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トランキライザー

ルーキーズ(ドラマ版) 桧山連載 川藤先生がいなくなったあとの2年の夏終わり。
桧山の他にもニコガクメンバーたちがガヤガヤいます。

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修学旅行編 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16

08

朝練でもないのに早起きしたからあくびが止まらず、川沿いを学校に向かって歩いていると遠くから学校のチャイムが聞こえてきて、もうこのままこのへんで昼寝でもしてやろうかと思った。(まだ昼でもないけど)


「桧山!」
「おー、なんだお前ら」


もうとっくに学校は始まってる時間だってのに、遠くから岡田と若菜がなんだか慌てて駆け寄ってきた。ひょっとしてまだあの書き込みを心配してたんだろうか。


「桧山、これ見たか?」
「は?」


岡田は俺の前に来るなり、持ってたケータイを俺に渡した。
そこにはきのう見たあの狩りゲームとかいうサイトが開いてて、そこの書き込みの一番上に、の写真が載せられていた。


「はあ!?なんであいつが・・・」
「知らねーよ、あの里中ってヤツじゃねーのかよ」
「でもこれ、きのう桧山を載せたヤツとは違うかもしれない」
「違うって?」
「きのうの里中のメアドじゃないんだよ」


岡田に言われそこに書かれてるメアドを見ると、たしかにきのう見た里中のメアドとは違った。この頭の文字、この長いメアド、これって・・・のストーカーメールのメアドじゃないか・・・?


「おい、桧山!」


俺はすぐ来た道を戻って走りだし、その後を岡田と若菜も追いかけた。
いまと里中がどうなってるかはわからないけど、それでも里中がを攻撃するとは思えない。だとすればこの書き込みしたヤツはべつのヤツで、にずっとストーカーメール送ってたヤツもべつにいたってことだ。


「あ、桧山!アレ!」
「ああっ!?」


の家のほうに車道沿いを走っていくと、突然うしろから岡田が俺を呼びとめた。
岡田は車道の向こう側を指差してて、足を止めその先を見るとそこにはが、長い髪を散らしながら走ってて、そのうしろを3・4人の男が追いかけていた。


ーっ!!」


叫ぶと、うるさい車道の向こうでそれを聞き取ったらしいは足を止め辺りを見渡した。でもそのおかげで追いかけてたヤツらに捕まって、俺はガードレールを飛び越え行き交う車のブレーキ音やクラクションをかき分けながら道路を横切り、反対側のガードレールを飛び越えながらを掴んでる男を蹴り飛ばした。


「いってぇなこの野郎」
「桧山君っ・・・」
「なんだお前、ジャマすんなよ」


駆け寄ってくるをうしろにかばうと、蹴り飛ばしたヤツらは俺に目をつけてくる。


「あれ、コイツってさっきまで狩りに載ってたヤツじゃない?」
「マジ?いくら?」
「たしか1万」
「やっす、大した獲物じゃないじゃん」
「そっちの子と合わせりゃ4万いくじゃん」
「いや、もうそいつ載ってないから意味ない。ジャマなだけ」


私服で、見た感じ大学生っぽいそいつらはみんなケータイを持ってて、やっぱりあの書き込みでを狙ってきたらしかった。そいつらの話す内容からしても間違いない。


、離れてろ」


目の前のヤツらが近づいてきて、俺もぐと拳に力を込める。
すると、一番はじにいたヤツが突然声を上げ、仲間を押しのけながら地面に転がった。


「あー悪ぃ、遅刻しそーだから急いでて蹴っちまった」
「衝突事故はこえーよな」


その場にいる全員が何ごとかとそっちに目をやると、若菜が蹴りの態勢のまま足を上げてて、そのうしろには岡田もいた。ふたりともわざとらしいセリフとは裏腹に目の前のヤツらを睨みつけていて、俺ひとりなら勝てると思ってたのかヘラヘラ笑ってたそいつらはだんだん顔に焦りを見せて、結局舌打ちしながらぞろぞろと逃げていった。


「大丈夫かよ」
「うん・・・、ビックリした・・・」


目に涙ためて肩で息してるは声をかけるとやっと俺のシャツを離し、それでも胸元でぎゅと手を握った。
はあれから里中と分かれ、急いで学校に向かってる途中でさっきのヤツらに声をかけられて、どこかへ連れて行かれそうになったところを逃げてきたそうだ。


「お前、今日はひとりになんな」
「え、なんで・・・?」
「・・・」


俺らは多少迷ったが、自身が状況を把握してないとまたどんな目に遭うかもしれないからあの書き込みのことを話した。はいまいちそれを理解できてないようだったけど、とにかくひとりになるなと念を押すとまた不安そうな顔をした。


