Two shot!!




「杉山ー、サッカーしよーぜー」
「おお」

昼メシを終えた休み時間、クラスのヤツらに声をかけられ駆け寄っていった。
でも人数が足りない。途中で2組からはまじや関口たちも呼んでくるか。
そう思いながら教室を出ようとすると、そこにどっか行ってた大野が教室に入ってきた。

「あ、大野、サッカーやるけど来ない?」

その大野に、俺の前を歩いてたヤツが声をかけた。
けど大野は・・・

「いや、やらない」

それだけ言って、さしてみんなに目もあわさずにさっさと窓際の自分の席に歩いていった。
俺らの空気も一気に冷める。

「大野なんかに声かけんじゃねーよ」
「だってあいつサッカーうまいしさぁ」
「俺あいつキライなんだよ」
「俺も。なんかスカしてるしさ」
「いーじゃん、あんなのほっとけよ。行こーぜ」

大野の態度に、それ以前に大野自身に眉をひそめるクラスメイトたちは腹を立て教室を出ていく。教室の奥では、かん高い声でしゃべりたくってた女子たちが戻ってきた大野に声をかけていた。

「あいつ東京モンだろ?なんか見下してんだよな」
「そうそう、あいつ入学試験トップだったらしいから」
「そーなの?」
「入学式の新入生代表の挨拶ってあったじゃん?アレ試験で1番だったヤツがやるんだって。だからほんとは大野がやるはずだったんだけど、あいつが嫌がって2番目のヤツに変わったんだって」
「うわー、やっぱいけ好かねーヤツ」

そんな話、俺も初めて聞いた。
クラスのヤツらとあんまりしゃべらない大野は、ちょっと微妙な位置にいる。
いつも女子に囲まれてるから男子には余計に反感かってる。

ガキの頃のあいつは、絶対そんなこと言われないヤツだったのに。
みんながあいつについていきたがって、いつもまん中にいたのに。

「お、ブ・・・、富田!」
「杉山君・・」

廊下を歩いていくとその先にブー太郎がいて、あやうく「ブー太郎」と呼びそうになったのを何とか押さえて呼びとめた。

「サッカーやるからお前も来いよ」
「あ、ゴメン・・・、俺まだごはん食べてなくて」
「まだ食ってねーの?今まで何してたんだよ」
「あはは、みんなと遊んでたら・・」
「おい、ブータロー!」

1組の教室のドア口でしゃべってる俺たちに、教室の中から1組のヤツらがブー太郎を呼んだ。

「何してんだよ、早く来いよ!」
「あ、うん。ゴメンね杉山君」
「いや。ていうかお前、ブータローでいいのかよ」
「あはは、うん。なんかやっぱり、定着しちゃったんだよ」
「ふーん」
「じゃあ、ごめんね」

また教室から呼ばれるブー太郎は、急いで中へ入っていった。
まぁブータローなんてあだ名、富田より馴染んじゃうだろうな。
だったらもう俺たちもブー太郎でいいんじゃないか?

「お、はまじー、サッカーやらねー?」
「わりー、今から職員室行かなきゃなんねーんだ」
「職員室?お前何したんだよ」
「テスト白紙で出したら呼び出された」
「ははっ、あいかわらずやるなー」

はまじは相変わらず頭が悪い。
でもはまじのスゴイとこは、それをとがめられようとまるで動じないとこだ。
昔っから悪い点とってもひょうひょうとハナクソほじってるヤツだった。
まぁ、高校になってまでそうなのもどうかと思うけど。

結局俺たちはサッカーには人数が足りず、ボールを蹴ってはいるがただ騒いでるだけみたいな、よく分からない休み時間を過ごした。それでも十分楽しめるんだけど。

一度だけ、教室の窓からこっちを見下ろしてる大野と目があった。
すぐそらされたけど。




昼休みが終わるチャイムが鳴って、足の砂をこぼしながら校舎へ戻っていった。

「杉山」
「あ、どもッス」

下駄箱で靴を履き替えてると、近くを通った中学の時のセンパイが声をかけてきた。

「きのうどーしたんだよ、練習こなかっただろ」
「あっ、いや、きのうはちょっと用事ができて・・・今日はぜったい行くッス」
「俺センパイとかコーチにいいヤツ入るって言っちゃったんだから来いよ」
「うわ、プレッシャー!んなこと言わないでくださいよ!」
「はは、じゃー今日は来るんだな。待ってるぞ」
「ウッス」

部活といってもまだ仮入部の時期だけど、さっそく行ったり行かなかったりじゃセンパイ受けは悪くなる。運動部ってのはそういう縦関係が壊れると非常にやりづらくなるから、今日はぜったい行かないとヤバい。

ヤベェヤベェと汗かきながら、先に行ってしまったクラスのヤツらを追いかけた。予鈴の鳴った廊下は人通りも少なく、各教室の中だけが押し込められたように騒がしい。

1組の教室を通りかかったら、ブー太郎がクラスのヤツらとはしゃいでた。
2組の教室を通りかかったら、先生に呼び出されてもヘラヘラしてるはまじを関口がゲラゲラ笑って、それを「静かにしなさいよ!」と前田が怒ってた(前田、2組だったのか・・・)。

