LESSON36 - shadow

 体育館の時計が5時を指し、汗だくの生徒たちはようやく一日の訓練を終えた。
 講師陣が体育館を後にするとA組生徒たちは更衣室で汗を流し急ぎ着替えると、体育館を飛び出し校舎のほうへと駆けだした。

ちゃんどこだろ……」
「ミッドナイトが眠らせてるって言ってたから仮眠室じゃねぇか」
「リカバリーガールもって言ってたから保健室かもしれないよ」
「誰か、か先生たちの居場所分かんねぇか!?」

 昇降口から校舎に駆け込むと耳郎が壁に耳たぶジャックを突き、障子が伸ばした触手の先に形成した耳を澄ませ、夏休み中の静かな暗がりの校舎内の音を聞いた。

かは分かんないけど、あっちのほうに人が集まってる!」
「ミッドナイトの香の匂いがする、間違いない」

 耳郎と障子の言葉を聞き、階段を駆け上がっていく生徒たち。
 何を言えばいいか、何をしてやれるかも分からないけど、絶対にひとりにしてはいけないと誰もが急いだ。
 日が落ちた校舎内は明かりがついていても隙間隙間で仄暗く、足音一つ響かせるほど静かで無機質。腹底から滲む痛みのような苦みのような感覚に感情が飲み込まれそうで、轟はぐと食いしばって走った。

「! オールマイトだ」

 3階まで駆け上がり、さらに奥の奥まで走って角を曲がると、突き当りの教室前にオールマイトの背中を見つけた。振り向いたオールマイトは駆け寄ってくる生徒たちの足を止めさせ、緑谷はどんな状況なのかを問い詰めたが、緑谷より先に足を止めた轟は、静かに不穏に襲われた。奥まった部屋の中にいるだろうが、まるであの……腕を切断し緊急搬送されたあの時のようで。

「轟……」

 背後で切島も轟同様、あの不穏を感じていた。
 さっきまで痛いくらいだった心音がすっと潜んだ。熱い体の中を冷たい汗がつと流れた。
 もしあの時のようなだったら……、ジョーのいない今、どうやってを”こちら側”へ繋ぎ止めればいいのか……

 不安を押し込め轟が歩み寄ろうとした時、部屋の奥から相澤が現れた。
 その表情は厳しくも怒っている風でもなく、薄暗い中でまるで無機質に感じた。

「おまえたち、を連れて寮に戻れ」
「え……?」
「頼んだぞ」

 相澤から出た言葉は意外なものだった。
 一体何があったのか。その不安の中から葉隠が飛び出し、教室の扉へ駆け寄った。
 扉口で葉隠は、すぐそばに座り込んでいるの小さな背を見た。その傍らにはミッドナイト、教室の奥には牙顎もいる。何があったのか、どんな状況なのか、何も分からないが、葉隠はそっと室内へ入りのそばに膝を着くとそっと肩に触れた。

ちゃん……」

 呼びかけても無反応。照明の下でも重い前髪の中の表情は見えず、乾いた口唇と白い手が脱力し、麻痺している以上に力がなかった。
 理解などできないその深淵。

……?」
くん、大丈夫か」
さん……」

 葉隠同様に次々と室内に入る生徒たちが牙顎を気にしながらに呼びかける。奥の背を向けた牙顎に畏怖を抱きながら。
 けど相澤がを連れて戻れと言った。葉隠は、もう恐れないと決めた手でしっかりとの右手を握った。

ちゃん、帰ろ……」
「……」
「一緒に帰ろう……」

 冷え固まった右手をギュッと握る。温まれ、温まれ。この手の温度、力、その手に移れ。何もない空間にじわリと雫が生まれ、透明の頬を伝いぽたぽたっと落ちる。涙声を飲み込み、喉の震えを抑え込み、強く手を握って葉隠は雫を降らしながら伝えた。帰ろう。帰ろう。一緒に帰ろう。
 ミッドナイトがの傍から立ち上がり一歩離れると、そこに麗日と蛙吹が座り込みに帰ろうと呼びかけた。背中からの肩に手をつく轟もまた帰ろうと声を落とした。

