寮での待機を命じられ戻ってきたA組生徒たちは、事情を知っているらしい轟に何が起こったのかを尋ねたが、キャップを持ったままの轟は皆の問いかけには答えなかった。
轟の向かいに座る緑谷は、体育祭や爆豪救出の際の新幹線の中で見せた轟の不穏さをまた感じ取っていた。轟は答えないのではなく、聞いていないのだ。誰の声も届いていない。きっとその頭の中はが目を覚ました時のことで一杯で、どんな言葉も届かないかもしれない、けど放っておくわけにはいかないと、そう……何か、何か……とずっと考え込んでいる顔だった。
「じゃあ……が誘拐されてた時に、一緒だった奴ってことか?」
「定かじゃない。だが……合宿所でも、さっきも、くんは決して彼を攻撃しようとはしなかった。連れ去られそうになった時でさえ、彼ではなく……自分の腕を断ち切った。くんにとってあの男は、決して攻撃対象ではなく、何か……特別な存在のようだった……」
「牙顎……って言ってたよな。日本人? てことはさ……」
「拉致被害者の生き残り……か」
拉致事件が起きた当時の記事では4人の子どもが行方知れずのままとあった。が生きているのなら他に生存者がいてもおかしくはない。
「その帽子の人は、ちゃんとどういう関係の人なの?」
が合宿中にずっと被っていた緑色のキャップ。
ずっと涙の止まらない葉隠を抱きながら蛙吹が聞くと、切島が病院の救急治療室でのの様子、そこにいたジョーのことを話した。
「とどんな仲なのかとかはわからねぇけど、ジョーは、はまだ今の環境に不慣れで、時々バランス崩して苦しくなるんだって言ってた……。相澤先生もはまだ治療中だとか言ってたし……。けどのそういう、苦しいこととかスゲェ重いもんを、ジョーは全部分かってて、もジョーのこと、スゲェ頼ってるっていうか……上手く言えねぇけど、とにかく本当ににとって大事な人なんだと思ったよ。絶対ににはジョーが必要なんだよ……」
「……そんな大切な方を失って、それを犯した人物も……さんにとっては大切な人で……」
「なんで、こんな事になっちまうんだよ……、せっかくあいつ、俺らにだってちょっと笑うようになってきたのにさぁ……。なんであいつの邪魔することばっか起きんだよ……」
「何故ばかりがこうも苦しまなければならないのか……」
「そもそも、拉致なんて起こしたヴィランが悪いんじゃねーか……。それに、浚われた時にちゃんと取り戻してやってればよぉ……」
「今それを言っても仕方のないことだわ……」
まるで、生きていくことを、許されていないかのような。
まるで、明るい道を歩むことを、阻害されているような。
自分たちと同じ国に生まれ同じように育っていたはずの同じ年の女の子が、突然奪われ捻じ曲げ書き換えられた揚句……
「そんな泣きごとより今はあの牙野郎吐かせるほーが先じゃねーのかよ」
皆が悼みシンと静まってしまった時、中庭を背に座る爆豪が口を開いた。
「吐かせるって何を……?」
「あの牙野郎はをどうにかしたかったんだろ。それでそのジョーって奴を人質にしたんだろうが。ならそいつを殺しちまったら取引にもなんねー。何よりキャップそのまま吐きだしてんだろ。つーことは」
ガタン……轟が席を立つ。
「ジョーはまだ生きてる……」
轟に続き、飯田、切島、緑谷、常闇、瀬呂、……
生徒たちは次々目に光を取り戻し立ち上がった。
「A組、全員いるな」
皆がドアへと走り出そうとした時、玄関から相澤が姿を見せた。
「先生! ジョーはまだ生きてんじゃねぇかって今話してたんだ。キャップがそのままなんだからジョーだって可能性あるだろ!?」
相澤に駆け寄り一番に訴えた切島だったが、相澤の反応は静かなものだった。
「ああ、もちろんその可能性も踏まえて動いてる。今は別の場所に移しオールマイトが奴と話してる」
