Two shot!!




俺はあの後、すぐにブー太郎の家に向かった。
けど迎え出たブー太郎の妹にまだ学校から帰ってきてないと言われた。
そういえば、はまじたちと遊びに行くとか言ってたか・・・。
そう思い返して、サイフを妹に預け今度はあいつらがいそうなところを探し回った。
公園とかゲーセンとかいろいろ探したけど、結局あいつらは見つからなくて、どうせ明日学校で会うかとあきらめてその日は家に帰った。


中学の時もブー太郎はブーブー言うもんだからクラスのヤツにからかわれて、パシリにされたりみんなの前で笑いものにされたりと、だんだんエスカレートしていったことがあった。俺たちはそんなブー太郎を守って、ときにはケンカになったりもしたけど、それでブー太郎をいじめるヤツはいなくなった。

”どこにでもいるんだよ、こういうことするヤツも、されるヤツも”

「・・・」

あいつ自身がどうにかしなきゃ意味ないってのも、分かるけど、あいつひとりじゃどうしようもないんだよ。あいつ弱いんだから、助けてやるのが友だちだろ。それが仲間だろ。

しょうがない、なんて・・・

そんなの、見捨てんのと同じじゃねーか。




翌日、学校に着くなり自分のクラスより先にブー太郎のクラスへ足を向け、教室のドアからブー太郎を見つけ呼び寄せようとした。・・・けど、ブー太郎は教室の真ん中くらいであの、入学式の日にブー太郎を突き飛ばしてったヤツらと一緒に笑ってしゃべってて、話を聞こうと意気込んでた俺は「アレ?」と外された気分になった。

「あ、杉山くん!」
「おお」
「きのう、サイフ拾ってうちまで届けてくれたんだってね。ありがとう」
「いや・・・、べつに・・・」

教室のドアに俺を見つけたブー太郎は、明るい顔で駆け寄ってきてニコニコとしゃべりだした。さっきまでクラスのヤツらとしゃべってた時と同じ顔。なんだ、どういうことだ?あいつらにカモられてんじゃなかったのか?

「お前、あのサイフどうしたんだよ」
「いやぁ、それがどこかで落としたみたいで、でもちょうどお金入ってなかったから、よかったよー」
「なんだ、もともと入ってなかったのかよ。中身取られたのかと思っただろ」
「あはは、ゴメンよ心配かけて」
「いや、いーけどさ、そんなの」

見上げてくるブー太郎越しに、教室の中にいるあいつらを見たけど、あいつらも何ら異変もなくはしゃぎ笑ってる。

「お前、あいつらと仲いーのか?」
「え?ああ、うん。最初はからかわれたけど、しゃべってたら仲良くなったよ。みんないいヤツだよ」
「あ、そお。ならいーんだけどさ」

なんだなんだ。じゃあ、大野が見た「ブー太郎がクラスのヤツらにたかられてる」ってのも、冗談か悪フザケだったのか。

「それより、杉山くん!」
「んあ?なんだよ」
「きのうまた大野くんとケンカしたらしいじゃないか!」
「ケ、ケンカ?」
「大野くんと杉山くんは仲良くなけりゃダメなんだから、早く仲直りしなきゃ駄目だよ!」
「はあ?なんであいつと俺が仲良くなけりゃいけねーんだよ、お前いい加減小学校の時から成長しろよ」
「いーや、大野くんと杉山くんはいつまでもオイラの大将なんだから、ふたり一緒じゃないとダメなんだよ!ほら早く教室行って、仲直りするブー!」
「おいっ・・・」

ほらほら!と背中を押され、俺は教室のほうへと押し出される。
あいつまた脳内が小学校のときに戻ってブーって言っちまってるよ。
そもそもブー太郎のことできのうはあいつと言い合いになったってのに、これじゃ何のために言い合ったんだかだ。

ブー太郎め・・・とブツクサ言いながら、俺は自分のクラスへ歩いていった。
ざわざわした教室の奥のほうを見ると、俺の席の周りがやけに騒がしそうで、それはもちろん俺のうしろの大野の席に集まる女子どものせいで、俺はその光景になおさらイラッときてチャイムが鳴るまで席に近づくのをやめた。

チャイムが鳴って、大野の席から人だかりがなくなったのを見計らって俺は自分の席にようやく近づけた。なにも言わずに席に着いたけど、大野も俺に目を合わせようとしなかったし、なんとなく気持ち悪いまま俺たちは座っていた。


そのまま一言も交わさず目を合わすこともなく時間は過ぎていった。
俺は前の席のヤツと仲いいし、大野は相変わらず周りの女がほっとかないしで、なんも問題なかった。

そのまま時計はどんどんてっぺんへと昇っていって、昼メシが待ち遠しい4時間目。
中学の頃は全員で同じ授業を受ける毎日だったけど、高校に入るといくつか選択授業があった。俺は歌うよりは絵を描いてたほうがマシだと思って美術を選択していて、やたらと広い美術室には同じく美術を選択していたらしい大野もいた。

「じゃあ2・3人でグループになって、ひとりポーズをとってみんなでデッサンしてみて」

配られたでかいスケッチブックとエンピツを持って、個人がだんだんいくつかのグループになっていく。まだ同じクラスになってさほど時間は経ってないけど、みんな漏れないように相手をうまくつかまえていく。俺もテキトーに近くのグループに混ざろうとした。

