LESSON23 - Remember

 合宿二日目、早朝5時30分。早々に叩き起こされたA組は体操服に着替え外に集合していた。まだ眠気が抜けずアクビが絶えない者、準備の間もなく寝ぐせのままの者、その顔つきは様々だが、毎日朝練を怠らない常闇はこの時間でもしっかりと冴えた顔。
 締まらない顔つきのクラスメイトたちの中にいながら、常闇は輪の端にいるを見た。その様子は眠いのか冴えているのかも分からず、ぼんやり空を眺めている。昨日はついに見つけられなかったが、轟の言う通り放っておいても大丈夫なようだった。

「おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今回の合宿の目的は全員の強化、及びそれによる”仮免”の取得」

 プロヒーローになるには必須の、緊急時における「個性」行使の限定許可証、ヒーロー活動認可資格。その仮免許は通常2年の前期で取得するカリキュラムとなっている雄英だが、昨今の敵活性化を危惧し今年は1年生の段階で9月に行われる仮免許試験を受験することとなった。

「というわけで爆豪、こいつを投げてみろ」
「これ……体力テストの」

 相澤からポンと投げ渡されたのは、入学早々行われた個性を使用しての体力テスト時にソフトボール投げで使用したメーター付きのボール。

「前回の……入学直後の記録は705.2メートル。どれだけ伸びてるかな」
「おお、成長具合か!」
「この三ヶ月色々濃かったからな! 1キロとかいくんじゃねぇの!?」
「いったれバクゴー!」

 皆の声援を受けながら爆豪はブンブンと肩を振り慣らす。
 振りかぶり、くたばれ!! と爆豪は指先に爆破の威力を込めながら森に向かって思い切り投げる。ボールは見えなくなるほど遠くへ飛んでいき消えていった。しかし相澤が持つ機械に表示された数値は709.6メートル。あれ……? 思ったより……。生徒たちにざわめきが広がる。

「約三ヵ月間、様々な経験を経て確かに君らは成長している。だがそれはあくまでも精神面や技術面、あとは多少の体力的な成長がメインで、個性そのものは今見た通りでそこまで成長していない。だから……、今日から君らの個性を伸ばす」

 死ぬほどキツイがくれぐれも死なないように。と、歯を見せる相澤。
 生徒たちは知っていた。相澤のこんな笑みの時はとんでもない試練が待っていること。

 爆豪のボールが遠く森の中へ飛んでいった早朝より数時間、合宿所裏手の広場からは何層にも重なる叫び声が上がり続けた。高台の上で放電し続けている上鳴、吐き気を堪え自身を浮かし続ける麗日、熱湯で両手の汗腺を広げ爆破し続ける爆豪、ビームを発射し続ける青山、糖分を摂取しパワー増強を図る砂藤、創造と摂取を繰り返す八百万……。それぞれが「個性を伸ばす」に特化した血の滲む訓練に没頭する姿はまさに地獄絵図だった。
 筋繊維は酷使することにより壊れ強く太くなる。それは個性も同じ、使い続ければ強くなり、でなければ衰える。すなわち生徒たちに与えられた訓練は限界値の突破。許容上限のある発動型は上限の底上げ。異形型、その他複合型は個性に由来する器官・部位の更なる鍛錬。通常であれば肉体の成長に伴い行う訓練だが、通年より前倒しの仮免取得とあって、具体的になりつつある敵意に立ち向かうため急を要した。

 そんな阿鼻叫喚が続いた日没。

「さァ昨日言ったね、世話焼くのは今日だけって!」
「己で食うメシくらい己でつくれ! カレー!!」
「イエッサ……」
「アハハハ、全員全身ブッチブチ!」

 一日の訓練を終えた午後4時。ぐったりと疲労困憊した生徒たちは野外炊事場へ集められた。テーブルにはジャガイモ、ニンジン、タマネギ、と山盛りの野菜。包丁、まな板、鍋に飯ごうと揃えられた道具。

「だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!」
「ハッ……確かに、災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環……。さすが雄英無駄がない! 世界一旨いカレーを作ろう皆!」
「オ……オオー……」