、寮、帰ろうぜ」
さん」
「一緒に帰りましょう、ちゃん」
「帰ろう、

 一人一人の静かな呼びかけに、やはりの反応は見受けられないが、葉隠が腕を引くとの体は軽く引っ張られた。麗日も支え、が立ち上がると誘われるがままに歩き出し、皆と共に部屋を出た。

 轟は教室から出るの傍にいながら、奥の牙顎を見た。
 膝を抱える牙顎がよりギュッと自身の体を強く締める。
 ゆっくり一歩ずつ、二人の距離は離れていった。

「いいのね、あの子たちに任せて」

 を連れた生徒たちが廊下の先へと去っていく。
 その様子を見届け、相澤は教室へ戻った。牙顎の傍でオールマイトが床に腰を下ろしていた。

「大丈夫、君も一人にはしないよ牙顎少年。君から少女を取り上げたりもしない」
「……」
「良い子だな、君たちは。本当に、優しい子たちだ」

 大人、教師、ヒーローであるはずの自分たちに不甲斐なさを感じるほど。
 この子どもたちは……。

「あの牙顎という子も、眠らせておく?」
「本当にジョーがを離せと言ったんだとしたら、あいつは今もジョーの声を聴くことができているんだろう。もし眠ることでそれが遮断されるとしたら、それが得策がどうか判断がつかない」
「そうね……もしかしたら、ジョーが説得してるかもしれないしね」
「……」

 一つ一つ言葉をかけるオールマイトにも牙顎は背を向けたまま。

 自分がここにいるからは離せ。
 確かにそれはジョーなら言いそうなことだと相澤は思った。を見つけ出した時から、それこそ四六時中に寄り添い分かち合い、その力を”ヒーロー”として活用するなんてでたらめにも思える考えをに納得させた男だ。昔からそうだった。特化した”個性”を持つわけでもない、自己主張の強いヒーロー科では隅のほうにいた男なのに、何故かみんな”ジョー”という男を知っていた。ここぞというところで、誰も行き着かなかった結果を出してしまう、不思議な男。戦闘向きではない、体力テストですらクラスで最下位を取るような男なのに、何故か……クラスの誰も、教師ですらあの男がヒーローになるということに疑問を抱かなかった。

 暗い廊下でつい昔を過らせた相澤のポケットで携帯電話がブブブと振動を伝えた。
 取りだし表示を見ると、教室から距離を取り通話ボタンを押した。

『イレイザー、おまえいま寮か?』
「学校だ。何か用か、マイク」
『今日なんかあったか? のことで』
「……、なんでだ」
『いま正門前に政府の官僚さんとやらが来てるぜ』
「政府……?」

 電話をかけてきたのはプレゼントマイクだった。ヒーロー兼教師でありながらラジオDJでもあるマイクは夜の9時になろうとしているこんな時間に学校へ戻ってきたのだろう。

「何の用だ」
『事情はわかんねーが、を引き取るとか言ってるぜ』
「なんだと」

 なぜこんな時間に。
 そう思った途端、相澤はたった今を連れたA組生徒たちが昇降口へ向かったことを思い出し、ミッドナイトに牙顎から離れるなと言い置くと急ぎ走った。

 −切れちまった。
 マイクは突然通話の切れた携帯電話をポケットに押し込むと正門前で待たせている2台の車のほうへ戻っていった。

「すいませんね、いま詳しいヤツが来るんで」

 開いている運転席の窓に向かって軽い口調を投げかけるマイクだったが、それを聞いてか聞かずか、乗っていた黒スーツの3人の男女が車から出てきた。夜に溶け込みそうな黒は自分も常に身にまとっている色ではあるが、その者たちの黒はまるで権威の象徴でもあるかのような抜けの無さで、苦手な空気だとマイクは感じ取った。

「あれ、だね」
「What?」

 助手席から降りた、背丈からしてまるで子どものようでもある一人の男が遠くの昇降口を指さして言った。マイクはそのほうを振り向いたが、昇降口はここからでは距離がありすぎて、今は外灯もさほどついておらず、数人の人影があることは見て取れたがそれが誰であるかなど分からなかった。