「すっ、杉山君!」
「うわっ」

そのまま3組の教室を通り過ぎようとしたら、中から冬田がかけ出てきた。
なんか久々に嫌な予感・・・(ていうかコイツはいつも嫌)

「あの、杉山君、大野くんとどうかなぁと思って・・・」
「は?どうって?」
「だってあの時・・・、私のせいで大野くんとケンカしちゃったじゃない?私、大野君と杉山君がケンカしたままだったらどうしようってずっと思ってて・・・」
「は・・・?」
「私のために怒ってくれてすっごくうれしかったの・・・。でもやっぱり大野君と杉山君は昔みたいに仲良しのほうが、私、うれしいから・・・」
「・・・」

えーと・・・、俺、いつ、こいつのために怒ったっけ・・・?
冬田は体をくねくねさせて、頬を赤らめたり哀しそうな表情したり、ひとりで百面相をくり返していて、汗が乾いてく背中がゾッと冷たく走った。

「あれぇー?杉山君と冬田がふたりきりでしゃべってるぞぉー?」
「やっ・・・」

また山田っ・・・!!(コイツも3組か・・・!)

「冬田はー、大野くんが好きなんじゃなかったのかぁ?」
「キャッ、ちょっと、やめてよ山田!」
「大野君から杉山君に乗り換えたのかぁー?」
「やめてったら、そんなことないんだからぁ!」
「冬田やるなぁ〜」
「もお〜!」

勝手にやってくれ・・・
3組のヤツらが騒ぐ山田と冬田の声になんだなんだと顔を出す。
俺はそれに巻き込まれるより先に、4組の教室へ歩いていった。
まったくどいつもこいつも・・・、小学校のときからぜんぜん進歩ねぇな・・・。

ヤレヤレと思いながら4組の教室のドアをくぐると、他のクラスに比べうちのクラスのヤツらがやけにシンと静かなことに気がついた。みんな奥の窓際のほうに視線をやって、立ち尽くしてる。

「何とか言えよ!」

ガン、とひとりのヤツが怒鳴って机の足を蹴り、女子から小さな悲鳴が飛んだ。
みんな神妙な空気で黙って、俺だけその空気と展開からこぼれ落ちてた。
怒鳴ったヤツは、さっきまで一緒にサッカーしてたヤツで、窓際の一番うしろ、俺の席のほうを見て目をつり上げていた。いや、俺の席じゃなくて、自分の席で頬杖ついておとなしく座ってる、大野にだ。

「べつに言うことないよ」
「ああっ!?」
「俺が気に入らないならそれでいーよ。こっちはべつにムカついてないし」
「テメェ目障りなんだよ!」
「だったら無視すればいいだろ、わざわざ絡んでくるなよ」
「ッ・・・!」

成り行きは分からないが、キレてるそいつとやっぱり冷めてる大野の温度差は激しく、混ざりあわない空気がピリピリと弾け合っていた。大野を気に入らないと思ってるヤツは一緒になって大野をにらんで、べつにそうでもないヤツはひと事のように眺めて、女子はヒヤヒヤした目で心配してる。

そしたらついにキレたらしいそいつが、大野に突っかかっていき学ランを掴んで立たせると、そのまま大野をうしろのロッカーにドンと押しつけた。俺はすぐ間に割って入ろうと駆け寄り、けどその先で押しつけられた大野は、突然腹を押さえて痛そうにうずくまった。

「おい、大野っ?」
「なんだよ、俺なんもしてねーだろ・・」

掴んでたヤツも大野がしゃがみ込むと手を離して、腹を抱える大野を見下ろして慌てた顔をしてる。

「なんだよ、おい、大野?」
「・・・」

俺はすぐしゃがみ込んでる大野を覗き込んだけど、痛そうに顔をしかめてた大野はすぐ目を開けて、込めてた力も抜いた。

「なんでもねーよ」
「は・・・?」
「冗談だよ、ビビるくらいなら最初っからケンカ売ってくんじゃねーよ」
「・・・」

立ち上がってズボンをはたく大野の言葉に、掴みかかったヤツはいよいよキレてさらに詰めよろうとした。けど俺はそいつを止めた。

「んだよ杉山!そいつの味方すんのかよ!」
「そんなんじゃねーよ」
「ああ!?」

今まで、何度も思ったはずだ。

「相手にすんな、こんなヤツ」
「・・・」

こいつは、大野だ。間違いなくあの大野だ。
もうあの時の大野じゃない、今の大野だ。
突き放す言い方する、冷めたツラする、人を馬鹿にする、これが今の大野なんだ。

仲間とか、友達とか、味方とか。
いちいち誰をどこに分けて生きてるわけじゃない。
なんとなくでも感じて、信じるものだ。

・・・もう、いいや。

こいつがあの大野で、いいや。





早く仲良しになってほしい・・・。