 飯田、便利。覇気のない生徒たちを盛り立てる飯田に相澤は思った。
 汗だくの頭から水を流し、土にまみれた手足を洗って着替えた生徒たちは米炊き班、調理班、火起こし班と分かれ作業に取り掛かる。その生徒たちを見ながら相澤は「あ」とすっかり忘れていたことを思い出した。

 宿舎内に入っていく相澤は奥の個室の扉を開ける。
 中では教科書とノートを開いたまま寝ているがいて、相澤は一冊の教科書を手に取りそれを振り下ろすと、スイと頭を避けたが目を覚まし相澤を見た。

「寝るな。メシだ、外行け」
「なんで、外……」
「自炊だ。他の奴らはもう始めてる」

 よろりと立ち上がるは傍らに置いていたキャップを被り出ていくと、すでに火が立ち野菜を切り始めている生徒たちのほうへと連れられていった。ずっと座っていた体は固く首や腰をほぐし歩いた。

「あ、ちゃんいたァー!」
「透ちゃん、包丁振り回しちゃ危ないわ」

 ニンジンを切る葉隠が手を振っているのだろう、傍目には包丁が飛び交っているようにしか見えず周囲は身を引いた。テーブルに寄っていくと飯田に働かざる者食うべからず! と包丁とジャガイモを渡されはイスをまたいで座った。

ちゃんどこにいたの?」
「おまえどんな練習してたんだ?」

 ジャガイモを手に包丁を当て、シャシャと皮を剥いていく。
 外形に添って薄く表面を削られていくジャガイモはあっという間に真っ白い中身を出し、ボウルの中に放るとまた新しいジャガイモを手に取った。

「スゴ! なにそれ神業!」
「皮むき名人だ!」

 並ぶテーブルの向こう側では火をつけている生徒たちが賑やかな声を上げている。米の入った飯ごうが火にかけられぐつぐつと沸騰し始めていた。

さん、同化での索敵ってどのくらい可能なの?」
「完全に消えて50キロくらいかな」
「完全にって?」
「割合の問題だ、同化するほど範囲が広がる。空気の振動だから屋外か屋内かでも変わる。今は5パーセント消えてるくらいでこの広場分くらいが分かる程度だ」
「今も!? 普段から5パーセントを保って生活してるってこと!? すごい、パワーの微調整が染み込んでるんだ……。普段から力に慣れておけば体への負担を抑えられる。それに最大値の上昇にも繋がるのか……? 日常的に訓練をしているようなものだしその可能性も、そうか、それなら……」
「緑谷くん手を動かそう!」
「緑谷ちゃん好きね」
「ごごごめん、もうクセで……!」

 包丁を持つ緑谷は慌ててタマネギを手に取り切り刻む。
 野菜と肉が入った鍋に水を浸すと、飯田や葉隠たちが火を起こした所まで運んでいった。

「それで、あの、さん、前に轟くんが言ってた人の個性を使うっていうのは……。あ、ごめん、見たことのない力だから知っておきたくて」
「試すか?」
「いいの?」

 目を光らせ身を乗り出す緑谷に向かってが左手を差し出す。

「ただし覚悟は持てよ」
「覚悟……?」
「同化だ。何も個性を共有するだけじゃない。戦闘中ならこっちも色々考えてるからおまえの思考読むまでもしないが、今の状態でやればおまえの頭ん中にあるもの、胸の中に秘めてるものも、視えるぞ」
「……」

 話を聞いて、緑谷は目の前のの左手に触れられなくなった。
 みんなー! ごはん開けるぞー!
 沸騰した飯ごうが火から下ろされ逆さまに置かれ、しばらく蒸した飯ごうの蓋がいよいよ開かれる様子に皆が駆け寄っていく。申し訳なさそうに手を引く緑谷はごめんと呟いて、炊き立ての米から立ち昇る湯気におおーと歓声が上がっている方へ寄っていった。

 静かになったテーブルでは包丁を手先でくるりと回し研ぎ澄まされた刃渡りを見つめる。切っ先までまっすぐに光る綺麗な刀身。その先端に指を添わせツと撫ぜる。するとその左手をぐと掴まれ、キャップの下から左側を見上げると轟がいた。