「オールマイトが……?」
緑谷は不意に思い出し、ゾッと肌を逆立てた。
林間合宿前に皆と買い物に出かけた先で出会った死柄木弔。
あの刺されるような殺気と、おぞましく歪んだ笑顔、神経をなぞる声……
救えなかった人間などいなかったかのように―
「先生、ちゃんは!?」
「まだ眠らせてる。ミッドナイトとリカバリーガールがついてるから心配無用だ。おまえたちは体育館に戻れ」
「え……訓練? こんな時に」
「間違えるなよ。おまえたちの最優先事項は仮免の合格だ。あと残り一週間しかないんだ、気を入れ直せ。全員さっさと移動」
「そんなこと言ったって……」
相澤の指示が飛ぶも生徒たちの動きは鈍い。
「今のおまえたちにとって訓練が”そんなこと”なら強制はしない。についてるでもジョーの安否を確認するでも好きにしろ」
「え……」
「ヒーローは常に正義とは何かと自問自答し続け、今自分のすべき最善は何なのかと選択を迫られる。選択に大小は無い。どんな些細な選択だろうと選んだ先に道は出来、結果はどんどん変わる。おまえたちが今すべきことがやジョーの救済だというのならそれも良いだろう。どちらを選んでも何かしら善し悪しはある。あとは、結果を受け入れるだけだ」
「……」
のあんな惨状を目にして、知らぬ顔で訓練に勤しむことなど出来ない。
けど、自分たちが四苦八苦して辿りついた答えもプロヒーローはすでに想定し動き出していた。
飯田はぐと歯を噛み締め皆に振り返る。
「皆、体育館に移動し訓練を再開しよう。くんにはプロヒーローたちがついている。僕たちは今すべき、僕たちにしか出来ないことを精一杯やろう」
「うん……」
「ああ……そうだな」
まだ歩き出す足は重いけど、全員合意して寮を出た。
「轟くん……」
「……」
一番最後まで動き出せなかったのは轟だったが、緑谷が声をかけるとずっと握っていたキャップをテーブルに置き、共に出ていった。
守る力が無い、どころか、守れる立場にもない。
これまで経験や努力で培ってきた自信や自尊心なんかが、根こそぎ崩れていくようだった。
今に会っても何も言う言葉が見つからない。
何もしてやれる気がしない。
自分を見てくれる気もしない。
まるでから逃げているようにも思え、轟は手を握る力も無くしていた。
雄英敷地内の室内へと移された牙顎につけられていた拘束を解き、静かに向き合うオールマイト。神野区での事件で肉体の限界が世間に露呈し引退を迎え、今もまだ腕にギブスを着けているオールマイトだが、ヒーローとしての責任や信念まで無くなったわけではない。
部屋の隅に向かってオールマイトは腰を折り深く頭を下げる。痩せ細ってはいるが背丈が小さいわけではない牙顎はその体に似合わず小さく身を固め片隅で蹲っている。この部屋に来てもう何分経ったかは分からないが、牙顎から伝わってくる警戒の殺気は解ける事はない。
その様相も、この年でここまで研ぎ澄ました殺気を放つのも、それが恨みや憎しみでなくまるで機械的で無機質な殺気であることも、これまで見てきた誰とも違う……この国で育っていては決して備わる事の無い畏怖。……この子どもを前に、ヒーローとして頭を下げずにはいられなかった。
「―どうでしたか」
日が暮れ始め茜射す雄英高校。
生徒たちの訓練を終えた相澤が職員室へ戻ってくるとオールマイトも姿を見せた。
「彼にとってヒーローなど無価値同然。そう簡単に口を開いてくれるはずもない」
「でしょうね……、だって最初はそんなものでした。まともに俺を見るようになったのすらここ最近です」
「ああ……そうだな、簡単な話ではない。少女をここまで取り戻した……ジョーがやってのけた事が奇跡なのだ。本当……頭が下がる」
