画面に4組目の常闇、蛙吹、砂藤、上鳴が映り、それぞれスタート位置から周囲の状況を見渡し合図を待つ。しかしだけ高い渡りハシゴの上で風を受けながら空の青を見ていて、峰田が「やる気ねーなーアイツ」とぼやいた。
「緑谷、さっきの動きなんだ、ヒーロー殺しの時も使ってたな」
「轟くん、うん……グラントリノにパワーの制御を教えて貰って、スピードにも活かせて体も壊さない方法を見つけたんだ」
「だんだん使い慣れてきたな、個性」
「まだまだだよ、さんにも個性より体幹だって言われちゃった」
「か」
轟は、今にもスタートしようとしている画面の中のを見上げる。
するとそこに、ガシャンとコンクリートを踏み締め爆豪が戻ってきた。爆豪はついさっきレースを終えたばかりの3組目だったが、息を切らし誰よりも早くに戻ってきた。
「カッちゃん早……、もう戻ってきたの」
「うるせぇクソカス」
緑谷と轟。最も見たくない二人の前を通り過ぎ爆豪は画面を見上げる。
カッちゃん、レースが見たくて急いで戻ってきたのか。と緑谷は思った。
スタートの合図が鳴り響き、出走者たちはどこかにいるオールマイトを探し一斉に走り出す。
「あれ?」
開始して間もなく全員が気付く。それぞれ画面には目標を探し走る4人が映っている。しかしの画面だけ工場地帯が映っているだけでを捉えていない。
「おいおい、カメラ見失っちゃってんじゃん」
特にに注目をしていなかった生徒たちは、走者を追いかけるロボカメラがを見失ったと思った。けど画面上のを凝視していた爆豪の感想は違った。見失ったんじゃない、消えたんだ。スタートの合図まで確かには映っていた。合図と同時にようやく空から眼前に広がる工場地帯へ視をやり、微かに動いたと思ったら消えた。
同じ頃、入り組んだ工場地帯の南西に位置する小屋の前で生徒たちの動きを小型モニターで見るオールマイト。その小さな画面にもは映っていない。オールマイトは他の生徒の動向も見ながら、時間経過の表示をジッと見た。その表示がスタート合図から5分が経過しようとした時、すぐ目の前のコンクリート地面に手を着き着地態勢を取るが現れ、息を呑んだ。
「少女、素晴らしいタイムだ。どこから飛んできたんだい?」
いつの間にか現れ、立ち上がる。
指先を頭上に向け、うしろに立ちはだかる大きなタンクの上を指した。
あの高さから飛び降りてこの硬いコンクリートの上に何のダメージもなく着地するとは。こんな、まだ幼さ残る顔つきの少女が。
「こうして話すのは、初めてに近いかな」
大きなオールマイトをまっすぐに二つの瞳で見つめる。
「少女、君に言うべきか、ずっと悩んでいたよ」
「……」
「済まなかった。すぐに助け出してやれなくて」
まっすぐに向かってくる双眼。何の色も揺らめきもない瞳。
「聞いていい?」
「何だい」
「ヒーローはヒーローとヴィランは紙一重だと言うけど、ヴィランはそんな事言わないよね。どうして?」
「……」
「どうして? オールマイト」
あまりに無垢に見えるまっすぐな瞳が、痛いほど真摯に突き刺さる。
入り組んだ建物の合間を吹き抜ける強い風が二人の些細な距離を分断するよう。
これまで多くの人の命を救い、助け、導き、平和の象徴となったオールマイトが、呼吸の音すら聞こえないこの静かな少女の瞳を前に、笑えずにいた。
「―あれ!? あそこ! オールマイトんとこ!!」
「えっ、!?」
方々から駆け寄る走者を追っていたカメラの中の1台が、ずっと捉えられていなかったを映しだした時にはもうオールマイトの前にいた。まだ5分しか経ってないぞ!? てかどうやってあそこまで行ったんだ!? 見学の生徒たちから次々と疑問の声が沸き起こり、その背後で同じく画面を見上げていた爆豪はぎりっと強く歯を噛んだ。
「おおい爆豪、なんだよおまえ、はえぇよ!」
