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トランキライザー

ルーキーズ(ドラマ版) 桧山連載 川藤先生がいなくなったあとの2年の夏終わり。
桧山の他にもニコガクメンバーたちがガヤガヤいます。

出会い編 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9
修学旅行編 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16

03

「あれっ、桧山練習すんの?」
「あ?」
「あれー桧山、いるんだ」
「いちゃ悪いかよ」
「お、桧山。なんだ、やっぱいるじゃん」


部室でスパイクの紐を結んでいると、続々と入ってきた岡田や関川たちが妙なことを言ってきた。練習はいつものことなのに何を言ってるんだか。するとそいつらの一番後ろに湯舟がいて、こいつか・・・と大体のことが分かった。


「おい桧山ー、昼休みに廊下で女子に手ぇ出したんだって?」
「出してねぇっ」
「桧山に女だぁっ?どーゆーことだ!」
「がっこーで手ぇ出すなんて安仁屋かお前は!」
「だから出してねぇって!」


バシバシと殴ってくる連中の手を跳ねのけるけど、手数が多すぎてほとんど食らってしまう。案の定、湯舟があることないこと吹き込んだようで、この狭い部室で俺はカッコウの餌食となっていた。


「で湯舟、その女って誰なんだよ?」
「同じクラスのさぁ、名前分かんないけど、俺たちの前のほーに座ってる・・」
「誰だよ。かわいかった?」
「いやぁ、べつに・・・」
「んだとテメー」
「だいじょーぶだいじょーぶ、湯舟がかわいーっていう女のほうがアブねーから」
「言えてる」
「にゃにおっ?」


それぞれにグラブを持って部室を出ていくと、向かいから安仁屋と新庄が歩いてくるのが見えた。まだ学ランだけど手にはボールを握っててやる気満々な感じ。


「桧山、お前部室に女連れ込んだって?」
「はあっ?」
「ぎゃははっ、話デカくなりすぎっ」
「おめーらいい加減にしろっ!」


ゲラゲラ笑いながらからかってくるやつらを蹴散らすけど、やっぱり数が多く分が悪い。すると一番ケラケラ笑ってた湯舟が突然あー!と声を張り上げ、全員ピタリと動きを止めて湯舟に注目する。


「あれあれ!あれが桧山のおんなっ!」
「なにぃっ?」


そう湯舟は、昇降口から出て下校していく生徒たちの中を指さした。
その指さす先に全員が勢いよく首を振り、俺はなぜかドキィッと心臓をビクつかせる。

湯舟が指さした先には、確かに昇降口から出てきた、がいた。
だけど、そのを追いかけて、あの里中ってやつが昇降口から出てきた。
なんだか幸せそーに笑ってる里中はと向かい合って、何やら喋ってる。

・・・なんだ、やっぱデキてたのかあいつら。
やっぱただの痴話ゲンカだったんじゃねーか。


「・・・」


ふと思い出して、ゆっくりうしろを見てみると、案の定うしろの連中は揃って俺をじーっと覗きこんでいた。


「桧山・・・、冬?」
「だから意味わかんねーってお前は」
「あれってか。あいつらデキてんの?」
「てゆーか一緒に帰ってるし」
「いーじゃんいーじゃん、奪っちゃえー」
「里中はレベル高ぇぞー、人気モンだしな」
「ガンバレ桧山君!」
「黙れ!」


昇降口の前で立ち話をしてるあの二人から目を離し、周りの奴らも怒鳴りつけて先に歩いて行こうとした。けどそこに、校舎の中から駆け出てきた高嶋があの二人に駆け寄って、の手を掴むと里中を置いて、二人を引き離すかのようにこっちに歩いてきた。

そう言えば、昼も教室まできた里中を追い返すようなことをしてたっけか。
何がしたいんだ?あいつ。


「あいつの話聞いちゃダメだってば、無視すればいいから」
「うん・・」


高嶋に手を引かれながら、は震動で踊る長い髪を押さえながら足早にこっちへ歩いてくる。一人昇降口前に立つ里中は離れてく二人をじっと見送っていて、その二人が俺たちの横を通り過ぎていく途中でが、そこにいた俺に気づいてふと目を上げ、目を合わせながら一番近くにきたところで小さく頭を下げそのまま通り過ぎて行った。

やっぱ、なんかあるのか?
も、あいつとは付き合ってないと言ってたし・・・。


「・・・」


そして、もうお約束のように、気がつけば周りのやつらが俺に視線を集めていた。


「・・・なんだよ」
「いま、桧山のこと見たよな」
「見た見た、けっこー脈あんじゃね?」
「いけるいける!奪っちまえ!」
「うおー!桧山いけぇ!」
「だからそんなんじゃねーよ!!」


どっとバカ騒ぐこいつらから抜け出して、グラウンドに向かってずかずか歩いていった。すでにグラウンドにいる御子柴はこっちに向かって「みんな早く来いよ!」と叫んでいて、でもそんなの構わずに全員ゲラゲラ笑いながらグラウンドに歩いていく。安仁屋と新庄は着替えに部室へと入っていく。周りはまだ俺をからかってベタベタ寄ってくるけど、他の多くの部活動と同じく、次第に練習に没頭していった。