「危ねーことすんな」
「多少皮膚が切れて血が出ることの何が危ないんだよ」

 は手を引き、中指の切り目から滲み出した鮮血をペロリ舐めた。

「緑谷と何の話してたんだ?」
「同化ってどんなのかってアレコレ聞いてくるから試させてやろうとしたんだよ」
「やらなかったのか」
「視られたくないものがあるんじゃないか」
「まぁ誰でも軽々しく頭の中覗かれたくはないよな。おまえだってそうだろ」
「そうか? 視るか?」

 そうは轟を見上げ、右手を差し出す。
 轟はその手を見下ろし、手を動かしかけたが、なんてなとは手を引いた。
 どこまで本気でどこまで冗談なのか。差し計れないその態度にため息吐いて轟も座った。

「ほらほらちゃん、カレーだよー! 早く食べよう!」
「食事の時間だ! みんなテーブルを片づけよう!」
「うまそー!」

 香ばしいカレーの香りが夕暮れ深まっていく空に昇り、輝くごはんの白にテンションを上げる葉隠がテーブルの上の包丁とまな板を持っていく。それぞれが皿を持って飯ごうからごはんを盛り具がごろごろと溢れるカレーをかけ目を輝かせた。

「いただきまーす!」
「うまーい!」
「店とかで出たら微妙かもしれねーけど、この状況も相まってうめー!!」
「言うな言うなヤボだな!」
「おいしー! ね、ちゃん!」
「早く帰りたい」
「ここにもヤボがいるぞ」
「ランチラッシュのごはんが恋しいのねちゃんは」

 自分たちで作ったカレー。飯ごうで炊いたごはん。
 ガツガツとスプーンを口へ運ぶ手は止まらず皆あっという間に平らげていく。
 ごはんを焦げまで食べつくし、テーブル中央に置かれたカレー鍋も空になると皆満足して腹を抱え、全員が食べ終えた頃皿を洗い片づけ始めた。

、おまえ今日どこにいたんだ? 広場にいたか?」

 が洗った皿から水を滴らせると、隣で瀬呂がそれを取り拭いた。
 向かいの水道では飯ごうの焦げをゴシゴシと洗い落とす常闇と轟も会話を聞きつけた。

「学習室」
「ぶっは! おまえ、勉強してたんか!」
「そういえば筆記赤点だったな……心中察する」
「それでんなぐったりしてんじゃねーよ!」
「笑うな、学びの苦しみは俺たちも同じ」
「どっちもうるせーよ」
「勉強、誰に教わってるんだ?」
「タブレット」
「おまえ弱いの古文や歴史だろ。ああいうのは人から教わった方が覚えいいぞ」
「歴史なら付き合うぞ、日本史か? 世界史か?」
「日本史」
「世界史もそう大差なかったぞ」
「覚えてんじゃねーよ」

 皿を洗い終え、水を止めるは手の水分を振り飛ばし離れていく。
 宿舎の方から葉隠がオフロいこう! と呼んでいた。

「待て、ちょっとでいい、組手付き合ってくれ」

 洗った飯ごうの水を切る轟がを呼び止める。
 暗がりの中で足を止めるは振り返り「いいよ」と答えた。

「ウキウキしてんな」
「え? どこが?」
「声が、なんとなく」
「いやわかんねぇ」

 食事の間に陽は山向こうに隠れ、テーブル周りの照明のみで明るさを保っていた宿舎前では玄関口にいた葉隠を先に行かせ、広場奥へと歩いていった。食器と道具を運び片づけた轟もを追っていき、常闇と瀬呂も観戦しようとついていった。

「おーいこんな暗いとこでやんのかー? ほとんど見えねーんだけど」
「いや、これでいい」

 闇の深まる森を背にが腱を伸ばし体をほぐす姿が微かに見える。
 その向かいで轟は左半身に炎を纏い、広場がほのかに赤く染まった。
 なんだ? と宿舎に入ろうとした何人かが暗がりに生まれた炎に足を止める。

「マジかよ轟、組手だろ? それじゃ攻撃するも受けるもきちーぜ」
「今こっちの微調整の訓練してんだ。いいだろ」
「どーでも」

 首の筋を伸ばしトントンと跳ね準備運動を終えるはキャップをかぶり直すと「よし」と近づいていく。轟もを見据えて構え初動に警戒した。ト、と地面を蹴るの右の蹴りが轟目がけて振り落され轟がぐと力を込めた左腕でガードする。バシと大きな音が響いた直後くるっと体を翻したのニ発目の蹴りが右脇腹に突き刺さった。