爆豪と同じ3組の走者だった切島が今到着し爆豪の隣に立つ。また悔しそうに顔を歪めている爆豪はよく見る顔だけど、今度は何にそんなに腹を立てているのか分からない。
「あ、終わっちゃったか、観たかったなー」
「なんで? 切島、押しだったの?」
「おお、あいつすげーぞ! 前にあいつ体育祭の罰走くらって俺ついてったろ? あん時も俺ぜんぜんあいつについていけなかった。はえぇなんてもんじゃねーよあいつ」
「今回も、ただ走ってオールマイトの所へ行きついただけだったんでしょうか」
「いやいや、あいつの個性って感覚系だろ? べつに飯田とか瀬呂みたいにポンポンいけるわけじゃねーだろ? なのにカメラから消えるとかあるか?」
「瞬間移動的なものか……?」
「USJん時のヤツみたいなワープか!? そういやアイツいつも気がつきゃいて気がつきゃいねぇもんな」
「いや、普段そんなことに個性使わないでしょ、無意味」
「なになに、なんかすごかったの?」
他の走者が続々オールマイトの元へ辿りつき、4組目のレースが終了する。
その後も組を変え難易度を上げ救助レースは数回繰り返され、日が暮れた。
「ケロ、透ちゃん、ちゃんは?」
「トイレ行くって言ってたけど、遅いなぁ」
「結局のアレ、何かよくわかんなかったね」
「なんか、あれこれ聞きづらい雰囲気あるしねぇ」
「聞いても走っただけとしか答えてくれなかったわ」
救助レースの授業を終え、更衣室で着替えるA組女子たち。
つい先ほど壁に開いた小さな穴の向こうから峰田の下卑た声が聞こえてきて耳郎が退治したところ、ようやく安心して着替えられる。汗を流し制服に着替える女子たちが更衣室を出た時になってようやくがやってきてすれ違い中へ入っていった。
「ちゃん、急がないとホームルーム始まるよ」
「うん、先行って」
急ぎなねー。扉を閉めた向こうで女子たちが離れていく足音を聞く。
一人に残った更衣室で、泪は優れない気分を払しょくするように頬をガリガリと掻いた。
「A組女子の皆さん、こんにちは!」
「はい?」
教室の前まできたA組女子たちは突然廊下で小柄な男子生徒に道を阻まれた。麗日はそのメガネの男子生徒に以前下駄箱で会ったことがあり、あの時の……と漏らす。
「あなた、前にちゃんを訪ねてきた人ね」
「はい! 今はさんはどちらへ?」
「ちゃんならもうすぐ来ると思うけど、この間から何か用なのかしら。面識もないのにあまりしつこくするのは関心しないわ」
「いえいえいえ、僕はさんと是非一度お話したい一心です!」
ハキハキとした男子生徒の声に教室の中から男子たちもなんだなんだと顔を出した。
「これはこれは、さすがヒーロー科A組、そうそうたる顔ぶれ! 先日お邪魔した時はつい緊張してすぐに退室してしまいましたが、これを期に皆さんとも是非お近付きになっておきたいですね。推薦枠唯一の女子、万物を創造するまさに女神、八百万百さん!」
「女神っ?」
「体育祭での熱戦で人気急上昇、その愛くるしい笑顔で民衆のみならずヴィランさえも朗らかに取り込む麗日お茶子さん!」
「ええ、なんなん!?」
「他の皆さんも、今からしっかりと活躍や成長の記録を残しヒーローとして華々しくデビューする時にうまく世間にアピールできるよう、しっかりバックボーンを整えておく必要がありますよ! 経営科は事務所運営だけでなく、所属ヒーローをいかに他と線引きしうまく宣伝していくか戦略を練らなければなりません。このヒーロー飽和社会で、たとえトップクラスに立てる力量が無かったとしても人気ヒーローに押し上げるのが我々経営科の努め!」
「経営科か……、ヘンなヤツいるんだな経営科も」
「真面目なイメージなのにね」
「君! 経営科としての務めに熱心なのは認めるがこれからホームルームだ、早く教室に戻りたまえよ!」