「よく見えんねこんなとこから。っと、ちょっとアンタら、Wait! Wait!」

 まるで最初からマイクの案内など必要としていないと言わんばかりにその集団は正門を超え学園内に侵入した。セキュリティーが作動しているはずなのに何故……と思ったマイクだったが、この者たちが政府関係者であるのなら、国営である雄英高校に入れたとしても不思議ではないかと思い直し追いかけた。

 を連れ昇降口へと降りてきたA組の生徒たちは、寮へと歩き出した矢先に覚えのある声を聞き取った耳郎が正門のほうに振り向いた。

「あれ、プレゼントマイクだ」

 普段学校で先生としてみるプレゼントマイクは襟を立てた黒いロングコートに金色の髪を逆立たロックな風貌なのに比べ、今は普段着の軽装で髪も下りて別人のようだったから、この暗がりの中ではその人と分からなかった。だとしても、いま足を止めるほどのことではないとの傍らにいる葉隠も轟もそのまま寮に向かおうとした。

ちゃん?」

 けれども足を止めたのはのほうだった。
 静かに近づいてくる黒いスーツの集団の、眼鏡をかけた一人の男の気配に覚えがあったから。

「お久しぶりです」

 背の高い眼鏡をかけた男は目線の高さを合わせることもなくを見下ろした。
 表情にも歩く足にも力のなかっただったのに、その男を見返す表情には力がこもっていて、傍に立つ轟はと面識があるらしいその男を訝しげに見つめた。

「いや久しぶりじゃないよ? 4日振りだよ?」
「4日も経てば世界は変わる」
「え? 4日って久しぶりじゃないよね? ボク間違ってないよね?」
「間違ってませんからお静かに」
「深鋭牙顎が現れたそうですね」

 暗がりの夜に黒い車、黒いスーツ。訝しげに見つめる生徒たちだが、はこの男を知っていた。入院している間、頻繁に病室に現れ執拗に「合宿所へ現れたもう一人の拉致被害者」について問いただしてきた男。

「なんで知ってる」
「今はどこに?」
「なぜ知ってるのか聞いてるんだ!」
ちゃん、」

 の口調に意気が込もる。
 だがその目前に相澤が到着しを背に押し戻した。

「どなたですか」
「国防省です」
「国防省?」
「あ、イレイザーヘッドだ? だよね? 記者会見の。あん時と雰囲気違うね?」
「お静かに」

 個性拉致事件に関する政府官僚は何度か面識があったものの、その者たちは見たことのない顔ばかりで相澤は疑心を増した。暗がりの中でも匂いのように伝わってくる、闘える力を持った者たちだったから尚更。

を引き受けに来ました」
「何故です。それに個性拉致問題は国交省の管轄のはずでは?」
「もう一人の個性拉致被害者の発見により本日個性拉致問題は国交省に代わり我々国防省が取り仕切ることとなりました。私は国防省個性拉致問題特別対策室室長代理、榊です。つきましてはの保護権を政府に戻しますので深鋭牙顎共々引き取らせていただきます」
「そんな話こちらには降りてきてませんが。それは正式なことですか」
「決定事項です、こちらには明日にでも通達があるでしょう。全員死亡とされていた個性拉致被害者が二人目まで発見されたんです。それも本国で。これは国交を揺るがす重大な隠匿であり、この機に本件の早期解決に踏み出す方針です。よって、並びに深鋭牙顎も今後は本件に携わってもらいます」
「何だよそれ……?」
くんは被害者です! それは本人の意思で行われるべきことではないですか!?」

 誰も事態を飲み込めずにいたが、榊の言葉に轟も飯田も瞳をゆらりと燃え上がらせた。
 だが相澤は榊の言葉に苦虫を噛む思いだった。
 長年個性拉致問題が解決に向け進展しなかったことは国民の間でも消極的だ臆病だと批判の声が多く挙がったが、世界情勢、国益、国力バランスに慎重にならざるを得ない国家にとっては仕方のないことだった。それが今になって個性拉致問題解決に被害者自らを参画させるというのなら、榊の言う通りの身柄は政府に在って然るべき。