あんなにも……自分の声の届かない子どもがいる。ナンバーワンヒーローという名声の届かない存在に、己の小ささや無力さを思い知らされるようだった。
「さっき塚内くんから報告を貰ったよ。やはりジョーは現在行方知れずのようだ。4日前、ジョーの自転車が路上に倒れていてジョーの自宅へ持っていった人がいたそうだ。その時点で自宅にもジョーはおらず、そのまま自宅前に自転車を置いていったんだとか」
「4日前……、を雄英に送り届けた帰りですね」
「ああ。林間合宿で少女と接触して以降、ずっとマークしていたのかもしれない。まさかこんな事になろうとは……。しかしだからこそ絶対に助け出さねば。彼にジョーを……、この国で罪で犯させることは決してさせてはならない。そうなっては……もう決して少女も救えない」
「……」
「少女はまだ?」
「ミッドナイトが寝かせてます」
「せめて……ジョーの安否が分かれば少しは安心材料にもなったのだろうが」
力及ばず申し訳ないとオールマイトは伏せるが、しょうがないことは分かっていた。
元より不可能なことなのだ。幼少時に拉致され他国へ連れ去られ、無理に力を増強されまるで別人格へと書き換えられた人間を元に戻すことなど。粘り強い忍耐力と長い長い時間をかけてじっくりと付き合っていかなければならない。
約2年前……久しぶりに連絡が来たジョーから相澤は「会って欲しい子がいる」と話を持ちかけられた。そこで初めて見たは今の姿とも重なり合わない、足先一寸パーソナルスペースに侵入すれば切りかかってきそうな、周囲すべてが敵のような、まるで敵地の捕虜のような、今の牙顎と同じ……辺り一帯を粉々にする力を持つ時限爆弾のような空気を放つ子どもだった。
ただ……の傍にはジョーがいた。
誰のことも見ないその瞳にジョーは映っていた。
毒ガスの詰まった部屋にいるような、息もしづらい日本という環境で、拉致被害者というレッテルを貼られ、本当の家族にすら目を向けもしなかった泪が、唯一口を聞いたのは……無垢な目を向けたのは、ジョーだけだった。ジョーといる時だけ、機械仕掛けの兵器がまるでただの子どもだった。
「彼がジョーの失踪に関与しているかもしれない事はまだ塚内くんにも報せていない……。だがこのまま何の報告もせずに雄英で事を進めるわけにも」
「牙顎はすでに日本での犯罪に関わっていないか疑われています。ヴィラン連合にも通じてた事実がある以上、牙顎をただの拉致被害者として保護するかどうか……。政府の判断によっては逮捕という可能性もある。政府はですらいまだに警戒してますからね」
「拉致問題は国際問題だ……、国と国との慎重なやり取りで結局早期解決も出来ずにズルズルと年数だけが経ってしまった事実は否めない。きっと、2年前の少女の発見が無ければ今でも解決の糸口すら掴めていなかっただろう。本当……未然に防げなかった事が無念でしょうがない……何が平和の象徴か……!」
暗がりの室内を照らす蛍光灯の下、オールマイトが嘆を零す。
その、事件を知るヒーローなら少なからず誰もが抱く嘆きは相澤も共感するところだが、その事件に直面した人間の悔恨、不甲斐なさ、やるせなさはその比ではないことも知っていた。敵に連れ去られて行く子どもを、指先で取り逃してしまった絶望は……。
「とにかく、今はジョーの安否だ。牙顎の力も把握しきれていない俺たちでは時間を食うだけ。を起こすしかない」
「少女に頼るしかないとは、まったく不甲斐ない……」
「は牙顎に出ていけ、ここには来るなと言っていた。政府にも牙顎の情報を濁している節があった。それはつまり牙顎を逮捕させたくない表れ……牙顎が日本で罪を犯している危険性を想定してたということ。何より……あいつがこの先ヒーローを目指すのなら、これは絶対にあいつが自力で乗り越えなければならない問題です」