「おお、A組委員長飯田天哉くん! あなたも経営科ではかなりの人気ヒーローですよ、轟くんはいわずもがな、ヒーロー一家のサラブレッドはもともと人気が高いですが、あなたは先日のお兄さんの件で更に人気が高まっていますね!」
「!」
ちょっと! と麗日が止めるも、その口は止まらない。
「今やヒーロー殺しのニュースは世界規模の盛り上がりを見せています。お兄さんの件は大変心苦しいですが、飯田くん、あなたはそれを糧としてお兄さんのようなご立派なヒーローを目指す。その姿は世間に温かく受け入れられるでしょう。それはあなたのお兄さんがこれまで献身的に世間に尽くしたからこそあなたに受け継がれる、お兄さんのヒーローとしての遺産でもあるのです」
「おいおまえ、やめろよ!」
「今は苦痛かもしれません。しかし記録とはどんなことでも残しておかなければならないんです。あの時取っておけばよかったでは遅いのです。どうしても使う気にならなければずっと隠しておけばいい。しかしヒーローを目指すあなた方は自覚しなくてはいけません。ヒーローは世間に受け入れられなければヒーローとは名乗れないんですよ!」
何の騒ぎだ? 轟の問いかけに、教室から外の様子を窺う緑谷は分からないと答えた。
「今や大人気のシンリンカムイも確かに実力もトップクラスです。しかしそれは彼の過去を記録したドキュメンタリーが後を押しているのです。あのVTRは素晴らしかった……、実力に知名度と彼のあの壮絶な過去が相乗効果となり、世間に広く認知され、強く後押しされ、今のシンリンカムイの活躍と人気があるのです! 全ては物語なんですよ! 崇高に組まれたシナリオこそが人々の心を打つんです!」
「あれは……俺も見たけど……」
「俺も……」
「でしょう! だから今度はあなた方の番なんですよ! たとえ今は重荷でも、将来ヒーローとなるならそれを超えていかなければならないんです。そしてその反動が強ければ強いほど、振り幅が大きければ大きいほど、世間はその苦労に同情し、懸命な姿に心打たれ、やがて根強い味方となるのです!」
「分からんくもないけど、でもそんなん……」
「そして今、そのシンリンカムイをも超えるシナリオが生まれようとしています……。僕はこんな好機に恵まれたことを神に感謝したいですよ……。個性拉致被害者が10年の時を経てヒーローを目指している! こんな素晴らしいシナリオがありますか!?」
強い演説の声が教室前の廊下で反響し、シンと静まる。
「個性、拉致……?」
「なんだそれ」
ドア口で聞いていたA組男子たちの大半は、その男子生徒が突然何を言い出したのか分からなかった。廊下で八百万だけが「そんな……!」と口を抑えた。
「ヤオモモ?」
「おい八百万、なんだよ、個性拉致ってなに!」
「皆さん、ご存じないんですの……? 丁度私たちが小学校に上がった頃に全国で多発した誘拐事件ですわ……」
「!」
八百万が零す話を聞いて何人かは思い出していった。
同じ年なだけにその事件はこの年代には大きく残った。テレビでもネットでも定期的に繰り返し報じられるその事件。
「私、よく覚えています。誘拐された子どもは全て、私たちと同じ年……当時小学1年生の子どもばかりでしたから、私もしばらく家から出ないように厳しく言われましたもの。10名以上も誘拐されて、ヒーローの手で何人かは取り戻されたそうですが……」
「え……、待って待って、それが何? それが……」
「そうですわ……、確か、2年ほど前……、一人個性拉致の被害者を取り戻したとニュースで見ました……。まさか、それが」
「さん!」
男子生徒の張り上げた声に八百万はドキッと肩を震わせる。
その声は八百万たちを超えて、廊下の奥から歩いてくるへ飛んでいった。
「さん、いけませんわ、今は……」