「それをジョーが許したんですか?」

 生徒たちの目が相澤に集まる。

 口も心も開かないとの間に立つジョーは唯一の交換手だった。
 ジョーの尽力、献身、導きがあってこそをこの国に留めておくことができた。
 だがそれは政府にとっては障壁でもあったのだ。少なくともこの榊にとっては。
 そしてこのタイミングで。

「ジョー? 國枝譲ですか? 政府の決定に一般市民の許可は不要です」
「不要ではなく、不可能なのでは?」
「先生……?」
「不可能であると知っているのでは?」
「え……」

 ゆらり、相澤の髪の切っ先が揺れあがる。
 牙顎がここにいることを分かっていた。すでに牙顎は政府の監視下にあった。
 4日前も然り。

「おまえら……!」
「ジョーがやられたの知ってたのか!?」
「知ってて今日まで見過ごしたのか! 政府が!」

 掴みかかろうとするを葉隠がギュッと強く抱き留める。凍てつくほどの目で睨み据える轟。青筋を浮きだたせ前に出る切島。固く握りしめた拳を食いしばり堪える飯田。続々と校舎への道先を閉ざした。

「”ヒーロー”と我々とで意見が合うはずもない。急ぎます、我々に夏休みはないのでね」

 ズッ……!
 突如全員が地面に引き寄せられ、支えきれずに地に伏せる。

「な……!?」
「重ッ……何コレェ!」

 誰の”力”だ……! 相澤は榊たち3人を睨み据えるも、誰を視界に入れても地に引き付けられる引力が”消え”ない。榊たちが校舎内へ向かおうとするが、誰も迫りくる地面を押し返しもがくことしか出来ない。

「この野郎……!」

 地に着いている右手で轟は氷を張り目の前に氷壁を高々と伸ばした。

「あ、トドロキだ? だよね? 炎は? 炎も出るんでしょ?」
「ワクワクしない」

 はしゃぐ声を諫めながらパンツスーツの女が氷壁に近づき、ひたりと手を付けるとそこから氷が溶け落ち空洞を作った。

「……あら?」

 しかし氷の溶けだしが途中で止まり女も異変を感じた。

「”抹消”か」

 榊が振り返り眼鏡の中に相澤を入れる。
 髪が上がらず顔に張り付いているが、空いた氷の空洞から榊らを視認していた。

「へぇー”抹消”? 面白いね? どんな感じ?」
「面白くない」

 しかし榊はすぐ後方まできていた車に向かって右手を差し出すとくいと手首を下げ合図をした。

「ぐっ……!」
「うわあッ!」
「あうっ……!!」

 引力がさらに増し、生徒のほとんどは地面に顔も手足も引き寄せられ完全にうつ伏せた。
 何とか肘をつき体を押し上げるも顔を上げていられなくなった相澤の眼は地面だけを映す。

「奴らを止めろダークシャドウ……ッ」
「やめろ常闇ッ……この暗さでは……!」

 地に這いつくばる常闇からズズッと湧き上がる影を障子が制止した。
 轟は耐えながら再度氷壁を飛ばすもパシンと女の手に軽く撥ねられた。

「わざわざ出向く必要もないか」
「深鋭牙顎登場まで? さーん? にー? いーち……」

 いまだ何が起きているのか理解も出来ず地に伏せる相澤と生徒たちを余所に、昇降口から引っ張られるように飛び出てきた牙顎の細身の体を榊が受け止め掴んだ。

「回収」
「牙顎……!」
も回収しろ」
「……!!」

 牙顎が車へ入れられ、その手はにも伸びてくる。 
 阻止したいのに誰も動けない。

さんんッ……!」

 コンクリートの地面に引きずりながら麗日がまで手を伸ばし指先で触れた。全身にかかっていた重力が解けるとは地を蹴り追手から逃れ校舎の壁に掴まった。校舎内からオールマイトとミッドナイトが駆け出てくるも、相澤を始めA組の生徒たちが地に伏せている現状が理解できない。