「初撃から炎の上叩きやがった、ファイターだなあいつ!」

 脇腹への二発目は氷結で防いだ轟が炎を纏った右拳を放つもすいと避けられ、その右腕を絡め取られると懐に入ったにブンと背負い投げられ地面に叩きつけられた。

「うおお一本背負い! 何でもアリかよ」

 痛みを噛み殺し轟は獲られたままの右腕を炎で離させる。が距離を取った間に体勢を立て直した轟は距離を詰め手刀と蹴りを連打するもまるで柳でも相手にしているようにするりとかわされ、地面に伏せたの足払いに足を取られ体勢を崩すも右手を地面につけた瞬間に氷結をボコボコと突出させ、は脱げたキャップをパシンと掴み氷結を避け遠ざかった。

「ねぇ、アレ誰?」
「ん、か? うおッ?」
「ああ、って、あの……」
「なんだ、誰だ? あんなのいたか!? あの轟が押されまくってんじゃねーか!」

 かけられた質問に答えた瀬呂はうしろにいつの間にか出来ていた数人のギャラリーに驚いた。奥にはB組担任のブラドキングまでいる。他は多くがB組の生徒で、瀬呂のすぐ傍でと轟の拳闘に目を凝らしているのもB組の学級委員長、拳藤一佳とその隣に鉄哲徹鐡。

 炎を持続しながらの畳みかける攻撃に対応するのはかなりの集中力を消費する。加えて体術だけでは攻防もままならず氷結も駆使しなければ渡り合えない。普段は武器を持つと対しているが今は素手、蹴りも投げ技も締め技も応酬してくる攻撃に目も頭も追い付かないでいた。

「ぐっ……ゴホッゲホッ!」
「火ィ落ちてるぞ轟」
「クッソ……」

 思い切り腹に入った蹴りに吐き出し炎を強める轟。
 仕切り直すごとに調子を上げてくる。いつもは二度膝を着いたら終わりとさっさと切り上げられるのに、一日勉強の鬱憤が溜まっているのか攻撃が実に楽しそう。武器という足手纏いもない。視界の暗さなどまるでものともしていない。ズキズキ痛む腹と両腕が時を追うごとに痛みを増してくるのに襲いかかる攻撃が止まない。

、轟、入浴時間があと15分だ。終結しよう」
「あ、ヤベーじゃん、行かねーと」
「何言ってやがる! 決着もつけねーで終われるか! 風呂なんかB組と一緒に入れ!」
「ええ……」

 鉄哲の大声が暗がりに響くけど、目の前のがもうやる気を失くしたから轟も炎を解いた。辺りは真っ暗に戻りギャラリーから終わりかよとため息が漏れる。

「両方使うとすぐバランス崩すな」
「今日の訓練じゃ氷主体の炎だったからな。逆も慣れねーと」
「あとおまえ蹴りの時反対の腕上げるのやめろ。自分で死角作ってんだろ」
「なんだそれ、俺そんなことしてるか」
「次やったら入れるぞ」
「おお」

 ぐいと汗を拭いながら明かりの洩れる宿舎の方へと歩いていく轟。
 キャップを取るは汗で張り付いた髪をガシガシ掻き散らした。

「おうおまえ! スゲェな! 今度俺ともやろうぜ!」
「嫌」
「い……は!?」
「悪い、ああいう奴なんだ。悪気はない」
「なんでだ! 待てー!」

 鉄哲の横を通り過ぎ宿舎に向かうの代わりに瀬呂が手を立てて謝る。
 喚く声を尻目に中に入ると、そこに風呂上がりのA組女子たちがいて、を見つけ駆け寄ってきた。

どこ行ってたのさ! オフロ待ってたのに」
「轟さんたちも、皆さん外で何を?」
「それより早くオフロに行かないと時間がないわちゃん」
「うん」

 キャップでパタパタ風を送りながら部屋へ戻っていくは着替えを持って風呂場に向かい誰もいない浴室でザッと汗を流した。女子たちが毎度長湯するという温泉は入ったことがない。元より湯に浸かる習慣がない。
 B組の入浴時間を前にポタポタ雫を垂らす髪を拭きながら浴場を出ると、ガラッと傍の戸が開き男湯ののれんの間から出てきた轟と常闇、瀬呂と出くわした。するとそこに相澤がやってきて、今夜全教科の再テストするから8時に来いとに通り魔のように言い残し去っていった。