静かに歩いてくるに八百万は駆け寄ったが、は止まらず歩いていった。
「さん、ようやく会えた! お話よろしいですか?」
「よろしくない」
サッとポケットから携帯電話を取り出し駆け寄ってくる男子生徒をも素通りしては教室へ寄っていく。
「さん、僕にあなたの」
「やめろよ!!」
食いつこうとする男子生徒を制止する飯田の声がビリッと廊下に響く。
普段聞き慣れているはずのA組生徒たちでさえ驚いた。
「みんな、もうすぐホームルームだ、席に着こう」
「う、うん……」
「くんも」
を見下ろす飯田の目を、は見返しはしなかったけど、中へ入っていった。
「! 今の……本当か?」
廊下に出ていた切島は、教室に入ったを追って駆け寄った。
「うん」
おはようと言われればおはようと返す。
切島に振り向くはそんな声色で答えた。
A組の教室内でこんなにも静寂な空気が流れたことがあっただろうか。
ゴクリと息を飲む音すら聞こえそうなくらい、誰も動かなかった。
「……そうか、うん……」
どうにも言葉が続かない。
A組みんなの気持ちと視線が集中して、はごしと頬を拭った。
風が草木を揺らす音さえ聞こえる教室の中で、轟はようやく、父が言った「全ヒーローの脛傷」の意味を理解した。
「それでも……、おまえは、ヒーロー目指してんだな」
何とか、何とか、言葉を紡ぐ切島。
答えさせておいて、このまま黙っていることの方が、悪いことのような気がした。
「何らかの事件に巻き込まれてヒーローを目指すことを決めたという者は多い」
「そうだよ、俺もガキん時にヒーローに助けられて、マジでヒーローなろうって決めたもん」
「私も」
「俺もだ」
常闇や瀬呂の言葉に続き、生徒たちは緩んでいた口を締めて頷く。
ここにいるのは本気でヒーローを目指している者だけ。理由や志はそれぞれでも、誰もが皆誰かを助けたくて、守りたくて、ヒーローになろうとしてる。
「一緒にヒーロー、なろうな!」
切島が投げかける強い言葉にみんなの気持ちが乗る。
それはまっすぐへと飛んで、でも。
「私を救助したのはヒーローじゃない。警察と政府」
「え……?」
凝縮しかけた空気がふわり流れる。
の乾いた瞳は誰にも向かっていない。誰にも向かず、この教室そのものに向かっている。このヒーローが蔓延する空気そのものに。
「ヒーローなんて来なかったよ」
けどその言葉だけはみんなに向かっていった。
ヒーローなんて来なかった。
その鈍器に似た言葉は、今ここにいる全員に向かって飛んでいった。
また誰も何も言えなくなった空気の中で、だけがみんなから目を離し窓際の席へ向かった。
「じゃあ、どうして、」
がイスに手をかけた時、緑谷が口を開いた。
「どうしてさんはヒーローを目指してるの?」
何の感情も乗っていない乾いたの目が緑谷を見る。
またしばらく時が止まって、刺さるようだったの目が瞬きするごとに徐々に緑谷からずれて。
「……」
ふいと目を離し、席に座った。
チャイムが鳴って、空気が解けて、みんな自分の席に着く。
ドアを開けて相澤が入ってきて教壇に立つと全員の妙な空気を感じた。
窓際の席のだけがいつも通りに窓の外を向いていた。
「あー、前にも言ったが、マスコミやなんかがまたここんとこ増えてるが振り回されんなよ。余計なこと喋ると尾ひれついてあることないこと書かれるからな。ないとは思うが、例のヒーロー殺しに関する」
「先生」
相澤の話を割って、飯田がまっすぐに手を伸ばす。
話の途中で遮ることなど普段は許されないが、それだけに、それをしたのが飯田というだけに、相澤は黙って「なんだ」と返した。
「このような場合……、くんは法的に守られるべきではないのでしょうか」
突然の飯田の発言にクラス中がドキッとする。
その様子を見て、相澤はこのおかしな空気の淀みの源を理解した。
「全員知ってんのか」