「なぁ、あいつ女と組む気じゃねぇ?」

イスを動かす音で騒がしい教室の中、傍を通ったヤツらが小さい声で笑ってるのを聞いた。
そいつらの目線の先、教室の隅には大野がいて、そばにいる女子としゃべってるうちにそのまま他の女子が集まってきていた。もちろん女子たちの手にはそれぞれスケッチブックがあり、それを開いてデッサンの準備をし始めて、でも大野は机の上のスケッチブックを手に取ろうともしてない。

バカか、あいつ。

俺は教室をぐるりと見渡し、どこにも混ざれないでひとりキョロキョロしてるヤツを遠くに見つけて、そいつを捕まえた。

「大野!」

そして遠くから大野の名前を叫んで、

「こっち少ねーから来てくれよ」

囲み座っていた女子たちの中にいた、大野を手招いた。
大野は道具を持って女子たちの中から出てきて、俺たちの輪に加わった。

大野は、いつも女子に声かけられて休み時間中もずっとくっちゃべってるから、あんま男としゃべってるとこを見たことがない。まぁ、窓際一番うしろなんて席で、前は俺だから、あいつもとなり近所からしゃべりかけてくる女子の相手をせざるを得ないんだろうけど。

けどやっぱそういうのが目につくと、あーゆーこと言われんだよ。
大野ともう一人溢れてたヤツと3人で組んだ俺たちは、もう一人のヤツにポーズをとらせてやっとスケッチブックを開いた。目もあわさず一言も交わさず前後に座ってた俺と大野は、今度はスケッチブックを持ってとなりに座って。

「バカ、もっと描きやすいポーズとれよ」
「え?どんなの?」
「顔かけないからうしろ向いてくんない?」
「あ、うん」

俺と大野のリクエスト(イチャモンとも言う)を聞いて、もう一人のヤツが少し離れたところでうしろ向いて座ると、俺と大野はザカザカとエンピツを紙に滑らせた。デッサンってゆーかただのラクガキだけど。

すると、となりで大野がプッと吹き出した。

「なんだよ」
「ひでーな。ダルマだろそれ」
「るせーなぁ、じゃあお前見せろよ」
「俺のがうまい」
「似たよーなもんじゃねーかっ」

授業なんて感覚はまるでなく、どのグループも和気あいあいと絵を描いている。
俺たちも、前後で座ってた時は妙に堅い空気だったのに、呆気ないもんだ。

「お前音楽のがよかったんじゃねーの」
「ヤダよ、高校なってまで歌なんて歌いたくない」
「へぇー、昔は歌うまいからってクラスの代表にまでなってたのになぁ」

ざかざか、ごしごし、白い紙に黒い粉が広がっていく。
つい、本当につい、口からこぼれ出たものだった。

「それで、本番で声が出なくなって、お前が代わりに歌ったんだよな」
「あ?そー、だっけ?」

あれは、大野がいたから小学3年のころだったろうけど、そうだったかな。
大野がみんなに期待されてソロ任されたのは覚えてるけど、俺代わりに歌ったっけ?
なんでだ?歌なんて昔っからぜんぜん好きじゃなかったのに。
・・・やべ、なにコイツと思い出話とかしちゃってんだ。

「あのさ、ブー太郎だけどよ」
「うん?」
「あいつ、クラスのヤツらとふつーに仲いいみたいだぜ。朝も一緒にしゃべってたし」
「ああ、俺も聞いたけど、たかられてるとか俺の勘違いだったみたい」
「・・・あ、そお。なんだ」
「悪い。俺がヘンに勘ぐっただけだった」
「いや、べつに」

間違いなら間違いで、いいことだけど。
よかった。きのうブー太郎見つけてたら俺一人騒いでとんだ恥をかくとこだった。

絵を描き続ける大野は普段通りに落ち着いてるけど、きのう一瞬だけ見せた焦り顔は、やっぱりブー太郎を心配してのものだったんだろう。たかられてんじゃないかとかサイフ拾って心配したりとか、こいつだってやっぱり気にかけてたんだ、ブー太郎のこと。

やっぱこいつは、あの大野なんだよな。
今はどっか、イヤなヤツだけど・・・。

「イタタタ」
「おい、動くな、今いーとこなんだから」
「ゴメン、でも、足しびれちゃって」
「いっかい足のばせば?」
「そーだ、運動しろ運動、手伝ってやるよ」
「いいっ、イタッ、イタタッ・・・!」
「はははっ」

俺と大野でそいつの足を引っ張ってやると、痺れに耐えかねるそいつは涙目で逃げまくり、騒がしい俺たちに教室中の目が集まった。笑ってる俺たちに当たり前に教師のお叱りは飛んできて、俺と大野はなぜかみんなより1枚多く描けと罰を受ける。

昔もこんなことはよくあったな。
誰かの給食のデザートを取って先生に怒られたり、廊下でサッカーしてたら罰掃除を命じられたり、上級生とケンカしてふたりとも傷だらけになったり。

そういえば、俺らっていつから一緒にいたんだっけな。
一緒にいた時が楽しかったから、最初なんて覚えてねーや。
とにかくいつも、バカのひとつ覚えみたいに一緒にサッカーやって、ふたりでクラス仕切ってんのが楽しくて。

大野と一緒だから大丈夫だよ

なんて、よく言ってた気がする。





もう一度映画が見たいな。