で暴れるような目立った行動は取らない。路地裏や廃墟など人目につかない場所でヒーロー殺しを行う非道極まりない輩。この騒ぎはヒーロー殺しの仕業ではないと確信しながら街中を走り、そして出会ってしまう。
 路地裏に身を潜め今また一人のヒーローを殺傷しようとしている男、ステイン。飯田は単独でステインを攻撃する。しかしステインの目的はヒーローの殺害。飯田には目もくれない。自分は標的ですらないのか。最も尊敬する兄を、多くのサイドキックに慕われ、街の平和を尊び多くの人を助け、人々に愛される最高に立派なヒーローだった兄を、こいつは。

『天哉……、この名、受け取ってくんねぇか……』

 こいつは兄から「ヒーロー」という肩書を奪った。生き様を奪った。
 よくも。よくも。よくも。……

 職場体験、3日目の夜。もう暗い窓の外だがまだ明かりのついている職員室で、どうも、と電話を切る相澤は深い深い息を吐く。どうしてこうも一つ一つの行事を穏やかに終えてはくれないのか。

「オールマイトさん、ちょっといいですか」

 相澤は向かいの席のオールマイトを誘い、共に奥の個室へ入っていく。

「どうした相澤くん、何かあったのかい」
「例の、保須のヒーロー殺し、捕まったそうです」
「なに? 本当か! それなら飯田少年も一安心だ」
「それが、その現場にいたのが飯田と、あと何故か緑谷と轟も居合わせたそうです」
「緑谷少年と轟少年も!? 何故」
「飯田は体験先に保須のヒーロー事務所を選んでいたので、もしかしてという思いはありました。体験先のノーマル事務所にもその旨は念の為伝えてあります。まぁ、あちらも大よそ見当ついていたらしいですが。案の定飯田は単独行動をして一人でヒーロー殺しの元へ行ったそうです」
「一人で、無茶だ」
「ええ、飯田はヒーロー殺しにやられて重症だそうです。加えてそこに何故か緑谷と轟も一緒にいて、二人も負傷し保須の病院に入院してると警察から連絡がありました」
「お兄さんの件からの飯田少年の不穏な様子を、緑谷少年は勘付いていたんだろう。そういう子だ」
「轟はエンデヴァーと共に保須でヒーロー殺しを探していたそうです。緑谷も監督ヒーローと共に実習の為に都心へ向かっている途中、新幹線の中からヴィランが保須で暴れた件に出くわし保須で降りたそうです」
「か、監督、ヒーローと共に……」
「? そこでもまた単独でヒーロー殺しを見つけた緑谷が応援を呼ぼうとA組全員に位置情報のメールを送ったらしく、同市にいた轟が駆けつけた、ということだそうですよ」
「んん……、仕方が無かったとはいえ……」
「まぁ、詳しい話はあいつらが戻ったら聞くとして、飯田は左腕に深い損傷を負い後遺症が残るとのことです。痺れが残るくらいのもので動かせない程ではないらしいですが」
「後遺症? 治らないのかい」
「本人が完全な治療を拒否したとか。まぁ、それも戻ったら聞きますよ」
「ああ、なぜこうも」

 オールマイトはつい先ほど相澤が思ったことと同じことを抱いたのだろう、深く息を吐いた。

「で、今は3人は?」
「轟は軽傷だったらしく職場体験に戻るそうです。緑谷はまだ入院中。飯田は家族が迎えに来ているそうで自宅に戻しました。保須のヒーロー事務所には改めて詫びに行きますよ」
「ああ、そうだな、きっと何かしらの厳罰を受けてしまっているだろう。仕方ないといえど、3人とも勝手に単独行動をしてしまったんだ。ヒーロー殺しに出くわしたなら個性も使っただろう」
「ええ。退学になってもおかしくない」
「ああ……。緑谷少年の、体験先のお方には……、私が……連絡して……おくよ……」