「牙顎、来いッ!!」

 が車に向かって叫び降ろす。
 すると車の中から牙顎が黒いスーツを着た一人の男に噛みつきながらドアをぶち破り飛び出てきた。鋭い牙に噛みつかれ腹から血を落とす男が苦痛に歪んだ顔で声を上げると生徒たちを押さえつけていた力が解けて消え、相澤がすぐに立ち上がった。

、こっちへ戻れ!」

 夜風が渦巻く中、は叫ぶ相澤を見下ろした。あまりにまっすぐ。
 そんな目を、がこれまで向けたことがあっただろうか。
 相澤は寒気を感じた。すぐさま捕縛布を引いた。
 は相澤の捕縛布が身を絡めとるよる先に、地面には下りずまっすぐ横へ飛んだ。噛みついていた男を地面に吐き捨てた牙顎は飛び上がり、空中でを捕まえると着地し、そのまま深く広がる森のほうへと飛びのいた。

!!」
ちゃんッ」
「麗日、解除しろ!」

 両手の指を合わせ麗日がの”無重力化”を解除するも、ざわめく夜の森へと牙顎は消えていった。

ッ!!」

 轟がを追って駆け出す。ブーストをふかし飯田も駆けだそうとしたが、行くな! と制止した相澤の声に足を止めた。

「先生、なんで、が!」
「……」

 何が正しいと判断できたわけではなかった。
 ただ、ジョーがいない今、ジョーが拒否し続けた政府にを預けることはしたくなかった。そうなるくらいなら、まだ雄英の敷地内である森に身を隠してくれるなら……と頼りないことを思った。

「このままあの二人が逃亡を図ればあなたにも責任を取ってもらいますよイレイザーヘッド。無論雄英高校にも」

 腹を押さえる男を起こし車に積み込むと、榊は相澤にそう言い残し運転席へ乗り込み2台の車は正門を出ていった。

をほっとくのかよ、おれは探しにいく」
「全員で探しましょう、二人とも失ってしまいます!」
「行かせてください先生、役に立ってみせます」
「ウチも!」
「待つんだ君たち、学校の森は深いし山や谷もある」
「だったら尚更早く探してやんなきゃ……! 相澤先生!」
「……」

 もう寄る辺のないあの二人に、行くあても帰るあてもない。
 この国に留まる理由もなくなった。
 なくさせてしまった。

「これより2時間、全員で捜索する。2時間経ったら必ず戻れ」
「はい!!」

 正式に許可が出た。生徒たちは意気込みそれぞれが自然と輪になった。

「森か、まるで林間合宿の時みてぇだな」
「あの時と違って今はかなり暗い、バラバラになっては駄目だ。あの時のチーム分けで3班に分かれよう。爆豪くんと切島くんはくんの班へ加勢してくれ」
「ああ!?」
「怒んなよ爆豪、にも牙顎にも”貸し”があんじゃねーか、このままサヨナラなんてしてやらねーよな」
「じゃあ爆豪ちゃんたちはちゃんたちがいなくなったほうへまっすぐ向かいましょ。その両脇をサーチ力のある2班で分かれて捜索するわ」
「皆さん、ライトと無線機です。連絡取り合いながら行きましょう。足元お気をつけて」
「ありがてぇ!」
「携帯のアラームを2時間後にセットしよう」
「オールマイト、ここでみんなの中継お願いします」
「ああ……」
「よし、と牙顎、二人とも救けるぞ!」
「おお!」

 掛け声を上げるとA組生徒たちは森へ駆け出しあっという間に姿かたち見えなくなった。

「なんと、彼らの成長したことか……。さすがだよ相澤くん」
「たく、負けてらんないわね」

 チームを組み作戦を立て目標を明確にし実行に移す。それを教師に言われるまでもなくそれぞれが自主的に考え、動き、学んでいく。日々壁に当たり、それぞれ悩み、落ち込み、虚しさに襲われることもあるだろうに。気が付けば驚くほど成長して、強く笑えるようになっている。

 あの中に、戻してやりたい。あの輪の中に帰してやりたい。

「我々も行きましょう」

 空を切る捕縛布の先を今一度まき直し、教師たちも森へ入った。









:: BACK : TOP : NEXT ::