当然学校側も、相澤も知っていることだろうと思ってはいた生徒たちだけど、相澤のその言葉でそれは確実なものになった。
「には報道規制がかかってる。テレビやマスコミなんかはに関する情報、名前や写真も一切公にしてはいけないってルールだ。だがここ数日はネット上で暗に騒がれ始めてる。個人サイトや内内の情報交換の場なんかは規制が難しいからな。マスコミも出しはしないが情報を集めにはかかってる」
相澤の話を聞いて、轟は以前マスコミに囲まれた時にの事を聞いてきた記者のことを思い出した。あんなにハッキリと名前を出してマスコミが嗅ぎ回っている。
「オールマイトの着任を皮切りに、ヴィラン襲撃、体育祭と、今雄英には世間の目が集まってる。マスコミの対応はヒーローとしても一生ついて回るぞ。中には過剰に引っかき回してこちらがうっかり余計なことをしゃべるよう煽ってくるような連中もいる。自分が正しいからと言ってそういう煽りに乗っかっちまうと連中の思うツボだ。各々、余計なことはせず発言には十分に注意しろ」
以上だ、解散。
いつもなら終わると同時にワッと賑やかに弾けるA組だけど今日は静かなものだった。窓の外を見ているばかりだった泪だけ、いつも通りカバンを取り席を立とうとした。
「三日月、一緒に帰ろう!!」
が立ち上がろうとしたその時。教室の中ごろから切島が、前方から葉隠が、うしろから緑谷が、へ駆け寄った。飯田もそうするつもりだったが距離の遠さで出遅れた。
「とりあえずおまえひとりになんな!」
「そう! なんかゴチャゴチャ言ってくるヤツいたら私ブッとばす!」
「透ちゃん、それがダメなの」
「あ、しまった……! 僕オールマイトの所に行かなきゃ……」
「大じょー夫! クラス委員長として僕が責任を持って送り届ける!」
「ええーっ、こういうときは女子同士だよ!」
「うんうん!」
「俺らがまとまってる方が目立つだろ」
「じゃあ轟先帰れよ! おまえが一番目立つんだっつーの!」
気がつけば道が無いほど集まって。
さっきまでの静けさなんてなかったみたいに。
「俺と帰ろう、俺なら一人でおまえを隠せる」
「いや、それなら両サイドにいるだろ。俺も行く」
「くっ、でかいヤツふたり、鉄壁だぜ……!」
「私がお送りがしますわ、今車を呼びますからしばしお待ちを」
「ハイヤー!」
「クソッ、財力!!」
学校が終わればみんなが向かうのは扉なのに。
ぬるい風が吹く窓際がほんの少し温度が上がって。
「おまえら、見上げた精神だがはこっちで保護してる」
「え……相澤先生が連れて帰ってんの……?」
「職権乱用……」
「バカ野郎共。はもともと学校で保護してるんだ。帰るとこもここだ」
「ええっ、おまえ学校に住んでんの!?」
「いつから!? どこに!!?」
「仮眠室だ。おまえらは来んなよ」
「教師と生徒と仮眠室……いけねぇワード揃いだぜ……!」
「峰田ちゃん、へんな想像させないで」
ドスッと蛙吹の伸びる舌が峰田のこめかみに突き刺さる。
相澤が教室を出ていくとも立ち上がり、みんなの間を抜けて静かに教室を出ていく。いつも淀みのない歩調。乾いた瞳、表情。
「……」
しかしその足がドアの手前でふと止まる。
振り向くと、みんながこっちを見ていた。
「ありがとう」
それはふと風が吹き抜けた程度の音だったかもしれない。
けどみんな笑った。届いた。
「おお、また明日な!」
切島が手を振ると他のみんなもまた明日と投げかける。
ぽりぽり、みんなの視線が当たる頬を掻いては教室を出ていった。
がいなくなった教室は静かだった。
それぞれが破片しか知らない事件を、の言葉を頭の中に蘇らせた。
”ヒーローなんて来なかった”
ショックだった。
一緒に帰ろう!のところ、切島は呼び捨てですが葉隠は「ちゃん」で緑谷は「さん」です。マンガなら表現出来たものを。