 一言話すごとに深く俯き腹の辺りをぎゅっと握り締めるオールマイトの様子がよくわからない相澤だが、お願いしますと任せた。

「それで、保須警察の温情で、今回の件は全てエンデヴァーが対処したということで収めるそうです。あいつらの行動は正解ではないが、ヒーロー殺し逮捕への尽力は感謝するとのことでした」
「おお、ありがたい、話の分かる方でよかった……。帰ったらしっかりと指導せねば」
「ええ。まったく、今年は厄介な奴が多い」
「ははは、今年の1年生は元気な子が多いからな。君には少女の件もあるし」
「これで爆豪まで何か問題起こしたらもう手が足りませんよ」

 堅い空気が少し和んだところに、ガラス窓をコンコンとノックしてドアを開けたミッドナイトが顔を覗かせた。

「相澤くん、また電話来てたわよ、取材依頼」
「またですか。しつけぇな」
「ネット見てる? ちょっとヤバいわよ。今はまだヒーロー殺しのほうが盛り上がってるから目立ってないけど」
「個人の拡散は管理しようがないからね、消してもまたすぐにアップされる」
「今回のヒーロー殺しの件もそうなるでしょうね」
「あの子、どうしてるの? エッジショットのところだっけ」
「今のとこはおとなしくやってるみたいですよ」
「大丈夫なの? ちゃんと様子見てるんでしょうね」
「ミッドナイトさん、そんな過保護でしたっけ」

 うるさいわね。勢いよく扉を閉めてミッドナイトは行ってしまう。
 怒ってしまった様子のミッドナイトと飄々とした相澤との間でオールマイトは冷や冷やと汗を流した。

 職場体験4日目。
 昨日の内に退院した飯田と轟がいなくなり、一人きりの病室で緑谷はネットニュースを見ていた。テレビ番組も雑誌もネット上もどこを見てもヒーロー殺しステイン逮捕のニュースで持ちきり。そこではこれまでのステインの数々の悪行やこれからの裁きについてコメンテーターが語っていたが、ネットの中では少し違った。ヒーロー殺しステインの発言や行動、理念を説く動画がアップされ、それは瞬く間に拡散、すさまじい勢いで閲覧数を延ばし世界中の人の目に触れた。
 オールマイトに憧れヒーローを目指したステイン。けれども高校課程で目にしたヒーロー観の根本的腐敗を感じ中退、その後はヒーローとは何たるかを世間に向かって叫び出したが誰の耳にも届かず背信者扱いを受ける。言葉に力はないと思い知ったステインは独自に殺人術を磨き「ヒーロー殺し」として世に新たな切り口で訴えた。ヒーロー飽和社会。オールマイト程の力を持ったヒーローが本物のヒーローであり、それ以外は不必要だと。弱いヒーローは世の腐敗を招く。粛清せねば、と。

 その動画は削除されてはアップされてを繰り返し、それはイタチゴッコだった。ステインの持つ狂気、しかし本筋を突いてもいる強い理念。それに少なからず世間は感化され、ステインは人々の心に沁みついていった。
 緑谷はその動画を見て、居た堪れなくなった。自分もオールマイトに憧れヒーローを夢見た。そして今こうしてヒーローになるために動いている。決して分からないものではない。ステインの理念、発言には力がある。そのやり方には決して賛同はしないが、理解できない存在ではなかった。

「あ、エッジショット……」

 ネット記事をいくつも閲覧する中で、新しく更新されたヒーローホットニュースの記事をタッチした。そこにはエッジショット、50人以上もの敵組織を一網打尽と書かれていた。

「エッジショットっていったら、さんの体験先だ……。三日月さんもこの現場にいたのかな……。50人って、すごいな……」

 詳細を読み進めるも、そこにはエッジショットの活躍のみでの存在を感じ取れるものはなかった。ヒーロー殺しの記事はエンデヴァーとその他数名のプロヒーロー、そして高校生3人が居合わせた……という記事になっていたのだが。
 緑谷にとってはクラスメイト、自分の一つ前の席に座るあの賑やかなA組の中ではクールなタイプでいつも窓の外を眺めているような人、という印象でしかないのだが、何故かこの職場体験では全国でもトップクラスのヒーロー事務所から指名を受けていて、しかしそれがどうして、違和感が無いように感じていた。何故かはわからないが、いつも見ているごく普通の小さな背中に、何か不思議な感覚をもたらされていた。