「大丈夫だって、桧山が体張って守ってくれるから」
「ああ?なんで俺が・・・」
「そりゃーお前、車道飛び出してくくらいだもんなぁー」
「あれで先に死んでたら大笑いだったよなー」
「笑えねーよ!」


ゲラゲラ笑ってくるふたりを蹴散らしていると、うしろではふと笑った。
とりあえず落ち着いたようで、俺たちはもうとっくに1時間目が始まってるだろう学校へ歩きだした。


「つかどーすんだよ、あの書き込み。あんなのがうじゃうじゃくんだろ?」
「いちいち全員相手にしてらんねーしなぁ」
「簡単だよ、の写メ送って終わらせりゃいーんだから」
「あそっか」
「ただちょっとむずかしーけど」
「なにが?」
「写メの条件。顔にケガさせて1万、髪切って2万、あー・・・レイプして3万」
「・・・」
「チッ、ゲスだな」
「まぁこの条件通りとはいかなくても、それらしー写メ送って様子見ようぜ」


ケータイ画面を読む岡田もそれを聞く俺たちも胸クソ悪さを感じるが、そうされかけたはもっとだろう。俺の少し右うしろを歩くを少し振り返り見ると、また浮かない顔して肩から提げたカバンを持つ両手をぎゅと握っている。こんなことが普通にあったなんて世の中とことん腐ってやがる。


それから俺たちは学校に着き、写メを作るため部室に向かった。
あそこなら暗くて倉庫っぽいし、それらしい絵になるだろう。


「・・・なんか、すごく、ヘンな気分なんですけども・・・」
「俺も」


部室のきたねーソファに座らされる。そのにケータイカメラを向ける岡田。それをうしろから見てる俺と若菜。誰がどう見たってこれじゃ俺たちが犯罪者だ。

本気でやるわけじゃねーんだからさっさとやれ!と怒鳴ると、は心底恥ずかしがりながらソファに横になる。


「撮るよー」
「うん」
「顔見えない、もちょっとこっち向いて」
「こっち?」
「うん。目つむって」
「ん・・・」
「力抜いて、前髪ジャマだからさわるよ」
「お前らさっきから会話がエロいんだよ」
「もうそういうこと言わないで!」
「っあーもうさっさとやれよ!」


妙にアングルを凝る岡田のケツを蹴り飛ばし、さっさと2・3枚撮らせた。
終わってすぐに立ち上がるは恥ずかしそうに顔を両手で覆って壁に寄りそう。


「岡田、それ送ったら消せよ」
「え、なんで?もったいない」
「・・・」


思い切り睨み下すと、岡田はわかったわかったと言いながら撮った写メをメールに貼り付け送信した。


「なんて打ったんだよ」
「やろーとしたら思い切り殴り過ぎて気絶してしまいました。これ以上はヤバい気がするのでこれで手を打ってください」
「うまいな、天才かお前」
「・・・」
「悪い悪い」


茶化す若菜も睨み下し、俺たちは返信がくるのをそのまま待った。
熱気のこもる部室で1時間目が終わるチャイムを聞き、若菜があっちーなと外に出てくと2時間目が始まるチャイムが鳴った。

そのチャイムの音にかぶってようやく岡田のケータイが鳴り、俺もも顔を上げた。


「なんて言ってきた?」
「それでいいですってさ。お金は二子神社のさい銭箱の下に置いたので取りに行ってくださいって」
「二子神社?どこだそれ」
「んー・・・、多摩川の向こう」
「じゃあもうそいつ金置いてっちまったってことか」
「それじゃー犯人だれかわかんねーじゃねーかよ」
「おびき出しゃいーんだよ。地元人じゃないので場所が分かんないから駅に変えてくれって」
「お前、マジで天才か」


そう岡田がメールを打ち返すと、しばらくしてまた返信が来た。
駅に変更するから12時に取りに来てくださいと言っていた。


「よし、行こうぜ」
「12時だろ?まだ早いぞ」
「どうせ直接は渡さないだろーからまた先にどっかに置いてく気なんだよ。見張ってよーぜ」
「なるほど。マジお前頭よすぎ」


そうしてケータイを閉じる岡田が部室を出て、若菜もそれについていく。
ソファに座ってたも俺らについていこうと立ち上がった。


「話つけてきてやるから、お前は来んな」


誰かは知らないが、こんなことをしでかす人間の顔なんて見たくないだろうと思って言った。
けどは、俺を見上げながら首を振り。


「行く」


ずっと怖がってると思ってたはそう言った。
やけにまっすぐに。


「いいことねーぞ、たぶん」
「うん」


それでもうなづいたは、思ってたより、弱くないかもしれない。

細くて小さくて、頼りない背中を、外へ押し出した。



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