「……」
「全教科ってマジか、何時間かかんだよ」
「テストのあと答え合わせしたじゃねーか、出来るだろ」
「また轟はそーゆーことゆーだろ」
、一番不安な教科はどれだ?」
「……古文」
「俺もダメだわ。教えてやれよ轟」
「いいぞ」
「結構ですわ!」

 廊下の真ん中で話すたちの後方から飛んできた声。
 振り返るとそこにはA組の女子たちがぞろりと揃っていた。
 何故か睨まれているようでもあり、瀬呂はたじろぎながら「どうした」と返す。

さんの勉強は私が見ます」
「は……?」
「部屋戻るよちゃん!」
「じゃあおやすみ轟ちゃん常闇ちゃん瀬呂ちゃん」
「お、おお……?」

 意味もわからぬまま、女子たちに囲まれ連れて行かれる
 なんなんだ? と瀬呂たちは呆然と見送った。
 すでにふとんが敷かれた部屋へと押し込まれたは肩からタオルを零しながら、ずらりと並び囲んでくる女子たちに意味もわからぬ畏怖を感じる。

ちゃんは轟とは仲いいよね」
「は……?」
「轟さんに限らず男性陣とはよく話してらっしゃいますわ」
「けど私らとはあんまりしゃべってくれんよね」
「オフロもまだ一緒に入っていないわ。私たち哀しいのちゃん」
「はぁ……?」
「せっかくの林間合宿なのに私たちといる時間少なすぎ!」
「いつも気がつきゃいないし、ウチらといるの嫌なの?」
「はっきりおっしゃってください、私たちはどうすればよろしいんですの!」

 じぃと睨み返答を待つ女子たち。
 肌にチクチク刺さる視線とも、そわりと感触の悪い恨み辛みでもない注目。
 押し迫ってくる圧力に下がりながらは絡みつく目線から逃げたかった。

「べつに……どうもしなくていいけど……」
「どうにかしなくちゃずっとこのまま!」
「もっと私たち仲良くなりたいの、話がしたいのよちゃん」
「……」
ちゃん!」

 詰め寄ってくる勢いに返すものが見当たらない。
 問いただしてくる厚意への代償が分からない。

「嫌ではないが……ただ、不慣れだ」
「不慣れ?」

 濡れた髪が肌に張り付きひやりと冷える首筋をガリガリと掻く。

「あまり、女はいなかったからな……、話すことも分からないし、何を……どうすりゃいいか分からん……というところは……ある」
「女……、女だからいけませんの?」
「いけないわけじゃない……。男は……年近いのもいたし、どうでもいいから……、何とも思わないけど、分かんないんだ、女の子は……どうすればいいか」
「……」

 かーわーいーいー!!
 ドッと沸き上がった笑い声にビクッとは体を震わせた。

「何その中学生男子みたいなのー! ドクールなどこ行ったー!」
「クールなちゃんは仮面だったのね」
「まぁ確かにってなんか男みたいだわ」
ちゃんはかわいーしかっこいい!」
「安心しましたわ、さん」
「そんな気ぃ使わんでもいーよぉ、私だって女っぽくなんて全然ないし!」

 ゲラゲラ! 高い笑い声に囲まれは余計に怖い思いを抱く。
 もうテストでも勉強でも何でもいいから早くここから出たかった。

「それではさん、お勉強いたしましょう!」
「いたしましょー!」
「三奈ちゃんも補習呼ばれてるから今日は二人遅くなりそうね、皆で一緒に寝たかったのに」
「はぅ……!」

 蛙吹の言うとおり、その日補習組は夜中の2時まで勉強が続いた。
 しかしには補習までの小一時間ほどの方が長く感じた。









日本の刃物は良く切れんなーと思ってます。

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