 それから緑谷はケガの状態を見て体験先であるプロヒーロー・グラントリノの元へ戻り、ここにきて学べたことへの感謝と保須事件での謝罪を重ね、一週間の職場体験を終えた。同時に全国へ散らばっていた生徒たちも体験を終え帰宅。振り替え休日の後、再び学園生活へ戻った。

「ええ、戻ってきました。この度はどうもお世話をおかけしました」

 職場体験終了日の夜、雄英の職員室で全生徒の帰宅を確認する相澤は最後にエッジショットの事務所へ電話をかけていた。

『悪かったな、今回はヴィランに関わるような警備にはならんと思ったんだが』
「仕方ありません、こちらの予定など考慮してくれませんからね奴らは」
『はは、確かに』

 相澤はエッジショットの事務所にを体験で行かせることが決まった日からこまめに連絡を取っていた。その中で予定されていた内容は、日々のパトロールや依頼された警備など小さな仕事だけだったのだが、3日目の夜に突然、港で輸送されてきた荷物の警備をしていたところ50人以上もの敵が襲撃し交戦となってしまった。

『しかしあれは手こずるな、止めるのにこっちも必死になってしまった』
「お手数おかけしました」
『そうだ、例のヒーロー殺しの件、君のところの生徒が関わってたんだろ』
「……、情報早いですね」
『そういう仕事だ。あの子も気にしてたよ』
「あいつが? 何を?」
『ヒーローとヴィランは表裏一体……と言ったら、どちらが表でどちらが裏かとね。確かに、転がってしまえば裏も表もないよな。君も苦労してるだろう』
「ええ、そりゃあもう……」
『察するよ』

 電話口の相澤の声の重さにエッジショットも同情し笑う。

『しかし、思っていたよりは感触は良かったと思うぞ。今後もしっかりと育ててくれ、期待している』
「はい。ありがとうございます」
『良ければ卒業後はうちで引き請けよう。待ってるよ』
「うまくいけば、ですが」
『ああ、それじゃあな』

 プツ……と電話が切れるのを待って、相澤は受話器を置く。
 もう誰もいない広い職員室。自分の席の上にだけついていた明かりを消し、退室する相澤は足音の響く暗く静かな廊下を進み、ある部屋にまでやってきた。ドア窓から漏れる明かりはない。静かにドアを開けると、外から差し込む街灯の明かりがほのかに滲んでいるだけで暗く落ち着いた部屋。つい立ての奥にテーブルとソファがあるだけの個室。床にはカバンとコスチュームの入ったケースが乱雑に置かれ、テーブルには空の弁当とペットボトルが置きっぱなし。茶色い皮張りのソファには毛布にくるまってが眠っている。

 埋もれる程被った毛布と顔を覆い隠す髪の隙間で小さな寝息を立てている。顔だけ見ていれば校内に溢れる15・16歳の子どもらと何ら変わりない。しかしここで僅かでも気配を強めればこの穏やかな寝顔はすぐに解けるだろう。今も、眠っていながらここに相澤が立っていることはどこか頭の片隅で分かっているかもしれない。
 そういう眠り方をする子だった。そういう眠り方をしてきた子だった。

 明くる朝、A組の教室へ集まってくる生徒たちはそれぞれに体験してきたプロヒーローの元での経験を話し合い賑わっていた。充実した一週間を過ごした者、目新しい発見が出来た者、苦渋を味わった者、それぞれがこの一週間をどうにかこれからの糧にしようと考え動き、成長した。