その翌日、ちょっとした異変が起こった。
珍しく遅刻もせずにホームルームから席に座っていると、副担任の教師が教室にやってくるなり、全員に言ったのだ。


「誰か、高嶋知らないか?」


ざわりと騒ぐ教室の中、俺は自然と前のほうの席・・・に目がいった。
教師が言うには、高嶋は今朝いつも通りに家を出たのに学校に来ていなく、家にも連絡がつかず行方知れずらしいのだ。

もそれを聞いて驚いてるのかじっと教師を見つめてて、静かにポケットの中からジャラッと数本のストラップがついたケータイを取り出すと、机の下でボタンを押し教師に隠れてこっそりケータイを耳に当てていた。
しばらくそのまま動かなかったけど、どれだけ経っても電話はつながらないようで、静かにケータイを耳から離し今度はメールを打ち出していた。


「電話、つながんねーの?」


はホームルームが終わると教室を出て、廊下の隅でずっと電話をかけ続けていた。その背中から声をかけると、ずっとケータイを耳に当ててるはパッと振り返り俺を見上げ、ゆっくり手を下げて電話を切る。


「ただのサボりじゃねーの、学校来てねーくらいで心配するようなことかよ」
「だって、今日一緒に行こうって約束してたの。駅で待ってたんだけど来なくて、先に学校来てみたんだけどいなくて・・・、電話もつながらないし・・・」
「・・・」


はケータイを見つめながら、どんどん不安に駆られ泣きそうな顔をする。たかだか学校に来てないくらいでなんでそうなるのか全然分からなかったけど、泣かれるのだけは、本気勘弁だ。


「だったらどっか行きそーなとこ探しにいきゃいーだろ」
「え・・・」
「待ってたってしょーがねぇんだから、どっかねーのかよ」
「・・・」


そんなことを、は思いもしなかったようで、俺に言われてようやく高嶋が行きそうなところを考え出した。あそこかも、と思い当たる場所を見つけたようだけど、まだ走りだすには至らない。


「行けよ」
「でも、学校・・・」
「バカか。がっこーと高嶋探すのとどっちが大事なんだよ」
「・・・」


はいろんな光を反射する濡れた目を大きくして、俺を見上げる。
手の中のケータイをギュッと握り、口を引き締めてうんと頷いた。





そうしてやっと走り出そうとした、矢先。
後ろから呼ばれた声に反応して振り返るとそこには里中がいて、里中は俺の横を通り過ぎるとまっすぐに歩み寄って行った。


「高嶋、学校来てないんだって?」
「あ、うん・・・」
「どうしたんだろ、ケータイもつながんないの?」
「うん・・・」
「心配だな、事故とかじゃないといいけど」
「・・・」


里中の言葉には一層心配をかきたてられて、引き締めた口をまた緩ませ不安を満面にした。握ったケータイを胸に抱いて、心臓ごと震える手を押さえてた。

するとは里中越しに、俺に目をよこした。
その目は不安に満ちているけど、何かを求めてる様でもあった。


「正面から出るなよ、裏門使え」
「・・・うん」


そしては一歩、里中の前から踏み出して歩き出す。


、どこ行くの?もしかして探しに行くの?」


里中がそう声をかけたけど、は足早に教室に戻っていった。
たぶんだけど、あいつが欲しかったのは心配とか、同情じゃないんだ。
最初の一歩目を踏み出す、力が欲しかったんじゃないかと思う。


「・・・なんだよ」
「・・・」


教室に入っていったを見てた里中は、俺に振り返って笑いもせずまっすぐ見てきた。何か言いたそうな顔だけど結局里中は何も言わずを追いかけていった。


待って、俺も行くよ」
「え、でも・・」
「俺朝駅で高嶋見たんだよ」
「えっ?」
「俺先に電車乗ったから高嶋が電車に乗ったか分かんないけど、駅のほうにいるかもしれないよ」
「ほんと?」


そう言って里中はの背を押して一緒に廊下を走っていった。
離れていくは一度こっちに振り返り、俺を見た。
何か言おうとしたように見えたけど、そのまま里中に押され階段を下りていった。


「なんなんだあいつ」


なんかちょっとムカついて、すぐそばの壁を蹴った。
が言うように、あいつらは付き合ってる風には見えないけど、里中は確実にを気にかけてるようだ。だったら駅で見たなんて最初に言ってやれって話だけど。

まぁ俺にはカンケーねーや。
そう、もうとっくに見えない廊下の先から目を離して教室に戻ろうとした。


「うおっ!!」


足先を向けた教室のドアに、縦に並んでバカなあいつらが顔を覗かせていて、ビックリしてこけそうになる。


「とられてやんのー、桧山ダッセー」
「桧山ー、そこは俺がって張り合わないとー。これでまた里中ポイント上げちゃったよー」
「遊んでんじゃねぇテメェら!」


ガン!とドアを蹴ると同時にチャイムが鳴り、あいつらは顔を引っ込め窓際の席へつまらなさそうに戻っていった。

べつに、とられるとか張り合うとか、そんなんじゃねーっつーの。
ただ気になってるだけで、ホレてるとか、そんなんでもねーし。


「・・・」


ただまぁ、の背を押してったあのヤローの手は、気に食わなかった。



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