職員室を出る相澤は茜射す廊下を保健室へ歩いていく。
一歩一歩淀みなく歩く相澤だが、その心中は決して穏やかではなかった。
友の命が脅かされている。ヒーローとして見逃すわけにはいかない。
だがそのジョーが最も守ろうとしたのは自身……。
一体どうすることが正解なのか。正義なのか。
自分で選択し、あとは結果を受け入れるだけ……。
生徒たちに能弁を垂れておいて、自分がこんなにも迷っている。
教師としての選択。ヒーローとしての存在意義。
「入ります」
静かにスライドする扉の向こうで照明を反射させる白いカーテンが揺れる。もうすっかり陽が没ち暗くなった窓の外を眺めていたリカバリーガールが相澤に振り向いた。夏虫の声が響いてくる程の静寂の保健室。相澤はベッドを囲うカーテンの隙間を見た。
「を起こして下さい」
囲われた中で眠るの傍に付き添うミッドナイトは躊躇いながらも、仕方のないことと分かっていた。ミッドナイトは身体から漂う「眠り香」を止め、目を閉じるの髪を撫ぜる。寝顔は穏やかな泪を撫ぜるごとに生気が戻ってくる。ピクリと瞼を動かしは睫毛を揺らし目を開けた。
ぼんやりと目の前を見るはここがどこなのか、何故今自分がここにいるのか、何が起こったのか、何も分からないでいた。だけど頭を撫ぜる手の感触に気付き目線を傾けると傍らにはミッドナイトがいて、すとカーテンの隙間から中に入る相澤を見ると連鎖して思い出してきた。
「どうなった……? ジョーは? 牙顎は?」
ベッドを揺らし起き上がったをミッドナイトが支える。
「ジョーは消息が掴めないままだ。牙顎はまだここにいる」
「どこに……何をした!」
「個室に入ってもらってるだけだ。本当にジョーを浚ったのか、ジョーは生きているのか、何もしゃべらないからな」
「どこだ!」
「牙顎の個性はなんだ。ジョーは生きているのか?」
「牙顎はどこだ!」
「落ちついて……」
「、大事なことだ。牙顎がジョーに危害を加えたのなら俺たちは牙顎を警察に引き渡さざるを得ない。ジョーが生きてさえいれば、牙顎が他に罪を犯していなければ、道はある」
「道ってなんだ……、この国のヒーローに何が出来る、おまえらに政府に反する道があるのか!」
「……」
イレイザーヘッド、ミッドナイト、リカバリーガール、そしてオールマイト。
この国のヒーローとして存在する者が集うここで、の言葉は痛く響いた。
ヒーローなんて来なかった。
にも牙顎にも。
「……牙顎には会わせてやる。ただこれだけは答えろ。ジョーは生きているのか?」
宇宙を含むようなの眼球が血走り瞳孔が開く。
相対する相澤には臓腑を痺れさせる程の危機感。
「私欲で殺しなんかするか……、ヒーローもヴィランも紙一重と言ってるおまえたちと一緒にするな」
きちんと聞き取れているのに理解できないような違和感。
この国の言葉を発しているのに、この国のものではない異物感。
これまで、の戦いに特化した、この国には克ちすぎる力を抑えるように指導してきた相澤だったが、今改めて思う。自身の意思がなければこの力はとても制御など出来ない。この一年、それを成してきたのはの同意があったからで……、それはつまり、ジョーがいたから。
相澤はを牙顎の元まで連れていった。
中からは開かない個室の隅にひっそりと座りこんでいる牙顎を目にして、は相澤たちに入ってくるなと言ったが、牙顎はをも食らいつこうとした手前二人きりにするわけにもいかず、相澤だけはとともに室内に入った。
オールマイトが何時間相対しても言葉はおろか目線すら微動だにしなかった牙顎が、を感じ取るとその力の無い眼はうすらと開きを捉えた。
「牙顎……」
骨ばった細い身体を抱え込むような牙顎の傍に膝をつく。
昼間、衝突する牙顎と相澤の仲裁に入った時もそうだった。