「けどやっぱ一番大変だったのはおまえらだな」
「そうそう、ヒーロー殺し!」
「命あって良かったぜ」
「エンデヴァーが助けてくれたんだってな」

 中でもヒーロー殺し逮捕の事件に関わった緑谷と飯田、轟は他の生徒たちから大変だったなと労われたが、世間的にはヒーロー殺しと対峙したのは自分たちではなくエンデヴァーということになっているから、本当のことも話せずただ頷いた。

「ニュース見たけど、ヒーロー殺し、ヴィラン連合とも繋がってたんだろ? あんな恐ろしい奴がUSJ来てたらと思うとゾッとするよ」
「でもさ、動画見た? アレ見ると一本義って言うか、カッコよくね? って思っちゃわね?」

 上鳴の言葉を緑谷が慌てて止める。言わんとすることは分からなくはないが、飯田はヒーロー殺しに兄をやられていて、自分も重大な怪我を負ったのだ。

「ごめんっ」
「いや、いいさ。確かに信念の男ではあった。クールだと思う人がいるのも分かる。ただ奴は、信念の果てに粛清という手段を選んだ。どんな考えを持とうと、そこだけは間違いなんだ。俺のようなものを出さぬためにも……改めて、ヒーローへの道を俺は歩む!」

 さぁそろそろ始業だ、全員席に着きたまえ!
 ここ数日聞こえてこなかった飯田の号令がみんなに向かって発される。
 うるさく、時にうざったくもあるけど、ようやく飯田らしさが戻った。
 後遺症が残ると言われた飯田の左腕は、飯田自身の決断で治療を見合わせることにした。怒りで我を失い、ヒーロー殺しを殺そうとした。兄の仇と恨みに呑まれ、正しき道を踏み外そうとした。己の過ちに深く反省し、立派なヒーローになる日まで、その痛みは戒めとして残そうと決めた。今改めて仲間と共にヒーローを目指す。いつか兄のヒーロー名、インゲニウムを受け継ぐに値する立派な男となる日まで。

くん! 今日も今日とてゆっくりだな君は! ネクタイを締めよう!」

 騒がしいクラスにいつの間にか現れていたを捕まえ、飯田はネクタイを締めさせる。飯田の再三の指導を聞いているのかいないのかな顔で通り過ぎは席に着いた。

「この一週間で変わったヤツもいれば、まったく変わりねーなは」
「マイペースですわね」

 予鈴が鳴り生徒たちはそれぞれ自分の席へ戻る。
 轟は生徒たちの合間から見えるを見て、ヒーロー殺しの件ですっかり忘れていたことを思い過ぎらせた。エンデヴァーが的確に発した「」という名前。そして「全ヒーローの脛傷」と揶揄した言葉。

 その日の午後、ヒーロー基礎学の授業ではオールマイトによる救助訓練レースが行われた。複雑に入り組んだ迷路のような密集工場地帯を舞台に、要救助者をいち早く見つけ出し駆けつけ助け出す。シンプルでありながら情報収集力と機動力が問われるヒーローに必要な要素が組み込まれた内容となっていた。
 生徒たちは5人4組に分かれ、スタートと同時に一斉にどこかにいるオールマイトを見つけ出す。最初の一組がそれぞれバラバラの位置に配置され、開始の合図を待った。

「飯田まだ完治してないだろ? 見学すりゃいいのに……」
「クラスでも機動力いい奴が固まったな」
「うーん……強いて言うなら、緑谷さんが若干不利かしら」
「確かに。ぶっちゃけあいつの評価ってまだ定まんないんだよね」
「何か成すたび大ケガしてますものね」

 大画面に第1グループ、緑谷、飯田、芦戸、瀬尾、尾白が映し出される。
 それぞれの動き、手段を見て学ぶいつもの訓練形式だ。

「トップ予想な! 俺瀬呂が一位!」
「ああ、うーんでも尾白もあるぜ」
「オイラは芦戸! あいつ運動神経すっげーぞ」
「デクが最下位」
「ケガのハンデはあっても飯田くんな気がするなぁ」

 スタートの合図が鳴り響き5人が一斉に動き出す。
 肘からテープを発射し瀬呂がまず飛び出し、芦戸が足から溶解液を出し滑るように大きな配管の上を移動していく。それぞれに鍛えられた体幹とバランス感覚が必要とされる動き。それに尾白も飯田もついていく。

「ほら見ろ! こんなごちゃついたところは上を行くのが定石!」
「となると対空性能の高い瀬呂が有利か」

 見学の生徒たちは観戦しながらも自分の番となった時に役立つ手段を考える。
 しかしその瀬呂を追い越し前に飛び出た、緑谷。
 緑谷は足に制限をかけた超パワーを集中させ、それをスピードに活かし工場地帯を飛び跳ね駆け抜けていく。クラス中が初めて見る緑谷の俊敏な動きに感嘆を漏らす。

「あ!」

 パワーを出し過ぎれば着地出来なくなる。抑え過ぎれば飛べなくなる。緑谷は常に5パーセントを意識し緊張感を持って飛んでいくも、足元の不安定な太い配管の上でバランスを崩しそのまま落下してしまい、結果一位は瀬呂のものとなった。無念にも落下し遅れを取った緑谷は最下位、先頭グループはみんなの元へ戻っていき、次いで2番手グループがスタート位置へ向かった。

「デクくん、すごい! なになにあの動き!」
「いやぁ、まだうまく調整出来なくて……」

 みんなの元へ戻ってくると麗日が駆け寄ってくる。いつも超パワーを発揮してはその度反動が激しくケガをして不能となっていた緑谷がパワーを制御できるようになっている。これはかなりの躍進だった。しかしそれに納得の行かない爆豪は緑谷を強く睨み、緑谷はおずおずと距離を取った。

「あ……、さんは何組目?」

 続く2組目が開始したところで緑谷が画面の見える位置に移動すると、手すりに腰を付け上を眺めているを見つけた。2組目が映る大画面を見ているようで、その眼には空の青が映っていた。

さん、職場体験、どうだった? エッジショットのところも大きな事件があったみたいだけど」
「大した事じゃなかったよ」
「そうなんだ……、エッジショットはどうだった?」
「あれは良い力だったな」
「良い力……?」
「おまえはまた血の匂いがするな」
「血の匂い? 僕から?」

 緑谷はくんくんと腕の匂いを嗅いでみる。コスチュームは洗っているし、ヒーロー殺しと戦った時のものは駄目になってしまったからそもそもこれじゃない。

「さっきの、良い動きだったな」
「あ、うん、職場体験でお世話になったヒーローに教わって、ようやくコツが掴めてきたんだ」
「足の踏ん張りが効かないのは体幹が柔だからだ、個性より体の話だよ」
「あ……うん、そうだね、そっか……」

 2組目が終わり、早々に3組目がスタート位置へ移動する。切島のよっしゃあ! という気合が空から響いてきた。しかし切島にはこのメニューも状況もそぐわず思ったような成果は果たせなかった。3組目が終わり、同時に手すりから体を離しスタート位置へ向かうに、がんばって、と緑谷は投げかけた。

「最後はこの5人か。常闇ってこういうのどうなんだろうな?」
「梅雨ちゃんだよ梅雨ちゃん! 梅雨ちゃんなら落下しないし動きも早い!」
「砂藤にはちょっと不利かな、パワー増強すりゃありか?」
「上鳴ドベそー」
「しっかし、それにしても……」

 画面に最終組の5人が映し出されるが、それぞれに一位を奪取しようと意気込む4人に比べ、高い渡りハシゴの上に立つは真っ青な空を眺めていた。清々しい風が髪をはためかせ頬を叩く。

「あいっかわらずやる気ねーなーアイツ」
「気負いが無いのはいいことですわ」
って索敵得意なんだっけ」
「あそーか! じゃああいつもありか」

 風が強くなってきた工場地帯。
 鳴り響くスタートの合図と同時には空から目を離すと、胸にト、と掌をついた。









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