にとって牙顎は決して攻撃対象ではない。仲間……といった空気でもない。
「ごめん、牙顎……、いなくなってごめん……」
牙顎の細い腕が目の前のに伸び相澤は一瞬動じたが、は否定しなかった。
絡みつくようにの頭を抱きしめる牙顎のそれに畏怖など無かった。
「ごめん……、ひとりにしてごめん……、ごめん……」
抱き締める牙顎の腕の中での呟く声は相澤には音でしか届かないけど、それは初めて見るだった。戦友、同志、友だち……そんなものでもない。何の光も届かない遠い世界の片隅で身を寄せ合い慰め合う、そうすることでしか互いを……自分を守れない、小さな小さなふたりの子どもだった。きっと本当に、ほんの小さな子どもだった頃からそうしてきたのだと思わせた。
息が詰まった。
苦しくて痛ましくて、相澤はとても見ていられない程だと思った。
二人が浚われた時、相澤はまだ駆け出しのヒーローだった。まだ独立もしていない、プロとして日々を目まぐるしく勤しむ若いヒーローで、テレビやネットニュース、ヒーロー間の情報でその誘拐事件を知り痛ましく感じた程度のものだった。
自分一人に出来ることなどたかが知れている。手の届かない、目の届かない被害者まで助けられるはずもなく、この世から全ての悲しみを消せるなどと思うほど自惚れてもいない。……そんな、言ってしまえばそれだけのこと。多くのヒーローからすれば当然の道理、だが……、この光景を目にしてそんな事を思えるヒーローなどいない。
浚われた幼い子を助けられず、個を作りかえられたまま成長してしまった。
この国の全てのヒーローに責任がある。
取り返しのつかない大罪のなれの果て。
大人の無力さの結果に生まれた悲しい子ども。
「……牙顎……」
溺れるの声が慣れた名を呼ぶ。
今度は相澤にも聞きとれた。
「私が、一緒にいるよ……一緒にいる……ずっと……」
「……」
「だから……頼む……、そいつは……ジョーだけは……帰してやってくれ……」
涙に濡れるの懇願が狭い部屋を悲愴でいっぱいにする。
ジョーだけは。そう繰り返すの懇願がまるで雨でも降っているかのように二人の世界を朧に濁らせた。
しかし……ふと、牙顎の手がから離れた。
「牙顎……?」
から離れ、背を向け蹲り、動かなくなった。
「牙顎」
「いい……」
「え……?」
「もう……いい……」
「なんで……」
「……こいつ……」
牙顎の細い5本の指が異次元の腹を覆う。
「こいつ……いる…………いい……」
「は……何言ってん……」
「こいつ……ここいる……だから……は……離せって……」
「……」
言葉を失うのうしろで、相澤も思わず一歩踏み出しかける。
「何言ってんだ……、駄目だ……そんなの、何言ってんだよ」
「……」
「なんで……、ジョー、なんで……そんなの駄目だ!」
ぐと腕を掴むの手から更に背を向ける牙顎はもう何も言わない。
「冗談じゃない、出せ! 牙顎、ジョーを出せ!」
「」
「ジョーを出せ!!」
牙顎に掴みかかるを引き離す相澤。
しかし相澤も同じ気持ちだった。
「嫌だ! 嫌だ、牙顎……、ジョー!!」
ジョーは牙顎をも助けたいと言っていた。
けど……こんな形で。それは、から離れてまですることなのか。
今のこのを置いてまで。
「どうしたの!?」
突然の叫び声を聞き扉を開けたミッドナイト。
相澤に抑えられながらも暴れ牙顎に掴み寄ろうとするをまた鎮めようとミッドナイトは手を伸ばすが、それより先に相澤の腕の中では膝を崩した。振り向きもしない牙顎の背中が、その中にいるジョーが、すーっと遠くへ離れていくのを感じ取った。
あの日……あの時……
助けてと泣き叫ぶをどこまでも追いかけ、ほんの指先が触れるまで追いかけ続けたジョーなのに。
今、この手から離れていった。牙顎と共に。
の小さな心が音を立ててガラガラと崩れていった。